善意?の侵略者
古今東西、他国に武力で攻め入り、その国の主権・土地・資源などを収奪し、人民を支配下に置いて自国の意のままに動かした例は枚挙に暇がない。
だが、それらの国々が自国を「侵略者」と認めることはまずない。通るか通らないかは別としてまず大義名分を振りかざす。「先に相手に敵対的行為があった。」、「元々我が国固有の領土だ。」、「現地にいる邦人が危害を加えられた。」等がよくある云い分だが、逆の立場に立てば攻撃を受けた側が相手を「侵略者ではない」と認めることもまずない。
正直、「やった」、「やってない」で云い合えば話は何処まで行っても平行線だろう。
個人でも頑として自分の非を認めない輩は少なからず存在する。そしてこれが「国家」となれば、個人的に「相手国に悪いことしたよなぁ………。」と「相手国の云い分の方が正しいよなぁ………。」と内心思っていてもまずそうは口に出せない。
国際関係において下手に自国の非を認める発言をすれば自国に不利益をもたらした者として、下手すれば未来永劫罵られ、罵倒の中には「国賊!」、「非国民!」といったものまで含まれることが少なくない。
同時に一部では暴論を主張する者も少なくない。
端的に云えば、「勝てば正義」、「勝てば官軍」的主張である。実際、武家に政権を初めとする国権を奪われながら700年以上も経てからそれを取り戻し、その間、名目だけでも主君として祭り上げられて生き延び続けた日本の皇室は世界史的にも稀有な存在と云える。
そして掛かる暴言は古代に遡るほど実態として強く反映されており、歴史上多くの国家や民族が滅ぼされた。
例えば、内の道場主は民族的・王朝正統性的には、沖縄の人々が琉球王国の復活を叫べば日本政府にまっとうな反論は出来ず、琉球独立を認めるべきだと思っている。だが、実際に旧琉球王国だった地域が現在一独立国としてやっていけるかと云えば不可能だと思っているし、沖縄県民の多くは今から日本語を止めて琉球語を公用語として日常生活を営むとなると多くの人々が「そんなの今更無理だ…。」と思うだろうし、アイヌ民族も同様である。
ただ、これが特撮の世界となると、舞台となる世界の人々の安全を脅かす秘密結社や宇宙人は自分達が侵略者であることを否定しないことが多いし、肯定しようが否定しようが侵略であることは誰の目にも明らかである。
何せウルトラシリーズでは地球外からやって来た地球人でもなく、地球にルーツを持つ者でもない宇宙人が何の警告もなく地球に攻撃を加え、降伏を迫るのである(降伏勧告すらせず、殲滅を図ることも少なくない)。
仮面ライダーシリーズにおける秘密結社の場合、国内の個人が作った組織であれば「侵略」ではなく、「内乱」と云えるかも知れないが、『仮面ライダー』から『仮面ライダーストロンガー』までの歴代悪の組織を率いていた首領は「宇宙に帰る」としていたし、『仮面ライダー(スカイライダー)』・『仮面ライダースーパー1』に登場したネオショッカー・ドグマ王国・ジンドグマはB26暗黒星雲からやって来たものだったことが明らかになっており、『仮面ライダーBLACK RX』のクライシス帝国は地球と運命共同体で、その環境破壊のあおりを食らったと云うやや同情すべき点はあるにせよ、地球に移住する為に地球人を屈服させんとしたのだから、これらの諸組織は云い訳の余地なき「侵略者」に他ならない。
ただ、シルバータイタンはふと思ったのだが、「盗人にも三分の理」と云う諺があるように、フィクションとはいえ、彼等の侵略に関して、彼等が侵略後として描いていた未来予想図が全くの悪だったのか?が気になった。
現実の歴史にも侵略後に異民族支配が続く中、少数民族が善政や混血を経て完全に支配者に同化したり、支配を受け達が大きく発展したりした例は確かに存在する。
富士見ファンタジア文庫のソード・ワールド短編集『レプラコーンの涙』に収録されている「ジェライラの鎧」に登場したリファール王国の王女リュキアンは、大国の侵略に怯える家臣に対して、国民に多大な負担を強いてまでの国防強化に反対していた。では侵略されたらどうするのか?と云う側近の質問に、彼女は国が滅びたからと云って国民が不幸になるとは限らないとしていた。
支配者が善政を敷けば、その大きな国力による庇護の下で国民は前支配者の施政下よりも幸福になれるかも知れないとの考えだった。
決して侵略者の肩を持つ訳ではないが、侵略後に新たな民となった者に幸をもたらさんとして努力した者が現実にもフィクションにも少なからず存在したのは間違いない。
勿論その過程において犠牲になった者にすれば堪ったものでは無いのも重々承知している。ただ、極力は「完全な悪」、「生まれついての悪」を否定した意味として、「侵略者」の中にある(かも知れない)「善意」を考察してみたくなった。
File1.幽霊宇宙人ゴース星人………「地底」への善意者、「地底」に滅ぶ
File2.デストロン………少なくとも二人が信じた「ユートピア」
File3.ネオショッカー………3分の1に入れば幸福か?
File4.ドグマ王国………絶望者が信じた理想郷
File5.ジンドグマ………味方にどこまで優しい?
File6.クライシス帝国………熟慮すべき地球と怪魔界
File7.暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人………「脅威」を巡る考察
File8.敢えて考える「侵略者地球人」と制作者背景
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令和五(2023)年三月一〇日 最終更新