2.高木裕介………悪の組織に身を投じても……

キャラクター名高木裕介
演者三井恒
登場『仮面ライダーV3』第41話「あっ人間が溶ける!ヨロイ元帥登場」
再会時の立場デストロン軍団ヨロイ一族ガルマジロン人間体
再会時の主人公への想い歪んだ理想への勧誘
友情残留度8
最期仮面ライダーV3との戦いにて戦死



人物 この高木裕介(三井恒)という人物は、前作『仮面ライダー』で云うなれば前頁の早瀬五郎である。
 主人公・風見史郎(宮内洋)の親友であり、ライバルでもあったところも、「頭もレースも鼻の差」で風見に一歩遅れを取っていたところも、悔しくて海外の本場で修業を積んでいたとする経緯も丸っきり、早瀬だった。
 自らの意志でデストロンに入り、改造人間となったところも早瀬と共通する。

 だが、性格は大きく違った。
 ライバル意識が悪しき方向に昂じて、友情も無くし、強さに溺れて完全な悪と化していた早瀬に対し、高木はデストロンに入った動機も彼なりの理想を求めてのことで、デストロン怪人ガルマジロンとなって尚、風見との友情を持ち続け、その説得に従わずとも耳を傾けてはいた(その辺りの詳細は後述)。



再会 『仮面ライダーV3』の第41話は同作の大きな転換点だった。
 前週の第40話で仮面ライダーV3はツバサ軍団の総帥・ツバサ大僧正(富士乃幸夫)を倒し、ツバサ軍団を滅ぼしていた。だが、デストロン首領を倒した訳ではなく、次なる敵を迎え撃つ状態にあった。
 その第40話途中でデストロン首領(声:納谷悟朗)はツバサ大僧正に今度失敗すれば死であることを告げ、その背後にはシルエットでヨロイ元帥(中村文弥)が現れていた。

 そのヨロイ元帥の初台詞は「ライオネットボンバー!」ではなく「結果がすべてだ。」という非情な彼の性格を表したもので、直前に働けなくなった奴隷をガルマジロンの能力テスト(サブタイトル通りに人間を溶解するもの)に供したところだった。

 ちなみにこの、『仮面ライダーV3』第31話だが、ヨロイ元帥初登場というイベントを除けば、高木裕介の立ち位置のみならず、ストーリー展開や細部の台詞までもが『仮面ライダー』第3話に似ている。この話でも殺される筈だった奴隷の一人・山下喜作(綾川香)が逃走した。
 途中でデストロンの追撃部隊に捕らえられた彼は助かりたい一心でデストロンのことを決して口外しないと訴えて命乞いしたが、勿論それを信用するデストロンではない。
 だが間一髪のところで風見が助けに入り、山下は重傷のみで病院入りとなったものの、妻・娘との再会を果たせた。

 とは云うものの、デストロンが山下の口を封じる為に襲撃してくることは火を見るより明らかである。風見は山下の妻子とともに病院に張り込んでいて、忍び込んできた男を捕らえたのだが、その人物こそ高木だった。
 その後、介抱を請う高木の台詞も、彼が立花藤兵衛に聞いて病院にやって来たという話も、自己紹介の流れも本当に早瀬そのものだった(苦笑)。

 案の定、デストロンの襲撃があり、風見高木は手分けしてこれを迎撃したが、看護師に化けた戦闘員の陽動に風見が掛かっている間に、山下一家は拉致された。
この部分は伊藤老人が殺され、緑川ルリ子が拉致された『仮面ライダー』第3話と異なるが、拉致を高木が告げ、二人してバイクで追い、備考でアジトを突き止めんとしたり、高木が高所から落ちてはぐれたりしたのも、『仮面ライダー』第3話そのまんまだった(苦笑)。

 高木を求めて室内に降り立った風見はそこで縛られた山下一家を発見。するとそこにヨロイ元帥が現れ、初対面の新幹部より、高木ガルマジロンであることを告げられた風見は悲しみに狼狽するのだった。
 ちなみにさそり男が云った「早瀬五郎とは昔の名。」と云う台詞は、ここではヨロイ元帥が「高木裕介とは昔の名。」と代弁していた(笑)。



友情と悲劇 ライバルであり、親友でもあるとしていた高木裕介がデストロンヨロイ一族のガルマジロンと知った風見史郎は、早瀬五郎がさそり男であることを知った本郷猛同様に驚愕し、それ以上に悲しんだ(←この辺り、場数を踏んだ分、宮内洋氏の方が良い演技をしている)。
 そしてその狼狽を突かれたものか、風見は簡単な落とし穴にて牢獄に叩き落された。

 だが、ここからの友情展開が『仮面ライダー』第3話とは大きく異なった。
 ガルマジロン高木の姿に戻ると密かに牢獄の風見を訪ねた。勿論友情を裏切られたと思っている風見の態度は冷たかったが、高木風見を助ける為にやむなくそうしたことを詫びて来た(←本心からである)。
 高木裕介はデストロンを「科学の力で理想の世の中を作らんとする組織」と認識し、それに共鳴して自らの意志でデストロンに加入し、改造人間ガルマジロンとなっていた。
 つまり彼は悪の心でデストロンに加わった訳ではなく、デストロンを「善」とは云わずとも、「デストロンにはデストロンの理想が」あり、その理想を為せる組織として、そこに旧友風見史郎も加えたいと心の底から願っていた。
 この辺りが早瀬五郎とは大きく異なる。それどころか、2話後に登場した結城丈二(山口暁)に通じるとさえ云える。

 だが、風見がデストロンに加わる訳なかった。
 風見にとってデストロンは「完全な悪」であり、「父・母・妹の仇」でさえあった。それまでの戦いで身内以外にもデストロンに殺された多くの人々を目の当たりにし、彼の組織が為した破壊にも数多く遭遇している。生きていたとは云え、一時は二人の先輩(本郷猛・一文字隼人(佐々木剛))も殺害されたと思われていた。完全に殲滅対象だった。
 さすがに第41話ともなれば復讐の為だけに戦っていた訳ではないが、不倶戴天の敵であったことに変わりはない。
 つまり、高木風見に対するデストロン勧誘は初めから成功の見込みのないものだった。

 ただ、風見高木の友情物語として注目したいのは、立場的に敵対しながら両者の友情が微塵も失われていなかったことだった。
 高木はデストロンが化学の力で人間のユートピアを作ろうとしていると説き、デストロンが世界を征服すれば世の中はもっと豊かになる、とした。そして同時に、風見がその協力を拒むなら、高木は立場上風見を「デストロンの敵」として殺すしか選択肢は残されないのだった。
 勿論風見はそれを否定し、勧誘を断ったのだが、注目したいのはそれが頭ごなしの否定ではなかったことである(理論の上では完全否定していたが)。

 風見史郎個人の感情に立てば、デストロンは首領も、幹部も、改造人間も、それに共鳴したり、所属したりするものはすべて敵と映りかねない相手だった。
 端から滅ぼす相手だから、「聞く耳持たぬ!」という態度を取っても全くおかしくなかったが、風見は悪の組織に移って尚、自分との友情を保つ高木に「お前の代わらぬ友情は嬉しいよ。」と感謝を述べつつ、高木のデストロン観は間違っていると断じた。
 デストロンの掲げる文句は立派でも、その支配によって裕福な生活を送れるのは「一部の幹部だけ。」で、それ以外の大多数は最前目にした山下と同様に奴隷とされるとして高木の理想論を否定した。
 恐らく、相手が高木ではなかったら、風見はもっと激しく頭ごなしに否定するか、そもそも話し合いにすら応じなかったことだろう。実際、3話後に結城丈二にデストロンが悪の組織であることを説いたときはかなり辛辣で、却って結城の態度を頑ななものにしていた程だった。

 友を想う高木の想いに逆の立場で報いんとして、高木に自分と共に脱出することを説いた風見だったが、高木の不幸は彼の上司がヨロイ元帥だったことにあった。
 両者の密談はヨロイ元帥に聞かれており、ヨロイ元帥は高木の返事も待たずに風見の説得を妨害してきた。

 それは、「裏切者は?」と問い掛けるものだった。
 只でさえ、悪の組織は裏切り、組織からの足抜けを許さない。そしてそれに対する制裁は「死」一択が常だった。高木は、自分は裏切っていないと主張した。確かに高木の取った行動は風見の説得で、逆説得には回答していなかった。
 だが、ヨロイ元帥は聞く耳持たず、ひたすら「裏切者は?」を繰り返した。そして高木は「死」の影に怯え、そのプレッシャーに耐え切れなくなって、ヨロイ元帥に代弁するように「裏切者は死刑!」と叫び、風見の説得は完全に阻止されてしまった。
 そんな高木を庇ってヨロイ元帥と対峙せんとした風見だったが、デストロン一の卑劣漢ヨロイ元帥が応じる筈なく、程なく、高木ガルマジロンに、風見は仮面ライダーV3に変身し、両者は友情に反して戦わざるを得なくなった。

 戦いの間もガルマジロンは裏切りを否定し、V3は親友と戦いたくない旨を訴えたが、勝負はV3回転フルキックを放ったV3がものにした。
 致命傷を負ったガルマジロン高木裕介の姿に戻り、V3に抱かれた状態で、「俺は…俺は…。」とだけ云って息を引き取った。今際の言葉に頷くV3は「分かっている、何も云うな。」と答えているようだった。

 悲しい友情終わりだったが、最期の最期に元の姿で友情を再確認して息を引き取れたことと、山下一家が助かったことが、『仮面ライダー』第3話に比べれば不幸中の幸いだったと云えるだろうか?

 この第41話は単発的な話で、その後高木裕介の名が作中に出てくることは無かった。2週間後にはライダーマン・結城丈二が登場し、ストーリーは新たな局面に入り、最終回に至った。  その最終回にてヨロイ元帥はV3に敗れ、首領に助けを求めたところで役立たずの烙印を押されて爆殺されることで最期を遂げた。
 この時、ヨロイ元帥の正体であったザリガーナに瀕死の重傷を負わせたのがガルマジロンを死に追いやったのと同じV3フル回転キックであったのを、高木裕介の仇討ちを意識したと思うのはシルバータイタンの願望に過ぎないのだろうか?



余談 何度も触れたように、この『仮面ライダーV3』第41話と『仮面ライダー』第3話のストーリー構成は細部の台詞を含めて非常によく似ている。だが、余りそのことが指摘されないのは、前週の第40話の方が、(ツバサ大僧正の最期との絡みを除けば)『仮面ライダー』第31話そのまんま過ぎたからだろうか?(苦笑)


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令和四(2022)年五月一八日 最終更新