3.スミス長官(ピエロ・カラメロ)

役名スミス長官
演じた俳優ピエロ・カラメロ
登場話第5話
分類得意技弱点部下
潜在危機不看過型責任転嫁・腰巾着部下操縦動物愛護団体(推測)鮫島参謀
◆まず何人だ?◆
 『ウルトラマンタロウ』の正義のチームZAT(=Zariba of All Terrestrial)は地球警備隊に属する。
 地球警備隊はフランスのパリに本部を持ち、アフリカ支部(拠点は南アフリカ)、極東支部(本拠は日本・東京都千代田区)、北米支部(本拠はアメリカ)、北極支部(本拠不明)、南米支部(本拠はアルゼンチン)の5つの支部を持つ(ヨーロッパはパリ本部の管轄下にあるのだろう)。
 その極東支部の長がスミス長官である。

 このスミス長官は軍人色と同時に政治家としての色も見え隠れする。作品中ただ一回の出番である第5話にて東京に居座る大亀怪獣キングトータス・クイントータスをどうするかの結論がほぼ出掛けた所にスミス長官鮫島参謀(大下哲矢)とともにやって来た。
 キングトータス・クイントータス夫婦による襲撃クラスの怪獣禍は作品中何度も見られたことで、再生ベムスターやテンペラー星人の襲撃の方が余程長官・参謀クラスの登場に相応しいのだが、そんな時に出て来ずに、一企業の社員達がピンポイント攻撃を受けた事件にスミス長官が出張って来たのは大亀怪獣の居住するオロン島がスミス長官の国の領土内に海底火山の噴火で出来た島だったからである。

 スミス長官が大亀怪獣の巨大さから自国領海内における商戦・漁船・客船等の船舶・艦隊が安全に孝行する為に大亀怪獣を排除すべき障害と見たことに端を発し、彼はZATに大亀怪獣の駆除を命じに来たのである。
 当のZATでは大亀怪獣夫婦が卵を死に至らしめた悪徳興業会社社員・第四桜丸乗組員への復讐を果たしたのでこれ以上危険は無いと見て、彼等をただ1つ残った卵をオロン島へ返す事を決めたところだったのでスミス長官とは意見が対立する事になった。
 スミス長官ZATのどちらの意見が正しいかはここでは論じない。シルバータイタン個人の意見としては、結果として大亀怪獣一家はウルトラセブンの協力もあって宇宙に安住の地を得た訳だが、セブンの助けが来ない時点の判断として大亀怪獣を駆除する方が正しかったのか、放置する方が正しかったのかは判断が付けられないからだ。
 だがスミス長官の命令に自国の事情がかなり色濃く含まれている事が戴けない。

 ここで少し話が逸れるが、気になるのがスミス長官がどこの国の人間であるかと云うことである。
 いや、別に何人でもいいんですけど、知的好奇心が何故かそそられまして……(苦笑)。
 現実の国際組織において構成員が自国の国益を図るのは良くあることだが、それを露骨に行っては爪弾きに遭い、可能とするにはその国が大国としての国力を背景に強行姿勢に出た場合が多い。
 「スミス」の名からすると英語圏の人間と思われるが、極東支部に所属すると国となるとアメリカ・イギリスは外れるし、スミス長官は明らかに白人だ。となるとオーストラリア人か、ニュージーランド人だろうか?オセアニアが極東支部の管轄下に入るとは思えないが、他の四支部にオセアニアを含みそうな所もない(サッカーのワールドカップ予選もオーストラリアはアジア予選に参加している)。
 極東軍事裁判でもウェッブ裁判長を初め、オーストラリアは日本に厳しかったことだしな(←何のこっちゃ)。
 オーストラリアの海にホオジロザメのような大きな鮫が生息する環境なら亀怪獣も大亀怪獣となり得るかもしれない。
 話が横道に逸れたが、スミス長官解剖する上において、背景を見ておきたかった物と了解願いたい。


◆寡黙な中に見え隠れする言動◆
 スミス長官朝比奈勇太郎隊長(名古屋章)以下のZAT隊員達とは終始日本語で会話していた。発音からすると然程上手とも思えないが、言葉自体は分かり易く、欧米語訛りが抜けないぐらいで聞き取り辛い訳でもない。口数を多く必要としなかったのは同行した鮫島参謀が見事なまでに太鼓持ちを演じてくれたからに他ならない(笑)。

 実際、スミス長官の長官としての有能性を考えるなら戦術的な指揮は鮫島参謀に任せ、自らは背景的な重要事項と万一に備えての責任の所在以外に余計な事を喋らず、ZATがあくまで自分の意向に逆らうと確信するまではフレンドリーな佇まいを崩していない。余計な事を喋らずに済ますという長所は口から先に生まれてきた道場主には全く欠落している………ぐええええぇぇぇぇっ!!(←道場主のシュミット流バックブリーカーを食らっている)。
 ゴホゴホ…、責任問題に付いてはその問題点を後述するが、ZAT基地内におけるスミス長官の言動は横暴でも的外れでもない。
 どちかと云うとキングトータス達をオロン島に戻して巨大生物の繁殖を問題視した際の問題に対して、オロン島を領有するスミス長官の国の立場も考えず軽く発言した東光太郎(篠田三郎)の「オロン島を亀の保護区にしましょう!」や、それに賛成した荒垣修平副隊長(東野英心)の根拠が「夢がある。」の一言や、両者の間にあって朝比奈隊長を説得しようとした際の鮫島参謀「どうせ相手は畜生だ。この際一思いに殺ってしまっては?」の発言の方がその思慮に深味が感じられない。

 スミス長官が子供心にも嫌な奴に見えたとしたら、大亀怪獣を最初から殺すと云う方針しか持たず,ZAT隊員達の説得に聞く耳を持っていなかったことだろう。だが既に述べたように、「結論ありき」に対する賛否は別にしてスミス長官の長官としての言動は然程無茶苦茶でない事は改めて認識したい。
 もっとも、ZAT基地を後にしてからのスミス長官の行動にはかなりの疑問が残るのだが…。


◆キングトータス暴動の責任は誰に?◆
 ZATが自分の大亀怪獣抹殺命令に従わない事を悟ったスミス長官は「もうZATには頼まない!」と不快の念を表しながら、オロン島での大亀怪獣によってもたらされた被害の全責任はZATにある、と宣言し、朝比奈隊長もこれを了承せざるを得なかった。
 ま、明らかに命令に服従しないと表明した以上、それによって生じた責任は命令に従わなかった者が負うのは当然である。
 だが自らの方針に凝り固まったスミス長官はこの後せっかく定めた責任の所在を帳消しにするかのような不可解な行動に出る。

 大亀怪獣夫婦の卵を巨大バスケットに入れて持って帰らせるという冗談みたいな作戦の結果、大亀怪獣夫婦は無事に卵とともにオロン島に帰りつき、大亀怪獣は元の大人しい海亀としての生活に戻ったかのように思われた。
 だが突如として地球警備隊水上艦隊の艦砲射撃が大亀怪獣を襲った!

 全く持って不可解である

 いや、ストーリー上スミス長官にこういう役が振られるのは分からないでもないのだが、現実の軍事的戦略や責任問題に即するなら地球警備隊は自らの側からは攻撃せず、大亀怪獣がオロン島周辺を航行する船舶に危害を加えかねない行動に出た、と見た時に水上艦隊に迎撃させ、ZATの判断ミスを糾弾するのが常道である筈だ。

 なのにスミス長官の方で先制攻撃を仕掛けて大亀怪獣夫婦を怒らせては完全に彼の薮蛇行為である
 そして先制攻撃で大亀怪獣夫婦を怒らせて暴れさせたにも関わらず大亀怪獣抹殺に反対してオロン島に帰したZATに責任を負うことになった展開を見るにつけ、朝比奈隊長のお人好し振りも、上官の非を認めずに部下を一方的に責め立てる鮫島参謀の腰巾着振り大問題である
 結局この後、地球警備隊並びにZATは大亀怪獣親子を地球上に住まわせる方策が取れず、有害怪獣として駆除するしかない状況に負い込まれた。
 結果としてウルトラセブンの助力もあって、大亀怪獣親子は地球外の安住の地へと誘われて殺すことなくオロン島の平和も維持されることとなった訳だが、スミス長官への大亀怪獣先制攻撃への問責はなく、ささやかな抵抗として鮫島参謀の執拗な攻撃指示に基地内で傍らに立っていた朝比奈隊長も、現場の荒垣副隊長以下の面々も従わなかったことぐらいなのには多いに不満が残った。

 僅かながらに胸の内が慰められるのはシリーズを通して大亀怪獣への攻撃が非とされ続けた事だろう。当時の子供雑誌でもタロウはこの一件をウルトラの母に後で叱られた、と記した物があり、第38話に大亀怪獣の事件で両親が命を落としたという少女・ひとみ(天野美保子)が登場し、光太郎が非常に気まずそうにするシーンも見られた。
 スミス長官鮫島参謀朝比奈隊長以下ZAT隊員一同も意見の一つ一つは皆、一理もニ理もあることを云っており、どれが正しいかの断定は誰にもできなかった物がある。しかし、少なくともZATに責任を負わせた以上、スミス長官は大亀怪獣を先制攻撃するべきではなかったことと、先制攻撃によって生じた被害はZATではなく、薮蛇行為に出たスミス長官にあった事を、最後に訴えて締めたい。


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令和三(2021)年六月一一日 最終更新