11.「偽物に惑わされない。」という問題。

「偽物脅威」の大小
 一部批判や酷評もまじえたが、特撮番組における「偽物」は概して面白いと思うし、完璧な変装・変身能力を持つ敵は恐ろしい存在であることは現実もフィクションも変わりない。
 勿論特撮番組に登場した「偽物」は本作で取り上げた者達だけではない。
 仮面ライダーシリーズでも他にゾル大佐(宮口二郎)が滝和也に化けて濡れ衣を被せたり、奇っ械人ドクガランが岬ユリ子(岡田京子)に化けて城茂(荒木茂)に接近したり、ドグマファイターが人質にされた草波良(早川勝也)に化けて仮面ライダースーパー1からファイブハンドを奪うのに一役買ったりした例もある。
 大幹部の中には変装に長けたものが少なくなく、場合によっては戦闘員レベルでもライダーの身近な存在に化けた者もあり、一時しのぎや簡単な謀略の為に現れた「偽物」は枚挙に暇がない。
 別の視点で見ると、徹頭徹尾「本物」を完コピしていなくても、チョットした使いようやタイミングで「偽物」の脅威は大きくもなり、小さくもなる。本作に取り上げた例を見ても、「偽物」を作る能力・技術を最大限利用した例もあれば、「嫌がらせ」の域を出なかったものもある。
 また「本物」そっくりの容姿によってなされた悪事がとんでもない脅威だったこともあれば、失笑対象でしかなかったこともあり、実に千差万別だった。

 それゆえ、本作は制作においては各作品を調べるのに苦労したが、考察自体は実に楽しかった。が、同時に「偽物」の脅威は決してフィクションだけの問題に留めてはいけない、現実の脅威として問題意識を持たなくてはならないとも思わされた。


情報社会における「偽物」ども
 この特撮房に綴っているように、シルバータイタンの独善をデカい面して書き連ねることが出来るのもネット社会の充実があればこそである。ほんの20年前には考えられなかったぐらい、情報が閲覧・検索しやすく、同時に情報を出し易い社会にもなった。

 道場主が中学生の頃には、『CITY HUNNTER』にて、冴羽獠の知人である教授(←本名が出ず、元は傭兵の軍医だったこと以外不明)が「世界のあらゆる情報をのぞける男」であり、同時にそれがため「世界に情報を発信出来る男」であることが物凄い人物として描写されていたが、現代ではその情報送受信能力を余程詳細に設定しない限り、「物凄い人物」とは映らないだろう。
 だが、「情報を得易い」、「情報を送り易い」ということは「偽物」の情報もまた得易く、送り易いことを忘れては痛い目を見る
 今更シルバータイタンが触れるまでもないことだが、ネット上、或いはネットワークを介して送受信される情報には呆れるほど「偽物」が溢れ返っている。詐欺を働く為の悪質な偽情報もあれば、気に入らない相手を貶める為の中傷もあり、第三者に吹き込まれた「嘘」を真実と思い込んで拡散されてしまうことも多い。
 また、人間には「思い込み」や「誤解」というものが、程度の違いこそあれど万人に存在し、こうなると「偽物」である情報も、「嘘」なのか「誤り」なのかの線引きも難しい。ましてよく出来た「嘘」ほど、幾許かの「真実」を含む(作り話に説得力を持たせるために)。
 勿論このことを利用し、人を騙して利益を得ようとする詐欺師、自分に都合の良い様に世論を誘導しようとする政治家・学者・言論人・思想家は手段がどんなに替わろうと今後も出続けるだろう。単純にIT環境の急速な普及が頻度を高めているだけで、人間の本質は替わっていないだろうから。

 実際、シルバータイタンの元には日に数百通の迷惑メールが送られてくる。
 大半が、「当選しました。」、「遺産を受け取って下さい」、「衛星放送が無料で永遠に見られます。」、「宝くじの当選番号を教えます。無料です!」、「私熟女です。毎晩寂しいの……遊んでくれたら謝礼をします。」という「絶対嘘だろ、バーカ!」というものが懲りずに送られてくる(←勿論相手にすることはない)。
 次々とメールアドレスを変えって送ってきたり、呼び掛けが本名やハンドルネームではなく、「(メールアドレス)+様」や「ゲスト様」となっていたり、文中に「/」や「.」や「+」を挟んでNGワードに引っかからない様にしたり、「何故返事をくれないのですか?」と言う文章を1時間に数回も送ってきたりするのを見ると、呆れるのを通り越して、「騙すにしてももうちょっと説得力ある内容にしろよ………」とある種の憐れみを覚えるものも少なくない(勿論ウザさの方が大きいのだが)。

 阿呆みたいなものが多いのだが、これらに共通しているのは「本当だったらいいのにな…………。」と思ってしまう内容が盛り込まれていることである。実際、資産家の未亡人や、忙しい旦那に相手されない貴婦人が、男に飢え、謝礼を条件にその相手を求めているという情報が「本当」だったら…………………道場主が詐欺に引っかかるとしたらこれが一番強いかもしれない(苦笑)。詐欺師はそんな欲望(←悪しきものばかりとは限らない)に付け込むのだから。
 過去に『たけしの万物創世記』という番組で、過去に詐欺師をやっていたという人物が、「欲望さえあれば、どんな相手でも騙せる。」と豪語していた。振り込め詐欺も「大切な者を助けたい。」と言う善なる「欲望」に付け込んでいると言えよう。

 残念ながらネットの世界に限らず、虚偽や「偽物」を完全除去するのは不可能に近い。否、不可能と言い切ってもいいだろう。それはネットがある程度「素性を隠して情報を発信出来る世界」だからで、また、情報の受け取り手に「都合のいい情報が欲しい」という願望があるのだから。
 些か妙な例え方だが、「偽情報」に需要と供給があるのだ。人は「自分に都合のいいことを信じ、都合の悪いことを信じようとしない。」と言う悪癖が多かれ少なかれ誰にでも存在する。「もしかしてこの情報おかしいのでは?」と思っても、その文面が自分にとって、心地良いもの、都合の良いものだった場合にそれを否定したがらない面を人間は持っている。
 正直、シルバータイタンもエラソーなことは言えない。ネット世界の匿名性には頼っており、今後も拙サイトに素顔や本名を晒す気は更々ない。また「300%嘘!」と決まっている情報を「ホンマやったらなあ………。」と眺めることはあるし、歴史認識や国際情勢において自分の考えと合致するものも、真っ向から反対するものも、色眼鏡無しに見ていると言い切る自信はない。

 さっきから解決の無い事ばかり綴っているが、1つ1つの案件には解決の道はないと思っていないので、現在の問題は問題として未来において解決される日は来ると思っている。
 問題は、その日まで「惑わされない信念」「可能な限り自己都合を排した物の見方」「悪しき目的の為に確信犯的に偽情報を流す輩への怒り」は持ち続けようと思う次第である。


偽物」が織り成す「風評被害」
 「偽物」が厄介なのは、「騙される」と言う被害に留まらない。「騙される」のが嫌なら、「すべてを疑ってかかる」で防ぐことが出来る。但し、それに徹すれば「本物」をも信用出来ず、本来得られるはずの幸福を自らの手で放棄することになってしまう。ある意味、「偽物」が跳梁跋扈する恐ろしさはここにこそある。

 ネット上に溢れ返る悪口雑言を度々目にしたとき、その対象を「安全」、「安心」、「信用出来る」、「本物」、「間違いない」といくら力説されてもなかなか固定概念は拭えない。というか、固定概念で「こうだ!」と思ったことに対する反論は反射的に弾き返すか、耳を右から左へと突き抜けることだろう。

 かくして「偽物」に騙されることを恐れ、バリヤーを張る余り、「本物」に決して遭遇出来ない環境を作ってしまう…………勿論、最も悪いのは最初に「偽物」を生み出し、流布させた輩なのだが、そんな奴等に振り回されて心閉ざす人生は、ある意味において騙されるよりも悲しいことだろう(ゆえに詐欺の罪は法の規定以上に重いと考えるので、詐欺師には現状以上の厳罰をシルバータイタンは望んでいる。)。

 難しい問題だが、やはり人間は「疑う」より「信じる」が大切で、喜ばしいことと思う。勿論あからさまに美味過ぎる話や、どう見ても怪しい儲け話や、情に訴えた虚偽を黙って見逃がせ、笑って騙されろと言うのではない。
 「偽物」は所詮「偽物」で、早晩崩れるか消える運命にあり、「本物」なくして存在し得ない儚い存在なのだから、それに惑わされない見識や知識や良き相談相手を持ち、その上で本当に信頼出来る者(物)を常に積み上げ、自己の内外に常在させておくことだろう。

 口で言うほど簡単ではないのは分かっているが、特撮番組の「偽物」を笑い飛ばしたり、戦略の見事さを感心したりし続けられるよう、日々精進し、日常の安寧を保ち、真贋を見分ける目を磨き続けたいものである。

平成27年11月22日 特撮房シルバータイタン




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平成二七(2015)年一一月二二日 最終更新