Vol.2 『仮面ライダー』 ………ナチスの遺産を大阪にて

Osaka Battle File.2
番組『仮面ライダー』
該当作品第6話「死神カメレオン」・第7話「死神カメレオン 決斗!万博跡」
暴れた敵死神カメレオン
舞台となった名所万博跡地
府内の被害墓地の一部を荒らされた?
ストーリー概略 世界征服を企む悪の秘密結社ショッカーは、ナチスの生体化学技術を悪用する暗黒組織だった。そんなショッカーはナチスが敗戦直前に秘宝を当時の同盟国だった日本に隠したとの情報を得た。
 その機密を知るのは旧日本海軍少佐の砂田辰夫(神田隆)で、ショッカーは死神カメレオンを派して砂田よりその機密を聞き出さんとした。

 だが、砂田は脅しにも屈せず、シラを切り通した。これに対して死神カメレオンは入院中の砂田の娘への危害を仄めかし、それでも答えない砂田を気絶させて拉致せんとした。
 この途中、自身の姿を消してはいたが、その為に挙動不審状態の砂田を緑川ルリ子(真樹千恵子)、野原ひろみ(島田陽子)、史郎(本田じょう)に目撃されたことから本郷猛(藤岡弘)の介入を招くこととなった。

 死神カメレオンは砂田を娘・ユミの入院する病院に連行し、彼の目の前で娘を痛めつけることで機密を聞き出さんとした。さしもの砂田もこれには折れて、部屋に飾ってあった潜水艦の模型を、目で示した。
 だが、戦闘員が模型を掴んだ次の瞬間、窓の外から伸びて来た手がそれを奪い取った。勿論腕の主は本郷である。ショッカーの目的はこの時点では本郷には不明だったが、模型に重要な機密ありと見た本郷はこれを守って戦闘員を蹴散らしたが、砂田を拉致した死神カメレオンには逃げられてしまった。

 立花藤兵衛(小林昭二)と共に調べた模型の中からは古ぼけた地図が見つかり、図示された多摩川上流にてハーケンクロイツの刻まれた長方形の箱を発見されたが、この動きは潜伏を得意とする死神カメレオンに追われており、本郷は帰りをショッカー戦闘員達に待ち伏せ・襲撃された。

 本郷は仮面ライダーに変身し、一人の戦闘員を締め上げて箱の正体を吐かさんとしたが、戦闘員は自害。ともあれ、箱を持って城南大学に着いた本郷は友人・阿部にこれを開けて貰おうとするが、箱には蓋が無く、簡単に開きそうになかった。
 本郷は阿部に箱を託し、ルリ子と共にユミを見舞わんとしてタクシーにて病院に向かうが、運転手の正体は何と死神カメレオン。催眠ガスで二人は眠らされた。
 死神カメレオンは2人を線路の上に寝かせて轢死させんとしたが、改造人間である本郷の回復力は常人の10倍とのことで、早々に目覚めたことで事なきを得た。

 ショッカー一味は例によって死体の確認もせずに(笑)、本郷を始末したとして阿部から返された箱を預かっていた史郎を襲ってこれを強奪。だが引き上げる戦闘員の中には戦闘員に成りすました本郷が潜入していた。
 そしてトラックにて移動した一行が到着したのは滋賀県。ショッカーのアジトは琵琶湖湖底にあった。

 アジトではハインリッヒと云う、ドイツ人によくある名前の博士(声・市川治)が「これでショッカーは全世界の経済を握ることが出来ます。」としていた。箱はある電波が発信を続けており、同じ波長の電波を当てると、自動的に開く、と云いかけたが、首領(声・納谷悟朗)が待ったを掛けた。
 首領が云うには、東京支部から城南大学を襲撃した6人の内の1人がまだ東京にいるとの知らせがあったとのことで、これにより本郷の潜入を見抜き、死神カメレオンに対しては「鉄箱と共にある素晴らしいものを運んでくれたようだな。」と皮肉交じりに本郷猛抹殺を命じた。

 バレちゃあしょうがない的に、こうなったら首領の正体を暴いてやると息巻いた本郷だったが、落とし穴に落とされた。落下の風圧で仮面ライダーに変身したものの、四方の壁の厚さは1メートルで、ライダーの力をもってしても破壊は不可能だった。
 更には吊り天井を落とされ、体内に蓄えられたエネルギーも尽き、ライダーから本郷の姿に戻り、絶体絶命となった。だが本郷は箱が偽物で、今ここで自分を殺せばナチスの秘宝は手に入らないぞ、との脅しを掛けた。

 少々せこさが拭えないものだったが(苦笑)、取引は成立し、本郷は吊り天井から解放された。当然ショッカーは戦闘員達に本郷を包囲させ、本物の箱の在り処を尋問する訳だが、その答えは、「大阪、阪神大学工学部、大山博士のところ。」というものだった。
  聞くべき情報を聞き出せば、後は用済みとばかりに「戦闘員達よ、日頃鍛えた腕で、本郷猛を始末しろ!」と督戦する首領だったが………………まあ、それが出来れば罠も、改造人間も必要ない訳で、即行での脱出を許してしまうのだった。それも(鍵も掛かってない部屋に)監禁されていた砂田まで連れ出されると云う体たらくで(苦笑)。

 命を助けられ、娘も守られているとあっては、ショッカーの尋問にも口を割らなかった機密を砂田は本郷には話してくれた。曰く、ヒトラーがベルリン陥落寸前、数兆円もの秘宝を潜水艦で密かに日本へ運び込んでおり、鉄箱には、その秘宝の隠匿場所が記してあるとのことだった。
 それは潜水艦艦長だった自分だけが知る機密だったのだが、運びながら秘宝を埋めた場所を知らないのは釈然としなかった(苦笑)。

 ともあれ、琵琶湖底地下のショッカーアジトを脱出した本郷と砂田はバイク=サイクロン号で東京からやって来たルリ子と再会・合流。本郷は、自分は砂田を安全なところに連れて行くとし、ルリ子には大阪にいる藤兵衛への伝言を託した。

 そして舞台は大阪へ移った。

 大阪城では死神カメレオンが双眼鏡で阪神工業大学は大山博士の研究室を探っていた。本郷の(駆け引きから発したものとは云え)情報に間違が無かったことにほくそ笑む死神カメレオンだったが、研究室にいたのは大山博士に変装した藤兵衛で、助手に扮しているのはルリ子だった。  だが、定番であるこの手の変装が即行でバレるのはお約束(苦笑)で、夜になって本郷が大学に到着した頃に二人とも拉致された後だった。

 その頃、ショッカーアジトでハインリッヒ博士によってとうとう鉄箱が開けられたのだが、中身は空だった。嘲笑する藤兵衛が云うには、当時のナチスによる最先端科学で作られた鉄箱もそれから四半世紀以上も経った日進月歩の科学の世界にあって、電子物理学の天才にして本郷の恩師である大山博士に手に掛かってはとっくの昔に開かれていたとのことだった。
 嘲笑に激昂する死神カメレオンは藤兵衛を害さんとしたが、彼が本郷との取引における重要な人質になるとした首領が待ったを掛けた。
 これを聞いて、息子同然の教え子である本郷の為にも人質になって堪るか、と云わんばかりに自害を図る藤兵衛だったが、さすがにこれは(色々な意味で)阻止された。

 死神カメレオンは研究室の本郷に電話し、万博跡エキスポランドでの取引を提言。勿論、情報の聞き出しと本郷の抹殺が目的で、戦闘員を潜伏させる訳だが、そこには遠隔操作のサイクロン号が突入し、戦闘員達を蹴散らした。
 本郷が何処にいるのか訝しがる戦闘員に応える様に、コースターのレール上に立つ本郷が現れ、初期シリーズにて屈指とも云える激しい殺陣を展開した。
 だが、藤兵衛とルリ子を人質に取られ、殊にルリ子には正体を明かせないことから仮面ライダーに変身できない本郷に勝ち目はなく、崖下に叩き落された。

 死体も確認しない割には、仮面ライダーに備えて藤兵衛とルリ子を連行すると云う、用心深いのか杜撰なのか分からない死神カメレオン一行は奪った地図を頼りに、秘宝の隠匿場所へやって来た。
 掘られた場所にはハーケンクロイツの描かれた棺が眠っており、死神カメレオンとハインリヒがいそいそと蓋を開けると、中にいたのは何と仮面ライダー(爆笑)。
 結局、戦闘員達はあっという間に叩きのめされ、死神カメレオンも幾多の戦闘を経た仮面ライダー相手に勝算が無いことを悟らざるを得なかった。自らの最期を悟った死神カメレオンは最後にナチスの宝があったのか?をライダーに尋ねた。
 ライダーはナチスの宝は確かにあったが、彼はそれを「人間に悪の心を生ます汚れた宝」として海の底に沈めたことを告げた。事の成り行きに納得したものか、死神カメレオンは完全に戦意を喪失し、そこにライダーキックライダーチョップが炸裂し、勝負は決したのだった。



見所 過去作『菜根版怪人戯文』に採り上げた様に、死神カメレオンは、初期ショッカー怪人の中でシルバータイタンのお気に入りである。能力よりも、最期の最期に自分の従事した任務への執着を見せ、ナチスの秘宝の存在を知りたがった姿勢が好きなのである。

 だが、この初となる地方収録でもある第6話、第7話はなかなかにツッコミどころ満載(笑)で、後々の仮面ライダーシリーズにおける黄金パターンが集約された回でもある。
 立花藤兵衛が大山博士に変装していたが、後々に定番となる藤兵衛の変装・潜入が初めて展開されたのがこの第7話である。勿論、即行でバレたがそれは御愛嬌(笑)。
 また、過去作『奮闘!立花藤兵衛』でも触れた様に、藤兵衛は後々悪の組織に頻繁に捕らえられ、人質にされたが、ライダー達の足手まといになることを厭うて自ら命を絶とうとしたことも数回あったが、その最初も第7話である(勿論阻止されるが)。

 そして圧巻は、棺の中から現れた仮面ライダー(笑)。
 崖下に落とされたのを生きていたのは良いとして、棺の中に先回りしていたのは恐るべき早業である(笑)。既に鉄箱を開け、秘宝を海中に葬った後だった訳だから、いずれ死神カメレオン達が隠し場所にやって来るのを予見できたのはまあ良いとして、やって来るタイミングを読み間違えれば棺の中で延々と待ち惚けを食らう可能性もあった(苦笑)。勿論、その際には隠し場所が分からないことに業を煮やしたショッカーによる悪しき活動を延々と棺の中で気付かずにいたことになる(苦笑)。

 ツッコミはここまでにして、最も注目したいのは放映された年代の時代背景とナチスのイメージである。
 この第6話、第7話放映時は作中で度々触れられている様に、終戦=ナチスの壊滅から26年を経ていた。世の中の価値観にはまだまだ多様性が見られず、ネットどころかテレビとラジオと新聞ぐらいしか個人の情報処理手段の無かった時代である。
 令和の世なら、ナチスに限らず過去の政権を極端に悪し様に扱えば必ずそれを滑稽なまでに擁護する輩も出てくるが、作中にて戦時中の残滓は間違いなく残っており、過去の軍人(砂田)の証言が出てくる事もそうだが、ナチスは完全に悪者扱いだった(実際、シルバータイタン自身、ナチスの是と非では圧倒的に非の方が大きいと見ているし、戦後ドイツはヒトラーやナチスを徹底的に断罪することでドイツ全体への批難・批判を軽減させていた)。
 価値観が多様化したり、様々なメディアが発達したりしている令和の世ではなかなか4半世紀前の出来事をフィクションに盛り込むのは勇気がいるだろう。現代なら731部隊をネタにしても右寄りの大日本帝国時代の日本を過剰に庇う連中が大クレームを展開するだろう。
 そもそもショッカーがナチスの生化学を流用・悪用していると云う設定自体、当時でなければなかなか出来ない事だったが、その基本設定が放映時の時代との対比と共に色濃く反映されている稀有な回がこの第6話・第7話と云える。

 最後に触れたいのは砂田元少佐を演じた神田隆氏である。
 特撮作品としては『ウルトラマンレオ』の地球防衛軍長官で、第2期ウルトラシリーズには稀有な「良い長官」を演じた俳優として有名だが、時代劇の世界では悪代官や悪徳商人役で大活躍されていた。
 特撮では前述の『ウルトラマンレオ』『キカイダー01』で良い人を演じており、仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダーストロンガー』にも客演した。

 偶然だが、『仮面ライダー』放映時に内閣総理大臣だった故佐藤栄作と顔立ちが似ており、当時新日米安全保障条約締結問題で国民は佐藤内閣への大反対運動を展開し、当時のデモ隊の中には仮面ライダーが佐藤総理にライダーキックをかますプラカートを掲げていた人までいた。
 「単純に顔立ちが少し似ているだけ。」と云われればそれまでだが、佐藤内閣時代に、総理と似た人が元軍人として脅しに屈しない恍惚感振りと、優しい父親振りとを見事に演じこなしていた神田氏の演技力に改めて脱帽した次第である。



大阪color  登場したのは大阪城万博跡である。
 前者は正直、大阪をアピールするおまけの様なものだろう。阪神大学が大阪城の近くにあると云う設定故、大阪城から死神カメレオンが阪神大学を監視していた訳だが、城内を怪人がうろつく段階で隠密監視活動には無理がある(苦笑)。
 現実に軍事スパイや産業スパイが大阪城近辺の官庁・企業・大学を偵察するにしても大阪城からは行わんだろうな(苦笑)。
 勿論、大阪collarの反映は万博跡の方が比重としては大きいだろう。

 『仮面ライダー』放映の前年、日本で初となる万国博覧会が大阪府吹田市千里丘陵にて開催され、開催国日本を含む77ヶ国が参加した、東京オリンピックに次ぐ国際的大行事で、大阪の存在感を躍世界に高めたと云っても過言ではない。
 万博を語り出すとそれだけで一つのサイトになるからそこは割愛するが、万博ではすべてのパビリオンを閉会から半年以内に撤去することが義務付けられていた(例外的に現在も残るのが太陽の塔である)。
 それゆえ、第7話での大殺陣が展開された舞台は「万博跡」で、万博自体は過去のものとなっていたが、それでも新番組放映開始から二ヶ月も経たない段階で特別なロケ地に選ばれ、国際的に大きな舞台となった地が再度注目されたのは当時の府民にとっても嬉しいことだった。

 さすがにストーリー的にはナチスの秘宝を巡る争奪戦が核だったので、大阪が極端にクローズアップされた訳ではなかったが、前述した様に第7話における殺陣はかなり力が入っており、コースターレール上から大上段に現れ、少し微笑んだ次の瞬間には戦意を漲らせて飛び降りに掛かった本郷猛の立ち居振る舞いは初期としては屈指の名場面で、『仮面ライダー』における藤岡弘氏の最高演の一つと見る人は多いだろう。
 生化学者としてのカラーが濃く、ブレザーを常用していた時代の本郷猛がバイクに、高所に、と殺陣を演じた場が、終幕後とはいえ府民に思い出深い万博で為されたのは嬉しい府内アピールだったと云える。



余談 『仮面ライダー』放映時、シルバータイタン=道場主はまだ生まれていなかった。当然万博の記憶はない。実際万博跡も数えるほどしか行ったことが無いが、道場主の亡父はかつて太陽の塔の中で仕事をしたことがあり、道場主のアルバムには一歳時に叔母に連れられて万博跡を楽しそうに闊歩する写真が何枚も残されている。
 直接の記憶がなく、殺陣のワンシーンに利用されただけの描写でも、何処か嬉しくなるのはそれだけ万国博覧会が府民にとっての栄誉で、『仮面ライダー』放映時にはその残滓がより強く残っていたのだろう。


次頁へ(工事中)
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る

令和四(2022)年九月一五日 最終更新