第2頁 坂本ヒロシ&一般ピープル(その1)……未知なる恐怖より安易な降伏?

作品『ウルトラマンA』第26話「全滅!ウルトラ5兄弟」・第27話「奇跡!ウルトラの父」
被害者坂本ヒロシ&一般ピープル
真の加害者地獄宇宙人ヒッポリト星人
矛先を向けられた者TAC&ウルトラマンA
解決ヒッポリト星人抹殺
事件 事の起こりはある日突然地球侵略にやって来た地獄宇宙人ヒッポリト星人の襲来である。
 突如日本に降り立ったヒッポリト星人は「ウルトラマンAを渡せ!」と要求した。自らを「この宇宙で最も強い生き物」と称し、要求に応じないと「地獄を見せる」として、ノズル上の口から突風を起こし、その能力の一端を垣間見せて自らの力を誇示した。

 このとき地球人の前に姿を見せたヒッポリト星人の姿は実体ではなかった。というのも、この時見せた姿は200mあり、ウルトラ兄弟の身長が40〜50mなのと比して4、5倍という強大さで、後々TACでは、この身体では地球に住めない筈と分析されていた。
 実際のところ、これは谷間に潜むヒッポリト星人が都会のスモッグに投影した姿で、TACが分析した通りとんでもない巨体ではなかったのだが、この後ヒッポリト星人は多くの地球人(主に一般ピープル)に恐怖と絶望を与えた。

 見せた姿は虚像だったが、能力を駆使して見せた地獄絵図は本物だった。
 実際に竜巻地獄を見せたのはその通りだったし、正体を見抜かれて尚ウルトラマンAを返り討ちにし、その危機を知らされてやって来たゾフィー・ウルトラマン・ウルトラセブン・帰ってきたウルトラマンの四兄弟もブロンズ像にされてしまった。
 「ウルトラ5兄弟が敗れた」という事実はそれまでに人類が味わった絶望の中では最大級の者で、諦観に憑りつかれた一般ピープルは元凶であるヒッポリト星人に矛先を向けず、これを怒らせまいと考えて、それに対峙するものに矛先を向けたのだった………。



生じた被害と怨み 上述した様に当初ヒッポリト星人は実体を山間に隠していた。そして不幸にもそのヒッポリト星人にタクシー運転手・坂本(田中力)が衝突して命を落とした。
 坂本運転手は子煩悩を絵に描いた父親で、彼の妻は一年前に亡くなっており、後に残された娘(小早川純)と、その弟ヒロシ(西脇政敏)は悲嘆に暮れていた。
 勿論ウルトラシリーズでは毎週の様に怪獣や宇宙人が襲来し、その多くが数十メートルの巨体でもって暴れるのだから、その巻き添えで命を落とした者、家族を失った者は数多く存在する。
 また、ヒッポリト星人以外にも侵略目的であることを堂々と述べ、地球人に対して降伏・臣従を求めた宇宙人は多数存在する(←いつも思うのだが、侵略宇宙人は誰を相手に降伏勧告しているのだろう?(苦笑))。

 そう思うとヒッポリト星人の行動や、為した害は他の宇宙人や怪獣・超獣と大きく異なる訳ではないのだが、忘れてはならないのは相手が何者であれ、命を落とした被害は帰り様がなく、その家族の悲しみに相違はなく、何処の星の者であろうと侵略を受け入れる訳にはいかないのである。
 ただ、ヒッポリト星人の場合、その戦績故に同じ害でもそのインパクトが大きく、一般ピープルが味わった精神的ダメージも大きかった。偏に、「ウルトラ5兄弟をも破った存在」からの降伏勧告は絶望感が大きかったことは想像に難くなく、「下手に逆らったらどうなるか………。」との想像も悪い方向に膨らんだことだろう。



恨みの理不尽性 実はこの時のヒロシや、一般ピープルATACに対して理不尽に責めたてことへの憤りは過去作「ウルトラマンA全話解説」で詳細に述べている。

 はっきり云って、坂本運転手の死は突如現れたヒッポリト星人に衝突したもので、極めて事故に近いものだった。勿論、ヒッポリト星人は地球人の許可を得ることなく、正式な交渉もなく、侵略目的で勝手に地球に降り立った訳だから、坂本一家にして見ればいきなり地球に現れたことを責めたくなるだろう。
 云うまでもないが、悪いのはヒッポリト星人である。ただ、姉は幾分冷静だったが、両親を相次いで失い、まだ年端も行かない弟のヒロシ悲しみの余り完全に不貞腐れていた

 ヒッポリト星人の真の居場所を求めて本体の潜む山中を探索したことで北斗星司(高峰圭二)と南夕子(星光子)は、偶然星人と衝突したことで致命傷を負った坂本運転手の最期を看取った訳だが、竜五郎隊長(瑳川哲郎)は幻影に囚われたことで運転手に対して、「TACは何もしてやれなかった。」との罪悪感を抱き、運転手がヒロシのために買ったウルトラマンAの人形が壊れていたために新品のそれを買って弔問に訪れたのだが、ヒロシは畳に叩きつけて、父を救ってくれなかったAなど「人類の味方ではない!」と吐き捨て 、父親が遭遇した不幸に気付けなかったことへの謝罪にも、TACなんて駄目だよ!あんなAをさっさと星人に渡しちゃまえばいいんだ!そうすれば星人も大人しくなるのに……。」とまくし立てる始末だった。

 はっきり云って、このヒロシ、突然無残な形で父を失った悲しみを考慮に入れても、「責める相手を間違えている。」「責め易い相手に文句をぶー垂れている。」と云わざるを得ない。
 百歩譲って、TACが運転手の危機に気付けなかったことを落ち度にカウントしたとしても、衝突事故はTACにとって避け様の無いものだった。ウルトラマンA引き渡しに関しても、TACAの身柄を保有している訳ではないので、引き渡さないことを責められる筋合いはない。
 「目の前にいたのがTACだからTACを責めた。」と見れなくもないが、果たしてヒロシは、ヒッポリト星人が目の前に現れたら、ヒッポリト星人を責めただろうか?………………とても責めたとは思えんな(苦笑)。
 その証拠は第27話で明らかにされた。
 第26話終盤でウルトラ5兄弟がブロンズ像にされた後、第27話で再度坂本邸を訪れた竜隊長は改めて運転手がヒッポリト星人の為に命を落としたと断定されたことを告げたのだが、この報告にヒロシは鬼の首を取った様に竜隊長を責め、TAC及びAヒッポリト星人に抵抗したから父が死ぬ羽目になった、とまくし立てた。
 だが、タイミング的にも状況的にも運転手の死とTACウルトラマンAの対応に因果関係がないのは誰の目にも明らかだった。竜隊長は冷静に、理知的に侵略の非を説き、それに屈してはならないことを諭した。するとそれに対してヒロシが答えたのは、「でも星人は強いんだよ!」というもの……………詰まる所、ヒロシは本当に責めるべき相手が分かっていなかった訳じゃなかったのである。

 ただ、ウルトラ5兄弟をも破ったヒッポリト星人に抗し得ないと見た諦観からTACを責めたのはヒロシだけではなかった。一般ピープルである。第27話序盤でウルトラ5兄弟の戦死に愕然としつつも、善後策を練る為に基地に引き揚げようとするTACの前に彼等は立ちはだかり、「星人への抵抗を辞めろ!」とがなり立てた。
 要はウルトラ5兄弟を破ったヒッポリト星人を恐れる余り、抵抗することで更なる怒りを買って、降伏条件が厳しくなることを恐れてのものだった。
 この時点でヒッポリト星人は地球人に対して降伏を勧告するも、その証としてウルトラマンAの引き渡しを要求しただけで、降伏後に何を求めるか?どんな条件で臣従させるかを一切述べていなかった。
 一般ピープルの激昂に山中一郎隊員(沖田駿介)が、「降伏すれば星人の奴隷にされる。」として抗戦継続を訴えたが、彼等は降伏したからと云って必ずしも奴隷となるとは限らないとして退かなかった。

 実の所、この後ヒッポリト星人は倒されたことで降伏の必要性はなくなり、降伏すればどんな形で臣従を強いられたかは知り様がない。奴隷にされたか否かは誰にも分からないのである。それでも一般ピープルは抵抗が降伏条件を厳格化させることを恐れてTACに抵抗中止を訴えたのである、降伏条件が全く分からないにも関わらず…………。

 ウルトラシリーズの長い歴史の中には、怪獣・超獣・宇宙人を倒せない正義のチームに対して一般ピープルがその不甲斐なさに苦情を寄せた例はいくつも散見される。しかしながら、その強さを恐れて抵抗そのものを辞めるよう訴えた例は極めて稀有である。
 一応は、「ウルトラ5兄弟を倒した」という前代未聞の戦果を見せたヒッポリト星人に対する尋常じゃない恐れを抱いたヒロシ一般ピープルの気持ちが全く分からない訳ではないが、それを考慮に入れても、長く自分達を守ることに尽力したTACウルトラマンAを責めたことには、弱気が生んだ筋違いな八つ当たりを感じずにはいられなかった。

 最終的にヒッポリト星人が倒されたことでヒロシは真の仇が打てたことに冷静さを取り戻したと見える。叩きつけた筈のA人形を持っていたから、少なくともATACへの逆恨みは解消されたと思われる。
 ただ、それならそれで筋違いな怨みを抱いたことへの謝罪をヒロシ一般ピープルには示して欲しかったものである。ウルトラ5兄弟が全滅し、ウルトラの父までもが登場したビッグイベント回にそこまでの描写を求めるのは酷かもしれんが。


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令和五(2023)年一一月一六日 最終更新