ウルトラマンゴッコにおいて演じたゾフィー
幼少の頃、道場主はひ弱極まりないちびっ子だった。腕力で人に劣り、動きものろく、心身ともに痛みに弱く、心根も臆病で、同世代相手に喧嘩に勝った記憶など10代まで皆無だった。
それゆえに怪獣ごっこをすれば、本当はヒーローを演じたいにもかかわらず怪獣役=やられ役を強要された(勿論いじめっ子やガキ大将がウルトラマンや仮面ライダーを演じるのである)。
そんな悔しさを腹に隠し、それでも負けを認めたくない一念から、宇宙恐竜ゼットン、磁力怪獣アントラー、分身宇宙人ガッツ星人、火山怪鳥バードン、等のウルトラ兄弟に勝ったり、ウルトラ兄弟を苦戦させたりした怪獣や宇宙人を選んでは演じた。
また、好んだのは複数のヒーローが登場するケースで、ゴレンジャーごっこではキレンジャー役が振られ、仮面ライダーごっこではライダーマンやアマゾンライダーを演じた。
そして、ウルトラマンごっこでガキ大将がその時点での再放送で主役を張るウルトラマンを演じる際に、幼き日の道場主が演じたのがゾフィーだった。
本来ならウルトラ兄弟の長兄であり、最強戦士であり、宇宙警備隊長でもあるゾフィーはガキ大将が演じてもおかしくなかった。
にもかかわらず、当時、道場主もガキ大将も殆ど問題なく道場主がゾフィーを演じることに同意した。それは当時の子供達の間では「ゾフィーは弱い。」との誤解があったからである。
再放送の関係もあるのだろうけれど、当時(昭和50年代)の道場主周辺ではゾフィーに関してはゴルゴダ星で十字架に磔にされたり、地獄星人ヒッポリト星人にブロンズ像にされたり、バードンや暴君怪獣タイラントに敗れたイメージから、咬ませ犬としてのイメージが強く、
「ゾフィーの胸にある突起物は怪獣に負けた数」
などという訳の分からない都市伝説さえ存在した(大阪府某市での超ローカル伝説だとは思うが)。
また、当時のヒーロー物や漫画の影響か、子供達は兄弟と云えば長兄よりも末弟を贔屓にした。
そんな中、自身が長兄であり、不遇の戦歴に同情し、それでも地底エージェントギロン人・大蟻超獣アリブンタを倒した時の猛者振りと、(異次元超人エースキラーが放ったものとはいえ)M87光線がロボットエースを粉砕した時の衝撃から最強戦士ゾフィーに惚れこんでいた道場主は喜んでゾフィー役を引き受けた。
かような思い出の中にゾフィーを演じて来た訳だが、小学高校学年辺りになると世間体からヒーロー物に熱中することを恥ずかしがり、大学生になってレンタルビデオを借りるようになるまで、約10年間特撮から遠ざかったが、昨今に至って、第2期ウルトラシリーズ時代とは違った貫禄を見せ、長兄でありながら、隊長・盟友といったカラーまで見せるようになったゾフィーに新たな魅力を覚えるとともに、ヒーローもまた成長することが無償に嬉しく思い、この喜びが本作を綴るきっかけとなった。
ウルトラ兄弟の長兄にして、M78星雲の宇宙警備隊長にして、最強戦士にして、ファミリーの代表の顔を持ち、複数の地球人と融合体を為し、咬ませ犬的な役割を担いつつも、様々な存在と盟友関係を持つ、という多面性のウルトラマン・ゾフィー。
独自の番組を持たぬゆえに(特番はあったが)、彼の七変化が八変化、九変化していくのを楽しみにしている特撮ファンはシルバータイタンだけではあるまい。
突然の訃報
本作・『ゾフィー七変化』のアップを始めたのは平成23年3月10日の事だった。
その翌日、3月11日に東日本大震災が東北・北関東に甚大な被害をもたらし、1万数千の人命が奪われた。道場主は各分身達との交流から10日以上かかってからようやく友人・知人全員の無事を確認した。
被災されたり、亡くなられたりした多くの方々には申し訳ないが、友人・知人に死者がいないことに気を落ち着けて本作を綴っている最中、更なる訃報に驚愕せざるを得なかった。それは、
平成23年4月25日の田中実氏が亡くなった、との報だった。
この文章を綴っている段階で田中氏の死去から三ヶ月も経過していないので個人の尊厳を傷つけぬよう、慎重に筆を進めたいが、一言で云って、非常に気まずく、憤懣やる方なかった。
第6頁で盟友としての、第7頁で融合体としてのゾフィーについて綴ると決める前から、ゾフィーが『ウルトラマンメビウス』の最終回にて田中氏演じるGUYSジャパンのサコミズ隊長と合体して暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人との最終決戦に臨んだことについて言及することは決定していたから、その執筆直前に田中氏が亡くなったことに対して、
様々な意味で「何で??」と思わずにはいられなかった…。
享年44歳……死因が死因ゆえに年齢は関係ないが、それでも死神に抗議したくてたまらなかった…。
いつもの悪い癖で、「悪徳政治家、世界の圧政者、凶悪死刑囚、と他に死に値する奴等はいっぱいいるのに……。」と思わずにはいられなかった…。
『ウルトラマンメビウス』でGUYSクルージャパンのメンバーを演じた俳優諸氏のブログを見て、受け入れ難い田中氏の死を受け入れざるを得ず、俳優諸氏の嘆きに、自らの悲しみもまた深まるのを禁じ得なかった…。
勝手ながら、「よりによって(本作を制作中の)このタイミングで!?」という不謹慎な考えも脳裏をよぎってしまった…。
嘆きの言葉や想いは尽きないが、田中氏が今後サコミズ隊長並びにサコミズ総監を演じることが永遠に無くってしまった中、以後綴り続ける特撮の魅力の中に生前の田中氏の活躍・好演を織り交ぜることで、氏の偉業を永遠ならしめ、最大限の供養としたい限りである。
謹んでサコミズ・シンゴ隊長を演じ、束の間の一時、ゾフィーとしても奮闘した田中実氏の御冥福をお祈り致します。
平成二三年七月二日 道場主
故田中実氏に捧ぐ
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令和三(2021)年六月一一日 最終更新