Vol.1 『ウルトラマン』 …………大阪城崩壊の衝撃

Osaka Battle File.1
番組『ウルトラマン』
該当作品第26話「怪獣殿下(前篇)」・第27話「怪獣殿下(後篇)」
暴れた敵古代怪獣ゴモラ
舞台となった名所大阪城
府内の被害大阪城崩壊
ストーリー概略 端的に(そして身も蓋もない云い方で)云えば、見世物にしようとした怪獣の搬送に失敗した怪獣が暴れ出し、それを退治するストーリー。

 阪神大学にて古代生物を研究していた中谷教授(富田光太郎)率いる学術調査隊は、南太平洋上のジョンスン島にて1億5千万年前に生息していたとされるゴモラザウルス=古代怪獣ゴモラを発見した。
 調査遺体の護衛役として同行していた科学特捜隊のアラシ隊員(石井伊吉)はスパイダーで攻撃を仕掛けんとしたが、中谷教授がこれを止めた。
 教授はゴモラを生け捕りにして万国博に生きた状態で展示したいと考えており、協議の末、ゴモラをワシントン大学のスミス博士が発明したUNG麻酔弾で眠らせて、ビートルで空輸することが決まった。
 狙い過たず、UNG麻酔弾はゴモラを眠らせるのに成功。効果時間は6時間とされていたので、その間に3機のビートルで空輸せんとした訳だが、5時間目にゴモラは覚醒してしまった。
 その場所は六甲山上空で、中谷教授の研究所まで後少しのところだったのだが、ゴモラは自身を拘束するネットの中で大暴れし、このままではビートルに搭乗する自分達が危ないと見たムラマツキャップ(小林昭二)は「非常事態」として、ネットを切り離し、ゴモラを墜落死させることを決し、それを支持した。

 2000mの上空からの落下とあっては怪獣といえども命はないと思われたが、落下地点に駆け付けた科特隊と中谷教授の前でゴモラは元気に凶暴化して暴れていた。
 古代生物、それも恐竜の生き残りを生きて展示することに並々ならぬ熱意を見せていた中谷教授も「万国博は剥製で我慢します。」として(笑)、ゴモラの処分を科特隊に一任した。

 だが、例によって科特隊&自衛隊の攻撃はゴモラに通用しなかった(苦笑)。後年の歴代正義のチームに比べれば比較的怪獣を倒した戦果の多い科特隊だったが、後々の作品(『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』)にて主人公パートナーに抜擢される程の強豪にして、2000m上空からの落下に耐えるほど頑丈なゴモラとあってはさすがに相手が悪かった。まあ、それでもゴモラは地中に逃走したのだから、善戦したとは云えた。

 しかし、ゴモラが地中に逃げたことで大阪の街はいつ怪獣が現れて暴れ出すか分からないと云う恐怖に曝された。今まで関東一円にしか現れなかったから余計だ(苦笑)。
 科特隊は大阪タワーゴモラ対策本部を置き、中谷教授と共にそこに詰めた。果せるかな、空き地にゴモラは現れ、ハヤタ(黒部進)はウルトラマンに変身して両者は激突したのだが、頑丈な肉体に強靭な尻尾攻撃まで繰り出すゴモラにさしものウルトラマンも苦戦を強いられ、しこたま殴打された挙句、スペシウム光線を放たんとするも逃げられてしまった。

 後篇である第27話に入り、ウルトラマンとゴモラが対決していた場にアラシとイデ(二瓶正也)が駆け付けたが、ゴモラは逃走した後だった。
 科特隊は対策本部にて善後策を練り、ムラマツはフジ隊員(桜井浩子)に科特隊ニューヨーク支部へのUNG麻酔弾の発注を、ハヤタには本部に戻ってマルス133と小型発信機の持参を、アラシには大阪府警を通じての緊急避難命令の発令を、イデにはビーコン製作をそれぞれ下知した。

 その後、何事も無く4時間が過ぎ、その間にハヤタ・イデ・アラシは各々の任務を遂行したが、作戦の準備が着々と進む中、ついに大阪市街にゴモラが出現した。
 科学特捜隊によるスパイダーとマルス133での集中砲火がゴモラに浴びせられ、ハヤタが放ったマルス133によりゴモラ最大の武器である尻尾を切断することに成功した。尻尾を切断され、もがくゴモラは地中へと逃げようとする。そこへイデ隊員が開発したビーコンをアラシがゴモラに撃ち込んだ。
 尚、主を失った尻尾はその後もしばらくのたうち回ることで科特隊のゴモラへの追跡を阻むのに貢献。ゴモラの恐るべき生命力はこんなところにも発揮されていた。

 ビーコンが撃ち込まれたことで地中に逃げたゴモラの動きが補足されたが、それによるとゴモラ大阪城に向かっていることが判明し、科特隊の面々も同地へ急行した。
 果せるかな、ゴモラ大阪城の傍近くに出現。ムラマツは「三度目の正直。ゴモラを運んだのは我々だ。科特隊の名誉挽回のためにも、大阪城ゴモラから守ってくれ!」として科特隊及び自衛隊を叱咤したが、やはり集中攻撃もゴモラには通じず、大阪城に肉薄された。
 そして抵抗空しく、大阪城ゴモラに破壊されてしまったのだった………(数々のウルトラマン関連書籍にウルトラマンとゴモラ大阪城の前で対峙しているスチール写真があるが、実際に両者が大阪城で対峙したのは崩壊後)。

 直後、ハヤタが第26話終盤で落としたベーターカプセルが「怪獣殿下」の異名を持つ鈴木治少年(稲吉千春)によって届けられ(←この辺りのバイストーリーの詳細は後述)、ハヤタはウルトラマンに変身し、最大の武器である尻尾を失ったゴモラ相手に優勢に戦いを運んだ。
 具体的には投げ技を繰り返して、その無尽蔵ともいえる体力を奪っていった。その連続攻撃で尻尾に続いて角まで失ったゴモラは地中に逃げんとしたが、もはやその余力も残されておらず、再度空中に投げ飛ばされたところにスペシウム光線を食らって戦死した。


見所 見どころと云うか、ツッコミどころ満載なのがこの第26話と第27話である(笑)。
 『ウルトラマン』における初の前後編にして、初の地方収録で、大阪ABC朝日放送から要請を受け大阪ロケが実現したという経緯がある。

 それゆえ、ゴモラ捕獲→搬送→討伐の流れに六甲山・大阪タワー大阪城と云った関西の名所を舞台とし、科特隊と自衛隊が尽力する背景で大阪府警も不眠の避難誘導や哨戒に尽力していた。
 他方、怪獣マニア振りから「怪獣殿下」とあだ名される鈴木治少年を巡るバイストーリーが並行して話にスパイスを利かせていた。

 令和の世に在っても「特撮マニアです。」という自己紹介がその場にいる人々の称賛を浴びるケースは極少である(苦笑)。まして昭和中期では周囲の視線は完璧に冷たく、実際、治の怪獣マニア振りは周囲から白眼視され、五重丸を貰う程の下位が能力も題材が怪獣だったために母親にも呆れられ、周囲の友達も、治を「怪獣などという架空の存在に夢中になる馬鹿な存在。」としてからかっていた。
 しかし、作品の初期ならともかく、既に半年以上毎週の様に怪獣が登場する世界で怪獣の存在を疑う大阪の子供達には思い切り違和感があった
 かなり以前から、巨大怪獣が登場する特撮作品で、毎週の様に怪獣が登場するのに「怪獣を見た!」という子供の言を丸で信じない大人や、「恐竜生存説」を唱える学者をクレージー扱いする学界の在り様には多くの特撮ファンが眉を顰めていた。
ましてや、治の部屋にはウルトラ怪獣のソフビ人形が置いてあったし、阪神大学では中谷教授があれほど熱心に怪獣の研究を続けていたのだから、治の周囲の怪獣実在不信は不可解ですらあった。

 ただ、少し弁護すると、ウルトラシリーズ第一作で、放映開始から半年の段階では怪獣に対する研究も認識も情報量も現在よりは格段に少なかっただろうから、怪獣に対しても恐竜の生き残りや、新発見のUMAと見ていた節も強かったのかもしれない。
 実際、大阪府警からの避難命令に対して治の父(宮田容平)は「どこへ出るのかわからないのに逃げても同じだ。」として、全く動じず、部屋で釣り竿の手入れをしていたから、余程怪獣に対する現実感が無かったのだろう。

 他の注目点を挙げると、ゴモラ搬送に関する一連の流れである。
 ただでさえ、ウルトラマンがいなければ多くの怪獣が地球人の自力で倒せなかったと見られる世界にあって、ゴモラを生け捕りにして、展示しようとした中谷教授をマッドサイエンティストと見る向きは強いが、シルバータイタンはそこまで白眼視していない。

 巨躯を駆使して暴れることで多大な被害をもたらす故に即座の駆除対象となることの多い怪獣達も、生物学的に考えるなら、地球に生息する生物の一種で、数から云えば絶滅危惧種である可能性も極めて高い。
 ゴモラザウルスの生き残りであると見られるゴモラを保護・観察・研究しようという意欲自体が間違っているとは思えなく、準備されたUNG麻酔弾は確かにゴモラを眠らせた。
 予測よりも早く効き目が切れたことや、搬送後に周囲への安全を万全とした収容施設が整っていたのかという疑問や、麻酔弾の予備を全く用意していなかったことなどへのツッコミ要因は腐るほどあるが(苦笑)、生命力溢れるゴモラを5時間無抵抗状態にしたUNG麻酔弾は間違いなく有効な武器で、シルバータイタンがムラマツキャップなら科特隊向けの量産体制確保を画策するだろう。

 当初の目的に失敗したとはいえ、端からゴモラを獲殺するのが目的なら最初の5時間の眠りの間に充分可能だったことだろう。リクームに全くかなわなかったベジータも、孫悟空によって行動不能にされたリクームとバータは瞬殺出来たのだから(←何のこっちゃ)。
 ただ、それだけにこのUNG麻酔弾を手元に予備を持たないどころか、ニューヨーク支部に在庫すら残していなかったことには顎を落とさずにはいられなかった
 麻酔弾と云えば、後年『帰ってきたウルトラマン』で地底怪獣ツインテールを眠らせるのにMATで使用が検討され、長官からその効果の薄さを不安視されていたが、このUNG麻酔弾なら信用されたのではなかっただろうか?

 ともあれ、計算違いや在庫不足と云った落ち度は小さくないが、5時間保たれた睡眠効果や、予想より早い覚醒に対するムラマツの判断、即座にそれを中谷教授が追認していたこと、府警を通じての避難措置からも、ゴモラ搬送計画は、結果は最悪ながらも、一応は理にかなった作戦展開・アクシデント対応をしていると云えなくはないので、シルバータイタンは中谷教授を世間で云われている程のマッドサイエンティストとは見ていない。

 最後に注目したいのは大阪府警の対応である。
 「怪獣殿下」と異名を取る程の怪獣マニアである治は科特隊の制止や、周囲の人々の怪獣への恐怖心を意に介さず、大好きな怪獣であるゴモラに近付き、格闘中にハヤタが落としたベーターカプセルを拾った。
 最終的にこれがハヤタにとって大切なものであることを察知し、万難を排してハヤタの元に届けた訳だが、万難の中には府警により警備体制もあった。勿論怪獣が暴れている地区に子供が入り込むことを警察が許す筈がない。
 だが、ベーターカプセルを「科特隊にとっての大切なもの」という治の主張に警官(川又由希夫)は即座にその真意を信じて彼をパトカーに乗せて大阪城に向かった。この時代の作品に出て来た官憲にしてはかなり理解のある人物で、本当に信用すべきことを理解出来る人物として長く記憶に留めたいものである。


大阪color  まあ、大阪を舞台にしたのが初めてということもあってか、地方カラーを盛り込んだとは云い難い。
 50分程度の時間に地方カラーを盛り込むのは容易とは云えないが、実際、大阪ならではの物が盛り込まれたと云えば、「作戦本部=大阪タワー」、「決戦舞台=大阪城」で、奔走していた所轄が大阪府警だった、のみである。

 酷な云い方をすれば、「場所が大阪だったに過ぎない。」で片付けられてしまう。ただ、これは初の地方収録という初めての試みの前にこの程度に留まった訳で、やはり関西人、大阪人にして見れば、見覚えのある建物を前にウルトラマンと怪獣が戦ったインパクトは強く、道場主がこの話を見たのは小学生の時分に再放送でのことだったが、やはり見たことのある実物が舞台となったことのインパクトは大きかった。

 まずは場所を移しただけだったが、普段とは異なる場を舞台とし、視聴者に新鮮さを、ジモティにリアリティとインパクトを与える試みは概ね成功し、後々の地方収録への先鞭を見事に為したと見るべきだろう。


余談 かつて、週刊誌『少年ジャンプ』が黄金期だった頃、巻末に「ジャンプ放送局」と云う読者投稿コーナーがあった。その中にある時期、「織田の信ちゃん」と云うコーナーがあり、織田信長を初めとする戦国時代の名将達にボケをかまさせる作品を募集していた。その中に、下記の様な作品があった。


家来「関白殿下、大阪城が完成しました!」

馬鹿秀吉「ではウルトラマンを呼んで参れ。」

家来「どうしてですか?」

馬鹿秀吉「馬鹿者!ゴモラに壊されない為に決まっておろうが!!


 ちなみにこのネタは『ウルトラマン』の放映から30年程後に掲載されたものだが、関西人、特に大阪人の殆んどは「大阪城」と「ウルトラマン」と云うキーワードだけでゴモラを連想した(笑)。
 それ程、大阪人にとって、大阪を舞台にした『ウルトラマン』第26話・第27話の存在感は大きく、それ以上にゴモラによって大阪城が壊されたインパクトは大きかった。


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令和四(2022)年九月一五日 最終更新