1.イデ隊員VSジェロニモン……依存心を振り払った勝利
番組名 『ウルトラマン』第37話「小さな英雄」 放映年月日 1966年3月26日 勝利者 イデ隊員 勝利手段 新兵器・スパークエイト 勝利形態 外敵抹殺
ストーリー概略 怪獣酋長ジェロニモンが60体の怪獣を甦らせ、人間への復讐を目論んだ(ちなみに第37話の時点で怪獣は60体も登場していない(笑))。
だが、その中に友好珍獣ピグモンがいた為に、ジェロニモンの計画は科学特捜隊に通報されることとなった。
通報を受けた科学特捜隊は大岩山に急行。大量の怪獣が甦るのを防ぐ為、再生した地底怪獣テレスドンや彗星怪獣ドラコ等と戦う中、一人、イデ隊員 (二瓶正也)は苦悩の中にいた。
これまで自らの開発した兵器を初めとする科学特捜隊の武器が常日頃から怪獣を倒すに至らず、結局はウルトラマンが怪獣を倒すパターンに、自らの存在意義に疑問を感じていたためである。
戦意喪失したイデはウルトラマンに助けを求め、そんなイデを庇ってピグモンがドラコの前に戦死。怒りと悲しみとハヤタ (黒部進)の叱責に我を取り戻したイデは新兵器スパーク8を駆使するのだった………。
勝利 単純に「○○が××に勝った。」で語るなら、「イデが(新兵器スパーク8でもって)ドラコとジェロニモンに連勝した。」で終わる。
ピグモンの犠牲とハヤタの叱咤激励(←鉄拳制裁付き)に我を取り戻したイデは新兵器スパーク8を持ち出すと、スーパーガンに取り付けてそれを放ち、ドラコを一撃で粉砕した。
更に最後にはウルトラマンに促されてグロッキー状態のジェロニモンにもスパーク8の光弾が放たれ、これまた一撃粉砕され、イデは自らの手でジェロニモンを仕留めたことを声高に宣言した。
つまり戦術だけを見れば、「イデの兵器開発能力がドラコ・ジェロニモンに勝った。」という単純な分析である。スパーク8の出番はこの第37話だけだったが、科学特捜隊を初めとする正義のチームが再生怪獣を含むとはいえ、同じ武器で2体の怪獣を連続撃破した例は稀有で、それだけでもスパーク8の性能は際立っている。
ついでを言えば、テレスドンも科特隊の手で葬られている。仕留めた方法はムラマツキャップ (小林昭二)、アラシ (石井伊吉)、フジ (桜井浩子)の3名がスーパーガンの銃身を合わせて放ったトリプルショットによるもので、これまた一撃だった。
背景的に見ると、最悪60体もの怪獣が大暴れするかもしれない現場に、たった6名+1匹で乗り込んだ訳だから、イデの不安をよそに、ムラマツには充分な勝算があったかもしれない(笑)。
勝利の肝 大きく分けて二つ挙げられる。一つは「ピグモンの助力」で、もう一つは「イデの兵器開発能力」である。
前者に関してはわざわざ説明するまでもないだろう。ピグモンの人間への好意に始まり、苦悩するイデを庇って戦死した見事さに対してハヤタをして「英雄はここにもいる。」と云わしめ、ムラマツをして「名誉隊員」の称号を送らしめた。ピグモンの存在感は極めて大きく、かつその存在意義・功績は極めてシンプルである。
故にストーリーの背景的に「肝」となるのは、後者であろう。
前述した様に、イデは科特隊の存在が数々の怪獣にとどめを刺さずに至らず、ウルトラマンに依存している戦歴を戦場に立ってまで苦悩していた。
だが、作中ハヤタがイデを励ます台詞にも見られるが、既にイデは何体もの怪獣をその兵器開発能力で討ち取っていた。
イデが開発したスパイダーガン (アラシ御用達)はミイラ人間を倒し、スフランを焼き切り、マルス133は大量のバルタン星人とゼットン星人を倒し、強力乾燥ミサイルは冷凍怪獣ギガスを粉砕し、マッドバズーカに至ってはスペシウム光線が通じなかった強敵毒ガス怪獣ケムラーを討ち取った。
その他にも、討ち取るに至らずともダメージを与えたり、牽制役を果たしたりした兵器の例は枚挙に暇がない。
恐らく、同作品を熱心に見ていた視聴者にはハヤタの台詞が無かったとしても、兵器開発者としてのイデの有能性に疑いを抱くことはなかっただろう。
だが、イデは戦果の質・量でウルトラマンに遠く及ばないことが相当な劣等感だったようで、ジェロニモンを倒せる武器を開発・携行済みだったのに、戦意喪失して、空に向かってウルトラマンに助けを求めて、その名を叫ぶ、という戦闘員にあるまじき行動に出た。
イデのこの醜態を笑い飛ばすのは簡単だが、眼前に自分を殺そうとするドラコが迫って尚、彼は逃げも抵抗もしなかったのだから、この時の彼の精神状態は相当深刻だったと見られる。
結局、イデの戦意はピグモンの尊い犠牲と引き換えに復活し、イデのスパーク8=兵器開発能力はドラコ・ジェロニモンを粉砕した。
彼を叱責したハヤタ=ウルトラマンは、イデの兵器開発能力が充分な力を持つことを追認するかのように、ジェロニモンへのとどめを彼に譲ったことにもその意は現れていたと言えよう。
戦果を顧みれば、大岩山での怪獣復活劇は、「ピグモンの助力」で機先を制し、「イデの兵器開発能力」で怪獣達を次々に撃破した科学特捜隊がウルトラマンを必要とせずとも、遅かれ早かれ勝利を収めていたであろうことは間違いない戦いだった。
人間は決して無力な存在ではないが、些細なモチベーションでその勝敗が大きく左右される存在であることもまたこの第37話教えてくれる。
次頁へ
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る
令和五(2023)年八月三日 最終更新