Part5.偉大なるマンネリが持つ人気

 名乗りにせよ、口上にせよ、啖呵切りにはアイデンティティの発露としての面が強く、それゆえ多少の差異はあってもいつも同じセリフを吐くことになる。
 好き嫌いにもよるが、恒例とも云えるし、ワンパターンとも云えるし、マンネリとも云えるし、お約束とも云える。

 ただ、はっきり言えるのは、本作を呼んで頂いた方々はヒーローの啖呵切りがお好きだという事である(嫌いだったり、興味が無かったりする方々は御覧にならないだろうから)。もっとはっきり言えるのは、シルバータイタンは啖呵切りが大好きと云うことである(笑)

 私事が入るが、うちの道場主は身体能力で常人に大幅に劣り、幼少の頃から喧嘩も弱く、運動音痴で、そのコンプレックスからも現実虚構を問わず強者に憧れた。
 つまり、道場主がシルバータイタンとしてヒーローに憧れたり、戦国房薩摩守が猛将・豪傑・勇者に憧れたりしたのも根は一つである(ついでを言えば、楽曲房ダンエモンも敬愛するアーティストの唄われる恋歌にて理想とされるような男になりたいとの憧れがある)。
 同時に弱い故に、本来なら強者でなければ持ち得ない発言力を(自分にはないことを分かっていながら)駆使し続けた。力ないものが大声を上げても「負け犬の遠吠え」的に蔑視されるだけなのは分かっていたが、分かっているからこそ力がないと物が云えない世の中にも反発し続けて来た。

 喧嘩が弱いくせに「啖呵切り」として注目するのも、弱さで置かれた立場への反発であり、叫ばずにはおれない気持ちへの共感でもあった。
「我こそは漢の皇叔劉玄徳が義弟、燕人張益徳なり!敵の総帥曹孟徳、尋常に勝負せよ!」(『三国志演義』
「やあやあ我こそは、肥後の住人竹崎五郎季長なり!」(史実)
「やあやあ遠からぬものは目にも見よ!日本一のスーパーヒーローがんがんじい!」(『仮面ライダー(スカイライダー)』)
「わしが男塾塾長江田島平八である!」(『魁!!男塾』)
「俺はゼロ‥……ウルトラセブンの息子・ウルトラマンゼロだ!」(『ウルトラ銀河伝説』)
「自由の戦士!イナズマン!」(『イナズマン』)
「掛かれ!掛かれ!我こそは塙団右衛門なり!」(大河ドラマ『葵−徳川三代』)
「男塾一号生筆頭!剣桃太郎、勝負!」(『魁!!男塾』)
「アフリカの平和を乱す者はこのジャングルの王者ターちゃんが許さん!」(『ジャングルの王者ターちゃん』)
「赤心少林拳、沖一也!」(『仮面ライダースーパー1』)
「わしが菜根道場道場主●●●●である!!」(←説明の必要なし)

 リアルとフィクションが入り混じり、特撮外の漫画系も多いが、(最後の一つを除くが)すべてシルバータイタンが憧れ、幾度となく真似てみた台詞にして、啖呵切りである。
 肩書や誇りや信念が内包され、これらに匹敵するアイデンティティを叫びたい衝動にかられたことは一度や二度ではない。

 かようなこれらの台詞は一度ならず幾度にも渡って叫ばれ、時にワンパタ・マンネリと揶揄されつつも、多くの人々が毎度毎度心待ちにし、時には「偉大なるマンネリ」という些か矛盾した形容まで行われた。
 中でも有名且つ人気なのは下記に記す国民的人気時代劇のワンシーンだろう。

水戸光圀:「助さん、格さん、もういいでしょう。」

渥美格之進:「静まれー!」

佐々木助三郎:「静まれー!」

渥美格之進:「この紋所が目に入らぬか!」

(その場にいる一同驚愕)

渥美格之進:「こちらにおわす御方を何方と心得る?畏れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」

(その場にいる一同更に驚愕)

佐々木助三郎:「一同!御老公の御前である!頭が高い!控えおろう!!」

その場にいる一同:「ははー!!(平伏)」

 わざわざ触れるまでもないが、月曜20時45分の定番とすら言われた『水戸黄門』のクライマックスシーンである。
 この超有名シーンとて、厳密には回によって微妙な差異があり、上記のパターンが確立するまでには長い長い試行錯誤があった。
 当初は光圀(東野英治郎)が自分で名乗っていたし、印籠も自分で出していた。「先の副将軍」も当初は「先の中納言」と呼ばれていた(「黄門」は中納言の唐名で、江戸幕府に「副将軍」という役職が無かったことを鑑みれば、「先の中納言」の方が本当は正しい)。
 俳優の体調問題で助さん・格さんが不在の回もあれば、うっかり八兵衛(高橋元太郎)が印籠をかざしたことも(たった2回だが)ある。
 細かいことを言えば切りが無いが、人間には新鮮さを求める気持ちと、古き良きものを保ち続けたい気持ちとが矛盾なく存在すると云うことである。

 その中にあって、名乗り・口上と共に切る啖呵は自らの心根とアイデンティティを発露する大事な一場面として多くの人々が重視する。何度か触れているが、何せうちの道場主は自己顕示欲の塊だからこの手の名乗りが大好きで、グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ………(←道場主のデモリッション・アーサナーを食らっている)。

 最後に閉めに掛かりたいが、シルバータイタンは今後も新たなるヒーローが見事な啖呵切りを行うことや、かつてのヒーロー達が切ってきた数々のシーンを「またか……(笑)。」と思いながらも今後も楽しみにすることだろう。
 人々に憧れを与え、リアルの世界で為し得ぬ正義を行ってくれるヒーローだからこそ、カッコよく、悪を許さぬ口上への期待と喝采は尽きることは無いだろう。
 だが、決して戦いを望んでいる訳ではなく、それ以前に悪事が行われないことを望んでいる。願わくば、リアルの世界において、かかる啖呵切りが必要ない世であって欲しいものである。


おまけ 平成15(2003)年10月12日放映の『笑点』第1887回より
問題 落語の『寿限無』を覚えるのが子供達の間で流行してるんです。
 『寿限無』という落語は長い名前をめぐって巻き起こる騒動を描いたご存知の落語です。そこで『寿限無』の問題。
 皆さんね、寿限無が何をやったかを報告して下さい。私が「どうなりました?」と聞きます。それに答えて下さい。
 但しね、今回は子供達の見本になるように寿限無の名前は落語の通り、省略無しに全部言って頂きたい

三遊亭小遊三師匠の一回答
三遊亭小遊三:川中島の戦いで、「我こそは上杉弾正少弼不識院殿真光法印大阿闍梨と戦っている武田大膳太夫信玄法性院殿機山玄光大居士の家臣である寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路ぶら小路パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助であるぞ!」と名乗りを挙げました。

司会・五代目三遊亭圓楽(当時):どうなりました?

三遊亭小遊三:(名乗っている間に)首斬られてました。



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令和三(2021)年六月一七日 最終更新