File6.クライシス帝国………熟慮すべき地球と怪魔界

侵略者名 クライシス帝国
登場作品 『仮面ライダーBLACK RX』
登場話 全話
侵略目的 怪魔界滅亡に伴う新天地・地球移住による民族滅亡回避
侵略手段 地球攻略兵団を用いての先住民屈服
地球人への処置 身体頑健な者の奴隷化



侵略者概要 前番組である『仮面ライダーBLACK』と同一人物が主人公を引き続き演じた、稀有な番組『仮面ライダーBLACK RX』にて宿敵となった組織、と云うか国家がクライシス帝国だった。前作に出て来たゴルゴムとは異なり、地球とは密接な関係を持つ存在だった(地球人サイドでは知る由もなかったが)。
 と云うのも、クライシス帝国の存在する怪魔界自体が、地球と運命を共にする双子とも云える存在の星にあり、その怪魔界は地球の環境破壊のあおりを食って滅びの時を迎えようとしていた。
 それゆえ滅亡原因となった恨み、何より滅亡を避ける為の移住先とする為、クライシス皇帝(声:納谷悟朗)はジャーク将軍(声:加藤清三・演:高橋利道)に地球攻略兵団を組織させ、地球を侵攻させた。

 怪魔界滅亡の要因が地球にあると目する故、クライシス帝国側には一片の罪悪感も無かった。それどころか、何億年もの時の流れで双方の環境は大きく変わっており、怪魔界の住民は地球で過ごす為には強化細胞の移植を必要としており、地球攻略兵団の後から移民第一弾が地球に降り立った際に、強化細胞を持たない彼等は地球の環境に拒絶反応を起こし、悶絶して苦しみながら全滅した。これにはクライシス帝国に属する者全員を「両親の仇」として敵視していた的場響子(上野恵)でさえ辛そうにしていた。

 とにかく、背に腹は代えられず、クライシス帝国は地球侵攻を開始。最高司令官に任ぜられたジャーク将軍の麾下にて海兵隊長ボスガン(演:藤木義勝、声:飯塚昭三)が怪魔獣人大隊を、諜報参謀マリバロン(高畑淳子)が怪魔妖族大隊を、機甲隊長ガテゾーン(演:北村隆幸、声:高橋利道)が怪魔ロボット大隊を、牙隊長ゲドリアン(演:渡辺実、声:新井一典)が怪魔獣人大隊を率いて、代わる代わる地球攻略作戦を展開した。
 四大幹部による作戦は、人間社会を混乱に陥れるもの、地球攻略の阻害要因になると思われる存在の抹殺(文字通りのものもあれば、社会的なものもあった)、移民拠点作りのための一地域(その規模は大小様々)占領、と実に多岐に渡っていた。

 だが、当然の様にこれらの作戦は仮面ライダーBLACKRX・南光太郎(倉田てつを)及びその仲間達に妨害され、ことごとく失敗に終わった。おまけにRXはロボライダー、バイオライダーへのタイプチェンジ能力を身に着け、霞のジョー(小山力也)や的場響子といった強力な仲間まで増やした。
 これに対してクライシス帝国側でもRXに強力なライバル心を持つシャドームーンを一時的な共闘相手として召喚したり、攻略促進の為に査察官ダスマダー大佐(松井哲也)を派遣したり、と様々な梃入れを行ったが、それ等も失敗に終わった。
 番組開始時点で怪魔界は滅びまで一年もつかどうかの状態にあり、追い詰められたクライシス帝国はついに大々的な武力侵攻に踏み切り、極秘会談にて日本国総理大臣が帝国への服従を拒むと最終兵器として最強怪人グラインザイラスを派遣した。

 これに前後して、RXサイドでもゲドリアンガテゾーンの打倒に成功。世界各地から10人ライダーも駆け付け、その支援を受けてボスガン、グランザイラスも打倒された。
 業を煮やし、地球に降り立ったクライシス皇帝ジャーク将軍を処刑すると見せかけて最強カイジンジャークミドラに変じさせて、最後の出撃を命じたが、これもRXに敗れた。
 自分とダスマダーだけではどうにもならないと項垂れるマリバロンを無理やり使者に立てたダスマダーは光太郎を招き、クライシス皇帝は反対するマリバロンを処刑してまで光太郎をジャーク将軍の後釜にして自らの臣下にせんとしたが、当然光太郎はこれを拒否。従わない光太郎に対してダスマダーはその正体であるクライシス皇帝となってRXを倒さんとしたが、返り討ちとなり、今際の際に人間が環境破壊を続ければ第二、第三の怪魔界が現れること、怪魔界と地球の一連の悲劇が人間の罪であることを述べて絶命し、怪魔界も滅亡したのだった。



人類への接触 切羽詰まった状況に一抹の同情の余地があるとはいえ、クライシス帝国が地球に行ったことは、完全な侵略だった。
 そんなクライシス帝国を弁護する訳じゃないが、何も彼等は無闇やたらと地球人を殺そうとしてた訳じゃないことは全話のあちこちに見受けられる(勿論服従しないとあれば皆殺しにする気でいたが)。

 思うに、地球侵攻は怪魔界の絶対的君主であるクライシス皇帝の一存だったのではあるまいか?彼等は怪魔界滅亡が地球人のせいだと思っていた(←全くの間違いではない)ので、概ね地球人を敵視していたが、一部の怪魔界住民達はクライシス皇帝の圧政にも一因があったと見て、地球に亡命したり、荒涼たる砂漠の一隅に身を潜めたり、中には反政府ゲリラに身を投じたり、と云った風に皆が皆地球人に悪意的だった訳じゃなかった。
 一応、侵略者とはいえクライシス皇帝も、地球攻略兵団も、自国民を滅亡から守ることを第一としていたので、無駄な殺しが好きだった訳ではないと見える。それゆえか、地球攻略兵団が最初にやろうとしたことは仮面ライダーBLACK・南光太郎の懐柔で、自分達に従うなら、BLACKの力を2倍にする、と持ち掛けていた。

 まあ、光太郎がこの好餌に釣られたら作品は成立しないから、拒絶は必然で(笑)、地球人側との初交渉は失敗に終わった訳だが、後半になる程クライシス帝国は地球人への接触を図っている。

 細かい点まで上げだすとキリがないから、2点ほど挙げたい。
 一点は、第30話である。第29話にてクライシス帝国は怪魔異生獣ムンデガンデに浄水場を襲わせると、的場響子の父を含む職員達を皆殺しにてこれを占領すると怪魔界に清浄な水を送るとともに、地球人から命の糧である水を奪った。
 ムンデガンデはすぐに倒されたが、クライシス帝国はそのまま浄水場から奪った水を別の場所に秘匿し、光太郎の叔父である佐原俊吉(赤塚真人)一家も渇水に苦しんだ。そんな中にマリバロンが現れ、飲み水が欲しくばクライシス帝国に忠誠を誓う文書に署名するよう強要した。
 勿論、これは人々から命の糧である水を奪い、それをたてに服従を強要する卑劣な策略だったが、切羽詰まった一般ピープル達は悲痛な思い出クライシス帝国への服従に応じようとした。
 幸い、第29話より仲間になった響子が水を操る能力を身に着け、彼女が地面から次々に水を吹き出させるという、マリバロンにして見れば「そんなの、あり?!」と云いたくなる逆転劇(笑)と云いたくなる様な展開で策は瓦解し、当然の様に人々は未署名前の誓約書を投げ捨てた(正確には突如もたらされた水に狂喜し、そっちに走った)。
 このとき、人々が水を得る為にクライシス帝国に誓約しなければならなかった内容が如何なるものだったのははっきりとしないが、少なくとも降伏・臣従する地球人を新たな臣民として受け入れる意思はあったと思われる。

 ただ、その受け入れはかなりの冷遇であることが伺える。それが見えるのが第46話で、ジャークミドラに出撃を命じたダスマダーは、次いでチャップ隊に人間狩りを命じた。その内容は、「我らの奴隷たり得る身体頑健な者のみとらえ、後は皆殺しにせよ。」という生死にかかわらず地球人としては受け入れ難いもので、これを見るとマリバロンが水の代償として強要した服従内容もろくなものじゃなかったであろうことが推測される。

 これらのことを鑑み、クライシス帝国は地球人に対しては、以下のように捉えていたと思われる。

・隷属を誓うなら命までは奪わない。
・攻略過程でぶつかった者は容赦しない。

 在り来たりだが、こんなものだと思う。現実の歴史でも、ある国が別の国を植民地化したり、併合したりした場合、表向きは征服民も被征服民も「同じ国の民」となるが、両者が同待遇であることは考えられない。その待遇も、「宗主国へ叛意が無い範囲での自治を認める。」と云ったものや、「参政権を除く基本的人権は認める。」と云ったものあれば、「民族総奴隷化し、一切の反論を認めない。」という過酷なものもあり、多くはその中間にあったと思われる。

 第44話にてマリバロンは総理大臣に「Yes or No」の回答を求め、総理は口を「No」の形に動かし、極秘交渉は決裂していたが、恐らくマリバロンクライシス帝国全権として要求したものは、かなり屈辱的な隷属だったのだろう。それゆえゴルゴムにはろくに抵抗していなかった日本政府がこの時は全く迷いを見せず「No」を示した。

 クライシス帝国の地球への接し方は、現実世界における大国の小国への我意の通し方に通じるものがあると云えよう。



垣間見せた善意? 上述した様に、(待遇はどうあれ)忠誠を誓えばクライシス帝国は地球人に対して殺意までは持たなかったと思われる。
 少しクライシス帝国を弁護すると、彼等は祖国が迎えんとする滅びの運命に対する悲しみは忘れていなかったと思われる。

 ジャーク将軍は初登場時に、「地球人に任せておけば遠からず地球は遠からず滅亡する。しかし我々なら理想の王国を建設することが出来る。」と述べ、地球侵攻を正当化していたが、怪魔界滅亡の一因が地球人による環境破壊にあったことを思えば、彼等が地球人を蔑視し、新たな故郷となる地球を地球人に替わって正しく治めようと考えていたとしても、全くの不思議ではない。

 忘れてはならないのは、彼等は好き好んで地球にやって来た訳ではないと云うことである。
 地球と怪魔界は運命と共にする双子の星であったとはいえ、長い年月の中で双方の環境は大きく異なるものとなっていた。 本来、怪魔界の住民は地球に住める体ではなく、攻略兵団の面々は強化細胞で身を固めており、強化細胞の行き渡らなかった移民第一弾は全員が拒絶反応を起こして悶絶死した。

 怪魔界の大気は亜硫酸ガスで、こんなものが地球の大気に大量に混入されれば人々が喘息で苦しむことになるのは過去に三重県四日市市でも見られた悲劇である。だが、第32話にて地球と怪魔界が一時的に繋がり、亜硫酸ガスが流れ込んできたとき、ガテゾーンは「懐かしいぜぇ!」と云って故郷の空気を堪能していた。
 第37話では移民受け入れ地として山奥の龍神村を密かに占拠していて、村には亜硫酸ガスが流され、捕らえられた村人達は喘息に苦しんでいた。龍神村はRX達の活躍で解放されたのだが、前述の移民第一弾の悲劇は龍神村を得られなかった直後の第38話冒頭で起きたことで、このことを地球攻略兵団の面々は激しく悔い、そんな中でマリバロンは地下都市を造ることを進言した。地下なら特定の環境を作りやすいとのことで、ジャーク将軍も即座にそれを認めた。
 つまりは、それほど地球は本来怪魔界住民が移住するのに相応しい地ではなく、そんな地を頼らなければならない程クライシス帝国は切羽詰まっていた。

 そんな状況下で地球人に対して不要な殺意を持っていなかったことや、南光太郎を懐柔しようとしていた姿勢から、クライシス帝国及びクライシス皇帝は侵略者の中ではまだ良心的だったのではないか?と思われる。
 最終話でクライシス皇帝は光太郎に「地球に並びない勇者として「サー」の称号を与える」として光太郎を自らの参加に組み入れんとしていたが、本来、クライシス皇帝にとって光太郎は、帝国50億の民を救う為に行動していた自分達を散々邪魔し、頼りとした四人の臣下を倒し、(虚偽報告によるものだが)愛娘・ガロニア姫を暗殺した者で、普通に考えるなら八つ裂きにしても飽き足りない存在である。
 最終決戦にてクライシス皇帝ダスマダーの姿で、「50億の民を守る義務がある!」と主張しており、横暴で邪悪な人物であっても一国を率いる責任感は持っていた訳で、その為には敵だった者でも必要と露わ受け入れる度量は持っていたと思われる。

 恐らく、怪魔界が滅びの運命を迎えていなければ、クライシス皇帝は圧政者ではあっても、自分と帝国に忠誠を誓うものの保護に努め、侵略者となることはあり得なかったことだろう。
 侵略は容認出来ないが、一抹の同情的余地はある。願わくば、罪なく、侵略を良しとしない怪魔界住民に新天地を提供するか、地球に受け入れる余地はなかったものだろうか?


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令和五(2023)年二月一三日 最終更新