2.がんがんじい(矢田勘次) ………自称「日本一のスーパーヒーロー」
がんがんじい(矢田勘次)
俳優 桂都丸(現・4代目桂塩鯛) 出演作品 『仮面ライダー(スカイライダー)』 出演期間 第34〜第54話 職業 無職(?) 能力 事件探知能力、意外な頑丈さ、揺らがない信念 短所 実力が伴わないビッグマウス 名場面 『仮面ライダー(スカイライダー)』第48話
概略 何の脈絡もなく、『仮面ライダー(スカイライダー)』第34話から突如登場した自称「日本一のスーパーヒーロー」ががんがんじいである。
ヒーローを目指す青年・矢田勘次が正体で、ブリキ製と思しき自作の甲冑に身を固め、「軍艦マーチ」の元にした「がんがんマーチ」を歌いながら悪在るところに登場し、奮闘せんとしたが、残念ながら自称程には戦闘能力が伴っていなかった。
大木を振り回すぐらいの腕力、改造人間に殴られても重傷を負わない打たれ強さ、雑音のする甲冑を纏いながらも意外と早い逃げ足(苦笑)以外にはこれと云って優れた身体能力はなく、何らかの武術に長じていた風も見えず、下手したら谷源次郎(塚本信夫)の方が強かったかも知れない。
それゆえネオショッカー怪人はおろか、数人のアリコマンドにも劣勢を強いられる戦い振りで、改造人間の怪力や異形に悲鳴を挙げて逃げ出すこともしばしばだったが、それでも悪のあるところそれを嗅ぎつけては現れ、正義の為に戦い続けた。
初めは仮面ライダーに対しても妙なライバル意識を持っていたが、徐々に仮面ライダーとの共闘を望む面を見せ出し、最終回ではネオショッカー大首領に最終決戦を挑む7人ライダーを追い掛けたが、甲冑を纏った徒歩ではライダーマシーンについて行けず(苦笑)、自分もヒーローになりたかったとの想いを吐露して嘆いているところに筑波洋(村上弘明)に助け起こされた。
別れを告げる洋に、その時になってやっと彼がスカイライダーであることを確信し、「洋はん、生きて帰って来るんやでぇ〜!!」と叫んで去りゆく洋を見送った。
そして8人ライダーがセイリングジャンプでネオショッカー大首領を大気圏外に運んだのを見上げる谷源次郎達の元へ辿り着いたがんがんじいは改めてヒーローになり損ねたことを嘆いた。
そんな一同の前でネオショッカー大首領は大爆発を起こし、その周囲に8つの星が輝いた。ライダー達の死を嘆くライダーガールズに谷はライダーの不死身を説き、一同は大きく手を振ってライダー達に礼と別れを告げた。
その中には数人の名も無い子供達も手を振っていたのだが、その端で手を振るがんがんじいだけは何故か正座をしていた (笑)。
ドジっ子属性 何せ「スーパーヒーロー」を目指し、自称する者としては、戦闘能力はからっきしと云って良かった。少なくともがんがんじいとの白兵戦に及んで苦しい想いをした者など皆無と云っていい。
腕力と体の頑丈さは常人を超えるものが有った様だが、改造人間を相手にするには明らかに不足していた。
だが、同じ三枚目キャラクターでも、喫茶ブランカのバーテン・沼さん(高瀬仁)が特にアリコマンドと戦う訳でもなかったことを考えると、足りない能力で、それを自覚せずに戦い、周囲からも「早く家に帰れよ。」、「来るなと云っただろ!(筑波洋談)」、「足手まとい(一文字隼人(佐々木剛)談)」と酷評され、風見志郎(宮内洋)、城茂(荒木茂)とは全く絡まず、ライダーガールズにも軽く見られていたのが痛かった。
同時に敵からも軽く見られており、第35話でマントコングは明らかに力量で劣るがんがんじいを敢えてとどめを刺さずに、(巨大磁石でトラックに張り付いてしまったところを)いたぶって嘲笑っていた。
第39話ではオカッパ法師に「お前にはこれで充分だ。屁の河童!」と云いながら放たれた放屁に悶絶し、第40話では必殺のがんがんタックル(←ただの体当たり)をかわされ、空飛び河童の皿で空中遊泳に放り出されていた。
第44話ではうざがったドロニャンゴーに逃げるよう勧められていた。
第1話でガメレオジンが、「アリコマンドを死に至らしめた筑波洋の仲間」というだけの理由で、洋のハングライダー部仲間達を生き埋めにして惨殺したネオショッカーの残忍性を考えると、がんがんじいに対しては随分いい加減だった。
酷評すればそれだけがんがんじいが「相手にされていなかった。」ということになる。
能力以前の問題として、性格的にも、根拠なきビッグマウスに比して肝っ玉が大きいとは云い難かった。
ゾンビーダを初めとする幽霊系の改造人間や、アブンガー等とは、顔を合わせただけで失神したり、戦意喪失して逃走したりしていたし、マントコングにいたぶられていたときは「お母〜ちゃ〜ん〜!」なんて子供みたいな悲鳴を挙げていた。
また、「臆病」とは意味が違うが、第41話で仮面の故障により洋に素顔を見られたときは、ヒーローとしてのアイデンティティが崩壊したことに物凄く狼狽していた。最初っから無かったと思うが(苦笑)。
そして聡明と云い難いことも痛かった……。
まずネオショッカーと戦うにおいて、自己の力量が足りず、仮面ライダーをライバル視するにおいても、自分の戦闘能力が仮面ライダーのそれに大きく劣っていることへの自覚も無かった。
第41話では、正体を黙っていてくれるという洋に対し、感謝の念から出た言葉とはいえ、「矢田勘次、このご恩は一生忘れまへん!」と聞かれもしない本名を自分で喋っていた(苦笑)。
最終回では、空に浮かぶ酸素破壊爆弾を見上げるライダーガールズが「原子爆弾かしら?」と疑問を呈した際にも、「日本にそんなもんあるかいな!」と突っ込んでいたが、ネオショッカーが世界的な悪の秘密結社で、表の世界を遥かに凌駕する科学力の持ち主であることを分かっていなかったのは痛過ぎた……。
性格的にも直情的で、有利不利を考え無しに戦闘の場に突入することが多く、そのことが敵味方から呆れられていた。
とはいえ、お世辞にも聡明とは云えないながらも、がんがんじいはがんがんじいで「頭を使う」ということは知っていた(詳細後述)。ただそのアイデアも功を奏することは無かったのだが(苦笑)。
また、第52話ではアリコマンド養成所に強襲を賭けようとするスカイライダーに「命が何ぼあっても足らへんでぇ!」と言って、止めようとし、振り切って突入したスカイライダーに「このがんがんじい様かてそんな無茶なことせぇへんのに……。」と呼び掛け、ぼやいていたことから、「考え無し」や「自覚なし」と云い切るのは少し酷かも知れない。あくまで程度の問題と考えた方がよさそうである。
愛される点 放映当時の子供向け書籍にはがんがんじいのことを「仮面ライダーの邪魔ばかりしていた。」と酷評していたのが目立ったが、能力的に「足手まとい」だった面はあったにしても、「邪魔ばかり」と云い切るのは暴論で、がんがんじいの「心」というものを無視していると云わざるを得ない。
がんがんじいの長所は短所以上に簡単に挙げられる。
「ムードメーカーとしての貴重さ」、「頑丈さ」、「絶対折れない正義の心」である。
最初の「ムードメーカーとしての貴重さ」だが、これは詳しく解説するまでも無いだろう。本来、仮面ライダーシリーズはホラー漫画に分類されたこともあり、人が死ぬことも珍しくなく、毎週毎週が改造人間同士の「殺し合い」(ガメレオジン談)と云っても過言ではない、殺伐とした物語である。
筑波洋の周囲に限っただけでもハングライダー部の仲間や、両親をネオショッカーに殺されており、谷源次郎も(登場以前だが)妻子を殺されていた。
そんな作品世界にドジっ子属性で、適度なギャグやお笑いを盛り込み、それでも正義に直向きながんがんじいの存在は貴重で、特撮番組としての出番は『仮面ライダー(スカイライダー)』の放映とともに終わったが、現在(2021年11月10日)ではジャンルを変えて、『新・仮面ライダーSPIRITS』にて、ギャグ混じりに殺伐とした世界観を緩和しながらも直向きなその性格が読者に愛されている。
続いて、「頑丈さ」だが、ギャグ的キャラクターの前に薄れがちだが、冷静に画面を目視すると「こいつ不死身か?!」と驚愕するぐらい頑丈である。
第34話では、パンチ一発で人間を粉々に出来るマントコングに明らかに10メートル以上の距離投げ飛ばされても生きていた(それも然程の大怪我を負った様子もなかなった)。「10メートル以上」とは、トラックに猛スピードではねられてもなかなか飛べない距離である(しかも鎧付き!)。いくらギャグシーン担当でも、普通に人が死ぬこともある仮面ライダーシリーズでこの頑丈さは特筆に値する。
第40話では推測で数メートル上空より頭から真っ逆さまに落下してもすぐに起き上がって、嘲笑う周囲に怒りを示していた。いくら落下地点が砂浜だったとはいえ、数メートル上空を頭から落下したのに洋達も丸で心配していなかったから、既に頑丈さには定評があったのかも知れない。
人体が持つ生存能力は決して低いものではないが、がんがんじいが受けた攻撃は普通に致命的である。
一例を挙げるとヘルメットが分かり易い例である。ヘルメットには安全性の為、硬度、視界、大きさに規格というものがある。しかし仮にダイヤモンドやオリハルコンでヘルメットを作ったとしても、ある一定以上の衝撃を受けると、頭蓋骨は守れても頸椎をやられてしまうのは避けられない。
それゆえ一度強い衝撃を受けたヘルメットを引き続き使用してはならないし、頑丈さを重視して重過ぎたり、視界を遮られたりするようでは意味が無い。
個人的な話だが、シルバータイタンは「バイクで転んだら終わり。転ばないことが大切。」と考えて、ヘルメットは視界重視でジェット型を愛用している(ちなみに一文字隼人と同じSHOEI製)。
話をがんがんじいに戻すと、がんがんじいの受けた攻撃によっては、自らの身を守る鎧もまた凶器となりかねない。上空からの落下においては重装備が体に更なるダメージを与えるからである。
まああれだけカンカラと音を立てているところを見ると、見た目よりは軽く、パーツは細かく分かれているのかも知れないが、やはり重い鎧であるらしく、がんがんじい自身そのことをぼやいたこともあるし、ときにスクーターに乗っていたのも体への負担を減らす為と考えられる。
いずれにしても、重装備のまま投げられたり、ぶっ飛ばされたりしたにも関わらず、入院したり、骨折したりするような負傷さえ負わなかったがんがんじいの頑丈さは、人間離れしている。何度も死ぬ思いをしたり、怖い想いしたりしながらも、がんがんじいがネオショッカーと戦い続けた拠り所の一つに体の頑丈さがあったことは間違いなさそうである。
最後の、「絶対折れない正義の心」は決して仮面ライダーに負けていない。
どんなにドジを踏んでも、どんなに痛い目を見ても、どんなにライダー周辺の人達に白眼視されても、正義の為に戦う心が折れたことは一切なかった(戦闘中に命乞いしたことはあるが)。
がんがんじいがネオショッカー怪人やアリコマンドから受けた攻撃や、戦っても戦っても周囲から(戦力として)認められない日々を振り返ると、もしがんがんじいの目的が「目立ちたがり」、「趣味」、「売名行為」に基づくものだったとしたら、絶対に途中でやってられなくなる。
うちの道場主も目立ちたがりな性格で、少年の頃は今以上に「正義」を声高に叫んで生きていたが、その都度、「アホや」、「いい子振りやがって」、「弱いくせに意気がるな」、「偽善者」、「お前の出る幕じゃない」、「出しゃばるな」との罵声を周囲から浴びたときは本当に辛かった(勿論今思えば思慮の浅はかさや独り善がりな言動に対する反省はある)。
それゆえがんがんじいの様な立場に立たされることの辛さは凄く分かるので、それでも(その場での対応はともかく)根本的な行動指針がピクリとも揺らがないがんがんじいの正義感は半端ないと思う。
それゆえ、弱くても、聡明でなくても、臆病さを引きずりつつも、がんがんじいは彼なりに日々の努力を欠かしていなかったし、こだわりも強かった。
第35話ではマントコングへの雪辱戦で「二度同じ手を食うかい!」と云っていたことから、能力の高低は別にしても学習することの大切さは踏まえていたようである。もっとも用意した巨大磁石には自分がトラックに張り付けられることになったのだが(苦笑)。
第38話では普段のパンチンググローブを喋る上のアタッチメントに替えて、地中からネオショッカーのアジトに潜入しようとしていたから、道具を使い分けることや、秘密結社である筈のネオショッカー基地を自力で探知する情報収集能力(第52話でもアリコマンド養成所の場所を知っていた)や、地道な作業をこつこつと続ける精神力を保持していたことも分かる。
この中でも文句の付け様が無いのは情報収集能力である。基本、ライダー達はがんがんじいがネオショッカーとの戦いに参戦するのは危険と見ているので、彼等からがんがんじいに何かを教えることはない。それでもがんがんじいはネオショッカーの現れるところに必ず現れていたのだから。
少しその経歴を見てみたいが、第41話では「ヒーローの正体は秘密でなくてはならない。」との信念・こだわりの強さが強烈に出ていた。
第42話では、その正体を隠す自作の鎧をトンカチでリペアしていたが、その場所は何故か墓場だった(笑)。
第43話では「邪魔だ」とばかりに洋を押しのけた好戦的姿勢が、ミミンガーの悪霊金縛りにあっていた洋を、偶然とはいえ救うこととなった(これには洋も感謝していた。もっとも、本人的には兜の破損によるショックの方が大きかったが(苦笑))。
そしてがんがんじいの男気溢れる名場面としては、第48話が忘れられない。
あらゆるものに変身する能力を持つネオショッカー怪人ドロリンゴは偽スカイライダー(往年通り、マフラー、ブーツが黄色)として悪事を働き、スカイライダーの世間における信用を失墜させに掛った。
その為に偽スカイライダーがやったことは、子供が砂場に作った山や遊園地の器具を壊す、水鉄砲や工作物を取り上げて壊す、「虫歯になっちまいな」といいながらアイスクリームを子供の口の中にねじ込む、といった死ぬほどセコイものだった(もっとも、信用をなくさせた後で、スカイライダーをネオショッカー陣営に引き込もうとした作戦目的はなかなか面白い発想だったが)。
だがそのセコさが単純さゆえに功を奏し、スカイライダーは忽ち子供達の嫌われ者となった。一人のアリコマンドが変装した青年がライダーの等身大看板を前に、子供達を煽るや、子供達はにっくきライダーの等身大看板に次々と打擲を加え始めた(←これもセコイ……)。
そしてそこに飛び出したのが、仮面も鎧もまとわぬ素顔のがんがんじいこと矢田勘次だった。「お〜い!みんな、ちょっと待て待て待て!」と云いながら駆け付け、子供達の前に立ちはだかり、
「みんな、この男に騙されてんのやぞ!仮面ライダーはそんな悪い奴やない!俺が、俺が保証する!!」
と云って、ライダー信用失墜に歯止めを掛けようとした。
がんがんじいの甲冑を纏っていてさえ説得力があったどうか疑わしかったのに(苦笑)、素顔で「俺が」と云っても、残念ながら説得力は持ち得ず、逆に「こいつは仮面ライダーの回し者に違いない、皆でこいつをやっつけちゃおう!」と云われ、子供達の袋叩きにあう始末だった(相手が子供ゆえに悪態は突きつつも、抵抗しなかった)。
一見余りカッコいいシーンは見えないかも知れないが、なかなか出来ることではない。同時に、「スーパーヒーロー」へのこだわりが強いがんがんじいだったからこそ、スカイライダーが中傷で子供達に嫌われているのを見てはいられなかったのだろう。
矢田勘次が子供達への説得に走る直前、沼さんも子供達の前に出ようとして洋に止められていた。そして矢田勘次が袋叩きに遭い、子供相手故に抵抗出来ないのを見た際はすぐに皆で子供達を止めに掛った。洋にしても、自分の為に沼さんや矢田勘次が痛い目を見るのは耐え難かったのだろう。
それこそ、「自称・スーパーヒーロー」と「本当のヒーロー」との違いはあれど、相手を想う気持ちを持てばこそ、両者とも後先考えずに行動に移ってしまったのだろう。
この後、がんがんじいはスカイライダーとドロリンゴが化けた3体の偽スカイライダーとの戦いに乱入し、マフラーやブーツの色による識別も出来ずに(苦笑)、偽物の台詞に翻弄され、戦い自体には役に立てなかった。
だが、首尾よくドロリンゴを討ち、「仮面ライダーはいつだって子供達の味方だ。皆にそう伝えておいてくれ。」と云うスカイライダーに、「伝えときまっせー!!」と叫び、「仮面ライダーを信じて良かった。」という浩介少年(安田勝明) の頭を撫でるがんがんじいの心意気は明らかだった。
能力のある人間が活躍するのは容易である。
能力が足りずとも、痛い目を見つつも、信念に邁進することが容易ならざることなのである。
道場主が好きな漫画家・宮下あきら先生が『天より高く』と『ボギーTHE GREAT』で「カッコいいことはカッコ悪いこと カッコ悪いことはカッコいいこと」という表現を使っていたが、さんざんっぱら周囲から笑われながらも気が付けばごく自然に仲間入りしていたがんがんじいにこそ贈りたい表現である。
『仮面ライダー(スカイライダー)』の放映から30年ほどの時を経て、『新・仮面ライダーSPIRITS』にてがんがんじいは仮面ライダーZX・村雨良と行動を共にするレギュラーキャラクターとして活躍している。
その言動は良くも悪くも「相変わらず」の一言である(笑)。しかし、スカイライダーを「バケモノ」と云い放ったプワゾン=ドクガロイドに対して、それまでの平身低頭から立ち上がり、「コラ もっぺん言うてみい」の台詞に爆笑し、快哉を叫び、がんがんじいらしさと、彼らしからぬ迫力を感じたのはシルバータイタンだけではあるまい(笑)。
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令和三(2021)年一一月一〇日 最終更新