もっと使えよ!!−もったいな過ぎる秘密兵器
ウルトラマンシリーズの場合
 ウルトラマンシリーズの第一作は『ウルトラQ』で、M78星雲を出身地とする所の光の巨人はまだ登場しなかった。勿論怪獣は地球人自らの手で撃退していったのである。
 故に、平和を乱す敵が怪獣・侵略宇宙人・異次元人・超獣・超獣より強い怪獣・円盤生物・マイナスエネルギーに呼び出された怪獣と変化しても地球人は自らの抵抗組織を編成し、身体能力・特殊能力・科学力で自分達を凌駕する相手に新たな科学力・人海戦術・地の利・精神力で立ち向かっていった。

 さて、敵となる怪獣・侵略宇宙人・異次元人・超獣・超獣より強い怪獣・円盤生物・マイナスエネルギーに呼び出された怪獣はその多くは未知の存在で、名前は分かっていても弱点などが不明であることが多かった。
 『ウルトラマンレオ』ではおヽとりゲン (真夏竜)が暴れん坊怪獣ベキラの弱点が背中であることを、白戸純隊員 (松坂雅治)が暗闇宇宙人カーリー星人の弱点が眉間であることを見出すシーンがあり、『ウルトラマンタロウ』でも荒垣修平副隊長 (東野孝彦)が宇宙大怪獣改造べムスター攻略に頭を痛める過程で、「どんな生物にも一か所ぐらいウィークポイントがある筈だ。」と独り言を云うシーンがあった。


 ここで一つ疑問を呈したい。


 身体能力で明らかに自らに勝る敵を屠る為には弱点を突くのは極めて有効な手段であり、なれば、怪獣・侵略宇宙人・異次元人・超獣・超獣より強い怪獣・円盤生物・マイナスエネルギーに呼び出された怪獣を倒すのに成功した武器はその後も使い続けられて然るべき手段と化す筈なのに、そうは為されないのである。


 実に不可解である。
リアリズムを追求するなら数少ない怪獣退治に貢献した武器はその後の標準装備となってもおかしくない(実際に初登場で大活躍し、その後も度々使用された光線銃・マルス133の様な例もある)。
 勿論番組構成の都合を考えるなら怪獣を容易に倒す武器がその後も幅を利かせればウルトラ兄弟の出番はなくなり、それらの武器に平気な怪獣を連投すれば従来の武器は益々役立たずになる恐れがある。

 だが、正義のチームが満を持して投入する武器はウルトラ兄弟が苦戦したり、敗れたりした怪獣を倒した物も少なくないので、視聴者にとって非常に思い出深い。
 故に頻繁に使って、ウルトラ兄弟の出番を奪ってしまえ、とは云わずとも、ここぞというタイミングで2回か3回は活躍して欲しかったように思われるのである。

 そこでこのウルトラマンシリーズ編では、ウルトラシリーズの正義のチームが如何なる強力なアイテムを所有していたのか?何故それらが多用されなかったのか?もし多用されたら番組にどんな影響を与えたかを無理やり考え、以下に列記してみた。


1. 科学特捜隊(ウルトラマン)

1−1.無重力弾

登場話
第39話「さらばウルトラマン」

有効性
 別名・ペンシル弾初代ウルトラマンが主役を張った番組中唯一度の不覚を取り、その後も最強怪獣としての呼び声の高い宇宙恐竜ゼットンを一発で仕留めた超高性能弾丸である(しかも、試作品でこの威力!)。
 単純に最強怪獣を倒した破壊力だけではなく、準備稿ではゾフィーが倒す筈だったゼットンを倒すことで、ゾフィーが言葉にした、「地球の平和は地球人達の手で。」の理念を具現化した役割も見逃せない。この理念は後年ウルトラ警備隊キリヤマ隊長 (中山昭二)・ UGM 大山キャップ (中山仁)・ GUYS アイハラ・リュウ隊員 (仁科克基)・国家安全保障局のシキ査察官 (斉藤洋介)も強調したものである。

 本来ならこの無重力爆弾の試作品、岩本博士 (平田昭彦)によって科学特捜隊に提供され、ウルトラマンの出番を待たずしてゼットンを葬る筈だった。だが岩本博士ゼットン星人によって気絶させられていたため、科特隊への提供が遅れ、その間にウルトラマンゼットンに不覚を取った。ためにウルトラマン敗北のA級戦犯に岩本博士の名を挙げる声は多い(笑)。

 背景はどうあれ無重力弾は名前の通り、ゼットンの肉体を無重力にしたかのように中へ浮かび上がらせ、木っ端微塵に粉砕した。前述したようにゼットンは初めてウルトラマンが不覚を取った相手であり、それゆえに以後の歴史においても最強怪獣の一人とされた。
 放映年月日を参考にするならゼットン登場から約5年後の『帰ってきたウルトラマン』において MAT 伊吹竜隊長 (根上淳)は「最強と云っていい。」と断言していた。つまり五年の歴史において膂力でゼットンを上回る怪獣は地球に出現していないことになる。そんなゼットンを葬り去った無重力弾の有効性に疑いの余地はない。

 では何故 MAT を含む後続防衛組織に無重力弾は配備されていなかったのだろうか?


何故再利用されなかったか?
 まあ無重力弾の登場は最終回でのことなので科学特捜隊で再利用のシーンがなかったことには無理はない。問題は宇宙恐竜ゼットンのデータがその後の組織に存在(少なくとも MAT TAC GUYS の三組織で「ゼットン」の名は話されている)しながら無重力弾の「無」の字も再登場しなかったのか?


 考えられる理由としては、
 ・試作品の本格化に失敗した。
 ・岩本博士が何らかの理由で科特隊を去った。
 ・常備するには強力過ぎた。
 などが考えられる。


 最初の「試作品の本格化に失敗した。」についてだが、まずは無重力弾が試作品であったことに注目して欲しい。国際組織で地球防衛の為に使用する武器とあれば数々の検査を経て常備されることは必定。試作品である無重力弾が使用されたこと自体、ウルトラマンが敗れたという非常事態ゆえであろう。
 ウルトラマンを倒したゼットンを倒した時点で検査など不要、と考えそうだが、組織においてはそうはいくまい。本採用とならなければ配備されなかったとしても然程不思議ではない。

 では何故本採用されなかったか?
 単純に考えて破壊力とは別個の欠陥があったのだろう。何せ岩本博士という人物、有能なのは間違いないが、かなりおっちょこちょいでもある
 例を挙げれば怪彗星ツィフォンが地球に接近した折に「33時間後、彗星が83%の確率で地球に衝突する。」と計算したのを結局は55,860kmの差で衝突しなかった。つまり17%の為に岩本博士は計算違いをした訳だが、33時間後のことに完璧な計算が出来なかった身で「3026年7月2日8時5分、今度こそツィフォンは地球に衝突する。」、と断言した。来年ならぬ1059年後のことを云うのだからさぞかし鬼は大爆笑したことだろう(笑)。

 つまりは性能以外の計算違いがあり、それが実戦配備への組織内検証をして不採用ならしめた可能性は十分どころか鬼の様に存在すると云えよう。


 2つめの「岩本博士が何らかの理由で科特隊を去った。」だが、『ウルトラマンA』で兵器開発担当の梶洋一主任 (中山克己)が登場しなくなった途端に TAC から新兵器投入色が消えたことからも岩本博士が退任すれば、その時点で試作品だった無重力弾が実戦配備へ向けての開発中止となったとしてもおかしくはない。
 また、実際に岩本博士ゼットン星人に襲われた例を思えば、『ウルトラマン』終了後の科学特捜隊の歴史の中で岩本博士が宇宙人の襲撃を受けて殉職していても不思議はない。


 3つめの「常備するには強力過ぎた。」は云い換えるなら「過ぎたるは猶及ばざるが如し」だろう。
 何と云ってもゼットンを屠った破壊力だ。そんな破壊力ある武器が別名・ペンシル爆弾と呼ばれるぐらい携帯性にも優れているのである。ストレスの多い軍隊生活内で銃乱射の際に使用されようものなら大惨事どころの騒ぎではない。勿論盗難に遭って悪用された場合にもその被害は計り知れないだろう。まず子供に重火器を盗まれていたMATには到底実戦配備できまい(苦笑)。

 以上のことを思えば強力過ぎる故に乱用を用心した見送りの匂いが無重力弾には感じられるのである。


科学特捜隊への雑感
 前述の無重力弾は一例です。
 再生テレスドンを倒したトリプルショット(3丁のスーパーガンの銃口を合わせて光線を発射する撃ち方)、地底怪獣マグラーを倒したナパーム弾、スペシウム光線が効かない程の強敵・毒ガス怪獣ケムラーの戦意を喪失させて自害に追いやったマッド・バズーカ冷凍怪獣ギガスを粉々にした強力乾燥ミサイル黄金怪獣ゴルドンを倒したコロナ弾、単体では通じずともスペシウム光線と同時に放つことで変身怪獣ザラガスを倒した QX弾再生ドラコ怪獣酋長ジェロニモンを立て続けに葬ったイデ隊員 (二瓶正也)の最高傑作・スパーク8、と科特隊にて開発(その多くはイデの手による)され、怪獣を倒した兵器は決して少なくない。
 にも関わらず、宇宙忍者バルタン星人を大量に倒し、古代怪獣ゴモラの尻尾を切断し、ゼットン星人を倒したマルス133を除けば多用された例はあまりにも少ない。

 冷凍怪獣であるギガスの生態に沿った強力乾燥ミサイルなら一度切りの使用でもおかしくないが、ナパーム弾トリプルショット等は手軽さ、携帯性、常備度からいっても多用されても全くおかしくない。

 これはいうなれば光の巨人不在の『ウルトラQ』から、光の巨人が常在した『ウルトラマン』への過渡が背景となっていた事であろう。
 自力で怪獣を倒さなければならなかった前作に比して、後継作ではウルトラ兄弟が主役となって怪獣退治を担うのである。必然、科特隊を始めとする防衛チームが怪獣を倒す役回りは僅少なものとなる。故に怪獣を倒す兵器もまた僅少なものとなり、本来なら上記程には新兵器は登場しなかったことだろう。実際、後の作品ほど正義のチームが強力兵器を持ち出す数もまた減少する傾向にある。
 偏に『ウルトラQ』時代の自力で怪獣を倒した名残が『ウルトラマン』の時点ではその色合いが濃かったからであろう。



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令和三(2021)年六月一一日 最終更新