8.ライダーパンチとは何か?

戦いの基本、ベアナックル、パンチ、正拳突き…
 集英社文庫『キン肉マン』の第3巻にキン肉マンVSロビンマスクの一戦があり、グランドキャニオンに特設された高さ1600mのリングの上で、ロビンマスクのフェイバリットホールドであるタワーブリッジキン肉マンが破った直後、試合は両者の壮絶な殴り合いに展開し、観客―金と暇を持て余して超人同士の殺し合いを対象とした賭けごとに興じる薄汚い連中だが―は沸きに沸いた。
 この観客の反応に解説のタザハマは
 「近年、ハデな技を競い合う試合が多くなった。しかしベアナックル(素手)でなぐりあうことこそ戦いの基本精神であることを観客は気付いたんじゃないかな…」
と呟いた。
 元々この試合はキン肉マンのチャンピオンベルトを奪取する為に前チャンピオンのロビンマスクを抱き込んだ世界超人同盟スカル・ボーズの陰謀だったので、試合は無効試合となり、ロビンマスクはグランドキャニオンの底に姿を消すという、ひどいものだった。しかし作品全体を通してこの試合の人気は高かった。
 主役であるキン肉マンとその後も重要キャラとして活躍し続けたロビンマスクとの二度目のバウトだった事もあるのだろうけれど、シルバータイタンはタザハマの一言が観客と読者双方の人気を代弁しているように思えてならなかった。


 集英社ジャンプ・コミックス『新ジャングルの王者ターちゃん♡』の第3巻では中国五里山にて主人公であるジャングル王者ターちゃんは西派拳三十二門派のトーナメントに白華拳中堅として出場し、黒龍拳の陰謀を叩き潰す為、副将劉宝との対戦に挑んだ。
 地元アフリカでは密猟者のマシンガンさえかわすターちゃんのスピードに劉宝は巨体からは想像も出来ないスピードで互角に応戦した。
 一進一退の拳撃の応酬に周囲が驚愕する中、劉宝は西派拳の奥義である勁を使う為に気を貯めようとするが、そうはさせじとばかりにターちゃんは接近戦に持ち込んでラッシュを掛けた。
 気を溜める為に間合いを取りたい劉宝もまたラッシュで応じ、両者は防御を捨てた殴り合いを展開した。互いが互いの顎に上段突きを食らわし、後方に仰け反ったところで気を貯めようとした劉宝だったが、ターちゃんはその隙を逃さず、ターちゃんパンチを打ち下ろして勝利を握った。
 ダウンする劉宝ターちゃんが云い放ったのは「最後まで勁に頼り集中力を欠いたのが敗因と知れ。」だった。ターちゃん自身、「いい試合だったな。」と評し、敵も味方も中立も審判も観戦者全員が目を見張らずにはいられない伯仲の激戦を制したのは人間の最も基本的な武器に如何に徹したかにある、と考えたのはシルバータイタンだけだろうか?


 講談社月刊少年マガジンコミックス『新仮面ライダーSPIRITS』の第3巻で、仮面ライダースーパー1は石川県医王山中にてジンドクマの四大幹部に苦戦していた。
 苦戦の原因は四大幹部の波状攻撃によってチェックマシンによるメンテナンスが妨害されていたからだったが、冷熱ハンドが作動せず、変身さえ解けたあわやのところで谷源次郎(塚本信夫)とチョロ(佐藤輝昭)が運び込んだチェックマシンで50%のメンテナンスを果たした沖一也(高杉俊价)はスーパー1に変身し、追撃してきたマジョリンガ魔女参謀赤心少林拳諸手打ちで粉砕した。
 続くサタンドール妖怪王女(吉沢由起)とゴールドゴースト幽霊博士(鈴木和夫)の襲撃を受けるも、スーパー1は挟み打ち攻撃を逆手にとってゴールドゴーストの放つ黄金病のカビとサタンドールに喰らわせ、両者が鉢合わせた所にブルーバージョンによるスーパーライダーブレイクを炸裂させて爆死せしめた。
 残る大幹部はオニビビンバ鬼火指令(河原崎洋夫)のみで、如何なる技が放たれるか興味津々だったが、その結末は意外なものだった。

 富山湾沖上空に巨大な竜の幻影が現れ、SPIRITS第9分隊隊長目黒圭一の挙動に異変を感じたスーパー1は対峙するオニビビンバに「キサマとの決着、急がせてもらうぞ」と云い放つと梅花の構えを取り、オニビビンババズーカ砲の砲弾を素手で弾き、驚愕するオニビビンバの隙を突いて、その顔面に赤心少林拳正拳突きを食らわし、粉砕してこれを倒した。
 今際の際にオニビビンバは自らに致命傷を負わせた技が信じられなかったらしく、「正拳突き…!?人間の技で…だと…。」と呟きながら爆死した。
 究極の防御技梅花の構えを駆使するからこそ、守るべき味方の元へ駆けつける為、スーパー1が放った恐ろしいまでにオーソドックスな基本技だった。復讐の為に戦わないライダーである仮面ライダースーパー1へのこだわりを見せる為にたった一発の正拳突きが、人間を睥睨する悪魔に人間の強さを思い知らせるかのように呆気無さをもって愚闘を終わらせた、とシルバータイタンは見ている。

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基本技中の基本技を駆使する仮面ライダー とまあ、全くジャンルの異なる作品におけるパンチ技をクローズアップしてみてみた所で、仮面ライダーの放つライダーパンチを考察してみた。そして何故シルバータイタン自身がここ数年妙にライダーパンチに魅せられていたかが分かった気がした。

 それは仮面ライダーが哀しき改造人間で、そこに哀しみを覚えるからこそ、彼等の普通の人間としての側面を強力見出したかったからである。

 平成に入って、仮面ライダーは改造人間ではなくなっていった。その理由は長くなるので書かないが、幼少の頃より、人間でありながら人間でなくなってしまった事を悲しみ、それでも世界と人類の平和を守る為に孤独な戦いを繰り広げ続けた仮面ライダー達の戦いを見て来たからシルバータイタンは昭和ライダー達が抱き続けて来た想いへの考察を今後も続けるとともに、彼等に残された人間としての側面も強調し続けたいと考えている自分に気付かされたのである。

 「人間でありながら人間でない」と形容される仮面ライダーだから、「人間でないのに人間である」為に今後も折に触れて叫んで欲しい。



ライダーパンチ!!



と。
 勿論その筆頭が仮面ライダー2号である事は云うまでもない(笑)。


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令和三(2021)年五月二〇日 最終更新