File7.暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人………「脅威」を巡る考察

侵略者名 暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人
登場作品 『ウルトラマンタロウ』、『ウルトラマンメビウス』
登場話 前者は第25話にて名前のみ、後者は第48話最終三部作?「皇帝の降臨」〜第50話最終三部作?「心からの言葉」
侵略目的 絶対者としての君臨
侵略手段 圧倒的戦闘力の駆使、及びあらゆる怪獣軍団を率いての武力侵攻
地球人への処置 大人しく降伏するなら保護を保証



侵略者概要 『ウルトラマンタロウ』第25話で名前だけ登場し、それから20年以上を経て『ウルトラマンメビウス』の最終三部作にて初めてその姿を現したのが暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人である。
 『ウルトラマンタロウ』にて光の国でゾフィーが語ったところによると、約三万年前に光の国征服を目指してM78星雲に大攻勢を掛けており、ウルトラの父と死闘を展開した、闇の勢力の首魁とも云える宇宙人である。

 名前がエンペラー(皇帝)に由来していて、二つ名の「」にあるように、何かと「皇帝」尽くしの存在である。
 実際、『ウルトラマンタロウ』第25話にてゾフィーが語っていた回想シーン(イラストによるもの)では歴代ウルトラ怪獣が大挙して光の国に攻め入り、光の国にも相当の犠牲が出たと見られ、ウルトラの父も負傷した。つまりはそれだけの大軍勢を率いる勢力を麾下に持っていたことになる。
 その後30年ほどその名前は現れなかったが、四半世紀ぶりに怪獣・宇宙人・円盤生物が襲来する様になった『ウルトラマンメビウス』の世界にて黒幕としてその存在を仄めかしていた。作品終盤には暗黒四天王(悪質宇宙人メフィラス星人(知将)、冷凍星人グローザム(豪将)、策謀宇宙人デスレム(謀将)、異次元超人ヤプール(邪将))や無双鉄神インペライザーを派して地球への大攻勢姿勢を見せ、四天王からは「皇帝陛下」と呼ばれていた。

 ただ、大勢力の君主と云うよりは、自身を唯一無二の絶対者と自認していた傾向が強く、配下への労りもなければ、麾下の強盛を威張るでもなく、個人の力をかなり誇示し、すべてを支配下に置かんとの意欲だけが見られた。
 と云うのも、設定によるとエンペラ星人の母星は地球で云うところの太陽を失ったことで死の星となり、彼はたった一人の生き残りだった。そして孤独に暗闇の中を彷徨っている内に闇の力を得るとともに、光あるものすべてに憎しみを抱き、それが光の国に対する憎悪と戦意へと繋がった。従って、「エンペラ」は自称であり、彼自身は唯我独尊の存在であり、エンペラ星や他の同族は現存しない、となっている。

 勿論その戦闘能力は絶大で、過去にウルトラの父と引き分けているが(その際の古傷も残っている)、右手から放つレゾリューム光線、左手から放つ重エネルギー波動を武器とし、一方で太陽の黒点を異常発達させ、太陽を完全に覆い尽くして地球に光が届かなくするほどの恐るべき能力も持っていた。
 暗黒四天王の内、ヤプールデスレムグローザムが戦死し、メフィラス星人もウルトラマンとウルトラマンメビウスとクルーGUYSジャパンを前に敗北を認めて退却するとこれを瞬殺して、インペライザーを派して地球への宣戦布告を行った。
 インペライザーは単体でもこれを倒すのにタロウやメビウスが自爆技・ウルトラダイナマイトを要するほどの難敵で、GUYSも自力で一体これを倒したが、ほぼ相打ちに等しかった(←戦隊チームの戦史から見ると物凄い大健闘だったのだが)。
 しかもやっとの思いでインペライザーを一体倒すと、エンペラ星人は空間転移で二体のインペラザーを新たに送り込む始末で、この動員力はかなりGUYSの指揮を低下せしめた。

 だが、そこに「貴様はいずれこの俺が斬る。」としてメビウスを好敵手視していた宇宙剣豪ザムシャーや、「ヒビノ・ミライ(五十嵐隼士)の妹」を自称するサイコキノ星人カコ(高宗歩未)が駆け付け、インペライザーが倒されると遂にエンペラ星人は自ら出撃し、その姿を現した。
 その膂力はザムシャー、ウルトラマンヒカリの攻撃を微動だにせず受け止めては片腕を動かすだけで簡単に弾き返し、逆に一撃で戦闘不能にまで追いやり、カコの超能力も簡単に弾き返した。

 メビウスも、ヒカリもレゾリューム光線で撃退・消滅させられ状況的に地球も一巻の終わりを思わせられるほどの状況に陥った。しかしウルトラ四兄弟(ウルトラマン・セブン・新マン・A)の声を聴いたGUYSメンバー(クゼ・テッペイ(内野謙太)、アマガイ・コノミ(平田弥里)、イカルガ・ジョージ(渡辺大輔)、カザマ・マリナ(斉川あい))が奮起し、ミライやアイハラ・リュウ(仁科克基)と合体してウルトラマンメビウス・フェニックスブレイブとなって立ちはだかり、更には隊長サコミズ・シンゴ(田中実)と融合したゾフィーまでこれに加勢。
 GUYSのファイナル・メテオールであるスペシウム・リダブライザーによってブーストされたメビウスのメビュームナイトシュートと、ゾフィーのM87光線との合体光線を受け、エンペラ星人は「ウルトラマン」ではなく、「ウルトラマンと人類の絆」に負けたとして光の結晶となり、その姿を消した。



人類への接触 エンペラ星人と地球人との接触を考えるのに、まず『ウルトラマンメビウス』が歴代作品から受け継いだ背景を考える必要がある。令和5(2023)年3月現在、ウルトラシリーズの全作品が同じ世界に存在する訳ではない。
 パラレルワールド作品もあれば、同じ世界にあるかどうか設定が現時点で曖昧なものも少なくない。そんな中、『ウルトラマンメビウス』『ウルトラマン』『ウルトラマン80』までの世界から四半世紀を経た同一の世界であることが明言されていた。
 同作品では『ウルトラマン』から『ウルトラマン80』までの時代を「怪獣頻出期」と呼んでおり、そうなると『ウルトラマン80』の最終回以来、地球は怪獣や宇宙人が襲来していなかったことになる(尚、『ウルトラマン80』の第1話では、怪獣出現は「五年振り」とされており、明言されていなかったが、時系列的に『ウルトラマンレオ』の最終回以降、地球は平和だったと思われる)。

 そんな平和な世界が再度怪獣・超獣・円盤生物の脅威に曝されることとなった。初期には高次元捕食体ボガールの暗躍が黒幕的に映っていたが、やがてはすべてを裏で糸引く黒幕的な存在が仄めかされるようになり、それがエンペラ星人初登場への伏線となっていた。
 つまりこの時点ではエンペラ星人の「エ」の字も地球人には認知されていなかった。作品中盤、光の国ではこの黒幕的存在に抗するのにルーキーであるメビウスでは荷が重いと断じて帰還命令を出した程だった。

 だが、メビウスはウルトラシリーズ史上初めて中盤にてその正体を仲間達に知られることとなりながら、逆に仲間に迎え入れられ、共闘体制を固めたことで彼を派したウルトラの父や彼を指導したタロウの予測を超える尽力を為し、遂にはウルトラ四兄弟の助力を得たとはいえ、暗黒四天王を打倒・撃退するに至った。
 事ここに至ってエンペラ星人は遂に自分で動き出した。だが、最初は声を聴かせるだけだった。

 エンペラ星人が地球人に向けて発した言葉の内容は降伏勧告である。そしてその証として24時間以内にウルトラマンメビウスを探し出して地球から追放するように要求した。折しも、地球人の中にあって、ヒビノ・ミライがウルトラマンメビウスであることが悪徳フリージャーナリスト・蛭川光彦によって、スクープされていた。
 蛭川はGUYSが未来の正体を知った上でGUYSに置いていることにも言及し、ウルトラマンといえども異星人であり、それを地球に潜伏させ続けることに世論も疑問の声を抱きつつあった。

 日本政府も査察官シキ(斉藤洋介)をGUYSに派遣して、ヒビノ・ミライの引き渡しを要求したが、GUYSは総監サコミズの名の下にクルー全員一致の意見としてこれを拒否。ミライがかけがえの無い仲間であると云い張った。これに対してシキはサコミズの総監辞任まで要求したが、逆にサコミズはTV放送にて自分達の意見を堂々と述べた。
 結果、マスコミ各社を通じて送られた民衆の意見は「メビウスを引き渡すな」が殆んどで、人類はエンペラ星人への要求に屈しないことを選び、政府もそれを承認した。

 僅か3週間前の第45話で、一般ピープル達はグローザムに捕らえられて人質状態になっていたGUYSクルー達を散々詰っていた。ほぼその話の内に改心していたが、第49話にてメビウスがインペライザーとの戦いに疲れ果てて倒れた際には、「俺達にはまだGUYSがいる!」としていた。
 作品構成の都合上、どうしてもウルトラマンより上位に立てず、酷い時にはかませ犬や引き立て役を振られていた防衛チームが民衆からここまで頼りにされていたことにシルバータイタンは感涙に咽んだが、ここまで結束した地球人相手に恫喝・懐柔に関わらず、エンペラ星人が意のままに操ることは不可能となっていたと云って良いだろう。



垣間見せた善意? 善意と云うにはチョット違う気がするが、エンペラ星人が地球人に対して降伏を勧告した際に、一つの代償を示していた。それは、「あらゆる脅威から余が守ることを約束する」というものだった。
 云い方を変えれば、「下僕になるなら、主人としてその保護下においてやる。」と云っている訳で、善意的に見れば「君主としての務めを果たす。」とも取れる。

 実際に人類の歴史において様々な国家が滅んでは興っていた。古い国家を滅ぼした新しい国家は旧国家の国民を自国の臣民として迎え入れた訳で、そうなると新臣民からの忠誠と税収を得る代わりにその保護を担う責任を負った。
 エンペラ星人の宣言はこの当たり前のことを乱暴且つ高飛車に云ったものである。

 人類視点では、「何を当たり前のことを………。」となるが、相手は得体の知れない宇宙人である。抵抗を止めれば奴隷化されるかもしれないし、相手の食性によっては食糧にして滅ぼされるかもしれない。それを「守る」と断言しているのはある意味稀有である(履行の保障などどこにもないが(苦笑))。
 勿論、宣言に従って命と安全が保障されたとして、降伏後にどんな待遇が待っているかは知れたものでは無いし、ある人突然やって来て得体の全く知れないのに「降伏しろ」という相手に「はい、降伏します。」とは普通ならないだろう(苦笑)。
 ただ、少しだけエンペラ星人に好意的に解釈するなら、「地球外侵略者からの保護」に関してはかなり頼もしい申し出である。これ以前にもウルトラ兄弟は何度も地球を守ってくれてはいたが、これは何も地球と光の国との間に安全保障条約が結ばれてウルトラ兄弟が駐屯してくれている訳ではなく、ウルトラ兄弟の個人的善意によるものである(特にセブンは当初観測員に過ぎず、全くの好意と善意で地球防衛を買って出ていた)。
 それゆえ、人類サイドでも完全には心を許した訳ではなく、アイハラ・リュウも当初は(自力で地球を守れていないことへの悔しさもあったが)メビウスを「仲間じゃねぇ!」としていた。上述のシキ査察官の台詞も政府としてウルトラ兄弟を完全な信頼対象とまではしていなかったことが見て取れるし、古い例を出せば、『ウルトラマンレオ』第39話にて、MACは迫りくる謎の天体(正体は光の国)を迎撃ミサイルで破壊せんとした際に、天体の正体がウルトラの星であったとしても、地球最優先の為にこれを破壊せざるを得ないとしていた(同時にウルトラの星でないことを願ってもいたが)。

 かように、散々体を張って善意を示してくれていても、正式な誓約文書でも交わしていない限り、異星人を完全に信用するのは難しい。その点エンペラ星人は「守ることを約束する。」と断言しており、数々の強力な宇宙人・異次元人を従え、怪獣軍団すら掌握する能力が地球防衛を本当に確約してくれるなら、ある意味独断で誓約なしに地球を守ってくれているウルトラ兄弟より頼もしいことになる。
 またこれ程の統制下に置かれれば、エンペラ星人への完全服従を余儀なくされることは想像に難くないが、それを好意的に解釈するなら、地球人同士の諍いはなくなると思われる。まあ、日本史の例で例えるなら、エンペラ星人=豊臣秀吉で、地球の国家=諸大名で、秀吉の発した惣武事例(私闘禁止令)に従わせられるようなもので、それが昨日今日現れた闇の宇宙人に強要された忠誠の下、とあっては屈辱に塗れる事極まりないのだが(苦笑)。

 如何に三部作とはいえ、30分番組で降伏の細かい条件まで示すのは無理があるだろうし、そもそも降伏するにしても、何者がそれを受け入れ、履行するのか激しく謎なので(笑)、ウルトラ作品において宇宙人への降伏が成立することは起こり得ないだろうけれど、新たな守護者たることを宣言した稀有な例は長く留め置きたいものである。


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令和五(2023)年三月一〇日 最終更新