1.モグラ獣人……初の「味方になった敵キャラ」

モグラ獣人
声優槐柳二
出演作品『仮面ライダーアマゾン』
出演期間第5話〜第20話
職業無職(?)
能力土中潜行、情報収集
短所基本、臆病なのにビッグマウス傾向あり。
名場面『仮面ライダーアマゾン』第19話、第20話
概略 長い仮面ライダーの歴史において初めて味方になった敵キャラクターがこのモグラ獣人である。モグラ獣人属するゲドンはとにかく仮面ライダーアマゾンからギギの腕輪を奪い取ることを第一目的としていたため、御多分に漏れずモグラ獣人もまた仮面ライダーアマゾン抹殺、ギギの腕輪奪取を命ぜられ、アマゾンライダーに挑んだ。

 第5話でアマゾンライダーに敗れ、アジトに逃げ帰ったが、十面鬼ゴルゴス(声:沢りつ夫他)は逃げ帰ってきた獣人を容赦なく処刑する首領で、モグラにとって最も苦しい天日干しの刑で処刑されようとしているところをアマゾン(岡崎徹)に救われた。

 当初は「敵の情けなどいるものか!」と意地を張り、時にはアマゾンのギギの腕輪を奪ってゲドンに帰参しようかとの迷いも見せていたモグラ獣人だったが、次第にアマゾンに絆され、地中を先行しての情報収集や、重要物奪取や、脱出路確保等でアマゾン達に協力するようになった。

 初めは元ゲドンの一員であったことから協力の度合いも消極的であったり、行き当たりばったり的であったりだったが、後々になる程積極的に協力的行動を取るようになり、第17話での東京フライパン作戦や、第19話での地下鉄大洪水作戦や、第20話での東京カビ全滅作戦といったガランダー帝国の悪企みが次々と潰されたのはモグラ獣人の尽力によるところが大変大きかった。

 だが第20話で、東京カビ全滅作戦を阻止する為、キノコ獣人が放つカビのサンプルを手に入れようとしてキノコ獣人に接触した際に、偽降を見破られ、キノコ獣人のカビを浴びせられ、それをサンプルとして解毒剤開発に貢献するのを最後の活躍として、アマゾン、立花藤兵衛(小林昭二)、岡村リツ子(松岡まり子)、マサヒコ(松田洋治)、医師、看護師に看取られてこの世を去った。


ドジっ子属性 何せ素体がモグラなので、身体能力には優れていても敵を死に至らしめる直接手段が圧倒的に不足していた。
 ガランダー帝国のキノコ獣人に手も足も出せずボコボコにされていたが、同じゲドン獣人同士で見てみても「強い」とは云い難い。

 カニ獣人の脅しに戦わずしてビビってはアマゾンの弱点(リツ子のこと)をペラペラしゃべり、獣人ヘビトンボ(幼虫体)には護衛していた名古屋美里(戸島一実)を拉致される体たらくだった。
 ガランダー帝国が登場した当初は黒ジューシャにすらビビってマサヒコが拉致されるのを隠れて、指を咥えて見ていた程だった。
 もっとも、第20話では目撃者の少女を拉致しようとした黒ジューシャの方がモグラ獣人に立ちはだかられただけで恐れをなして逃げているから、黒ジューシャではなくガランダー帝国という組織にビビったと思われるが。
 それゆえ、モグラ獣人が戦闘で活躍することは皆無に近かった。

 とはいえ、避戦傾向が強かったのにはモグラ獣人の置かれた立場から来る苦悩を思えば分からないでもない。
 十面鬼から死刑を宣告された時点で、ゲドンで生きる道は無かっただろう。口の上ではゲドンに対する帰参の意もこぼしていたが、それも獣人の身では一般社会に生きる場が無かったからで、本気で戻れるとは思っていなかっただろう。
 ラジオで社会勉強を試みたり、鉄砲水に侵された寝ぐらを「マイホーム」と称したり、「たまには俺も人様の役に立つことを」と述べたり、といったところに人間社会に溶け込もうとする姿勢も見られた。
 しかし、負傷したアマゾンを担ぎこんで保育園のシスターに救援を請うとしたときに藤兵衛に「お前の顔を見たら気絶するぞ。」と云われてむくれ、ガランダー少年隊から解放されて駆け寄る子供達に手を振ろうとして、「俺を見てびっくりさせちゃいけねえからな、退散するよ。アマゾン、またな。」と云って寂しげに去ったりするシーンを見ると、容姿的にも人間社会に生きられない哀愁が漂っていた。

 さすがにモグラとしての能力には優れていたので、最初のアマゾンライダーとの戦いで見せた分身出来る程の地上での素早さや、土中を突き進む身体能力をフルに生かせば戦力的にも活躍できる素養は充分あった気もするのだが、第18話で、地下1000mの岩石の中にアマゾンライダーが閉じ込められた際に、「申し訳無いが無理なんだよ・・・俺の縄張りはせいぜい地下10メートルの土の中だ。1000メートルのそれも岩の中となっちゃあなぁ・・・」といっていたのが痛かった(苦笑)。「マイホーム」の周囲の土質は岩石っぽかったんだが。

 残念ながら迫力も不足していた。
 ゲドン獣人の容姿は「直立した獣そのもの」なので、等身大になった虫系の獣人や、リアリティあるヘビ獣人ワニ獣人等はなかなかの不気味さがあったが、モグラ獣人の場合はそれが裏目に出ていた。
 素体となったハナモグラの模し方は「お見事」の一言なのだが、それゆえに威厳や迫力は皆無だった(苦笑)。
 ゆえにモグラ獣人がカッコよさを発揮するには最後の出番を待つこととなってしまった。


愛される点 迫力が無い故に、愛嬌やユーモラスさは抜群である。
 モグラ獣人の声を宛てたのは槐柳二(さいかちりゅうじ)氏だが、『天才バカボン』のレレレのおじさんの声で有名だが、独特のユーモラスな声だけに耳を傾けているようでは槐氏の凄さを見失うといっていい。
 槐氏は声優として優れているだけではなく、声優・俳優・コメディアンを育てる人としても優れており、コント赤信号のメンバー、中村有志氏、野沢直子氏、ダチョウ倶楽部の上島竜兵氏や寺門ジモン氏、神谷明氏、田中真弓氏といった錚々たるメンバーが槐氏かに育てられたり、仕事を貰ったりしていた。

 勿論、仮面ライダーシリーズにも大いに貢献しており、『仮面ライダー』第1話の蜘蛛男の声をあてたのを皮切りに、頻繁ではないもののカマクビガメサソリ奇械人ジシャクゲン等の声をあてており、蜘蛛男モグラ獣人が同じ声と知った際に納得しつつも、驚く方々も多いことだろう
 そんな槐氏にとって『仮面ライダーアマゾン』は思い出深い作品で、モグラ獣人で活躍しただけでなく、十面鬼の顔の一つを務め、台詞が苦手な大野剣友会の方々(失礼!)を助けていたと云う。
 残念ながら、この文章を綴った二年後の平成29(2017)年9月29日にうっ血性心不全のために享年89歳!でこの世を去られた。誠に惜しい話である。

 ともあれ、独特の声を発する槐氏の活躍もあって、戦闘では頼りなくてもモグラ獣人は視聴者に、特撮ファンに愛された。
 アマゾン達への協力振りも、始まりはなし崩し的だったのが、ゲドンとアマゾンへの恩義の狭間で苦悩しながら徐々に積極的になっていったストーリー性も素晴らしい。しかもTV局の腸捻転の為に全24話しかない『仮面ライダーアマゾン』の中の16話でそれらの流れを書き切ったのだから特筆に値する。
 云い換えれば、第5話から第20話まで、1話として「同じモグラ獣人」は存在しないと云っていい(←少し誇張しているのは認めます)。

 そして圧巻は、モグラとしての特性をフルに生かした第19話と、最後の出番となった第20話だろう。
 第19話では、ガランダーに襲われたマサヒコの学校の先生をリツ子の元まで連れて来たり、フクロウ獣人との戦いで視力を失ったアマゾンの代わりに子供達の居所を突き止めて来たり、それに並行してガランダーが企んでいる地下鉄大洪水作戦の全容を突き止めて来たり、で諜報員として、仮面ライダーアマゾンの仲間として文句の付け様のない働きを為した。これに対して同話の最後で、アマゾンも彼を讃える藤兵衛、子供達を前に、さすがに「今回ばかりはモグラのおかげだ」と絶賛せずにはいられなかった。
 フクロウ獣人を討ち取ったのはアマゾンライダーでも、ガランダー帝国の作戦をぶち壊して子供達を助けたのはモグラ獣人一人の手柄と云っても過言ではなかったのだから、子供達を驚かせまいとして直前に姿を消したモグラ獣人の為にも、彼の活躍を讃えずにはいられなかったことだろう。

 第20話ではガランダー帝国の東京カビ全滅作戦で一つのマンションが全滅させられた際に、目撃者の女の子を追う黒ジューシャの前に立ちはだかったところからモグラ獣人の活躍が始まった。
 黒ジューシャはモグラ獣人の姿を見ただけですごすごと退散。初期には考えられなかったことだが、助かった安堵で泣きだした女の子を見て、後から来たアマゾンが「いじめたな?」と詰め寄ったのは御愛嬌というべきか、今更な分からず屋というべきか………(苦笑)。

 マンションへのテロで一人生き残った赤ちゃんの謎を巡って、「せめて、そのカビがあれば、解毒剤も作れるんですがね・・・」とぼやく医師とアマゾンの前に現れてカビの入手を申し出たモグラ獣人
 キノコ獣人に接触し、アマゾンを殺してガランダー帝国に忠誠を誓うと狂言してカビの入手に成功したが、獣人ヘビトンボの例を見れば作戦の着眼点としては悪くない。
 だが、やはりキノコ獣人には怪しまれていて、もう少しでアマゾンの下に駆け付けられるところで事は露見した。「ただでは死なん!」と抗うも、哀しいかなゲドン獣人とガランダー獣人では格が違った(設定では二倍の差がある)。
 一方的に叩きのめされ、キノコ獣人のカビを浴びせられ、掘った穴に飛び込むことで戦線離脱には成功したが、もはや助からぬ命となった……。

 この献身的なモグラ獣人の活躍で、赤ちゃんだけが助かった謎が解け、カビの解毒剤も出来た。
 自分の体に植え付けられたカビの採集から解毒剤完成まで、アマゾン達の介抱を受けながら、解毒剤完成を見届けるまでは死ぬまいとして息絶え絶えな姿を見せるモグラ獣人、死ぬなと呼び掛ける藤兵衛、マサヒコ、リツ子。
 静かながらも皆が必死のシーンで、遂に解毒剤は完成したが、自分には手遅れと見たモグラ獣人は服用を拒み、ガランダー作戦基地の位置を告げ、ガランダー打倒を懇願して息を引き取った……。

 さすがにアマゾンの怒りは凄まじく、黒ジューシャ達をぶっ飛ばすという普段のアクションすら気合いが違うようで、かなり力が籠っている様に見えた。勿論、キノコ獣人もぼこぼこにされた。

 カビが効かないことを訝しがるキノコ獣人モグラ獣人の活躍ですべての謎が解け、解毒剤も出来ていること、テロの不能性を告げるアマゾンライダー
 完全敗北を悟り、モグラ獣人を返してしまったことを悔しがるキノコ獣人に、

モグラに代わって、貴様を倒す!!」と宣言するアマゾンライダー

 ぼこぼこにされ、グロッキーとなったキノコ獣人に背を向け、モグラ獣人ァァァァッ!!」と絶叫するアマゾンライダー

 いずれも時代を超えて絶賛出来る名シーンであった。

 キノコ獣人打倒後、モグラ獣人の墓を作り、悲しみに暮れるアマゾン、マサヒコ、リツ子、藤兵衛。
 その墓標に贈られた「勇気の士 モグラ獣人との文句は、普段臆病に見えても、本当に勇気を持っている者とはどういう者であるかを教えてくれているから余計に物悲しい……。
 ラストのモグラ獣人はガランダー帝国と戦い、立派に死んだ。」というナレーションは、現代から見れば自己犠牲・戦死への称賛が何処か戦時中の誤りを引きずっている様に見えなくもないが、放映当時は戦後三〇年を経ていない時代ゆえに、それでも最後の最後に多くの人々を救う大活躍をして果てたモグラ獣人への最大の賛辞だったのだろう。

 惜しむらくは、ガランダー帝国壊滅後に、今際の際に「憎いガランダーをやっつけてくれ……。」と遺言したモグラ獣人の為にその墓に詣で、戦勝を報告するシーンを描いて欲しかったが、作品話数の少なさにそこまで求めるのは酷かな?


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令和三(2021)年一一月一〇日 最終更新