Part4.その他のヒーロー………啖呵切りに入るまでが長い!

 特撮ヒーローの変身、そして変身から戦闘に至るまでの口上に対して、「長い!」という想いを抱かれたこのある方は多いと思う。
 変身アクションは後発作品ほど長くなる傾向にあり、「悪者も何で変身中に攻撃しないんだ?」との疑問・ツッコミを入れた視聴者は数知れぬ程存在するだろう(パロディである『仮面ノリダー』で無駄に長い変身中の木梨猛(木梨憲武)をジョッカー怪人(石橋貴明)が散々殴り続けていたのはこれを皮肉ったものだろう)。

 ただ、制作陣にもそのツッコミは届いていた様で、『仮面ライダースーパー1』ではジンドグマ編からは変身アクションを若干省略した。また宇宙刑事シリーズでは蒸着・赤熱・焼結をそこそこのアクションを取りつつも、それ自体は1秒もかからない時間の出来事であることをナレーションにて触れていた。

 そもそも殺し合いの場にあって、相手がパワーアップする為の変身を待ったり、用の無い口上に付き合ったりする必要はない。
 互いが正義を標榜し、名誉を重んじて儀礼を必要とするならともかく、手段を択ばない悪の組織がこれらに付き合う筈がない。
 だが、リアリティを重んじて冗長な変身ポージングや長々とした啖呵切りにツッコミが入る様になるまでは恒例として楽しみにしていたのも間違いない事実である。そこでこの頁ではたった一例ではあるが、登場から戦闘開始までの時間が長く、そこに含まれる啖呵切りとその意義を考察したい。
キカイダー01
 悪のある所必ず現れ、悪の行われる所必ずゆく、正義の戦士キカイダー01!
概略 人造人間シリーズの第二弾である『キカイダー01』にてイチロー(池田駿介)が登場時に為していた啖呵切りである。

 前作の主人公にして弟であるジロー(伴大介)がギターを演奏していたのに対し、イチローはトランペットを吹奏。必ず高所から現れ、にもかかわらず毎度毎度「何処だ?何処だ?」と探し回るシャドゥマン達が間抜け過ぎる(笑)。
 しかもトランペット吹奏時、多くの場合イチローは上空を見上げ、敵に背中を見せている(ジローはちゃんと敵に正面向いている)。
 ともあれ、一頻り吹奏した直後、振り返って上述の啖呵切りを行ったイチローは、最大の攻撃チャンスを毎度毎度逸したシャドゥ一味(笑)の前に降り立ち、多くの場合すぐには変身せず、大立ち回りを演じるのである。

 そんなイチローの啖呵切りは「自分は正義の味方であり、悪は許さない。」という旨を述べるもので、極めてオーソドックスで、個性を感じさせない。だが『人造人間キカイダー』『キカイダー01』を通して見て、彼等の存在義や意思を考えると勿体ぶった登場・パフォーマンス・啖呵切りに大きな意義が見えてくる。

 まず、身も蓋も無い云い方をすれば彼等は無から作られた人造物である。『人造人間キカイダー』でジローは光明寺博士(伊豆肇)殺しの容疑を掛けられ、指名手配されたことがあったが、その際に刑事の一人は「物だから見つけ次第壊しても構わない。」とまで宣っていた。
 だが、造られた物でありながら、否、造られた物だからこそ、イチローもジローも下手な人間以上に人間の心を持ち続けることにこだわり、ジローに至っては戦闘に不利なのを承知の上で不完全な良心回路であり続けることを望んだ。
 そして兄であるイチローは、完全なる良心回路を持ちつつも、平和の危機が訪れた際の切り札的存在とされ、ジロー誕生からダーク壊滅、そしてその後3年の間仁王像の中に封印されていた。
 謂わば、この世に悪が無ければ兄弟は生まれないか、世に出る必要がないかの存在だった。それゆえ自分達が生まれ出でたことの意義を徹底した悪党退治に見出したのだろう。それゆえ特にイチローはシャドゥにとって嫌なタイミングで立ちはだかった。
 イチローの啖呵切りにおける「悪のあるところ必ず現れる」は正しくそこを強く訴えたかったのだろう。

 悪は許すべからざる存在である。そして人ならずとも正義は尊重されなければならない。様々な価値観が併存し、何が正義で何が悪かを断じ難く、正義も所や立場が変われば悪にされることも珍しくなく、偏った正義が暴走する惨禍も存在する現実世界だから、高らかに名乗りを上げ、正義を滔々と主張するイチローの長い啖呵切りは現代人の羨むところかも知れない。


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令和三(2021)年六月一六日 最終更新