1.早瀬五郎………ライバル心が魂を歪ませた?
キャラクター名 早瀬五郎 演者 渚健二 登場 『仮面ライダー』第3話「怪人さそり男」 再会時の立場 ショッカー怪人さそり男人間体 再会時の主人公への想い ライバル意識・劣等感からくる嫉妬 友情残留度 0 最期 仮面ライダー1号との戦いにて戦死
人物 主人公・本郷猛(藤岡弘)の旧友。本郷は城北大学生化学室の研究生にしてオートレースの世界チャンピオンを目指す若者だったが、その本郷が文武におけるライバルと目し、友誼を持っていたのがこの早瀬五郎(渚健二)だった。
本郷が知能指数600の天才で、運動・格闘にも優れていたのは今更云うまでもないことだが、その本郷とためを張れたのであれば早瀬の文武における能力は驚異的という他はない。
『空想科学読本』で有名な柳田理科雄氏の試算によると、知能指数600とは天文学的な数字に及ぶ人数を集めて1人いるか否かというとんでもなく稀有な能力だが、仮面ライダーカードによると、本郷の成績は「クラスで五番以内」ということなので、早瀬も知能指数600に匹敵する天才かもしれない(笑)。
ともあれ、文武両道に加え、オートレーサーとしても早瀬は本郷の好敵手で、その実力差は大きくなく、それだけに彼は大変な自信家でもあった。だが、それは自身の負けを極端に許さない基となり、様々な意味での彼の悲劇に繋がったのだった。
再会 世界征服を企む悪の秘密結社ショッカーは、ナチスの生体化学をベースとした改造手術を施した優秀な人間による世界の支配を目指す一方で、それが未だならぬ世の中にあって、その存在をひた隠しにしていた。
当然、改造人間としても奴隷としても役に立たない人間は密かに処分することとなり、それらの多くは改造人間達の性能をテストする人体実験に供された。
そんな処分対象とされた人物の一人に伊藤老人(美川陽一郎)がいた。彼は多くの囚人と共に改造人間になる資格もなければ、奴隷としても役に立たないと断じられ、さそり男率いる人食いサソリの能力テストを兼ねた処刑の対象とされた。
多くの仲間が人食いサソリの放つ溶解液にて殺害される中、伊藤老人だけが砂漠を超えて逃げ続け、やがて本郷猛の保護するところとなったが、当然ショッカーはこれを執拗に追撃。
とあるホテルに伊藤老人を匿っていたところ、室内にやってきた男を本郷が取り押さえたのだが、それこそ誰あろう、旧友早瀬五郎だった。
突然の再会に驚く本郷。室内には早瀬を連れてきた緑川ルリ子(真樹千恵子)もいて、聞けば、海外から本郷の噂を聞き付け、立花藤兵衛を訪ねたところ、彼からルリ子と共に本郷の助太刀に行くよう求められたとのことだった。
ともあれ、自らの好敵手にして親友である早瀬が加勢してくれれば派百人力、とばかりに本郷は改めて再会を喜び、早瀬もまた自分がいればショッカーなど恐れるに足りないとの態度を示すのだった。
友情と悲劇 特撮系のサイト、それもかかる弱小サイトを(苦笑)、見て下さる方々には説明不要だと思うが、早瀬五郎の正体はさそり男である。
早瀬は本郷猛をライバル視する余り、どうしても負けたくないという意識が昂じ、結果としてショッカーに魂を売ってしまい、多くの改造人間とは異なって自らの意志で改造手術を受けてさそり男となり、過去と訣別していた。
海外でのレーサー修行から帰ってきて本郷に加勢せんと触れ込んだのも、本郷に接近し、その油断を突くことを目的としたものだった。
一方の本郷は早瀬との友情を微塵も疑っていなかった。
上述した様に、再会を心から喜び、早瀬を能力・人格共に自分に比肩し得る者として彼の協力を頼りとした。
その早瀬は、世の人々がその存在を知らないショッカーのことも知っていて、本郷を巡るすべての事情を先刻承知していたことから、立花藤兵衛がすべてを話したか、藤兵衛がすべてを話していても不思議はないと思える程の友情を構築し得ていたのだろう。
二人は共闘を誓い、まずはショッカーに狙われている伊藤老人を守らんとしたが、人食いサソリから伊藤老人を庇っている内に緑川ルリ子がショッカーに攫われた。
本郷と早瀬は二人してショッカーを追い、そのアジトを突き止める為に付かず離れずでショッカーの車両を追ったが、アジトに潜入せんとしたところで早瀬の足元の天井が抜けたことで二人ははぐれた。
だが、天井を降りるとすぐに早瀬は見つかり、そこで彼はさそり男の正体と、自分が本郷に勝つ為に自らの意志でショッカーに志願し、改造人間となったことをカミングアウトした。
親友がショッカーに魂を売ったことが信じられない本郷は最初、早瀬が自分と同様、己が意に反して改造されたと思った、と云うか思い込みたかったが、さそり男はそれを否定。
逆を云えばそれは彼が自分の意志を残している=脳改造を受けていないことを意味しており、本郷は仮面ライダーに変身し、戦いつつも二度三度とさそり男に早瀬五郎に戻ることを呼び掛けたが、早瀬五郎は彼自身が断言した様に、過去の存在となっていた…………。
結局、さそり男はライダーヘッドシサーズを受けて頭部を強打したのが致命傷となって、赤い溶解液となって消えたのだった。
さそり男は仮面ライダーにとって対戦した三人目の改造人間だった。
原作の話になるが、仮面ライダーは二度目に戦ったこうもり男を「ショッカーの被害者」としつつも、脳改造を受けたものが二度と元の人格に戻れぬことから、「ショッカーを根絶やしにするしかない。」との遣り切れない決意を固めていた。
師の仇である蜘蛛男、多くの人々を吸血鬼化させたこうもり男に比べれば、その正体と元の人格を知るさそり男は仮面ライダー=本郷猛にとって格段に戦いにくい相手だったことだろう。見た目には戦いを躊躇った様子は無かったがまあ、30分番組という時間枠の都合だろうけれど。
本郷にとって、さそり男を倒すことは友情とその命を終わらせる無念断腸極まりないものだった。結局この第3話以降、早瀬の名が作中に出ることは無かった。第13話にてトカゲロンに率いられてそれまでの改造人間が一斉復活した際にはさそり男もいたが、ライダーとの会話は無く、早瀬の名も、過去の因縁も触れられず終いだった。
ただ、漫画『新仮面ライダーSPIRITS』では早瀬の名が回想シーンにて、本郷の心根と宿命を語る材料として少し出ていた。
同作の初めで、本郷猛は自分以外にも悲劇の改造人間を9人も生んでしまった事実に苦悩し、本編では語られなかった一文字隼人が改造人間となった経歴が回想された。
本編で云えば第11話にてゲバコンドルを倒した直後と見られる頃合いで、本郷は喫茶店アミーゴにて改造人間相手とは云え、命を奪い続ける戦いに倦み疲れていた。それを指摘した立花藤兵衛は自らの意志でショッカーに加わった早瀬五郎の名前を出し、善と悪の戦いが人間の宿命であることを説いていた。
藤兵衛の言に滝和也はその救いのなさを指して藤兵衛を詰ったが、それは元々心優しい男である本郷の罪悪感を軽減させ、躊躇うことで戦いに不覚を取らせない為の親心で、本郷の苦悩は、それを「地獄に決まっている。」と断じる藤兵衛が誰より理解していた。
その裏で仮面ライダーは第13話のラストであるトカゲロン率いる再生改造人間軍団との対峙シーンを迎えていたが、その戦いで殺意を露わにするさそり男と組み合った際に、「早瀬…お前はまだ早瀬なのか!?」と本編になかった呼び掛けを行っていた。
だが、それに対するさそり男の答えは、「人間だった頃の記憶などなんの意味がある!?再改造によって俺は更にこの肉体と同調するようになったのだ」、「この毒と鋏が俺の総てだ!!」という、何ともライダーにとって救いのないものだった。
だが、この台詞を受けて、仮面ライダーは風、ショッカーと戦う嵐たる風の戦士になる決意を固めたのだった。
本郷猛と早瀬五郎の友情と悲しい再会。それが作中で触れられたのは第3話における僅かな時間でしかなかったが、その背景に潜む行き過ぎたライバル意識は孤独で悲しい戦いに挑む仮面ライダーに大きな苦悩と決意をもたらしていると云えよう。
次頁へ
前頁(冒頭)へ戻る
特撮房へ戻る令和四(2022)年五月一七日 最終更新