対マリバロン……君命と同士

マリバロンDataBase
肩書き怪魔妖族大隊隊長にしてクライシス帝国地球攻略兵団諜報参謀
配役高畑淳子
主君クライシス皇帝
上司ジャーク将軍
配下怪魔妖族・霊界怪人
武器鞭、金の羽根、吐炎、各種妖術
 怪魔妖族大隊隊長兼諜報参謀マリバロンは四大隊長の中の紅一点であり、ボスガンと並ぶ純粋なクライシス人でもある。
 ジャーク将軍を含む地球攻略兵団重鎮達の中で一番要望が人類に酷似しており、地球人の女性に成り済ました登場(勿論高畑淳子さんが演じているのだ)も数回存在する。勿論高畑さんが素顔で演じる分、喜怒哀楽も豊富で分かり易く(勿論他の隊長達が感情に乏しいわけではない)、彼女のみが演じ得る役割も多く、それは同時にジャーク将軍という人物(?)を観察する上において大きなウェイトを占める事は云うまでもない。

 ジャーク将軍マリバロンとの対人関係の興味深さはそれが決して二人だけの間に留まらない事にある。そこで以下に第三者を交えた四つの観点から列記してみたい。
 ■同士として(例:対クライシス皇帝)
 ■参謀として(例:対地球攻略兵団)
 ■族長として(例:対百目婆ぁ)
 ■紅一点として(例:対南光太郎)


 まずは初めの同士としてだが、マリバロンジャーク将軍に対する敬意が半端な物じゃないのは『仮面ライダーBlackRX』を数話でも見た事がある人であれば誰もが異論を抱かないところだろう。
 そしてジャーク将軍マリバロンに対する上司としての思い遣りもまた特筆ものである。

 2頁前でも触れた様に、ジャーク将軍は信賞必罰に公正で、実は錫杖から発する麻痺光線の洗礼を最も多く浴びているのが純粋クライシス人であるマリバロンなのだ(3回浴びている。他はガテゾーンが2回で、ボスガンとゲドリアンは1回のみ)。
 だが、最高責任者であるジャーク将軍が信賞必罰に公正であるべきなのは当然で、ジャーク将軍マリバロンへの思い遣りは時として君命に反する事も辞さない、という極めて稀有な点に尽きる。
 そもそもジャーク将軍は第28話以降、地球に「皇帝陛下の代理人」と称してやってきた査察官ダスマダーがクライシス皇帝の権威を振りかざして批判・独断強要・処罰をちらつかせるなどの気に食わない言動を繰り返すことに対して、表立った不平を云わなかったが、部下達に対する勝手な手出しも基本的にはさせなかった。

 その最たるものは第38話のラストにて強化細胞の機密をRXに漏らしたマリバロンをダスマダーが斬り殺そうとしたのを、ジャーク将軍が闇討ちにした事だろう。
 マリバロンとてうろたえながらも金の羽根を構えようとしていた事から査察官如きの私刑をむざむざ受ける気は無かったのだろうけれど、ダスマダーを背後から刺し、「そちは余の同士だ。ダスマダー如きに殺させはせん!」と宣するジャーク将軍に感激と安堵の入り混じった表情が、両者の信頼関係の全てを物語っていた。実に良いワンシーンだった…。高畑さんの美しさとともに…(←道場主:「高畑淳子さんは俺の好みのタイプなんだよぉ、文句あっか!!」、薩摩守「落ち着いて下さい、道場主。誰も文句云ってませんよぉ」)。
 これより以前、第14話でクライシス皇帝の皇女ガロニア姫が謎の消失を遂げた事件でも養育最高責任者のマリバロンが「私の首を差し出すだけでは済まされない…。」と項垂れる大事件にも、彼女が替え玉作戦を画策しているとの報を受けた際にこれを許し、最終的に第17話で替え玉作戦に失敗した際にも「ガロニア姫はRXに暗殺された、と皇帝陛下に報告した。」という吃驚仰天の一言でマリバロンを助けている(前にも触れたが、よく処刑されなかった物である……)。

 上司が上司だから、部下も部下で相手への思いは尋常ではない。査察官ダスマダーは事ある毎にクライシス皇帝の権威を振りかざして虎の威を借る狐の如く、薩摩守っぽく云えば「徳川綱吉の威を借る柳沢吉保」の如く振る舞い、当然の如くジャーク将軍以下、四大隊長にも嫌われていた。
 そんなダスマダーに対してマリバロンが頭を下げて懇願した事があったが、それはジャーク将軍助命の為だった。
 第46話で地球に降り立ったクライシス皇帝はゲドリアン・ガテゾーン・ボスガンの三大隊長を失い、残る一人であるマリバロンまでが顔に傷を受けて戻った戦況に業を煮やし、ジャーク将軍の処刑を宣言した。
 妙な蔦に絡まれて宙に持ち上げられた状態で苦悶の声を挙げるジャーク将軍の姿に居た堪れなくなったマリバロンは普段の仲の悪さを忘れたかの様に、ダスマダーが皇帝側近であることに一縷の望みを託して、「皇帝陛下にジャーク将軍の命乞いを!!」と半狂乱になって絶叫混じりに懇願した。
 結局この時、皇帝はジャーク将軍を最強怪人ジャークミドラに変態させ、仮面ライダーBlackRXに対する最初で最後の出撃を命じた。そしてその戦いでジャークミドラはバイオライダーのバイオブレードを眼に受け、敗色濃厚となるとマリバロンは再度ダスマダーにジャークミドラ救援を要請するが、ダスマダーはこれを拒絶。リボルケインを受けたジャークミドラジャーク将軍の姿に戻るとRXの勝利を祝しつつも皇帝に勝てない事を宣言して爆死した。
 その後のマリバロンはもはや抜け殻に等しく、善後策手配を促すダスマダーにも無気力な声で「我等二人だけではもうどうにもならぬ…。」と呟く始末で、ダスマダーの命ずるままに南光太郎に対する皇帝との会談の使者に立つときも感情というものを見せなかった。

 マリバロンに怒りの感情と供に生気が甦ったのは皮肉にも彼女の最期にあった。
 南光太郎と一対一の対談に臨んだクライシス皇帝は光太郎を懐柔せんとして、あろうことか仇敵である光太郎にジャーク将軍の後釜になれ、と云い出したのだった!!
 部下であり同族でもある怪魔妖族6体の仇にして、怪魔妖族頭領であり大伯母でもある百目婆ァの仇、同僚・ボスガン、ガテゾーン、ゲドリアンの仇、誰より敬愛する上司・ジャーク将軍の仇である南光太郎がジャーク将軍に代わって自分達の総司令官にすると云うのだから、マリバロンは君命とは云え到底従い得る話ではなかった。
 マリバロンは怒髪天の形相で皇帝に反対の意を告げ、皇帝の返事も待たずに光太郎に攻撃を仕掛けた。
 しかし部下の無念をカケラでも思うような皇帝ならハナから多くの臣下を殺した光太郎を(例え見せかけの駆け引きであっても)ジャーク将軍の後釜に据える提案などしたりしない。そんな皇帝にとってマリバロンの独断専行は容認できるものではなく、光太郎を攻撃しようとしたマリバロンの金の羽根を撃ち落とし、赤い光弾を放ってマリバロンの命を奪った……。
 ヨロイ元帥、ゼネラル・モンスター、剣聖ビルゲニア、と仲間や主君に命を奪われた幹部はマリバロン一人ではないが、叛逆者と見なされ、しかもそれが上司を想っての行為だったなんて例は他にない。
 ジャーク将軍マリバロンの絆の強さに疑いはないが、それをもっとも感情濃く表したシーンは余りにも悲しく、皇帝の酷薄さ、一年に渡って戦ってきた相手への想いに流石の南光太郎も声を失うしかなかった……。


 続くは参謀として、つまり諜報参謀としてのマリバロンである。海兵隊長であるボスガン、機甲隊長であるガテゾーン、牙隊長であるゲドリアンとの協調関係にある姿に注目したい。
 他の三大隊長が剣・銃・体術でもってRXと干戈を積極的に交えたのに対して、マリバロンは諜報参謀の肩書きが示すように誘拐・間諜・偵察・交渉・暗殺が主となる。

 それらが顕著となるのはジャーク将軍の命令一下、四大隊長が一丸となる時で、第29話、第30話、第35話が特に顕著である。
 第29話と第30話は番組終盤で光太郎たちの仲間として重きを為す水の妖精・的場響子(上野恵・現:深山凛)の登場と仲間入りを果たす重要な回で、クライシス帝国も2週に渡って響子の父が所長を務める浄水場の襲撃・占拠、支配した水をたてにしての人類への服従を強いる計画を敢行する。
 計画はゲドリアンが浄水場襲撃、ボスガンが水資源の怪魔界への転送、ガテゾーンが水の城建設・襲撃者撃退を担当し、計画を説明するジャーク将軍は「当然マリバロンにも活躍してもらう。」と彼女の任務への従事を当然の責務であり、同時に当然の権利の様にも話した。
 マリバロンの任務は、水を失った地球人に対し、水の供給をたてにクライシス帝国への服従を迫ることである。
 この作戦その物は的場響子の予想外の能力の為に頓挫するのだが、途中、南光太郎が水の在り処を探る為にマリバロンに追従する道化師の一人に摩り替わって潜り込んだが、マリバロンは足音のリズムが違う、という些細な相違点から光太郎の潜入を看破した。流石は諜報参謀と云った所だろうか。

 他にも第44話では政府高官との極秘会談でクライシス帝国側の全権として日本国総理大臣との会談に臨んでいた。厳密には諜報とは関係のない仕事だが、ナイトの高慢さが抜け切らないボスガンや、工作オタクで駆け引き知らずのガテゾーンや、好環境嫉妬野郎のゲドリアンが行くよりはマシだろう(笑)

 ちなみに個人的に注目しているのは、ジャーク将軍と四大幹部の中で唯一人、マリバロンだけが査察官ダスマダーの正体に気付きつつあったことである。
 マリバロン自身の口からはダスマダーの正体について直接の言及はなかったのだが、「ひょっとして、お前が…。」の台詞に続く言葉は「皇帝」の2文字以外には考えられなかった。他の四人がカケラも口にしていなかったことを考えるとこれまた諜報参謀ならではだろう。


 続くは族長として、つまり怪魔妖族大隊隊長としてのマリバロンである。
 族長という言葉を使ったのは、シルバータイタンが四大隊長の中でマリバロンこそが最も同胞意識というものを漂わせていると見ているからである。
 他の三大隊長も配下に対して同胞意識を持っていなかったわけではなく、ボスガンはガイナジャグラム、ガテゾーンはスクライド・デスガロン、ゲドリアンはゲドルリドルを庇ったり、死を悼んだりするシーンがあったが、ボスガン・ゲドリアンは部下に対する情の域を出ず、ガテゾーンは自作に対する愛着の色合いが強かった。
 その点、マリバロンは実の大伯母である百目婆ァへの敬慕の表情にその死に対する憤りからも明らかだが、個人的に注目しているのは第38話である。
 クライシス本国から宇宙船に乗ってやってきた移民団500名は地球攻略兵団が着用している強化細胞が行き渡らず、生身の肉体で地球に降り立ったものの、亜硫酸ガスが大気成分の大方を占める怪魔界で生きてきた彼等は地球環境に拒絶反応を起こし、一人残らず悶絶死した(侵略者とはいえ、哀れなワンシーンだった……名目は移民だっただけに……)。
 一刻も早く移民団を受け入れる場を設ける為に、マリバロンは怪魔界と同じ環境造りが容易な地下都市の建設を進言し、ジャーク将軍もそれを容れ、マリバロンは怪魔妖族天空に奇跡の治癒をもたらす信仰宗教の教祖に扮して地球人を大量に拉致させ、拉致してきた人々を地下都市建設の強制労働に従事させた。
 そこに潜入した的場響子から移民団全滅を知った光太郎は工事中の地下都市内で対峙したマリバロンに侵略と並行した移民の悲劇を詰られると、怒りと悔しさから対強化細胞を移民団に供給できなかった無念を漏らした。
 この強化細胞の存在は国家の最重要機密で、これを漏洩したことはダスマダーが「処刑」の言葉を口にするほどの失態で、天空が慌ててマリバロンを口止めしようとしたが間に合わなかった。そしてここに注目すべきことが二点ある。
 1つは重要機密でありながらそれを対漏らしてしまうほどマリバロンの無念が大きかった=同胞を思う気持ちが強かったこと。もう1つは天空がマリバロンのミステイクを止めようとした事で、これは他の三大隊長とその部下には見られないやり取りである。
 シルバータイタンが「族長」としてのマリバロンに注目したのがそこなのだ。仮にも「族」なのだから、云い換えれば「身内」である。そんなマリバロンの同胞意識は怪魔妖族内に留まらない。
 マリバロンと彼女に絡む者は自然、その色合いが濃くなるのである。そしてそんな彼女だからこそ、ダスマダーが強化細胞の機密漏洩の咎で処刑せんとした時に他ならぬジャーク将軍が闇討ちしてまで助けようとしたのだろう。
 蛇足だが、第15話でRXを怪魔界につれて来てしまった罪でジャーク将軍より処刑命令が下ってしまった怪魔ロボットデスガロンはRXの首を取ることを条件とした助命嘆願をマリバロンに申し出る、というシーンがある。
 まあ、あの時点あの場ではデスガロンが接触し得る幹部はマリバロンしかいなかった訳だが、直属上司のガテゾーンやボスガン・ゲドリアンでは勝手が違ったであろう事は容易に想像される(ちなみに助命嘆願了承は後に反故にされる)。


 最後の紅一点として見るジャーク将軍マリバロンに見る人間(?)模様だが、これまたなかなかに深いものがある。

 ゴルゴムの紅一点にして大神官ビシュム(好井ひとみ)には世紀王シャドームーン(堀内孝人。CVは寺杣昌紀)の御后の地位を狙っているとの勘繰りをダロムは抱いていた(真相は不明)。同じくクライシス帝国の紅一点であるマリバロンジャーク将軍に対して恋愛感情を抱いていたと云うのはかなり過言だが、マリバロンジャーク将軍に対する経緯が半端な物じゃないのは前述通りである。

 そこに男女の中を見出すのは些か強引だが、それ以外にマリバロンはビシュムに比べて明かに紅一点の役割を振られている。
 純粋なクライシス人である事からガテゾーン・ゲドリアンを格下に見ている筈の彼女がしな垂れかかってRX抹殺を激励した相手は以外にもガテゾーンである(←羨ましいぞ、北村隆幸!!)。
 また地球人に4回変装して諜報活動を行っていたが、佐原ひとみを誘拐する為に老婆に変装したのは別として、他の3回は完全に地球人スタイルでの登場で、「実生活の高畑さんもああ云うスタイルでいらっしゃるのだろうか…。」と想像してうっとりする道場主の夢見心地な表情は誠に見苦しく……ぐえええぇぇぇぇぇぇ……!!(←道場主にサソリ固めを食らっている)。
 痛てててて…まあ、マリバロンの色香には第2話で早くも速水速人刑事が惑わされ、第32話では祖父一人・孫娘一人で暮らす少女・ミカに警戒心を抱かせないそれなりに包容力のある女性を演じていた(最後の最後で少女の人形を大切にする気持ちを無視して「新しいの買ってあげるわよ。」と云っていた点も悪役のロールプレイとしていい演出だった)。

 最後に挙げたいのは第30話での南光太郎とのやり取りである。前述した様に、従者である道化師に化けた光太郎を見破ったマリバロンは、他の道化師=チャップに光太郎への攻撃を命じるが、勿論あっさり蹴散らされる。
 水の在り処を白状させんとして迫るRXに、突然マリバロンは「RX、私は強い男が好きだ……。」と云い出し、クライシス皇帝を倒し得るならRXの言に従ってもいいとまで云い出した。
 もっとも、終始意味ありげな笑みを浮かべてのたまうマリバロンの仕草からは本気とは思えず、クライシス皇帝やジャーク将軍がRXに不覚を取ると思っていない信頼を利した猿芝居とも取れる。
 個人的な趣味もあって紅一点としてのマリバロンに注目したが、正直、そこにジャーク将軍に絡む直接的な関係はない。
 だが、敬愛する男性の強き姿に追従する女性の姿は、そうした女性を得たいと思う男の願望の対象でもあり、そこに信頼と敬愛をにじ増せた一人の女性の美しき姿は善悪を超えて1つの絆を感じさせてくれると云っては過言だろうか?


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令和三(2021)年五月一九日 最終更新