第1頁 郷秀樹………復讐心を逆手に取られ
Revenger 1
名前 郷秀樹 変身するヒーロー 帰ってきたウルトラマン 復讐取組期間 『帰ってきたウルトラマン』第37話「ウルトラマン夕陽に死す」〜第38話「ウルトラの星光る時」 復讐対象 暗殺宇宙人ナックル星人、用心棒怪獣ブラックキング 復讐達成 有り 復讐除去要因 怨敵討滅及び先輩ウルトラマンとの友情
愛する者の死 悲劇の始まりは暗殺宇宙人ナックル星人の陰湿極まりない侵略計画に端を発した。地球侵略を目論む多くの宇宙人が地球に常駐するウルトラ兄弟を侵略最大の障害と捉えていたが、ナックル星人はその重視度が特に高く、必勝を期して観察と研究を重ねた。
津波怪獣シーゴラスと宇宙大怪獣ベムスターを甦らせて帰ってきたウルトラマンと戦わせ、そのデータを基に用心棒怪獣ブラックキングを鍛え、実際にブラックキングはスペシウム光線はおろか、ウルトラブレスレットをも弾き返し、歴代ウルトラ怪獣にあっても屈指の絶望感を視聴者にもたらした。
だが、純粋な戦闘能力を分析した際にナックル星人(成瀬昌彦)は、ブラックキングが確実に勝てるとは見ず、確実な勝利の為には帰ってきたウルトラマン=郷秀樹(団次郎)の心を痛めつける必要があると考えた。
そしてその為の手段として取られたのが、郷の最愛の恋人・坂田アキ(榊原るみ)の惨殺だった……………。
実際、これは『帰ってきたウルトラマン』全作はおろか、昭和ウルトラシリーズ全般で見ても類を見ない程の残酷シーンとなった。
ナックル星人は路上を歩くアキを襲い、車にて拉致せんとした。数人の男に襲われ、膂力で抗し得ないアキは必死に兄に助けを求めた。
拉致現場はアキの兄・坂田健(岸田森)が経営する自動車修理工場のすぐ近くで、妹の悲鳴を聞き付けた健が即座に飛び出し、車両の前に立ちはだかった。だが、郷の心を悲しみでズタズタにすることを目論んでいたナックル星人に一切の容赦は無かった 。
ナックル星人は車を加速させて健を撥ね飛ばした………アキは目の前で兄を撥ね殺されたのである………悲鳴を上げるアキの背後でフロントガラス越しに上空から落ちてくる健の姿は悲惨としか云い様がなかったが、ナックル星人は更にアキを車外に放り出し、そのままアキの体を地面に引き摺らせて致命傷を負わせた …………。
復讐戦 坂田兄妹を襲った不幸を聞き付けた郷秀樹は二人が運ばれた病院に急行した。
郷が駆け付けた時、既に健は息を引き取っていた。恐らく撥ねられたか、地面に激突した際に即死したと思われるが、アキはまだ息が合った。そこから想像するに、アキは襲撃から息を引き取るまで、相当な苦痛に見舞われたと思われる…………。
結局、「誰にやられたんだ?!」と問う郷に、「宇宙人……。」と答えたのがアキの最期の言葉となった………。
既に二親を亡くし、歳が離れている故に良心に等しい存在だった兄と姉を一度に亡くした坂田次郎(川口英樹)が泣き叫んでいたのは年齢的にも当然の反応だったが、声に出さずとも郷の怒りと悲しみが次郎のそれに勝るとも劣らないものだったのは誰の目にも明らかだった。
亡き二人を医師に託した郷は病院の屋上に行くとそこから飛び降りて、帰ってきたウルトラマンに変身すると復讐戦に挑んだ。
ここで少し話が逸れるが、帰ってきたウルトラマンに変身する際に、何故に郷が投身自殺と見紛うような物騒な方法を執っているのかという事に触れたい。
アイテムを用いず変身する帰ってきたウルトラマンは、帰ってきたウルトラマンと郷の意志が一致しないと変身されないとしている。実際、帰ってきたウルトラマンとしての能力に思い上がっていた郷は第2話では変身することが出来なかった。以後、郷が変身する際は、「戦う為の充分な目的と状況が備わっている」か、「即変身しないと郷が死にかねない状況」に大別される。
正直、シルバータイタンが帰ってきたウルトラマンだったら、坂田兄妹の復讐に燃え、冷静さを欠いた郷が戦うのを良しとせず、変身の為に意志を合致させなかっただろう。恐らく郷はそれを承知していたから、帰ってきたウルトラマンが自分を変身させざるを得ない状況を作るべく、病院の屋上から飛び降りると云う物騒な方法を執ったのではなかろうか?
同じナックル星人・ブラックキングとの戦いにおいても、幾分冷静さを取り戻していた第39話では、郷がマットシュートを構えて変身の意志を示していないにもかかわらず、変身は為されている。
閑話休題。帰ってきたウルトラマンは坂田兄妹を失った怒りと悲しみでズタズタの心でブラックキングと対峙した。そしてこのシチュエーションは正にナックル星人が目論んでいた通りのものだった。
冷静さを欠いた帰ってきたウルトラマンはスペシウム光線・ブレスレットを駆使するも、あっさりブラックキングに防がれた。おそらく、スペシウム光線も、ブレスレットもまともに命中していればブラックキングとてただでは済まなかったと思われる。ブラックキングはスペシウム光線を交差させた両腕で防ぎ、ブレスレットは右肩で弾き返した。
これを見て、冷静さを失っていた帰ってきたウルトラマンが「私を倒す為に訓練されている。」と分析していたのだから、ナックル星人の用意周到さはかなりのものだったことが分かる。
しかも戦いはウルトラ一族にとって太陽エネルギーの補給が効かない夕暮れ時。帰ってきたウルトラマンが八方塞がりに陥ったのを見計らうやナックル星人も参戦し、二人が掛かりでボコボコにされた帰ってきたウルトラマンはグロッキー状態に陥ったところをナックル星人の巨大宇宙船に拘束され、処刑を待つ身となってしまったのだった………。
潜む醜さ ドラマにおいて、俳優諸氏が怒りや悲しみの表情や感情の発露を美しく表現しているのを見る度、シルバータイタンは「現実はあんなもんじゃない。」と思っている。早い話、負の感情に捉われた表情は概して醜いと思っている。それは容貌の美醜によるものではなく、感情による歪みが得てしてそういうものであるという事を述べたいのである。
郷秀樹にとって、坂田健は共にオートレーサーとなる夢を追う盟友にして兄に等しい存在で、坂田アキは最愛の恋人である。ただでさえ、これ程大切な存在を惨殺された際に捉われる感情が尋常なものである筈がない。
加えて、第一期ウルトラシリーズの主人公に比べて、第二期ウルトラシリーズの主人公達はまだ成長過程にある若者との描写が色濃く、それだけに感情を露わにすることが少なくなかった。ましてアメリカ人とのハーフで、歴代ウルトラマンの中でも最高身長である体躯を振るわせ、彫の深い面相を持つ団氏が演じる怒りは静かでも凄まじいものが有った。
只でさえ、兄に等しい恩人と恋人が殺されているのである。しかも、医師からは「悪質な故意のひき逃げ」と聞かされた。実態を知る身としてはまだ医師は郷を気遣って惨殺振りをソフトに伝えているが、それでも郷の心の荒れようは誰の目にも明らかだった。
そして復讐戦に挑んだ帰ってきたウルトラマンは、ブラックキングとの戦いが復讐戦であることを否定しなかった。ウルトラブレスレットをも跳ね返した強敵を前に、戦闘続行の不利を充分に認識していながら、「坂田兄妹の復讐を果たさなければならない。」と吐露していた。
坂田兄妹の仇討ちを抜きにしたとしても、ナックル星人は地球侵略を目論む敵で、サターンZを盗み、第38話では宇宙ステーションV1を壊滅させ、何十人何百人もの犠牲を地球人にもたらしている、何としても倒さなければならない相手だった。それゆえ地球防衛を担うMAT隊員として郷秀樹は、帰ってきたウルトラマンは冷静さを欠いてはならなかった。
勿論これが酷な云い方なのは充分承知している。
郷の感情は極自然なもので、冷静さを保てたら逆に「血が通っていない。」と云いたくなる。実際、第38話でウルトラマンとウルトラセブンに助けられ、幾分冷静さを取り戻した後でも、自分が帰ってきたウルトラマンであったが為に健とアキがとばっちりを食う形で惨殺されたことに対する遣り切れなさを郷は滲ませていた。
復讐の為に冷静であらねばならないといは、ある意味、酷で矛盾した物云いだとは思う。だが、その心の歪みこそがただ一度とはいえ、ナックル星人・ブラックキングに不覚を取る要素だったことは見逃せない。
実際、帰ってきたウルトラマンは、スペシウム光線やウルトラブレスレットに頼らずとも、徒手空拳でナックル星人・ブラックキングを倒しているのだから。
復讐の終わり 本当の意味での復讐の終わりは、ナックル星人を討ち取った瞬間と云えよう。
ただ、別の味方を提唱するなら、シルバータイタンは、帰ってきたウルトラマンが自分を救ってくれたウルトラマンとウルトラセブンに敬礼を送った瞬間が復讐を捨てたときと思っている。否、正確には、復讐を乗り越える心の支えを得たとき、だと。
ストーリーに沿って解説したいが、第37話終盤で、必殺技を封じられ、復讐への心の荒みを突かれてボコボコにされ、捕らえられた帰ってきたウルトラマンはナックル星に連行され、そこで処刑を待つ身となっていた。
だがそこにハヤタ(黒部進)とモロボシ・ダン(森次晃嗣)が現れ、ウルトラの星作戦を敢行し、帰ってきたウルトラマンを解放した。
自由を取り戻した帰ってきたウルトラマンは二人の先輩ウルトラマンに敬礼を送って礼を述べると単身地球に戻って、MAT基地にてナックル星人の操られていた仲間を解放すると再び単身、用心棒怪獣・暗殺宇宙人との戦いに臨んだ。
ここまでの流れを見ると、囚われてから再戦に挑むまでの間に帰ってきたウルトラマンが第4話の様に何かの特訓を積んだり、第18話の様に新兵器を手に入れたりした様子見は見られない。そう、第37話で敗れたときと、戦闘能力が変化した要素は無いのである。
実際、初めから二人掛かりだったとこともあってか、苦戦は免れず、後から駆け付けたMAT隊員達も「またやられるぞ!」と懸念していた。
だが、先の二人のウルトラマンに敬礼を送ったシーンを思い出した帰ってきたウルトラマンはグロッキー状態が嘘の様に活発な反撃を展開し、怪力が自慢のブラックキングを殴り倒したり、投げ飛ばしたり、と、膂力で上回る様を見せ、上空に放り投げるとハンドスライサーで首ちょんぱした。
ただのタイミングのずれかも知れないが、帰ってきたウルトラマンがブラックキングを上空に放り投げ上げた瞬間に上野一平隊員(三井恒)が、「やったー!ザマ見ろー!!」と歓喜と勝利への確信を兼ねた声を挙げていた。
つまり、冷静さを持って、充分な戦意を持って戦っていれば純粋な戦闘能力で帰ってきたウルトラマンは充分ブラックキングを上回る力を持っていたのである。
そしてここまで来ると残るナックル星人は丸で敵ではなく、ウルトラスイングで投げ飛ばされた暗殺宇宙人は脳天から一直線に地面に激突して致命傷を負った。
現実に炸裂していれば、即座に首折れを懸念するような無惨さだったが、こいつが坂田健にやったことを思えば何てことは無かった。
かくして帰ってきたウルトラマン・郷秀樹は坂田健・アキ兄妹の仇を取ることが出来た。だが、直後に郷が採った行動は復讐の達成を喜ぶことではなく、電波研究所に残されたサターンZの回収と、自分と同等かそれ以上の悲しみを追った次郎への慰問だった。
尚、この第38話のラストで郷は村野ルミ子(岩崎和子)と知り合い、翌週からは早くも恋人同然となり、ファンの中には「アキちゃんに冷た過ぎる!」との声もあるが、シルバータイタン的にはいつまでもアキヘの想いを引き摺ることで、復讐心を引き摺らせたりさせないように、ルミ子との仲を発展させたと思いたいところである。
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令和六(2024)年一〇月三〇日 最終更新