1 ジャミラ………イデの一喝に固まる
名前 ジャミラ 肩書 棲星怪獣 登場作品 『ウルトラマン』第23話「故郷は地球」 出身 地球 悪辣度 ★★★★★★★☆☆☆ 最期 ウルトラ水流を受けて悶絶死
概要 ウルトラシリーズはおろか、特撮界でも随一と云える程、悲惨なことで有名な怪獣にして、元地球人である。
某国の宇宙飛行士だったジャミラは、技術の未熟さによる事故で水の無い惑星に不時着した。だが、某国は国際的な非難を恐れてこの事実を隠蔽し、ジャミラに救助の手を差し伸べなかった。
生き残る為に肉体を水の無い惑星に適応させた結果、ジャミラは姿も心も大きく変貌し、棲星怪獣となってしまい、自分を過酷な環境に置き去りにし、助けなかったばかりか、その事実を隠蔽されたことに大きな恨みを抱いた。
やがて宇宙船を自力で修理したジャミラは自分を見捨てた地球に怨みと憎悪の心を抱き、復讐の為に帰星した。
見えない宇宙船を駆使したジャミラは標的を世界平和会議に定め、それに出席するため来日せんとしていた世界各国の要人達を搭乗する飛行機諸共撃墜し続けた。
やがてその正体が元地球人であることが科学特捜隊の面々の知るところとなったが、科特隊パリ本部は「ジャミラの正体を明かすことなく、宇宙から来た一匹の怪獣として葬れ。」との非情な指令を発動した。
元人間であるジャミラを前に科学特捜隊の面々は複雑な想いを個々に抱えていたが、水の無い惑星に適応した故に水に弱い体となったことに注目して人工降雨弾丸を用いて応戦。
最後にはウルトラマンがウルトラ水流を浴びせてこれを倒した。
悪辣振り ジャミラの怨みは至極自然なものだった。
個人的な想いだが、ジャミラの復讐が国際的な非難を恐れて隠蔽に走った某国関係者のみに為されるものだったら、シルバータイタンは決してジャミラを非難しなかったことだろう。
実際、科学特捜隊の面々は大なり小なりジャミラに同情し、イデ(二瓶正也)に至っては「俺、ジャミラと戦うのは辞めた!」、「だって、ジャミラは俺達の先輩じゃないか!」と叫んであからさまに戦意喪失していた。
イデにしてみれば、「いつ自分達もジャミラと同じように科学の犠牲となった挙句、それを隠蔽されるかもしれない。」と云う危惧に似た想いや同情もあった訳で、そんなイデを非難していたアラシ(石井伊吉)も、任務上の非難で、多かれ少なかれ似た想いは有ったと思われる。ひたすら沈黙していたハヤタ(黒部進)、ムラマツキャップ(小林昭二)、フジ(桜井浩子)も同様だったことだろう。
だが、残念なことにジャミラの怨みの対象は某国や某国宇宙関係者に留まらず、地球そのものに拡大し、作中では世界平和会議参加者に矛先が向けられた訳だったが、その関係者を襲撃するのにジャミラは旅客機を襲っており、巻き添えとなる人々の命を意に介しているとは思えなかった。
また、会議場を襲うべく100万度の火球を吐いて地上を攻撃しており、何件もの民家が炎上した。火炎攻撃による現地住民の犠牲が描かれるシーンは無かったが、家屋内に人が居たすればどう足掻いても焼死は免れ得ない程の炎上振りだった。
ジャミラを生むきっかけを作った某国の責任者は何がしかの裁きを受けるか、さもなくばジャミラの報復を受けるに相応しいと考えたとしても、某国責任者と何の関係もない一般ピープルが虐殺されるのは決して座視出来ない暴挙だった。
作中から目分量による推測でもジャミラによる罪無き人々の犠牲は数百人規模で、数千人規模に及んだとしても全く不思議ではない。
最後の最後までその正体を伏せろと命じた科特隊パリ本部の指針には納得しがたいものがあったが、ジャミラが駆除対象となったのは止むを得ない判断だった。
垣間見せた良心 時間にしてほんの数秒の出来事だった。
渇きに苦しみ、見捨てられたことに絶望し、挙句に怪獣化するという想像を絶する苦難を味わったジャミラの復讐心を肯定したとしても、作中におけるジャミラの暴挙は許されざるものだった。
上述した暴挙を目の当たりにして、ジャミラに対する戦意を喪失していたイデだったが、終に怒りの声を挙げた。
「ジャミラ、テメー、もう人間らしい心はもうなくなっちまったのかよー!!」
と。
そしてこのイデの叫びを受けてジャミラはほんの数秒、その動きを止めた。
名前や人間だった頃の風貌からジャミラは明らかに欧州系の人物(放映当時、宇宙空間に跳び出せたのは米ソか欧州ぐらい)で、彼が日本語に堪能だったとは想像し難い。勿論、個人がどんな語学能力を持つかは人それぞれなので、ジャミラが日本語を介するのもあり得ない話ではない。
ただ、宇宙飛行士の職業柄、宇宙開発の最先端を走っていた米ソの言葉はいずれか(或いは両方)を学んだ可能性は高いが、理系に属する者が他の言語迄学んでいたとは想像し難い。
おそらく、ジャミラは言葉の意味は分からずとも、イデが必死になって自分に呼び掛けた想い―同情であり、逆恨みへの怒り―を感じ取ったのだろう。
結局ジャミラがイデの想いを受けて動きを止めたのはほんの数秒に過ぎず、身も蓋も無い云い方になるが、ジャミラが肥大させ過ぎた怨みの心を消すには至らず、あれほど渇望した水を大量に浴びせられ、悶絶した果てに悲惨な最期を遂げることとなった。
死後、地球人「A・ジャミラ」の墓標が作られ、その死が科学に殉じたものであることが刻まれ、ムラマツは謝罪と故郷の土となれたことで慰めとする言葉を手向けていたが、イデは「文句は美しいけれど…。」と憤懣やる方ない想いを呟いていた。
実際、ジャミラが完全に人間に心を失っていたのかどうかは分からない。
推測するしかないが、イデの叫び自体は理解しても、すっかり肉体も生態も変貌した上は元の地球人としての日常を取り戻すことを諦めていたとしても不思議ではない。
だが、事態解決に至らなかったとはいえ、ジャミラがイデの叫びにしばし動きを止めたことをシルバータイタンは軽視したくない。
例え一瞬でも躊躇いを見せたことで、姿も心も変貌したジャミラの中に人を殺したり、家屋を焼き払ったりすることへの良心の呵責や罪悪感が一欠けらなりとも残っていたと信じたい故に。
同時に火炎と破壊に曝された平和会議会場周辺の村落への被害にも歯止めが掛かったと信じたいところである(数秒有ったことで避難し得た命もあると云う意味で)。
理由はどうあれ、ジャミラの為した暴挙は決して許されないし、最終的にはウルトラマンや科特隊に葬られる運命は逃れ得ないものだった。
だが、良心に投げ掛けた叫びが短時間でも暴挙を止めることで防がれる、逃れ得る犠牲や被害は現実の世界にも存在すると考える故にイデの叫びも、ジャミラの躊躇いも決して無意味なものとは捉えない次第である。
余談だが、かかる悲痛な叫びを普段理論的で、コミカルな言動が多いイデが発した故に心を揺さぶられた視聴者は多かったと思われる。 令和3(2021)年8月21日、ユニークな日常と魂の叫びの双方を違和感なく演じられる二瓶正也氏と云う俳優がこの世を去ったのは誠に惜しまれてならない。80年の天寿を全うして尚、盟友毒蝮三太夫氏から「早過ぎる…。」と評された二瓶氏の御冥福を改めてお祈りする次第である。合掌。
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令和三(2021)年一二月二一日 最終更新