File1.風見達治……労り・挺身・無念
登場作品 『仮面ライダーV3』 名前 風見達治 子 志郎(長男)、雪子(長女) 演 加賀邦夫 登場 第1話 父親としての影響度 ★★★★★★★☆☆☆
概略 主人公・風見志郎(宮内洋)の父親で、自動車修理工を営みつつ、妻・綾(真咲美岐)、長男・志郎、長女・雪子(関口英利子)とともに平和に暮らしていた。
第1話にて、志郎がデストロンによる殺人を目撃したことでその命を狙われることとなり、デストロンの影を追っていた志郎が山中にてデストロンを目撃したことで襲われた珠純子(小野ひずる)を助け、匿ったことで風見達治とその妻子にも悲劇が訪れた。
世界征服を企む秘密結社デストロンは世間に対して徹底的にその存在を隠蔽したため、目撃者抹殺に躍起になる組織だった。前述の純子は山中でアジトに入ろうとするハサミジャガーと戦闘員達を目撃したことで襲われたところを志郎に救われた訳だが、助けられた直後、恐怖と緊張からか純子はその場で気絶したため、困り果てた志郎は自宅に純子を連れ帰った。
この時点で、デストロンにとって口封じ対象は志郎・純子に風見一家が加わった。
そんな危機が迫っていることを知る由もない風見夫婦は純子を親切に介抱し、雪子は志郎と純子の山中での偶然出会いを思春期の少女らしく「ロマンチック」としてほくそ笑んでいた。
夜半に意識を取り戻し、見ず知らずの人に迷惑を掛けたことに対してバツを悪そうにする純子に達治は「や、まだ横になってた方が良い。」として、遠慮しないように告げていたが、その直後、風見邸の壁を破ってハサミジャガーが乱入してきた。
ハサミジャガーはデストロンの姿を見た者はすべて死んで貰うと宣言。達治は一家の大黒柱らしくハサミジャガーと妻子・純子の間に割って入り、燭台の様な物を得物に立ち向かったが、相手にならず、腹部を刺されて致命傷を負った。
謎の存在に抗し得ないと見た達治は最後の力を振り絞ってハサミジャガーにしがみつきながら綾と雪子に逃げるよう促して絶命。直後に志郎が駆け付けるも戦闘員の妨害に遇い、雪子が刺され、次いで綾も刺されて絶命した。
ハサミジャガーが次の標的を純子と定めたところで本郷猛(藤岡弘)が乱入。これによりハサミジャガーの蛮行は中断されたが、志郎が家族を皆殺しにされ、天涯孤独となるのを防ぐことは出来なかった。
存在感 身も蓋もない云い方をすると風見達治の出番は僅かな時間でしかなかった。同時に殺された妻共々再登場することは無く、僅かに娘の雪子が第49話における志郎の回想シーンにほんの少し出て来ただけだった。
ただ、この風見一家惨殺シーンがライダー史上にあって屈指の悲惨なシーンだったこともあって、達治及びその妻子の存在感は決して小さくない。
勿論、目の前で両親と妹を惨殺された風見志郎が囚われた激情は極大で、家族を失った直後、志郎は仇討ちの為に人間であることを捨てると宣言し、Wライダーに自分を改造人間にして欲しいと懇願した。
最終的には自分達を救う為に重態に陥った志郎を蘇生する為に非常手段としてWライダーは志郎に改造手術を施しはしたが、当初は反対した。
「個人の復讐に力は貸せない。」、「人間であって人間でない悲しみを背負うのは私達二人で充分。」というのがその理由だったが、同時に1号は「君に何かあったら亡くなったご両親も浮かばれまい。」とも云っていた。恐らくは志郎が悪の組織との戦いの中に命を落とす危険性も懸念していたと思われる。
そしてこの志郎の激情が家族を失った衝撃から来た一過性のものであることを示すように、第2話にて志郎は墓前にて人間の体を失ったことを両親に詫びていた。あれほど渇望した改造人間になったのに、である。
このシーンの直後、珠純子が現れ、両親と雪子の墓前に花を手向けたのだが、志郎は今後の協力を申し出る純子に当初邪険にしていた。物事を悪意的に見れば、純子を助けたことが家族の不幸に繋がったことへの後悔と取れるが、勿論志郎はそんな男ではない。はっきりと口にされてはいなかったが、強大な悪の組織との戦いに二度と純子を巻き込むまいとの想いと、自分の為に風見一家が不幸の陥ったと思う純子にこれ以上自分を責めさせない様にとの志郎なりの配慮だったのだろう。
さて、作中では『仮面ライダーV3』には多くの挿入歌があり、中には作中では披露されなかったものもあるが、その一つに「V3の一人歌」があり、その内容は惨殺された家族への想いと追憶と、家族を失って一人となった辛さを乗り越えて戦い抜く決意を歌ったものとなっている。
その歌詞の一番で、達治は、
「真赤に燃える 太陽の 姿のように強くなれ いつも父さんいっていた」
と歌われている。そして今は亡き父に対し、歌詞は、
「やがて 勝どき あげるまで ぼくは負けない V3 ぼくは負けない V3」
と締めている。
この歌詞からすると達治は日常を平凡に生きつつも、周囲の者に優しく、強大でも悪しき者に雄々しく立ち向かう人物だったと推測される。
昭和の頃に理想とされた父親像が連想される訳だが、そんなカッコいい風見達治をもっと見たかった気がする一方で、その姿が大きければ大きい程一家惨殺の悲劇度は増すから難しい話である。
息子・番組への影響 何せ、主題歌にて「父よ 母よ 妹よ」と歌われている様に、『仮面ライダーV3』は主人公の両親と妹が殺されることで始まったと云っても過言ではない。風見志郎はデストロンと戦う理由を語る度に両親と妹が殺されたことを口にしていた。
だが、ヒーローは最終的には世界の平和と人類のために戦う存在で、復讐の為に戦うことは捨てることとなる。後発ライダー達も改造人間となるのに前後して多かれ少なかれ身内、親友、仲間を悪の組織に殺され、復讐心と全くの無縁ではなかったが、徐々にその情念は薄れることが大半で、最終的には言及されないことも多かった。
実際、志郎が復讐心を露わにしたのは初期のみである。第44話に至っては助手達と自らの右腕の仇討ちに苦闘するライダーマン・結城丈二(山口暁)の復讐と憎悪に凝り固まった姿を暗に窘めてさえいた。
それに際して、自らも両親と妹を殺され、改造人間となって人間の姿を失った身であることを結城に示していた訳だが、最終回手前にて結城は怨敵・ヨロイ元帥(中村文弥)と決着を付ける事より、人類をプルトンロケットから救う道を選んで大空に散った。
そんなライダーマン・結城丈二にV3が「仮面ライダー4号」の名を贈ったのは余りにも有名だが、その背景に自らも一度は復讐に燃えながらも、それを捨てた真意を悟ってくれた結城への想いもあったとシルバータイタンは見ている。
少し掘り下げ過ぎかも知れないが、V3とライダーマンが復讐より大きな人類愛を採った背景に達治の犠牲と存在があるなら、後に仮面ライダーZX・村雨良(菅田俊)に志郎が結城と共に自分達も一度は復讐を志した過去を語っていたことにもその影響の大きさを感じる次第である。
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令和五(2023)年六月日 最終更新