特撮に見る「良心の呵責」
「良心」と云う単語がある。
完全な善人が存在しない様に、完全な悪人もまた存在せず、誰にも「良心」と「邪心」がある。それゆえ、言動を見れば極悪人としか称し様のない人物でも、時に「良心が咎め」たり、「良心の呵責」に苦しんだりして、その悪行に僅かながら歯止めが掛かることがある。
歴史を学んでいる戦国房薩摩守に云わせると、「人間は単純ではない。」という事になり、歴史上英雄・名君・仁成家と云われる人々にも悪行や残虐行為が全くない訳ではなく、梟雄・暴君・殺戮者と云われる者達も、家族部下には優しかったり、敵には容赦なくても民衆には賢政を敷いたり、意外なところで人助けをしたりしたケースもある。
その点、造られた世界であるフィクションにおいては「完全な悪」や「良心の一欠けらも無い者」も造り易い。そしてそんな奴はヒーロー達も遠慮なくぶちのめせる。
知性もなくただただ暴れ回って破壊や食害をもたらすだけの怪獣や、地球侵略の為に地球人絶滅を丸で躊躇わない宇宙人や、そもそも人類滅亡が第一前提である悪の首領が倒される瞬間は快哉こそ叫べど、こちらの「良心」が咎めることはない。
ただ、現実であれ、フィクションであれ、人間は千差万別である。否、仮に人間でなかったとしても、意志や思想を持てばやはり千差万別である。
悪の組織の大幹部にはヨロイ元帥(中村文弥)や大神官ダロム(声:飯塚昭三)の様に「良心」の欠片も見いだせない奴もいる一方で、あくまで組織から与えられた任務の為に非人道的な命令にも唯々諾々と従う軍人然とした者もいる。
また、本能の赴くままに動く畜生に近い怪獣に事の善悪を求めても意味が無いと云える。
そして多くの怪獣・悪の組織の構成員・侵略的宇宙人は正義のヒーローによって「倒すべき悪」として倒される。
実際、ヒーロー達による悪の討滅は正当防衛で、倒さなければ多くの罪なき民衆が命を落としていたであろうことが想像に難くない。
だが、シルバータイタンは人間、或るいは人間ではなくても意志や思考を持つ存在は例えフィクションでも「良心皆無」とは思いたくない。その言動や生態からその命を奪うしかない存在であったとしても、だ。
そこで本作を制作した。
唾棄すべき、或いは討滅すべき存在で、多くは改心したと云い難く、悪の側の存在として命を落とした者達が、どこかで悪に徹し切れなかったり、善に戻りたい本音を垣間見せたりした瞬間をクローズアップさせたいと思った故に。
1 ジャミラ………イデの一喝に固まる
2 ロン………懐古と躊躇
3 メガール将軍………ロケットに秘めた忘れ得ぬ想い
4 シャドームーン………土壇場での躊躇いと意味深な呼称
5 ゴルゴム親衛隊・………悪人どもが見せた改心
6 見出し難い現実の「良心」
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令和四(2022)年四月一日 最終更新