ジャーク将軍喜怒哀楽

ジャーク将軍とは?
 云わずと知れた仮面ライダーBlackRXの宿敵・クライシス帝国軍の大将。地球の双子星にして滅びの運命を持つ怪魔怪の母国・クライシス帝国を統べる皇帝より地球征服の命を受け、帝国の属する四つの部隊(怪魔獣人大体・怪魔妖族大隊・怪魔ロボット大隊・怪魔異生獣大隊)を率いて地球にやってきた。

 「悪の組織大幹部に学ぶリーダーシップ」でも触れたが、四人の大幹部を率いる一方で彼にはクライシス皇帝という主君が存在し、査察官ダスマダー大佐や最強怪人といった命令系統外の存在もある。
 いわば彼は中間管理職なのだ。シルバータイタンは主君、部下、ライバルを持ち、司令官であり、戦士であり、政治家であるとも云えるジャーク将軍が実に様々な「顔」を持ち、個人として大変興味深い観察対象であることに、「悪の組織大幹部に学ぶリーダーシップ」を制作する途中で気付いた。
 そこには様々な立場に立つ事と様々な個性を持つ個人との接触が考える得る人物(?)という意味において喜怒哀楽を通したジャーク将軍について論述してみたくなった。

ジャーク将軍DataBase
肩書き将軍にしてクライシス帝国地球攻略兵団最高司令官
スーツアクター高橋利道(ジャパンアクションクラブ所属)
キャラクターボイス加藤精三(第1話〜第44話)、柴田秀勝(第45話、第46話)
怪人属性最強怪人
変身体ジャークミドラ
主君クライシス皇帝
配下海兵隊長ボスガン(怪魔獣人)、諜報参謀マリバロン(怪魔妖族)、機甲隊長ガテゾーン(怪魔ロボット)、牙隊長ゲドリアン(怪魔異生獣)
武器杖(通常時・麻痺光線照射)、大刀(最強怪人変身時)
 上記のデータを踏まえた上で、まずは個人としてのジャーク将軍に様々な視点をもって接してみたい。


1.上司としてのジャーク将軍
四大隊長を率いる地球攻略兵団の総司令官であるジャーク将軍には次の特徴が挙げられる。
■信賞必罰に公正。
■基本的に部下想い。
■抜け駆けには厳しい。
 これらは既に「悪の組織大幹部に学ぶリーダーシップ」で取り上げ済みだが、第一の「信賞必罰に公正」だが、ジャーク将軍は何回か配下の四大隊長に錫杖から発する光線で二四時間痺れさせる、という罰を与えたが、マリバロンが「純粋なクライシス人である私にもその罰を?」といって願った減刑の声にも耳を貸さず光線を発射した(第2話)。
 一方で怪魔界で最も寒くて暗いゲドラー域の出身であるゲドリアンが隊長の座に就けて貰ったことを感謝しつつ、その地位に凄まじい執着を見せていた(第22話)ので、有能と見れば差別をすることなく、同時に隊長就任以前のゲドリアンに数々の手柄を認めた後のことであることが容易に想像できる。

 ジャーク将軍が信賞必罰に公正なのは個々人の立場を重んじている所にも見られる。作中、ジャーク将軍は怪魔ロボットスクライド、デスガロン、怪魔異生獣マッドポットへの懲罰を命じている(前から第11話、第15話、第27話)が、それは個々の隊長であるガテゾーン、ゲドリアンに対して下している。
 デスガロン破壊命令にはガテゾーンがその赦免を申し出るが許さず、一方でデスガロンがマリバロンに仮面ライダーBlackRXを倒す事で助命を取り成して欲しいと願い出、マリバロンが(上辺だけだが)了承するシーンがあり(第15話)、ジャーク将軍が部下の意見は聞きつつも、絶対の命令権を持っている所が覗えて興味深い。いずれにせよなかなかの上司ぶりである。

 第二の「基本的に部下想い」である点だが、皇女ガロニア姫を消滅させてしまったマリバロン(第14話)を、彼女の過失ではないにしてもそれを庇って替え玉作戦を指示し(第14〜17話)、失敗して尚虚偽の報告でマリバロンを助けさえした(第17話)。
 皇帝陛下の代理人とはいえダスマダーが作戦に失敗した上に強化細胞の機密までRXに漏らしたマリバロンを処刑しようとした時は背後からダスマダーを刺し、「そちは余の同士だ。ダスマダー如きに殺させはせん!」と宣言していた(第38話)が、下手をすれば君命無視であり、発覚すれば自らの身を危くする行為(実際ダスマダーは生きていて、その正体はクライシス皇帝その人だったのだから)で、部下への並々ならぬ想い無しに出来る事ではない。ジャーク将軍のこの一面を指してクライシス皇帝への不忠と云うのは簡単だが、シルバータイタンは魅せてくれている、と思っている。

 他方、RX打倒の為にシャドームーンを召還し、RXに当たらせた(第22話)際も隊長の地位を奪われることを恐れた隊長達(主にゲドリアン)が怪魔異生獣にアントロントにRXとシャドームーンを奇襲させた際も、それに怒りを露わにしながら、「余にはあんな奴を隊長に据える気はない!あやつのRXに対する執念を利用しようとしただけだ!」と、大喝して部外者に部内者を上回る地位を与える気のない真意を明らかにしていた。

 後述するが、部下の抜け駆けに厳しい面を持ちつつも一度はガテゾーンのダスマダーとの癒着・抜け駆け(第35話)を不問にしている。
 尚、第42話で最終時計を送られた時にはゲドリアンを人身御供とする事を暗黙の内に了承した様だったが、この時の切羽詰り振りと、他の三大隊長を守ることを考えれば幾ばくかの情状酌量の余地は残り、これだけでジャーク将軍が部下に冷たいとは云えないだろう。

 第三の「抜け駆けには厳しい」面だが、指揮系統を重んじる故にジャークは部下の勝手な行動を基本的に不問にはしない。

 ボスガンが独断でRXを妥当してジャーク失脚後の将軍位を狙った(第25〜26話)時はボスガンの野望が潰えた時に彼の怪魔稲妻剣を破壊して交渉しただけだったが、翌第27話でボスガン我が隊を自慢気に語ってゲドリアンを嘲笑すれば「くだらん抜け駆けを企んだことを余は忘れてはいないぞ。」とキツイ一言で釘を刺していた。
 前述のRX・シャドームーンへの奇襲に対しては怒り心頭で四大隊長全員に全身麻痺の懲罰を科した。
 またこれも前述したが、ガテゾーンがダスマダーと組んで抜け駆けでRXを倒そうとした時(第34話)は一度は不問にしつつも、二度目(第43話)では「これが最後だ、後悔せぬな?」と念を押した上で隊長位の剥奪と指揮下からの追放を宣言した。

 極めて妥当な采配だが、一つだけ謎が残る。それはボスガンやガテゾーンの抜け駆けが成功していればの話である。
 古今東西、軍隊には「抜け駆けで功名を立てた際の軍律違反は不問」との不文律がある。地球人とクライシス人が同じように考えるかどうかは不明だが、ボスガンやガテゾーンが首尾良くRXの首を取った際に、ジャーク将軍が手柄を褒めて罪を不問にしたか、あくまで抜け駆けを罰したかは興味深い所だが、RX打倒が成立し得ない事態である以上、これは考察しても詮無き事かも知れない。

 以上を考察して見るとジャーク将軍は「悪の組織の大幹部」よりも肩書き通りの上級軍人としての性格が色濃い。そしてその在り様は現実の組織にあっても悪い物ではない。
 そこが実に興味深く、そしてジャーク将軍の見所がそこに留まらない所が尚の事興味深い。


2.直臣としてのジャーク将軍
 クライシス皇帝より地球攻略の総指揮を託されているジャーク将軍はその軍務の重さ故に皇帝の臣民として以下の点が注目される。
■与えられている権力はかなり大きい。
■かなり厳しい叱責と戒告を皇帝より受けている。
■実力主義でその地位を与えられている。
 まずは「与えられている権力はかなり大きい」ということについてだが、クライシス皇帝が最後の最後まで表立っては出張ってこなかったことから、ジャーク将軍は地球における事実上の最高権力者を長期に渡って担った。まずこれは皇帝の臣下に対する信頼なしには成り立たないことである。

 帝国内にはクライシス皇帝に逆らわずとも服従しないワールド博士達(第3話)やミンバー村長率いるクル民族(第17話)、明らかに帝国に反旗を翻すゲリラ勢力(第21話)が存在したことを思えば、忠誠心薄き家臣に兵の大権を与えては地球に降伏して反乱分子となることも充分に有り得る。
 何せ怪魔界に居て待っているのは滅びの運命のみなのだから。
 また、軍事は機密性も重要である。そこで注目すべきはクライシス皇帝の勅命は地球攻略兵団にあってはジャーク将軍のみにしか通達されなかったことにある。
 第25話においてボスガンに盗み聞きされたり、ジャーク将軍とは別系統で皇帝から直接命令を受けるダスマダーの介入(第28話)、最強怪人グランザイラスの派遣(第44話)があったりしたが、少なくともジャーク将軍指揮下では第42話でゲドリアンの忠節に免じた最終時計の取り消しと、最終話でRX引き込みを邪魔したマリバロンの誅殺を宣言しただけだから、成る程、ジャーク将軍以外に直接命令を下してはいない。

 これはクライシス皇帝の立場から見て、ジャーク将軍が全幅の信頼を寄せるだけの実力を持ち、四大隊からなる地球攻略兵団総指揮を託せるとの信頼があればこそだろう。
 長いライダー史上にあって、全ての大幹部がここまで首領より信頼されていた訳ではない事を失念しないで欲しい。

 第二の「かなり厳しい叱責と戒告を皇帝より受けている」ことについてだが、まず怪魔通信でジャーク将軍は地球攻略を開始して半年の段階である第25話の段階でクライシス皇帝より処刑の可能性を仄めかされている。

 どうも帝国内では怪魔界の崩壊を地球攻略開始から一年の内に迫っている事がはっきりしていた様で、期限半ばに迫ればそれぐらいの危機感が伝えられるのもある意味仕方のないことかも知れない。だが、ジャーク将軍を処刑したところでクライシス皇帝は臣民の為、帝国民の安住の地を確保する責務があることに変わりはない。いずれにせよ状況に帰するとはいえ、ジャーク将軍に皇帝が突き付けるのは勅命と厳罰通達のみである。良し悪しは別として、飴と鞭の内、鞭でもって導かれている。
 地球攻略開始前はともかく、攻略開始後は主君として軍功を求め、ならずば罰を与える−その一点で繋がる君臣関係なのである。

 第三の「実力主義でその地位を与えられている」についてだが、将軍位にあるジャーク将軍に限らず、戦果と実力に応じた地位が与えられ,相応しくないとみなされれば地位が危くなる純粋な実力主義はクライシス帝国内の定石で、ある意味下手な善の組織や営利団体以上に公平である。

 ジャーク将軍最後の出番となった第46話で地球にやってきたクライシス皇帝はジャークの力を信じて将軍位と四大隊長を与えた経緯に触れ、その戦果が三大隊長の喪失と空港・居住地の一つも築けず、ライダーの首一つも上げられないことに対して処刑を宣告するも、結局は自らは処刑せず、最強怪人ジャークミドラに変身させ、最後の勝負に発たせた。
 いよいよ仮面ライダーBlackRXの猛攻の前に青息吐息となったジャークミドラを見てマリバロンはダスマダーに救助を求めるも、ダスマダーに扮した皇帝は「あやつは全力を尽くしてRXに勝てなかった。あんな奴にもう用はない!」と非情且つ救いのない一言を発した。
 力有り、と見られて地位と部下を与えられた男は、力なしと判断され救いの手さえ断たれた。最強怪人と将軍、そして戦力外通告−良くも悪くも実力主義のクライシス帝国はジャーク将軍にとって、果たして理想の国家だったのだろうか?


3.宿敵としてのジャーク将軍
■恐るべき侵略者である。
■多種多様な攻撃を仕掛けてくる。
■複数のライダーと互角以上に戦える。
 第一の「恐るべき侵略者である」との点は第46話での佐原夫妻(赤塚真人・鶴間エリ)の惨殺にある。
 レギュラーメンバー、それも只の人間が死ぬ例はかなり少ないのだが、それだけに一年近くに渡って温かい家庭の父母を演じた佐原夫妻が最期の最期まで我が子を庇わんとして殺された痛ましさは断末魔の悲鳴だけでも充分過ぎた……。そして改めて気付かされた。ジャーク将軍が地球の平和を乱し、多くの人命を奪い、筆舌に尽くし難い悲しみと怒りをもたらす恐怖の侵略者である事を………。

 悪の組織の大幹部には愚か者の役を担わさせられたり、コミカルな役所が与えられたり、同情すべき過去を持っていたり、悪は悪なりに理想に燃える熱血漢だったりすることもあるのだが、その本質は罪なき人々に犠牲を強いて、(個人的な物でないにしても)自らの欲望を遂げようとする、忌避すべき危険な存在なのである。
 どだい、他者の領域に武器を持って乗り込んで来る存在に警戒が不要であることなど有り得ない。そしてこれは現実の世界の軍人・軍隊にも云えることである。
 他者の命を奪う可能性が皆無の侵略者など存在しない。佐原夫妻の惨死には賛否両論あるだろうけれど、ジャーク将軍の存在はフィクション故に軽く見られ勝ちな悪の組織と侵略者の両方の恐ろしさを具現化した稀有な存在とも云えるのである。

 第二の「多種多様な攻撃を仕掛けてくる」事についてだが、これは「仮面ライダーV3」の宿敵であるデストロンと比較すると分かり易いかもしれない。
 デストロンはドクトルG(仙波丈太郎)率いる機械合成改造人間で構成される最大勢力と、キバ男爵(郷B治)・ツバサ大僧正(富士乃幸夫)・ヨロイ元帥(中村文弥)率いる結託部族が存在し、実に多様な軍属を一つの組織の傘下に擁している。
 クライシス帝国でもジャーク将軍がその場その場での作戦やRX打倒戦略に応じて、オーソドックスな怪魔獣人、千変万化の妖術を操る怪魔妖族、屈強で強力に優れる怪魔ロボット、獣性と特殊能力が厄介な怪魔異生獣がその都度、各々の隊長による推薦で選ばれ地球人に牙を剥いた。
 この多様性は迎え撃つ仮面ライダーBlackRX・南光太郎にとってかなり厄介な物と云えた。単純計算で四通りの基本対峙戦略をRXは持たざるを得ず、如何なる作戦に如何なる軍属を繰り出すのか、というジャーク将軍の戦略を読むのはかなり肝要なことだっただろう。

 第三の「複数のライダーと互角以上に戦える」は単純な戦士としてのジャーク将軍の恐ろしさである。
 明らかな実例として、ジャーク将軍に仮面ライダーV3とライダーマンのタッグは抗し得なかった(第46話)。ジャーク将軍の目的は南光太郎の元に逃げる佐原茂(井上豪)・ひとみ(井村翔子)の誘拐で、それを阻止するのが目的のV3とライダーマンはジャーク将軍を倒すか、Xライダーとアマゾンライダーに伴なわれた二人が光太郎の元に辿りつくまでの時間稼ぎが出来ればいい訳で、結論から云うとそれに成功した。だがそれはほんの4、5分の差でのミッション達成で、佐原一家襲撃地点から光太郎の所在地までもう少し距離があれば二人のライダーは防波堤たり得なかったことになる。
 ジャーク将軍とV3&ライダーマンの戦闘力の差は自ずと明らかであり、設定ではジャーク将軍は3人のライダーと互角に戦う能力を持つとの事である。 勿論主人公である仮面ライダーBlackRXを前にしては勝手が違ったが。
 惜しむらくは第46話にて最強怪人グランザイラスが10人ライダーを相手に一人で大活躍したことから、同じ最強怪人でもジャークミドラにストーリー展開からグランザイラスほどの強さが具間見れないことであろう。だがやはりジャーク将軍は恐るべき大将で、RXはロボライダー・バイオライダーの全ての攻撃を結集してこれを倒したのを忘れないで欲しい。

 ざっと、ジャーク将軍の立場から見たその姿にこれだけの見所があった。
 次の頁からは彼が最も面を長く、多く合わせたクライシス帝国関係者との対人関係にその喜怒哀楽を見てみたい。


対ボスガン……抜け駆けと懐刀
対マリバロン……君命と同士
対ガテゾーン……戒告と追放
対ゲドリアン……君恩と裏切り
対クライシス皇帝……見捨てられた者と見捨てた者
ジャーク将軍に学ぶ『板挟み』




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令和三(2021)年五月一九日 最終更新