第1頁 赤木工場長……経営被害が分からないでもないが……。
作品 『帰ってきたウルトラマン』第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」・第14話「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」 被害者 赤木工場長 真の加害者 竜巻怪獣シーゴラス&津波怪獣シーモンス 矛先を向けられた者 MAT 解決 夫婦怪獣の退却
事件 事の起こりは津波怪獣シーモンスの日本上陸である。
産卵の為に日本に上陸したシーモンスは途中で遭遇したマグロ漁船・海神丸を沈没せしめ、東京湾から上陸すると海岸の諸施設をなぎ倒し、セメント工場を破壊するとその場に居座ってしまった。
勿論怪獣退治の専門家であるMATがこれを討伐しに向かうのが通常の流れであるが、MATは躊躇った。それと云うのもほんの少し前までシーモンスは海神丸遭難を巡ってその実在が詮議され、実在が確認されるやその生態や行動に新たな懸念が持たれたからだった。
そもそもシーモンスは西イリアン諸島近海に生息する大人しい怪獣だった。しかしながら繁殖を巡る生態が人間にとって極めて傍迷惑なものが有った。
産卵期のシーモンスは、(それ自体は動物全般にあることだが)胎内の卵を守る為、攻撃的な性格となる。加えて卵殻を形成する為に鉱石や宝石の原石を体内に入れんとする傾向があり、それが為にたまたま宝石の原石を積んでいた海神丸を襲い、東京上陸後はセメント工場も襲った。
海神丸が襲われた直後、生還者が少なかったこともあり、高村船長(小林昭二)はショックで心神喪失状態に陥り、頻りに「シーモンス」という単語を繰り返すだけだった。船長の娘・陽子(西山恵子)は父からシーモンスの伝説を聞いていたが、怪獣退治の専門家であるMATがその名を知らない為に、「責任逃れの作り話」とマスコミ関係者には看做された。
だが、シーモンスが上陸したことで同時に発生した津波で東京湾沿岸には甚大な被害が出た。勿論これによってシーモンスが実在することが確認された訳だが、西イリアン諸島に伝わる伝承歌によると、「シーモンスをいじめるな。シーモンスをいじめればシーゴラスが怒る。」とあり、「想像を絶する恐ろしいことが起こる。」、「天と地の怒り」ともされ、これがMATをして、安直にシーモンスを攻撃することを躊躇せしめた。
生じた被害と怨み シーモンスが東京に上陸し、且つ居座ったことで、甚大な被害が出た。沿岸部にあった家屋・船舶・諸設備が波に攫われ、シーモンスが移動する度にその進路にある数々の家屋が破壊された。
後から分かったことだが、シーモンスの目的は産卵で、あくまで種族維持本能に従って卵殻形成のための栄養分を摂取し、産卵地に移動するのみで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
だが、その目的途上にて遭遇した人間にとっては堪った話じゃなかった。
海神丸は襲撃され、多くの乗組員が殉職し、操船ミスを疑われた高村船長は莫大な賠償金を請求された(後に心神喪失を理由に免責され、シーモンス実在により潔白は証明されたが)。
上陸後の産卵態勢に入ってからは大人しかったが、その途上で多くの家屋を破壊し、途上の住民達は財産や人名が損なわれ、多くの人々が避難生活を余儀なくされた。
そしてセメント工場は怪獣に居座られたことで破壊の復興も、操業再開もままならず、倒産の憂き目に直面した。
そして少し話が飛ぶが、シーモンスを排除すべく攻撃に出たMATと自衛隊を夫である竜巻怪獣シーゴラスが迎撃してきたため、現地は巨大な竜巻の被害にまで見舞われた。状況的に多くの人々が避難していたので人的被害はまだ抑えられたと見られるが、破壊・津波・竜巻のトリプルパンチを食らった現地の被害はとんでもないものだった。
シーゴラスの加勢や、竜巻の発生をもってようやくMATは夫婦海獣の生体を完全把握し、帰ってきたウルトラマンの加勢、新兵器レーザーガン-SP70の効力発揮もあって、最終的にはシーゴラスの角を破壊することでそれ以上の竜巻発生を阻止し、夫婦海獣撤退に向かわしめたことで事件は解決したが、伝説の真偽、生態の未解明、更なる大被害への懸念から素早い行動に出られないことでMATは数々の理不尽な非難に曝されたのであった。
恨みの理不尽性 実のところ、このシーモンスを巡る被害を受けた人々の怒りそのものは真っ当なもので、一時MATを理不尽に攻める動きも見られたが、格別分からず屋が揃っていた訳でもなかったが、攻撃可否判断や責任問題を巡って色々考えさせられる点も多かったので、特別に取り上げた。
筋違いな怒りを示した人物として、セメント工場の責任者・赤木工場長(西本裕行)を採り上げているが、赤木工場長の怒りはもっともで、矛先もしっかりと元凶であるシーモンスに向けられ、必要以上にMATを敵視していた訳でもなかった。ただ、ところどころ短絡的で、やや分からず屋な面が散見された。
赤木工場長にとってセメント工場が破壊された時点で大変な被害だったことは想像に難くない。加えてシーモンスがそこに居座ったことで復旧作業も操業再開もままならなかったのである。シルバータイタンが同じ立場にあれば、シーモンスに殺意を抱いただろうし、最低でもその排除を願った筈である。
とにかく「倒産寸前」に陥った事態を打開する為、赤木工場長は怪獣退治の専門家であるMATがシーモンスに攻撃を仕掛けないことに業を煮やし、自衛隊に攻撃を依頼した。
この時点での赤木工場長は格別分からず屋でもなかった。
自社の危機的状況を淡々と説き、自力救済の正統性を堂々と訴え、更なる惨劇回避の為に攻撃中止を加藤隊長(塚本信夫)が申し出た際も、三日の期限付きで了承していた。
ただ、シーモンスを攻撃する危険性がシーゴラスの加勢を生むことであることが判明し、自衛隊の調査で沿岸部海中にシーゴラスがいないと判明するや、約束の期限がまだ一日残っているのに赤木工場長は攻撃を自衛隊に依頼した。
勿論MATはこれを制止せんとしたが、赤木工場長はシーゴラス報復の危険性がないと見て、それでもシーゴラスが現れたら?との懸念に対しても、「いざとなったらウルトラマンが現れる。」といういつかの防衛軍お偉いさんのような台詞を吐いていた(苦笑)。
果せるかな、海中にいないと認識されていたシーゴラスはすぐ近くの地中に潜んでおり、シーモンスが攻撃されるや即座に妻の危機に駆け付けた。結果、夫婦海獣は力を合わせて竜巻を引き起こし、現場は阿鼻叫喚の地獄と化した。
この大惨事、正直、赤木工場長の推測を超えており、不可抗力な面が否めないと云えなくもない。ただ、竜巻発生直後赤木工場長は画面に現れず、この事態をどう捉えたかは不明である。せめてMATとの約束を守って後一日待つか、竜巻発生に対して罪悪感を見せていれば然程赤木工場長を悪くは思わなかったかも知れない。
夫婦怪獣から受けた被害を思えば、赤木工場長が攻撃的になることや、実力行使を急いだ想いは分からないでもない。ただ、もう少し約束を守れば更なる被害を回避し、それでも被害が回避出来なければその責はMATに帰せた筈だから、幾ばくかの理不尽さと落ち度は否めないと思うのである。
この第13話・第14話では赤木工場長以外にも責任や理解を巡って様々な考えさせられることがあった。
シーモンスに襲われた海神丸に関して、MATが存在を知らないだけで茫然自失状態の高村船長は理不尽に世間から叩かれた。
その父の潔白を正面せんとして娘の陽子は周囲の説得にも耳を貸さず時化の中八丈島に向かおうとした。
シーモンスを攻撃出来ないMATに対して、岸田長官(藤田進)は世間に蔓延するMAT不要論を突き付け、1週間掛かるとされた新兵器開発を「二日でやれ。」と無茶振りした。
ただ、それでも分からず屋ばかりではなかった。
赤木工場長も一度はMATの要請に応じた。
高村船長の責任を追及しまくった人々も心神喪失を理由に免責する程度の理解はあった。
陽子も郷秀樹(団次郎)の説得(←平手打ち付き)を受けた後はちゃんと話を聞き、最後には郷の尽力に感謝していた。
岸田長官も、世間の噂を述べただけで彼自身にMATに対する悪意はなく、かつてスパイなーを駆使せんとした時と違って、「都民に安らぎを。」としてMATを激励していた。
次頁以降の理不尽な、筋違いな怒りを示す方々に比べれば、赤木工場長を初めこの頁に出て来る人々はまだましな方と云える。
ただ、本来忘れてはならないのは、すべての元凶はシーモンスとシーゴラスにあることである。生物としては本能に従って繁殖に尽力するだけの大人しい存在かも知れないが、結局その過程で船舶を襲い、上陸途上にある人間の居住・生業の場を蹂躙しているのである。
他のウルトラ怪獣の中ではまだおとなしい方と見られる夫婦怪獣だが、冷静に考えればやはり(可哀想ではあるが)駆除対象と云わざるを得ない。 そしてそれでも、少し判断を間違えれば責める対象は容易に人間は間違えかねないことをこの第13話・第14話は教えてくれている。
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令和五(2023)年一一月一四日 最終更新