LAST.『将軍』は何故、輝く?

 様々な肩書を持つ悪の組織の大幹部の中で、「将軍」、「ジェネラル (ゼネラル)」の肩書を持つ者に注目し、個人及び組織における「将軍」振りを考察してみた。
 同じ肩書きでも組織における地位・権力・首領の覚え・権威は実に様々だったが、振り返ってみると概ね「将軍」とは人気ある存在で、他の肩書と比べても権力や権威が高めだったように思われる(まあ、トリカブトロンなどは例外だが(苦笑))。
 では、数ある肩書の中で何故に「将軍」は存在感が強めなのだろうか?この点を考察して本作を締めたい。
サムライ文化への憧憬回帰
 現実世界における日々の生活において、殆どの人々は戦争を初めとする争い―特に流血を伴うもの―を望まない。
 その一方で、スポーツにおける競争を初め、安全なルール下での勝負に対しては、自ら挑むのも、鑑賞するのも好む人は多い。
 また、特撮に限らず、時代劇でも、漫画でも、戦史物でも、ベビーフェイス(善玉)であるヒーローがヒール(悪玉)を千切っては投げ、千切っては投げ、する活劇・殺陣に人々が喝采するのも古来より行われてきたことである。
 そして、そこに「将軍」の存在が際立つキーがあるとシルバータイタンは見ている。

 特撮番組はフィクションだが、それを承知していても、視聴者はそこに幾許かのリアリティーを求める。
 となると、現実の軍隊における軍事組織の階級を持ち出せばその存在感がイメージしやすく、実際に仮面ライダーシリーズにおける様々な階級が登場した訳だが、チョット下記の階級を見て欲しい。

大将・中将・少将
大尉・中尉・少尉
大佐・中佐・少佐
准尉・曹長・軍曹・伍長・兵長
上等兵・一等兵・二等兵

 解説するまでもないと思うが、旧大日本帝国陸軍における階級である。
 仮面ライダーシリーズにおいて、上記の旧陸軍に属する階級で使われたのは大佐(ゾル大佐)と少佐(ドクロ少佐)のみである。これは仮面ライダーシリーズが始まった昭和46(1971)年の時点で終戦から26年しか経過しておらず、第二次世界大戦の惨禍に対する残滓が色濃い世相に在って、旧陸軍に属する階級は令和の世以上にイメージが悪かったのだろう。
 かと云って、現実の自衛隊で採用されている幕僚長・陸尉・陸曹と云った階級を悪役に用いれば、現職者に悪いイメージを重ねかねない。
 となると、視聴者に権威や権力をイメージし易く、善玉にも悪玉にも使い易く、リアリティー持たせ易い存在で、時代劇で多くの「サムライ」と云う名の戦闘員や、幕閣と云う名の猛者を指揮した「将軍」は悪の組織の大幹部に冠させるのにうってつけの存在と云えたのではないだろうか?
 時代が離れている故に現在の人々を悪玉にする心配もないことも使い勝手の良かった要因と云えるだろう。


ライダーシリーズ以外の「将軍」
 勿論、「将軍」の肩書を持つキャラクターが活躍・暗躍するのは仮面ライダーシリーズだけではない。シルバータイタンは仮面ライダーシリーズ、ウルトラマンシリーズ以外の特撮番組は詳しくないのだが、そんな乏しい知識にあっても、「将軍」と云えば……、

 『秘密戦隊ゴレンジャー』に登場した黒十字軍二代目幹部で、航空軍艦バリブルーンを道連れにした鉄人仮面テムジン将軍
 同じく『秘密戦隊ゴレンジャー』に登場し、最終回にて我が身を爆散させ、命と引き換えにゴレンジャールームの所在地を暴き、イーグルを壊滅寸前まで追い込んだゴールデン仮面大将軍
 『宇宙刑事シャリバン』に登場し、失脚と返り咲き、外部者との対立、一戦士としての華々しい戦死、と云った様々な動きを見せてくれたガイラー将軍(栗原敏)といった注目すべき「将軍」は数多く存在することだろう(特に同僚として対立を繰り返しながらも、時に互いに気遣ったり、戦死を惜しむ等したりしたドクターポルタ―(吉岡ひとみ)との対人関係は必見)。

 勿論、悪の組織ばかりではない。
『バトルフィーバーJ』にて、古武士の如き心意気でバトルフィーバーを指揮した倉間鉄山将軍(東千代之介)は戦隊ものに数多く登場した「長官」とは一味違った好演を見せてくれた。
 ただ、善の組織に「将軍」が見られないのは、仮面ライダーシリーズにおける秘密結社とは異なって、大々的に侵略して来る異星人やテロ組織との戦いから、現実の自衛隊に近い防衛組織が登場する故、古き良き存在である「将軍」は却ってリアリティーを削ぐと見られる。

 いずれにせよ、他にもシルバータイタンの知らない、注目すべき「将軍」はまだまだ存在するだろうし、日本人が抱く「将軍 (=征夷大将軍)」へのイメージからも、それらの大半はそれなりにカッコいい役を振られていることと思う。


「将軍不要」の世を願って
 ショッカーに始まる悪の組織は特撮と云うフィクションを見る分には面白くても、現実には決して存在して欲しくない。正直、現実に存在する反社会的勢力、半グレ集団、過激派、テロ組織だけでも充分にウンザリだ!!
 だが、現実にそれらの組織犯罪を取り締まる為に、侵略目的を抜きにしたとしても時の権力は自前の武力を必要とし、建前上平和憲法の下軍備を否定している現日本国政府すら自衛隊を擁している。

 その是非をここで論じはしないが、日本の歴史において、慶応三(1868)年一二月九日に明治新政府は王政復古の大号令にて幕府を廃止し、これ以後日本に「将軍」は存在していない(「闇将軍」とあだ名された総理大臣はいたが………)。
 理想を云えば、将軍も幕府も不要で、政府が武力を要する必要のない世である。勿論その到来は至難で、全人類が武器を捨てる日となると、その頃には人類自体が現代とは比較にならない程高尚化しているであろう遥か未来の話で、その頃には特撮は勿論、軍記物や戦史映画やチャンバラ時代劇や格闘技試合すらもが「野蛮」なものとして鼻で笑われているだろう。
 正直、現状と照らし合わせて想像すら難しい世界だが、武器や軍事権力によって人の血が流されない世が少しでも近付く為に、文民統制が踏みにじられ、内政・外交・話し合いよりも軍備・武力・戦略戦術が重んじられて「将軍」の登場が熱望される世は来て欲しくないものである。

 1789年7月14日、フランスでは市民革命により王政が打倒された。
 だが、皮肉なことに周辺国が王政打倒に危機感を抱いてフランスブルボン王朝に味方して武力介入した為にフランス市民は強力な武力を必要とし、それに応えた「将軍」ナポレオン・ボナパルトは「王」よりも独裁権力を振りかざす「皇帝」となってしまった。
 偏にすべてを武力で解決しようとし、「将軍」と云う名の武官に頼ったのが元凶と云える。

 やはり、今後の日本で、世界で「将軍」が活躍・暗躍するのは特撮と時代劇だけであって欲しい。

令和3(2021)年5月19日 特撮房シルバータイタン




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令和三(2021)年五月一九日 最終更新