File3.筑波洋太郎……毅然・信頼・氷柱

登場作品『仮面ライダー(スカイライダー)』
名前筑波洋太郎
洋(長男)
加藤和夫
登場第52話、第53話(但し、すべて回想及び遺体として)
父親としての影響度★★★★★★★★★☆
概略 人工心臓学の権威として名高い博士だった。第1話では、3年前の事故で妻・寿子(折原啓子)、娘と共に死亡したと、息子である筑波洋(村上弘明)の口から語られていた。
 だが、実際には事故ではなく、ネオショッカーの一員となって協力することを断固として拒んだため、氷漬けにされて殺されていた。それに際してネオショッカーは交通事故による事故死を装い(両親の遺体はアリコマンドが変装したもの)、妻は大首領(声:納谷悟朗)の召使とされていた。

 作中、筑波洋太郎(加藤和夫)及び寿子については第1話で「事故死」と語られて以降、永らくその存在さえ触れられずにいた。それが第52話にて魔神提督(中庸助)が大首領から最後通告を突きつけられたことで洋太郎と寿子の存在がクローズアップされた。
 スカイライダー・筑波洋に数々の作戦を打ち破られ、数多の改造人間を倒されて、大首領からの信頼を失った魔神提督は恨み骨髄に達し、をただ殺すだけでは煮えくり返る腹の内が収まらないとして、に胸も張り裂けんばかりの悲しみを与えんとした。

 それは魔神提督が洋太郎になりすまし、自分を父と思わせることでを悶絶させた果てに殺さんとの悪計だった。

 第52話で城茂(荒木しげる)とともに洋太郎の親友である長沼博士(西本裕行)をネオショッカーから救い出したは長沼の口から両親が生きていることを知らされた。両親が生きているかもしれないことへの期待や喜びよりも、生きてネオショッカーに加担しているかもしれないことへの不安の方がには大きかった。
 苦悩しつつもネオショッカー関係者を絞め上げて詰問を続けたスカイライダーは、父が自分と同じ改造人間にされ、「FX-777」としてネオショッカー内で栄転を続けていることを知った(正確には知らされた)。
 やがて戦傷で横たわる魔神提督の体に「FX-777」のプレートが掛かっていることを見つけ、は父が悪の組織の大幹部となって数々の悪事に加担したことに苦悶し、月光を浴びることで傷が治る魔神提督を背負って、月光の当たらない場に移動しようとした。
 その途中、魔神提督の体内に仕掛けられた時限爆弾がカウントダウンを初め、は父と共に死ぬ覚悟は出来ていると告げた。

 だが、前述した様にこれは罠であった。
 本物の洋太郎は既に殺されており、魔神提督は自分が洋太郎に成りすますことで死んだ筈の父が悪に加担していると博に認識させ、その心を大いに乱した。そしてに父を殺せないことを承知の上で、「父と思うな!」と云って自分を殺す様促したが、それもの性格を読んだ上の罠だった。
 魔神提督の体は心臓さえ無事なら大首領の力で復活できるようになっており、魔神提督はそのままを騙して自爆に巻き込んで殺害することで本懐を遂げんとしたが、別ルートでネオショッカーを追っていた茂がの母・寿子と遭遇し、すべての真相を知っていた。  魔神提督を背負ったを見つけた茂は、が騙されていること、背負われた男がの父などと云うのは真っ赤な偽りであることを告げ、尚も信じられずにいるに氷漬けにされた洋太郎の遺体を示した。

 父の遺体を目の当たりにし、母の生存を聞かされたにもはや魔神提督の悪計は通じなかった。尚もにしがみついて爆殺せんとした魔神提督だったが、茂は仮面ライダーストロンガーに変身して駆け付けて来た仮面ライダー2号とともにこれを引き剥した。
 結局魔神提督はトリプルライダーキックを食らった果てに一人で自爆。残った心臓も大首領に握り潰されて最期を遂げた。直後、は母と涙の再会を果たし、氷漬けの父に祈りをささげ、別れを告げた。

 この後、大首領が最後の大攻勢を掛けたことで洋太郎の遺体は落石に埋もれ、寿子もドクロ暗殺隊に殺害されたが、それは別の話である。



存在感 第1話での「既に死亡」はよくあるパターンで、筑波洋以外にも本郷猛、一文字隼人、結城丈二、アマゾン、村雨良が第1話以前に父を亡くしていた(城茂は孤児院育ちだったので、厳密には不明、一也は捨てられていたので詳細は不明)。
 だが、最終回三部作の発端となる第52話で、「生きて悪の組織の一員になっているかもしれない。」との認識がもたらされたことで俄然その存在感が増した。

 もっとも、実際には筑波洋太郎はネオショッカーに加担することを断固として拒んで殺されたため、洋太郎の登場シーンはすべて過去の回想(偽情報を含む)シーンか、遺体のみだった。存在感だけで云えば再会を果たし、最後の最後で殺されてしまった妻・寿子の方が大きいかも知れない。

 ただ、父への想いが語られた意味においては、神敬介の父・神啓太郎に次ぐほど大きな存在だったと云える。魔神提督の姦計によるものとはいえ、は「父が生きている!」との期待と「父が極悪人になってしまった!」という失望絶望の狭間で大いに苦悶し、少なくとも「に胸も張り裂けんばかりの苦しみを与える。」という点においては魔神提督の狙いは図に当たっていた。
 後番組である『仮面ライダースーパー1』の主人公沖一也が比較的冷静沈着だったのに対し、は感情の起伏が目立つタイプだった。殊に『仮面ライダー(スカイライダー)』は歴代作品の中でも先輩仮面ライダーの客演が多かったので、は若さゆえの感情の高ぶりが描かれることも多く、第1話でハングライダー部の仲間が殺されたことへの怒りと悲しみからして激情が半端なかったが、殊に最終回三部作では死んだと思っていた両親の生死に直面したから、1年間の主演を通した村上弘明氏の演技力向上もあって、が見せた怒りの悲しみも凄まじいものだった(母を射殺したドクロ暗殺隊隊長をぶん殴っていたときの表情は演技と分かっていたも怖かったもんなあ………)。

 身も蓋もない云い方をすれば、筑波洋太郎の見せた場面は、生前の断固とし悪への加担を拒んだシーンと、既に遺体となって眠っているシーンだけだったが、一時的とはいえ、「魔神提督になっているかもしれない。」との疑惑とそこに絡むの激情が歴代作品のおける「ヒーローの父親」の中でも独特且つ屈指の存在感を持っていると云えよう。



息子・番組への影響 「私は悪を憎みます。共に戦ってくれますね?」………これは第1話においてスカイライダーが志度敬太郎博士(田畑孝)に云ったものである。筑波洋の悪を憎む心、それは正に筑波洋太郎から受け継いだものである(この際、断言してやる)。

 仮面ライダーは悪の組織と戦う存在だから、悪の組織が為す残虐行為や詭謀悪計に直面し、怒りを露わにすることは決して少なくない。ただ、その怒りを表す際の表情や言動の激しさは個々人で異なる。
 その中にあって、の怒りを示す度合いはかなり大きい方で、第39話で魔神提督に「貴様こそ、今この場で息の根を止めてやる!」と殺意を露わにするシーンがあったが、この話では直前に人間を改造する事の理不尽さと怒りがふんだんに盛り込まれていたから、の示した怒りの大きさも一入だった。

 勿論それは父への想いを伴って第52話・第53話にも「これでもか!」と云う程に表れてた。
 第52話で長沼博士から両親が生きていたことを知らされただったが、その顔に喜びの色は無かった。普通はどんな形であれ、死んだと思っていた両親が生きていたと知らされれば喜ぶ。だが、の頭の中には、「生きている」=「悪の組織に加担している」との図式が成り立ってしまった様だった。
 恐らく、洋太郎「死んでも悪に加担しない人物。」と絶対の信頼をもって見ていたのだろう。

 父が生きていると知らされて、すっかり冷静さを失ったは、城茂から落ち着くよう促された際に、父が生きて悪に加担しているかもしれないとの不安を吐露した。それに対して茂はに「お父さんを信じるんだ!」と諭したが、その後のの言動もとても冷静とは思えなかった。
 長沼博士の証言から、小児科病院に偽装しているアリコマンドドックのドクターX(秋山敏)を尋問したは彼の口から両親が車に時限爆弾をセットされて爆殺されたことを知らされた。改めて父が殺されたことを知らされた際のの悲しみに耐える表情は見ている方が辛い程だった。
 だが、ドクターXから(作り話だったが)洋太郎の心臓と脳が無傷だったために改造人間・FX-777にされ、生前の姿をすっかり失くしてネオショッカーの優秀な人材となったと聞かされた時には更なるショックを受け、FX-777がドクターXの最高傑作であるとして彼が高笑いした際には怒りも露わにドクターXを殴りつけていた(←の感情をあおる為と分かっていてもドクターXが阿呆にしか見えなかった(笑))。

 これらのの激情は魔神提督からの偽情報にプロデュースされたものではあったが、根底にあるの父への想いが、通常の親子の情愛に比べても大きなものがあったことによるのは誰にも否定出来ないだろう。

 そして幸か不幸か、筑波洋太郎は最期までが信じた通りの父だった。

 ドクターXの洋太郎改造は作り話だったが、洋太郎がネオショッカーへの加担を断固として拒んだのは真実だった。回想シーンにて脅迫混じりにネオショッカーへの加担を強要するドクターXに断固としてこれを拒む洋太郎の表情には一点の迷いもなかった。
 ドクターXが「奥さんや息子との幸せな生活が送れなくても良いのか?」と投げ掛けた際も、「妻も息子もそんなことを望みはしない。」と静かながらも毅然として拒絶していた。印象的だったのは、その時助手席にいた寿子である。隣で夫の決意を追認する寿子の声は明らかに恐怖で震えていたが、それでもしっかりと夫の決意に従っていた。
 「断れば殺されるかもしれない………。」という恐怖は間違いなく寿子の中に存在していた。殺されることへの恐怖から心ならずも悪に加担したり、服従したりする可能性は誰でも存在し得るし、命惜しさから屈したとなると完全な非難は厳しい。
 だが、寿子はその恐怖を抱えつつ、悪に屈しない夫に従った。また最終決戦に挑む一文字隼人に対し、「お袋を安全な場所に移してから行く。」と云ったに対して寿子は「すぐ行きなさい。」と云っていた。夫と息子の決意の為に死ぬ覚悟はとっくに出来ていたのだろう。

 そんな寿子はその後、更に過酷な余生を送る羽目に陥った。
 結局断固として仲間入りを拒んだ夫は氷漬けにされて殺され、自身はネオショッカー大首領の召使として奴隷同然に身の回りの世話を強要された。悪意的に見れば自分だけ生き残って大首領に従ったと見れなくもないが、恐らくは息子・を待っていたのだろう。
 ここからは推測だが、氷漬けにされたことで夫は命を失ったが、生前の姿を留めることとなった。そんな夫の眠りを寿子は守りたかったのだろう(アリコマンドから夫の元に行くなと何度も云われていたのに寿子は従わなかった)。
 そしてがネオショッカー最大の敵・スカイライダーとなったことで、寿子はへの恨みを露わにするネオショッカーの面々と顔を合わせて日々を過ごし、時に八つ当たり対象とされた。恐らく寿子はそんな状況に耐える事でと共に戦っていたのだろう。
 そして7人ライダーが自爆覚悟で倒すしかないと思った大首領に急所(右足の裏)があることを寿子は掴み、それは死の直前にに伝えられた。謂わば、ネオショッカーは筑波ファミリーの強い意志と絆の前に滅ぼされたと云える。

 こう考えると筑波洋太郎筑波洋の性格や、その後の戦いに及ぼした影響は極めて大きく、そんな想いに絡む激情の数々は最終回三部作を名作に仕上げていると云っても過言ではないだろう。
 ただ、そんな夫婦が結局は助からなかったのが悲し過ぎはするのだが。


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令和五(2023)年七月一九日 最終更新