5.甘く見るべからざる『悪の組織』

 ゲドン………古代インカの言語で、「偉大なる闇の帝国」を意味するらしい。平仮名表記3文字分でそれだけの意味を含むとは大したものだ(笑)が、所詮はフィクションの中の組織である。
 ゲドン以上に大きな規模・行動範囲・組織力・もたらした惨禍を持つ悪の組織はショッカーを始め数多く存在するが、それらも所詮フィクションでの話である。

 現実の世界にはISIS、ボコ・ハラム、神の抵抗軍、KKK、オウム真理教、アル・カーイダ、タリバン、といったテロリストが実在し、れっきとした国家の中にも他国の民に危害を加える存在があるし、地域に根付いた暴力団やマフィアや半グレ集団の方が余程怖い存在である。

 本当に対処しなければいけないのは現実の悪の組織で、それらは官憲の力だけでは決して滅ぼせない(官憲側が癒着していると云うお話にならない例も存在する)。
 本作品は単に十面鬼の阿呆振りを笑うのが目的ではない。「笑う」が目的ならシルバータイタンがいちいち解説せずとも、『仮面ライダーアマゾン』のDVDを見るだけで充分である(笑)。

 本作を単なる「特撮番組へのツッコミサイト」と見て笑い飛ばして頂くも勿論結構だが、現実の悪の組織も、架空の悪の組織も、人間が作る組織で、目的があり、集団となることで洒落にならない惨禍をもたらし得る。
 本作を通じて実在する「悪の組織」に対抗するヒントや考察を得て頂けるならこれに勝る喜びはない。
はっきり見えない害が一番怖い
 その昔、オウム真理教が毒ガステロを起こし、教祖を始めとする幹部達が次々と逮捕・起訴され、有罪判決が下される中、組織壊滅を目指して「団体への死刑執行」ともいわれた「破壊活動防止法」(略称・「破防法」)の適用が議論されたことがあった。
 結論から云えば、同法の適用は見送られた。ネットの世界ではオウム事件に関連した記事が出る度に「あのとき破防法を適用していれば……。」。「今からでも破防法適用を……。」という書き込みがなされる。

 敢えてきつい書き方をするが、無知も甚だしい。仮に破防法適用が見送られたときに物心がついていない年齢だったとしても、「チョットは勉強してから意見しろ!」と云いたい。
 破防法適用が見送られた理由は大きく2つあると云われている。1つは同法が結社の自由を認めた日本国憲法の基本的人権の観点から問題ありとされたことと、1つは下手に弾圧する事により、「地下に潜られること」が懸念されたことにある。
 勿論「適用されなかった事実」を都合よく解釈して、「オウムは認められた!」とほざいていた当時の彼奴等には大いなる怒りを覚えたし、いまだにアーレフや光の輪に所属し、麻原を崇拝する連中など、特撮房刑法(←勿論実在しません)では全員死刑か終身強制労働に相当する(←当たり前ですが、正統な法的拘束力など一切持ちません)。

 それだけ組織を完全に壊滅させるのは難しいことなのである。本気でやるなら些細な関係者まで皆殺しにするか、厳重な監視下にて拘束するしかない。

 正直、シルバータイタンは法律の素人なのであまり偉そうなことは云えないが、「暴力団」なる非合法組織や反社会的組織が「広域指定」されていることに幼少の頃は物凄い違和感を覚えたが、今思えば、「完全壊滅を見込めない以上はある程度首輪をつけた状態にしておこう。」という意図があるのも分からなくはない(←完全に納得している訳ではない)。

 ある小説で、「目に見える範囲だけを見ているのは目を瞑っているのと同じである。」という表現を見たことがある。テロも陰謀も暴力も病気も目に見える害は早目に阻止したり、小さいうちに対処することも比較的容易だが、目に見えない内に進行するものが一番怖いことに現実もフィクションもないことを一筆留めたい。



「求める者」が存在してこその「悪の組織」
 幼少の頃、現実の悪の組織に対しても、フィクションの悪の祖引きに対しても、「何で存在するの?」という疑問、正確には「何で協力する奴・服従する奴がいるの?」と疑問に思ったことが度々あった。
 もし、道場主が何らかの形で悪の組織に協力や服従を余儀なくされたとしたら、可能な限り逃げることを考えるだろう。悪の組織がやっている残忍行為を「やれ。」と云われた日にゃ、「こんなことに従事するぐらいなら自分が死んだ方がマシ。」と思いたくなるほど、ひどく残酷な悪行が現実にもフィクションにも存在する(命惜しさに何だかんだ云って服従する可能性もあるが)。

 だが、よーく歴史を紐説くと、「悪の組織」を様々な形で求め、協力する者達が残念ながら存在する。戦国の世でなければ「ただの乱暴者」で生涯を終わった者は洋を問わず見られる。
 債権の取り立てや恨みある者への報復の為に暴力団を利用する者(現実)、タブーに囚われない研究や潤沢な資金を得る為に悪の組織に加担する科学者(フィクション)、現実の世界に居場所をなくしたことで世を逆恨みして似非宗教・宗教テロ組織に追随する者(現実&フィクション)、非合法な品(銃火器・麻薬)が求められる所に大金が動く市場を求める企業主(現実&フィクション)、etc…………善悪に関係なく、組織とはそれを求める者達がいて存在することが本作の制作を通じて改めて認識させられた。実際、道場主は中学生の頃、いじめで苦しんだ際に「いっそヤクザ雇って報復して貰おうか………。」と思い掛けた記憶がある(勿論実践していれば、その罪科で自分がやくざに悪用されることになっていた訳だが)。

 ゲドン最期の時、獣人ヘビトンボは十面鬼ゴルゴスに対して、「お前にはもうゲドンの指揮権はないのだ!」と云い放っていたが、この台詞には成功報酬に「ガランダー帝国指揮官の地位」を約束されていた獣人ヘビトンボの忠誠対象が見て取れる。同時にゲドンガランダー帝国という悪の組織に何が求められていたかも。

 「他山の石」という訳ではないが、もし私が現実の世への逆恨みや、倫理を無視する程の欲望に血迷っていれば、そのとき私は悪の組織を求め、その成立に(間接的に)加担しているかも知れない。悪の組織をに加担する元も、許さない元も、意外に身近にあるのかも知れない。



「見て見ぬ振り」が一番の温床
 ゲドンに限らず、秘密結社は自分達の存在を目撃した者を消そうと躍起になる。その為の直接手段は「死人に口無し」で、殺害である。
 だが気をつけなければならないのは、合法組織やお固い組織であっても存在は堂々としていても、悪事・恥部・不祥事となると組織ぐるみで隠蔽に走ることが全くもって珍しくないのである。それどころか告発者を「裏切者」扱いする
 警察・教育委員会・政党・大病院・相撲協会であってもそうなのである。誠に呆れた話だが、それが「組織」というものかも知れない。

 だが諦めるのではなく、だからこそ悪しき点を白日の下に曝すのは重要なのである。
 残念ながら隠蔽している内は絶対に自浄することはない。人目に曝されてこそ悪事は歯止めがかかり、第三者の手を借りてのことにはなるが膿が出始め、浄化が始まる。

 結局は悪の組織の存在や悪事を許さないのも、善なる組織が裏で悪行を隠すのを暴くのも、それを世に知らしめる存在があってのことなのである。
 勿論、それは綺麗に云って「内部告発」、悪く云えば「密告」で、決して気分の良いものではない。うちの道場主はいじめに苦しんだ頃、我が身を守る為に(目先の暴力を防ぐ為に)「チクり」の汚名に耐えながら職員室に掛け込んだ。同時に(巻き込まれたくない気持ちは分かるのだが)「見て見ぬ振りする」周囲を恨んだこともあった。

 勿論、密告がばれて報復されることを恐れる気持ちは良く分かる(自分自身、密告後の報復に少なからず怯えた)。暴力団を始め反社会的団体に対しては「やっつけろ!」という気持ちより、「関わりたくない」という気持ちの方が強いのが多くの人々に共通する心境だろう。
 我が身に害が及ばないなら「知らんぷり」をしたくなる気持ちもよく分かる。だが、一つ我が身の経験から一言物申すが、いじめに対する職員室への密告も、反社会組織の悪行を警察に届け出るのも、公的機関は通報者が誰なのかを通報された相手に伝えることはない(もし伝えたなら、その公的機関の上部組織に訴えるべきである)。
 また、「こいつは我々の悪事を知っている…。」と見た側は、こっちが沈黙を守るつもりであっても害意を抱き続けることは『仮面ライダーアマゾン』の第4話にも、現実にも見受けられる。

 悪人・悪事・悪の組織はそれ自体が許せない存在である。
 だが、それらを黙認することも消極的ながら悪事に加担していることを万人が認識する必要があるとシルバータイタンは思う。



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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新