File2.神啓太郎……頑固・執念・自害

Farthers Profiel
登場作品『仮面ライダーX』
名前神啓太郎
敬介(長男)
田崎潤
登場第1話、第2話
父親としての影響度★★★★★★★★★★
概略 城北大学の教授で、海洋科学と人間工学に秀でていたことから悲劇に見舞われる一方で、人類に大いなる福音をもたらした人物でもあった。
 妻は一人息子神敬介を産んですぐに亡くなり、以後は男手一つで敬介を文武両道において鍛え、育てた。

 信念の極めて強い人物だが、往々にしてそれは頑固さ、そして素直さの欠如に繋がった。敬介とは互いに愛し、想い合う父子でありながら、それを素直に表現出来ず、会う度に取っ組み合いを繰り返しては、助手にして、息子の恋人である水城涼子(美山尚子)に窘められていた。
 その頑固さは周囲に偏屈さとも映り、学界では「気ち●い」と見做されて孤立。一方でその頑固さは正義を愛する心でもあり、GODの協力要請を断固拒否し、これと命懸けで戦うことも辞さなかった。

 結局神啓太郎の頭脳と研究資料を求めて仲間入りを強要したGODを敵に回したため、GOD神話怪人ネプチューンの襲撃を受け、鉄パイプを得物に立ち向かうも抗し得ず致命傷を負わされ、研究資料を強奪された。程なく、自分の身を案じて駆け付けた敬介も戦闘工作員の銃撃を受けて殺害された。
 啓太郎は息子の命を救うべく、止むを得ず自らが開発した深海開発改造人間=カイゾーグへの改造手術を、瀕死の体に鞭打って敬介に施した。
 術後、絶命した啓太郎だったが、生前に掛かる時代に陥ることを想定しており、自らの全知識・全人格をインプットしたJINステーションを製造済みで、カイゾーグとなった息子をそこに誘うと父子を襲った事態と、敬介がカイゾーグとなった事実を告げ、自分は死んでもステーションとして生きているとして、敬介に仮面ライダーXとしてGODと戦うことを督戦した。

 生前、自分の身に万が一のことがあった際に自分の知識と助言がGODと戦う武器になると見込んで啓太郎が作ったJINステーションだったが、第2話にて敬介が子供に「お前なんかロボットだ!」と罵られらことから弱音を吐露した際に、ステーション=自らの存在が敬介の弱音を吐く場になると危惧するや、自らの存在は敬介の為に「あってはならない者」として、敬介の依存心を断ち切る為に自爆し、完全にこの世を去った。

 父親の悲しくも強い最後の愛情に敬介はこれを悲しみつつも、「きっと云われた通りのXライダーになってみせる。」として崩壊するJINステーションを後にしたのだった。



存在感 冒頭でも触れたが、そもそも、本作を作ろうと思ったきっかけがこの神啓太郎の存在である。
 「全話解説の間」「仮面ライダーX全話解説」を制作した際に、いつもの様に『仮面ライダーX』全35話を通してみた訳だが、第1話での悲劇と決死の改造、第2話での壮絶な自害、第35話にてGOD首脳と親友だったことが判明した事等で、自身の登場が第1話のみだったにもかかわらずその存在感は確かなものが在った。

 まず上述している様に、第1話で啓太郎はネプチューンの襲撃を受け、致命傷を負った体で息子・神敬介を死なせない為にカイゾーグへの改造手術を執刀した。勿論初めての執刀である啓太郎の研究所にはマネキンがあり、人体改造手術そのものはとっくに確立していたが、改造後に意識を取り戻した敬介に対して、救命の為の止むを得ない措置とは云え敬介を人間の体ではなくしてしまったことを詫びていた。  恐らくは自分の開発した人体改造手術が人間を人間でなくしてしまう禁断の術であるとの自覚を強く持っていたのだろう。
 瀕死の重体の体で、他ならぬ愛息を改造してしまう罪悪感に襲われながら改造手術を完遂したのだから、恐るべき精神力という他はない

 そんな父・啓太郎の存在感が小さい筈がなく、OP「セタップ!仮面ライダーX」では「父の叫びは波の音」と、ED「おれはXカイゾーグ」では「父の作ったカイゾーグ」、「父の叫びが俺の身に」と毎週の様に歌われ、他の挿入歌においても父への想いが、「ファザコンか?」と云いたくなるほど連発していた。

 恐らく、仮面ライダーの実父において、この神啓太郎に匹敵する存在感を持つ「父親」と云えば、『仮面ライダーゴースト』の天空寺龍(西村和彦)ぐらいではなかろうか?(単に存在感で云えば『仮面ライダーキバ』の紅音也(武田航平)も負けてはいないが、現役ライダーとしての色合いの方が強い)。

 出番こそ、最初の2話のみで、第2話では声だけだったが、啓太郎敬介が似た者親子だったこともあり、第3話以後も敬介はGODによって家族を失った少年少女に自らの経験を持ってその心情を理解し、精一杯励ました。同時に厳しくも暖かい立花藤兵衛(小林昭二)に亡き父の影を見、各話に登場する科学者に対する知識の多くを「親父から聞いた」としていた。
 神啓太郎程「ヒーローの父親」として大きな存在感を持つ者は極めて稀有と云えよう。



息子・番組への影響 極めて大きい。息子・神敬介に対しても、『仮面ライダーX』という番組に対しても。
 第1話にて、恋人水城涼子から神啓太郎敬介に自分の仕事を手伝って貰いたいと熱望しつつも、その想いを上手く表現出来ていないことを聞かされた敬介は、「真っ平だ!」とし、自分の夢は科学者ではなく、「7つの海を股に掛けた世界一の船乗り」と口では云っていたが、行動ではGODと戦う父に協力していた。
 その際、照れ隠しに、「手伝っている訳じゃないぜ。船の仇討ちをしたいだけだ。」と述べていたが、本当に素直でない、似た者父子だった(苦笑)。

 当然、正反対に見えて似た者ゆえに、敬介啓太郎の望んだ通りに成長しながら戦い続けた。仮面ライダー1号・本郷猛が最初から個人として人格的にも完成された感があったのに対し、敬介は明らかに未熟な面もあった。
 殊に父・啓太郎、水城涼子・霧子姉妹の死を経て成長を遂げていた感もあったので、立花藤兵衛の助言を受ける姿にも啓太郎の影響が見て取れた(敬介自身、第7話で藤兵衛から叱責を受けた際に、「死んだ親父に怒られているみたい。」とどこか懐かしげだった)。
 個人としての敬介は第9話でのアキレス戦における惨敗から立ち直ったことで成長を遂げ、以後は弱音を吐いたり、敗北や失敗に嘆きを示したりすることもなくなった。だが、啓太郎の影は健在で、各話で高名な博士が出る度、敬介はそれ等の博士のことをある程度知っており、何人かに関しては「死んだ親父から聞いたことがあります。」と述べていて、生前科学者としての父から受けた影響も決して小さくなく、それがストーリーとリンクしていることも感じられた。

 そして最終回。
 仮面ライダーXが決死の覚悟で飛び込んだ鋼鉄の大巨人・キングダークの体内にて彼を待ち受けていたのは啓太郎の親友を名乗る・呪博士だった。
 「それ本当に人の名前か?」と云いたくなる物騒なネーミングの呪博士を敬介啓太郎から聞いており、同時に「悪魔の天才」と呼ばれていたことも知っていた。
 拙作「仮面ライダーX全話解説」にて呪博士と啓太郎の関係を考察しているので、私見に関してはそちらを参考にして欲しいが、第35話を見る限りは、呪博士は単に「お前の父親の親友」と名乗っただけで、それ以外の言及はないままライドルホイップで刺殺されてGODも壊滅した。

 ここからは個人的な推測でしかないが、結局神啓太郎はGODに見込まれ、それを拒んで殺されたが、そのGODが味方に引き入れんとして目を付けた科学者や大学教授には啓太郎と知遇を得ていた者や、城北大学の関係者も少なくなかった。そして最後の最後に「親友」が現れ、啓太郎は最後までストーリーにその影を匂わせ続けた。

 その頑固さや人より進み過ぎた先見性故に、学界から異端者・変人・気ち●いと見做され、一方で「悪魔」と称された人物を親友としていた神啓太郎が確かな正義感を持ちつつ、悪の組織と妙な関わりを持ってしまった背景はいつか語られて欲しい気がする一方で、語られてしまうと空想する楽しみがなくなってしまう気もする(苦笑)………………ヒーローの父親として神啓太郎は本当に独特且つ、稀有な存在感と影響を持つ人物である。


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令和五(2023)年六月二二日 最終更新