8.地獄大使を演じた人々
おおよそ、この『特撮房』の様なサイトを閲覧して下さる様な方々で、「地獄大使?誰それ?」等と仰る方は皆無と思われる。
また、特撮を一切見たことが無い方ならともかく、幼少の頃に「ライダーキック!」と叫んだことのある方々なら「地獄大使」の名を聞けば、被り物のイメージと仮面ライダーに登場する悪役であることは容易に思い出されるものと思われる。
それだけ、地獄大使は高名である。勿論それは『仮面ライダー』と云う特撮界屈指の有名作品の第一弾で悪役を演じ、その先駆けを為したからで、これは死神博士も同様だろう。
それ以外にも地獄大使が特撮界を代表する悪役たり得た要因は一つや二つではないが、その一つに地獄大使を演じた俳優の尽力・好演があったことは疑いないところだろう。
云うまでもなく地獄大使を演じたのは故潮健児氏で、潮氏亡き今、新たに地獄大使を登場させるとなると別の俳優を立てなければならない。
この頁では地獄大使を演じた俳優に触れることで、地獄大使というキャラクターの重大さと、それに尽力した俳優諸氏への敬意が表すことが出来れば幸いである。
潮健児(うしおけんじ)
本名 益戸 正雄 (ますど まさお) 別名義 潮 建志、潮 建磁、泉 正夫 生没年 大正15(1925)年3月23日〜平成5(1993)年9月19日 享年68歳 主な特撮出演(括弧内はレギュラー名) 『仮面ライダー』、『仮面ライダーV3』 (地獄大使・暗闇大使)、『七色仮面』、『ナショナルキッド』、『アタック拳』、『悪魔くん』(メフィスト弟)、『キャプテンウルトラ』、『人造人間キカイダー』、『変身忍者 嵐』、『超人バロム・1』、『緊急指令10-4・10-10』、『キカイダー01』、『秘密戦隊ゴレンジャー』『アクマイザー3』、『忍者キャプター』(雷忍キャプター1)、『ジャッカー電撃隊』、『宇宙刑事シャリバン』、『宇宙刑事シャイダー』、『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』(暗闇大使)、『星雲仮面マシンマン』、『兄弟拳バイクロッサー』(ドクターQ)
※故人の名誉の為、ある作品での出演を省略しています。
略歴
大正15(1925)年 3月23日、東京市に誕生。
昭和17(1942)年 友人の紹介で古川ロッパの一座に入団。「泉正夫」と名乗る。
昭和20(1945)年 終戦により、延期となっていた古川ロッパ一座への入団が正式に成立。
昭和22(1947)年 古川ロッパ一座を退団。「潮健児」と改名。
昭和24(1949)年 太泉映画(現・東映)と契約。
昭和25(1950)年 『執行猶予』で映画デビュー。以来、太泉映画の後身である東映において、長きに渡り脇役として活動。
昭和46(1972)年 『仮面ライダー』にて地獄大使を演じる。
昭和49(1974)年 「 潮建志」と改名。
昭和56(1981)年 「潮健児」と戻す。
昭和59(1984)年 特番『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』にて地獄大使の従兄弟という設定の暗闇大使を演じた。
昭和60(1985)年 「潮建磁」と改名。
平成元(1989)年 再度「潮健児」に戻す。
平成5(1993)年 『第32回日本SF大会DAICON6』にゲストとして招待されたが、企画前夜にホテルの部屋で倒れる。付き添い(唐沢俊一)は出演中止を提案したが、潮は体調不良を隠して出演し、暗黒星雲賞ゲスト部門を受賞した(実質上「地獄大使の最後のステージ」となった)。
自伝『星を喰った男』を出版。記念パーティー会場に車椅子に乗って現れ、多くの関係者を驚喜させ、満面の笑みを浮かべた挨拶で応えたが、公に姿を現した最後となった。
9月19日午前0時28分、肝硬変のために川崎市の虎の門病院分院で逝去。享年68歳。
9月24日、葬儀が執り行われ、清川虹子・京本政樹・菅原文太・池部良・佐々木剛等の俳優仲間、多くのファンが詰めかけた(佐々木は当時俳優を引退していた)。
出棺の際にはファンクラブの会員達が「世界征服の志半ばで散った地獄大使閣下に最敬礼。イーッ!」とショッカー戦闘員を真似たかけ声で見送った。
エピソード
●個性派が揃っていた東映のバイプレーヤー陣の中でも指折りの存在感を持っており、独特の風貌と演技の幅広さから悪役キャラクターとして重宝された。
●潮自身、「自分は悪役俳優」との認識が強く、「『忍者キャプター』で主人公側のベテラン戦士(雷忍キャプター1役)へのオファーがあった際は大いに驚いたと語っている。
●俳優・萬屋錦之介は、「お父さんは地獄大使と友達だ」と云ったことで息子に尊敬され、実際に潮に頼み込んで、地獄大使の姿で自宅に来てもらったと云う。萬屋以外にも共演者の子供にせがまれて、地獄大使のメイクをして訪問した例は多いらしい。
●SF作家の山本弘は1991年に潮の楽屋を訪問。明らかにゾル大佐や死神博士よりも重いスーツを着て、全身汗だくになっていた当時66歳が「実に楽しそうに演じていた(山本弘談)。」ことに驚愕。
直後に発行された『サーラの冒険A 悪党には負けない』(富士見ファンタジア文庫)の後書きでこのことに触れ、同時に宮内洋、小林昭二氏とも会ったことをグループSNEの同僚友野詳に自慢。当時、「どうだ!友野!羨ましいだろう?うわははははははははははははは」の文章を見た道場主は「ほ、本当に羨ましい………。」と呟いて悶絶した。
シルバータイタンより 道場主が初めて地獄大使を映像で見たのは、平成3(1991)年の夏休みに「仮面ライダー生誕20周年記念」として行われた『仮面ライダー』の再放送でのことでした。
元々特撮マニアの素養を持っていた道場主はこの再放送をきっかけにマスカーワールドにどっぽりはまったのですが、潮健児氏の逝去はそれから僅か2年後のことで、せっかく潮氏の好演に感じ入ったというのにその矢先に潮氏がこの世の人でなくなったことに愕然とした感覚は昨日のことの様に覚えています。
道場主が眼にした潮氏の訃報は読売新聞紙上のもので、潮氏を紹介する文面に地獄大使の名が乗っていたのもはっきり覚えていますし、妹にも「地獄大使が死んじゃったぞ……。」と云ったのも覚えています。
そんな潮氏の芸歴に対し、道場主=シルバータイタンが目にしたものより、目にし切れていないものの方が遥かに多く(何せ、芸歴は約半世紀!)、シルバータイタンが「潮健児氏の演じた地獄大使」を語ることはいくらでも出来るにしても、「地獄大使を演じた潮健児氏」を語るのはおこがましいとさえ思っています。
ゆえに簡単にシルバータイタンが注目し、触れておきたいのは潮氏が演じた地獄大使の「人間臭さ」です。地獄大使は世に悪を為す恐るべき存在でありながら、おっちょこちょいで、感情的で、様々な想いが強く、その様な個性が明らかに他の悪の大幹部よりも親しみ易さを感じさせてくれました(例え、現実に存在したなら官憲に拘束され、法で裁かれるべき人物だとしても)。
これ以上の野暮な言及は控え、親しみやすい地獄大使を演じ、後々の世にも地獄大使を巡る様々な楽しみを遺してくれた潮健児氏に感謝し、安らかな眠りをお祈りする次第です。
大杉漣大杉漣(おおすぎ れん)
生年 1951年9月27日〜2018年2月21日 通称 様々な役柄をこなす演技力から、「300の顔を持つ男」、「カメレオン」の通称を持つ。 主な出演 数が多過ぎて選択表記不可能(苦笑)。
略歴
昭和26(1951)年 9月27日、徳島県小松島市に生まれる。
昭和48(1973)年 雑誌『新劇』に掲載されていた太田省吾の記事に感銘を受け、太田の劇団員募集広告に応募し研修生として採用される。6月、『門』の「娼婦を買いに来る客A」役で舞台デビュー。スティールギター奏者である高田漣の名から拝借し、「大杉漣」と名乗る。
昭和49(1974)年 太田省吾創設の転形劇場に入る。舞台俳優としての本格的な活動開始。
昭和55(1980)年 新東宝映画のピンク映画『緊縛いけにえ』で映画俳優としてデビュー。
昭和58(1983)年 「ZOOM-UP映画祭」・ピンクリボン賞主演男優賞を受賞。
昭和63(1988)年 『地下鉄連続レイプ・愛人狩り』を最後にピンク映画への出演を控え、転形劇場における活動に専念。しかし同年転形劇場は解散。以後、演劇界で活動を続け、食つなぐ日々が続いた。
平成5(1993)年 北野武監督『ソナチネ』のオーディションに合格。
平成9(1997)年 SABU監督『ポストマン・ブルース』でおおさか映画祭・報知映画賞を受賞。以後、数々の作品で実力を発揮し、国内各映画賞の助演男優賞を多数受賞。それに伴い、映画以外にもテレビドラマへの主役・主要キャストとしての出演が増加、認知度を高める。
平成21(2009)年 劇場版『仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』にて地獄大使を演じる。この抜擢に対し、大杉は「役は『地獄』も、気持ちは『天国』」とコメント。
平成28(2016)年 劇場版『仮面ライダー1号』にて7年振りに地獄大使を好演。
平成30(2018)年 2月21日、急性心不全のために急逝。享年66歳。
偶然 劇場版『仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』にて大杉漣は地獄大使を演じた。元祖地獄大使を演じた潮健児は既に鬼籍に入っており、同様に死神博士を演じた天本英世もこの世を去っていたため、石橋蓮司が演じた。
奇しくも大杉漣と石橋蓮司はともに名前に「れん」の音を持ち、「れんれんコンビ」と呼ばれた。また、変身シーンのみ演じた仮面ライダーWの一人である左翔太郎を演じた桐山漣は大杉と同名で、この奇妙な偶然も有名である。
シルバータイタンより はっきり云って、シルバータイタンは大杉漣氏のことを何も分かっていないと云っていい。勿論、シルバータイタンが大杉氏を語るのはおこがましいことである。
ましてや平成29(2017)年6月16日現在、大杉氏は俳優として活躍中で、地獄大使を抜きにしても過去・現在・未来を通じて多くの視聴者を魅了するであろうことは明白である。
故に多くは語りません(=語れません)。現時点では、亡き潮健児に代わって仮面ライダー1号・本郷猛の好敵手を好演し、「今後も本郷猛・仮面ライダー1号対地獄大使を見たい!」と思わせてくれていることに感謝していましたが、その後僅か2年での急逝がいまだに惜しまれてなりません…………。
参考までに 仮面ライダーシリーズの歴史は後数年を待たずして半世紀にならんとしている。勿論、この時の流れの中でシリーズにおいて好演して来た数多くの俳優が鬼籍に入られ、御存命の方々の中にも引退したり、御高齢で再度その役を演じることが困難だったりする。
勿論、今後もなつかしいキャラクターが異なる俳優によって演じられるであろうことは想像に難くない。止むを得ないことではあるが、元祖のキャラクターが崩れかねない危険を孕むことでもある。
幸い(と云っては失礼だが)、大杉漣氏が演じる地獄大使は故潮健児氏が演じた地獄大使を踏襲しつつ、新たな地獄大使を見せてくれてもいる。どのような俳優による後継にも賛否両論はあって当たり前だが、下記に悪役キャラクターの後継を図示して、今後への期待に繋げたいところである。
悪役の後継
悪役 元祖俳優 後継俳優 ゾル大佐 宮口二朗(故人) 奥田達士(正確には鳴滝の変身) 死神博士 天本英世(故人) 石橋蓮司(正確には光栄次郎の変身) ブラック将軍 丹羽又三郎(引退) 福本清三、高田延彦 ドクトルG 千波丈太郎(現役) 奥田達士(正確には鳴滝の変身) アポロガイスト 打田康比古(引退) 川原和久 暗闇大使 潮健児(故人) 菅田俊(正確には村雨良の変身)
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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新