その1.名トレーナー
立花藤兵衛を語る上において、彼が名トレーナーであったことは外せない。
世に「トレーナー」は様々あるが、藤兵衛の場合は2つのケースがある。オートレーサーを育てるトレーナーと、悪と戦う戦士を鍛えるトレーナーである。
◆Trainer for autoracer
『仮面ライダー』の第1話から登場している藤兵衛だが、そもそも初登場時の彼の立場は主人公・本郷猛(藤岡弘)が世界一のオートレーサーを目指して特訓を積む際のトレーナーとしてであった。
「立花さんには敵わないなあ(苦笑)。」という猛の台詞が、名前が出た最初であり、この時点で両者が師弟関係にあることが示されている。
ちなみに原作における藤兵衛は本郷家の執事(藤兵衛は猛を「ぼっちゃま」と呼び、猛は藤兵衛を呼び捨てにしている)で、立場はかなり異なるが、それでも初登場時はオートレーサーとしての特訓を積む猛のトレーナーを務めていた。
立花藤兵衛自身、若き日はオートレースの世界チャンピオンを目指し、『仮面ライダーアマゾン』では現役復帰していたし、『仮面ライダーストロンガー』では将来レーサーとして有望な若者を探索する放浪の旅の途次にあった。まあその人選眼はかなりいい加減にしか見えなかったが(苦笑)。
勿論、本郷猛のみならず、風見志郎(宮内洋)、神敬介(速水亮)、アマゾン(岡崎徹)、といった歴代ライダー達をオートレーサーとして育てんとするシーンが見られた訳だが、悪との戦いを優先したが為に夢を捨てた弟子達に想いを馳せるシーンがそれに伴ったのは宿命的であり、皮肉的でもあった。あ、一文字隼人(佐々木剛)はレーサー以前に免許取得のトレーナーを務める必要が…………(苦笑) 。
真面目な話、トレーナーとしての立花藤兵衛が輝きを放っているのは、彼がオートレーサーを育てることを決してぶれない夢としている点に尽きる。
『仮面ライダー』の第68話では、藤兵衛の親友で、ショッカーのトレーナーになっていた(振りをしていた) 熊木(高木二朗)にショッカーのトレーナーになれ、と強要された際に、藤兵衛はレーサーを育てる夢ゆえにショッカーの世になることに加担出来ない、と云い張るも、後にはその夢の為に熊木の説得に応じてもいる。まあ、この応諾には裏があり、その詳細は後述したい。
一方で藤兵衛はその夢を追うが故に、決して誇りを捨てないところも注目したい。『仮面ライダーX』の第14話でアポロガイスト(打田康比古)に狂い虫を持って拷問に掛けられた際、黙秘する藤兵衛に「(狂ってしまえば)もう二度と神敬介に会えない。世界レーサーを育てるのも夢になってしまうのだぞ!」と脅しを掛けたが、藤兵衛は怯えながらも「夢でもいい!俺はその夢を抱いて死んでやる!」と云い張っていた。これを聞いたアポロガイストは「狂って死ね!立花藤兵衛!!」と叫んで即座に殺そうとした(←勿論 Xライダーに阻止された)。
一見するとアポロガイストが短気に見えなくもないが、別の見方をすれば、藤兵衛の意志の強さが決して拷問などで覆ることがないのを認めればこそ、とシルバータイタンは見ている。
身も蓋もない云い方をすれば立花藤兵衛の積年の夢が叶うことは無かった(少なくとも作品上語られている範囲内においては)。だがこの意志の強さを多くの人間が尊敬したからこそ、ライダー達は戦闘上におけるトレーナーとしても藤兵衛を深く信頼し、ライダー以外にも多くの人間が藤兵衛と行動を共にしたと云える(番組の都合上、流動的ではあったが(苦笑))。
そう、藤兵衛の名トレーナー振りは、彼が発揮した様々な能力・功績・人望。引いては立花藤兵衛その人の基となっていると云っても過言ではないのである。
そこで次に、仮面ライダー達を敗戦や苦戦から脱却させた、名トレーナー振りを見てみたい。
◆Trainer for fighter
立花藤兵衛は改造人間ではない。勿論スーパー戦隊の一員でも、宇宙鉄人でも、新人類でも、人造人間でも、宇宙刑事でもなく、光の国の宇宙人が一心同体となった者でもない。あっ、光の国の宇宙人と一体化した人物の上司に酷似しているとの指摘はありますが(笑)。
また滝和也(千葉治郎)や佐久間健(川島健)のような国際的な官憲でもなければ、格闘家でもない。だが、彼はライダーの援護や、周囲の者達(主に女・子供)を守る為に格闘に身を投じることも厭わない姿勢は常に持っていた。
実際の所、作中の藤兵衛が何がしかの格闘技を行っていたかどうかははっきりしない。仮に藤兵衛の年齢が、演じた小林昭二氏のそれと同一とするなら、昭和5(1930)年生まれで、終戦時に15歳なら、尋常小学校のカリキュラム上、柔道か剣道は履修していただろうけれど、格闘時の動きを見る限り、格別何かの武術に精通しているようにも見えない。
勿論腕力・格闘能力的には改造人間には抗し得ないが、それでも設定上並の人間の3〜5倍の戦闘能力を持つ(筈)の歴代悪の組織戦闘員数名なら互角以上に戦っていた。特に『仮面ライダーストロンガー』では(電波人間タックルが戦死したこともあって)デルザー軍団の戦闘員とも格闘を繰り広げていたが、デルザー軍団の構成員は素体が「魔人」なので、戦闘員といえども人間ではない可能性が高いが、そんな戦闘員ともどうにかこうにかではあるが、藤兵衛は怯まず戦っていた。まあ中にはドクターケイト戦闘員のようにとんでもなく弱い奴等もいたから、何年間も戦ってきた藤兵衛が抗し得ても不思議はない気もする(笑)。
藤兵衛の戦い方を見ると、殴る・蹴るの打撃系でも、投げ飛ばす柔術系でもない。姿勢を低くしての体当たり―プロレス風に云えばサブマリン・タックルを基本とし、相撲で云うところの下手投げで戦闘員を払いのけ、背中のリュック、そこら辺の棒状の物体・岩・机等、武器に出来る者は何でも利用していたが、マーシャル・アーツやコマンドサンボ的にはこの方法は正しい。
変わった所ではブラックサタン戦闘員にアンクル・ホールドを掛けようとしたり、電波投げを試みたりしたこともあったが、これは『仮面ライダーストロンガー』ブラックサタン編での藤兵衛がコメディーリリーフ色の強い存在だったことも大きい(笑)。
ともあれ、基本は肉弾攻撃である。
特に圧巻だった体当たりは、岩石男爵に組み敷かれた仮面ライダーストロンガーを救い出し、形勢逆転に大きく貢献したワンシーンだった。
ここで個人的な武勇から本題に戻りたい。
立花藤兵衛の存在が光輝くのは名トレーナーとして、である。そしてその名トレーナー振りは彼が生涯の夢としたオートレースだけではなく、決して専門ではない戦闘、えげつない云い方をすれば殺し合いをも見事にサポートした。
本郷猛が改造人間にされてしまったことを最初に打ち明けられ、是も非も論ずることなくショッカーとの戦いに身を投じた立花藤兵衛。勿論彼はライダー達の側近くにいたことによって、改造人間や戦闘員に襲われたり、捕えられたりすることも度重なった。そりゃそうだろう。彼はライダー達と共に自分達の方から悪の組織に戦いを挑むことも辞さなかったのだから。
それゆえ、ライダーサイドにて悪の組織と格闘を行った者はレギュラーメンバーの中に数多く存在した。チョット表にして見てみよう。
主な格闘担当者
番組 格闘経験者(※括弧内は白兵戦の積極性) 『仮面ライダー』 滝和也(10)・マリ(4)・ユリ(3)・ミチ(6)・ミカ(5) 『仮面ライダーV3』 佐久間健(6) 『仮面ライダーX』 −
『仮面ライダーアマゾン』 モグラ獣人(3) 『仮面ライダーストロンガー』 岬ユリ子(10)
こうして見てみると滝和也・岬ユリ子(岡田京子)の存在感が大きいし、上記人物以外にも本当に必要な時は勇気を持って戦った者も多かったので、藤兵衛の周辺関係者は盛んに戦った様に見えて、実は少ない。
そして戦った者達も多くは戦いを本職としておらず、女性も少なくない。道場に通ったであろうレベルのフェンシングや空手が基本体術である。
ちなみに道場主がかつて呼んだ護身術に関する書物は、護身手段を「あくまで助けて貰うまでの時間稼ぎ」と定義し、暴漢をKOせしめる手段としていなかった。
いきおい、男手でもあり、数多くの少年少女の保護者的立場に立った藤兵衛は要所要所で格闘に身を投じた。
以上の経緯を見ると、やはり立花藤兵衛とは「育てる人」だったのだろう。
『仮面ライダー』の第3話にて、仮面ライダー1号の身体能力を測定した際に、重要な事柄2点に触れていた。
一つはライダーの身体能力が本郷猛自身の素の身体能力と密接に関係していることを述べた、
「猛、元々お前は優れた運動神経を持っている。」
の台詞である。改造手術によって増幅されたとはいえ、素体あっての体であったことは、人間の体を失いながらも、人間の心を残していた本郷猛への多いなる勇気となったことだろう。
もう一つは、
「その体は鍛えればまだまだ進化する。」
の台詞である。
本作における『改造人間』は初期において『パーフェクト・サイボーグ』と云い表されたこともあったが、シルバータイタンは「完全無欠の戦闘能力を持った」という意味においては『パーフェクト・サイボーグ』でも、「人間性を残している」という意味においては『パーフェクト・サイボーグ』ではないと思っている。
何から何まで『サイボーグ』なら、その体や性能は人工的な再改造を加えない限り、能力が向上することはあり得ないのだから。
藤兵衛が指摘したこの2点は、「仮面ライダー」という存在の根幹に関わる重要点で、長年本郷猛の親代わり的なトレーナーを務め、人もマシーンも「鍛える」ということに邁進して来た立花藤兵衛だからこそ、本来彼が挑む意志の無かった戦闘の世界においても名トレーナーたり得たのだろう。
では最後に、そんな名トレーナーにして、名参謀とも云える立花藤兵衛の助言・考案・叱咤激励の元に生まれた数々の技を見てみたい。
藤兵衛とのトレーニングで生まれた技
技名 特訓時の藤兵衛の役割 技がもたらした効果 電光ライダーキック サポート 一度敗れたトカゲロンを撃破 ライダー卍キック 叱咤 一度敗れたアリガバリを撃破 ライダー車輪 立案・サポート 能力互角・数において不利なショッカーライダー図を一網打尽 V3ダブルアタック 叱咤・サポート 一度敗れたナイフアルマジロを撃破 ビッグスカイパンチ&ビッグスカイキック サポート 一度敗れた火炎コンドルを撃破 V3マッハキック 叱咤 一度敗れた死人コウモリを撃破 X二段キック 叱咤・サポート 一度敗れたマッハアキレスを撃破
いずれも有名な例だが、これらのトレーニングを促したり、実際に付き合ったりする中で、藤兵衛は様々な顔を見せた。
初特訓だった「電光ライダーキック」や「V3ダブルアタック」の特訓時にはライダー1号やV3に無理し過ぎないように戒めてすらいた。
だが、「ライダー卍キック」・「ライダー車輪」・「V3マッハキック」を生み出した際には鬼監督・鬼コーチと化していた。特に「ライダー卍キック」と「V3マッハキック」を生み出すきっかけとなった2号ライダー・V3の敗退時は弱音を吐く一文字と風見に平手打ちまで喰らわせていた。
ちなみに「ライダー卍キック」と「V3マッハキック」が生まれた背景は、登場人物と改造人間を除けば「ストーリーまでもが全く同じ」とさえ云われている(笑)。
そして初敗北に「何がXライダーだ……。」と自虐的になる程打ちひしがれていた神敬介(速水亮)に対しては、それまでの名トレーナー経歴もあって、過去の例を持って敬介を奮起させ、焦りながら訓練を積むXライダーに冷静になるよう促し、敵の特技に注目するヒントを与え、最後には体を張って技の開発に付き合いもしていた。
恐らくはこの「X二段キック」の特訓と、「ライダー車輪」の特訓並びに成果が名トレーナー・立花藤兵衛の存在を不動ならしめたと云えるだろう。
◆敵も認めたトレーナー
そんな「育てる人物」である藤兵衛は敵方も意識しており、ライダー達の弱みを握る為に度々藤兵衛を人質に取ったし、『仮面ライダーストロンガー』の最終回で彼を人質に取ったことを知らしめる際にヨロイ騎士は「うぬ等の育ての親」と藤兵衛を表現していた。
だが悪の組織は藤兵衛の立場だけに注目した訳ではなかった。
『仮面ライダーストロンガー』の第22話にて百目タイタン(浜田晃)は藤兵衛を処刑宣言した時に、「協力者・立花藤兵衛」と呼んでいた。歴代悪の組織が藤兵衛の助力を得たライダーの前に如何に煮え湯を飲まされて来たか知っていたのだろう。
そんな悪の組織の藤兵衛観を端的に表した例が死神博士(天本英世)=イカデビルといえよう。
第68話にて死神博士は、藤兵衛の親友・熊木に藤兵衛拉致を協力させ、藤兵衛にイカデビルのトレーナーを命じた。
結論から云えば、藤兵衛をトレーナーとしたことで自らの弱点(頭部)がライダー1号にばれる羽目になり、自らの死を招いたのだから、自爆でしかなかったのだが、初戦でライダーキックをキック殺しで封じて完勝した筈のイカデビルがそれでも油断せず、特訓を積んでいたのは興味深い。
これはシルバータイタンの推察だが、藤兵衛をトレーナーとしたのも、彼がトレーナーとして優れていたことに加えて、あわよくばライダーの弱点を聞き出そうとしたのではないだろうか?その気持ちがあったからこそ、うっかり自分の弱点を漏らしてしまったのではないだろうか?心に無いことは口から出ないものだから。
いずれにしても、目の付け所は悪くなかった。
死神博士は熊木を通じて、「トレーナー役を承知しないとライダー1号と戦わない。」として藤兵衛の了承を得ている。様々な意味で藤兵衛の資質と性格を考えていたのが見て取れる。
たられば論は好きじゃないし、番組が成立しなくなる暴論だが、立花藤兵衛が何処かで悪の組織の手に掛っていれば、世界征服の成否までは論じられないが、仮面ライダーの1人か2人は落命していたであろうことは想像に難くない。
それほど立花藤兵衛とは偉大で、悪の組織にとっては恐るべき人物だったのであった。「敵にも認められる」程に確かな資質もなかなかあるものではない。
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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新