仮面ライダーBlackの必殺技

指定必殺技:ライダーキック


仮面ライダーBlackとライダーキック
 実の所、このサイトを作ろうと思ったのは、この仮面ライダーBlackと彼が放つライダーキック(正確にはライダーパンチライダーキック)の存在が大きい。
 幼少の頃はウルトラマンシリーズに対して思うところの強かった、「他に決め技はないのか?」との念を、この『仮面ライダーBlack』にはかなり色濃く感じた。

 正直、「いつも同じ技で決着がつくのはつまらない。」という想いは、特撮番組に対して、幼少の頃からかなり感じていたので、技の豊富な他のライダーに対しては快哉を叫んできたから、(詳細は後述するが)決着の殆どすべてをライダーキックでつけてきた点においては、『仮面ライダーBlack』にはかなり物足りないものを感じていた。
 しかし誤解ないように言っておくが、シルバータイタン『仮面ライダーBlack』も、仮面ライダーBlackが放つライダーキックも決して嫌いではなく、むしろ大好きである。

 極端なまでに単一化された決まり技。そこにどういう長所と短所と狙いがあったのかをしっかりと考察したい。
考察1 ライダーキックの戦績
 まあ、何といってもゴルゴム怪人達は、殆ど全員と言っていい割合でライダーキックの前に絶命している。
 前日したように、正確にはライダーパンチで殆ど戦闘不能に追い込まれている怪人に対して、ライダーパンチを喰らったのをと同じ部位にライダーキックが命中して、止めを刺されるものであり、この一連の流れが決着を為した確率も抜群だが、この技が放たれた際に、ゴルゴム怪人を死に至らしめた確率もまた抜群で、まともに食らって助かった奴は皆無に近く、大怪人ダロム大怪人バラオムでさえ、例外ではなかった。
 例によって、その戦績については下表参照にして頂きたい。

登場怪人死因
クモ怪人ライダーキック
ヒョウ怪人ライダーキック
クワゴ怪人ライダーキック
ノミ怪人ライダーキック
ヤギ怪人ライダーキック
オオワシ怪人ライダーキック
サイ怪人ライダーキック
セミ怪人ライダーキック
ハチ怪人ライダーキック
トカゲ怪人ライダーキック
サボテン怪人ライダーキック
カミキリ怪人ライダーキック
カニ怪人ライダーキック
マンモス怪人ライダーキック
イワガメ怪人ライダーキック
ハサミムシ怪人ライダーキック
バク怪人ライダーキック
クロネコ怪人ビルゲニアに倒される
オニザル怪人ライダーキック
アネモネ怪人ライダーキック
タマムシ怪人ライダーキック
ツルギバチ怪人ライダーキック
アンモナイト怪人ライダーキック
シーラカンス怪人ライダーキック
カマキリ怪人ライダーキック
バッファロー怪人ライダーキック
イラガ怪人ライダーキック
コガネムシ怪人ライダーキック
アルマジロ怪人ライダーキック
イカ怪人ライダーキック
ヤマアラシ怪人ライダーキック
キノコ怪人ライダーキック
ベニザケ怪人ライダーキック
剣聖ビルゲニアシャドームーンに倒される
ケラ怪人ライダーキック
ネズミ怪人ライダーキック
ムカデ怪人ライダーキック
サンショウウオ怪人ライダーキック
コブラ怪人ライダーキック
ハエ怪人ライダーキック
クワガタ怪人ライダーキック
大怪人ビシュムシャドームーンによる光線攻撃
大怪人バラオムライダーキック
大怪人ダロムライダーキック
コウモリ怪人回し蹴り
トゲウオ怪人ライダーキック
シャドームーン詳細不明
創世王サタンサーベル
ライダーBlackとの戦闘率100.00%
決着率93.75%
ライダーキックによる必殺率91.11%

 凄まじいばかりの占有率である。

 「他に決め技はないのか?」と言いたくなる仮面ライダーアマゾンでさえ、大切断が決着をつけた率は8割を割っており、一つの技が全決着に占める割合は高くても7割にも満たない中で、仮面ライダーBlackライダーキックは9割を超えているのである!
 そしてゴルゴム怪人、幹部(世紀王シャドームーン剣聖ビルゲニア、大怪人達)、首領である創世王の死因別に見ても、仲間に殺されたクロネコ怪人剣聖ビルゲニア(吉田淳)、大怪人ビシュム(好井ひとみ)(但し、ビシュムを死に至らしめたシャドームーンの光線は本来、 Black を倒す為に放たれたもの)を別にすれば、仮面ライダーBlackに倒された者の中で、ライダーキック以外で死に至ったものはコウモリ怪人創世王しかいないのである!(5体で登場したクモ怪人は、何人かがライダーパンチで絶命しているが、最後の個体がライダーキックで倒されたのをもって、ライダーキックによる絶命としている)

 ある意味、武器を使用しない最後の仮面ライダーである仮面ライダーBlackは確かにライダーパンチライダーキック以外の技をほとんど持たなかったし、道具として極めて優れたバトルホッパーロードセクターの二大マシンも怪人打倒には使われなかった。万能のキングストーンにしても、その潜在能力から大怪人ダロムの念道力や、シャドームーンの洗脳を解除したりしたが、役割としては補助的なものに留まっていた。
 そう、仮面ライダーBlackライダーパンチライダーキック以外の格闘技を殆ど持たないのである。ライダーキックが勝負のほぼすべてを決めたのも必然と言えよう。

 決着に率に続いて凄まじいのは必殺率である。ライダーパンチライダーキックの連打を受けたゴルゴム怪人達は為す術なく、全身を炎上させた後に爆発四散していた。
 単発で見ればカニ怪人、大怪人達が直撃して耐えていたが、それでも大怪人ダロム大怪人バラオムも連打を受けた際には死を免れなかった(一度シャドームーンに敗れて甦った Black が以前よりパワーアップしたことを考慮にいれる必要はあるが)。
 それを考えると、盾の能力を借りたとはいえ、ライダーパンチライダーキックの直撃に二度も耐え抜いた剣聖ビルゲニアは大したものである。

 単純に、ライダーパンチライダーキックの連打を耐え抜いただけなら、シャドームーンもシャドーパンチ・シャドーキックの応酬で切り返しているが、この時の Black 創世王の姦計に掛かって、事前にシャドームーンに深手を負わされていた。
 そこをいくと、ビルゲニアは自らの盾・ビルテクターと、甲冑古代魚ビルケニアの能力からくる身体の頑健さで、純粋な防御力で耐え切ったのだから、その耐久力はゴルゴム一と言えよう。

 こうしてみると、ライダーキックは一撃必倒の破壊力をもって主人公の代名詞としての役割を担い、世紀王=次期創世王候補の格を見せつけ、それが通じないことをもって、強敵の脅威を実感させるのにも一役を買う、という必殺技らしい必殺技と言える。
 少年の頃の道場主は仮面ライダーBlackの必殺技のバリエーションの無さに物足りなさを感じたこともあったが、上記のようなこだわりがこの技に込められていたとしたら、技の名前が「○○キック」のようなもじりのキック技ではなく、純粋な「ライダーキック」と呼称されたのも分かる気がする。


考察2 ライダーキックに秘められたもの
 第3期シリーズである『仮面ライダーBlack』『仮面ライダースーパー1』以来6年振りに放映されたものであり、当然のことながら、特撮技術にはかつての作品を凌駕する見応えが求められ、当時最高の技術が投入された。
 実際、異形の戦士になるような過程を踏みつつ、バランスの取れたスタイルを為して、余剰エネルギーが気化して間接から噴き出す変身シーンの見事さは当時にCGが無かった故にその凄味を今尚色褪せていないが、ライダーパンチライダーキックの連打もまた見事なシーンである。

 全身のバネを利かせて斜め45度の角度で空中に飛び出し、宙にて目一杯体が伸び切った状態でパンチを繰り出し、グロッキーに追い込んだゴルゴム怪人に対し、追い打ちに再度ジャンプして斜め45度でのジャンピングが頂点に達するに合わせて全身を極限まで折り屈め、その反動で全身を伸ばし切りつつ右脚を繰り出して放つキックを命中させるスタイルは、暗灰色のバックに透過光による強調、残像を重ねたアクションや打突部位の燃え上がる様を模した光演出とも相俟って、見ていて眩しくも鮮烈だった。

 悪く言えばワンパターンなのだが、別の言い方をすれば、このライダーパンチライダーキックの連続技は番組に欠かせないワンシーンにして、極自然に出てくるシーンと化していた(ライダーパンチ抜きで、ライダーキックのみによる決着も何話かある)。
 実際、純粋にライダーキックが登場しなかったのは第18話、第44話、第45話、第48話、第50話のみで、内、第18話、第44話、第50話では戦闘はあったもの、Blackは敵を倒しておらず、第45話では大怪人ビシュムシャドームーンのビームの前に絶命して、技の出番がなく、第48話は前回でシャドームーンに敗れて、クジラ怪人の海底洞窟内にて寝っ転び放しだった(笑)。

 一方で、第35話、第36話、第47話では敵を倒すに至らなかったものの、ライダーパンチライダーキックの連打が為されている。つまり戦闘がありながら、ライダーキックが出なかったのはたったの3話である。
 実際、ビルゲニアとの最後の対戦になった第35話、大怪人と初めてまみえた第36話では決着がつかなかったにもかかわらずライダーパンチライダーキックの連打が放たれ、それを見た際の道場主は、ライダーキックを出さずにはおれんのか?」とTVの前で言わずには居られなかった。

 だが、詳細は後述するが、原点回帰を求められた作品である『仮面ライダーBlack』において、戦闘は必ずしも最重要ファクターではなかった、とシルバータイタンは見ている。
 逆にだからこそ、徹底的に技の種類を絞り、アクションと特撮技法と必殺必倒率に重きを置くことで番組に欠かせぬワンシーンとすることがライダーキックに課せられたステータスだったとしたら…………制作陣の炯眼には恐ろしいものがあると言わざるを得ない。シルバータイタンの的外れな深読みでなければ、との前提を必要としてのことではあるが(苦笑)。


考察3 ライダーキック以外の決着
 最終的に『仮面ライダーBlack』にて仮面ライダーBlackは一人(?)の創世王、二人の世紀王、3体の大怪人(=大神官)、46体の怪人(クモ怪人は5体)と戦い、都合52体の内、48体をその手に掛けている(注:52体にクジラ怪人は含んでいません)。
  Black が倒さなかった4体はシャドームーン剣聖ビルゲニア大怪人ビシュムクロネコ怪人で、倒された48体中、ライダーキックに寄らない死を遂げた者はクモ怪人4体、コウモリ怪人創世王の6体である。
 この中で、クモ怪人4体ははっきり言って雑魚である。ストーリー的には南光太郎(倉田てつを)の育ての父・秋月総一郎(菅貫太郎)を殺害した怨敵だが、初陣の Black の前にあっさり蹴散らされている。
 また、コウモリ怪人は出番こそ多いものの、斥候としての存在の方が強く、当初より Black と積極的には戦っておらず、最期はクジラ怪人の声で超音波を狂わされてコンクリートの壁に幾度か激突した後、チンピラ達を襲おうとしたところをクジラ怪人の粘液に絡め取られ、怒り心頭の Black の回し蹴りを喰らったのが致命傷となって、大怪人ダロム戦死後にその死を伝えに戻ったゴルゴム神殿内にて力尽きて炎上した。
 こうして見ると、クモ怪人コウモリ怪人は元より必殺技を用いるまでもない弱敵で、ライダーキックを喰らっていれば間違いなく一撃死していただろう。

 そこを行くと、文字通りのラスボスであった創世王の手強さは流石である。
 拙作『徹底検証、どっちが悲惨?』でも触れたが、シルバータイタン創世王が大嫌いである。しかし、首領としての能力の高さは認めないわけにいかない。
 具体的に描かれなかった全宇宙支配の力を抜きにしても、世紀王候補者や大神官達に命の危機はおろかとんでもない屈辱を伴う命令にも従わせ、寿命の尽きかけた青色吐息の心臓しか態を為していない状態で、地球を道連れにする余力を残し、ロードセクターによるアタックをも弾き返す防御力を有していたのだから。
 結局創世王に止めを刺したのは、創世王御用達武器のサタンサーベルで、仮面ライダーBlackゴルゴムの敵でありながら、一面ではゴルゴムの次期創世王候補者で、サタンサーベルを使いこなせる身にあったことが創世王の命取りとなった。
 自らの武器で死んだ間抜け振りはいい気味として、ここまでくるともう仮面ライダーBlackとしての能力の問題ではなくなっている。

 ライダーキックは良くも悪くも仮面ライダーBlackのほぼ唯一にして無二の技に徹せられた。賛否両論あると思うが、その徹底ぶり自体は称賛に値する。


総論 第3期シリーズとして原点回帰の任を帯びていた『仮面ライダーBlack』及び仮面ライダーBlackシルバータイタンの記憶に間違いなければ、「仮面ライダー0号」の通称さえ持っている、と云われている。
 その姿はスカイライダーと並んで仮面ライダー1号に酷似し、ライダーキックに対する徹底ぶりにもそれは反映されている。

 一方で、それまでのライダーシリーズには見られなかった試みも少なくない。平成ライダーシリーズには珍しくない戦闘員不在の悪の組織・ゴルゴムの在り様にはに当時の多くの視聴者が驚いた。また、悪のライダーであるシャドームーンの存在、一度は日本がゴルゴムの支配に屈したことなども見逃せない。
 また、FBIの特命捜査官・滝隆介(京本正樹)、政財界にて暗躍したゴルゴムメンバー、幼少のころに誘拐されて、組織に忠誠を誓う戦士として体の成長を止められていたゴルゴム少年戦士隊、といったメンバーが然程多い回数ではないものの、複数回登場しては単純な善対悪の戦いに留まらない、人間ドラマ性の強い作品に仕上げていた。
 実際、プログラマー、画家、マイホームを夢見るサラリーマン、寿司屋の大将、空手名人に祭り上げられた老人、等の一回限りの極普通の人が印象深い役割を演じた数々の名作を残したのも『仮面ライダーBlack』の特徴である。

 こうして見ると、同作品が戦闘よりもドラマ性に重きが置かれたのは明らかである。とはいえ、作品から戦闘の重要性や、特撮技術の反映所が消え失せた訳ではない。となると、下手に技を増やさず、ドラマ性の影で薄くなりそうな戦闘を愚直なまでに一つの技による決着で一本筋の通ったステータスを持たせたこだわりには脱帽するしかなくなる。
 贅沢を言えば、もう2つぐらいの、「いざ!」という時にのみ用いられる強力な技がいいタイミングで繰り出されれば最高だったのだが…。ま、二度も三度もサタンサーベルが投げられる訳にはいかないか(苦笑)。


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平成二三(2010)年二月一二日 最終更新