File4.風祭大門……権威・挫折・加担

Farthers Profiel
登場作品『真・仮面ライダー 序章』
名前風祭大門
真(長男)
石濱朗
登場ビデオ版のみ
父親としての影響度★★★★★★★☆☆☆
概略 主人公・風祭真(石川功久)の父親で、臨床的免疫工学の権威。
 過去に被験者が死亡(←それも複数!)してしまう事故を起こしてしまったため、一時研究を断念していたが、その才を惜しんだ財団の氷室巌(原田大二郎)に拾われる形でISS(Institutes of Super Science)の研究チームの人体細胞改造の主任となった。

 だが、これは氷室を初めとする悪の組織・財団による騙しにほかならず、風祭大門は意図せずして財団のサイボーグソルジャー開発計画に加担してしまうことになった。
 そもそも財団とは、ニューヨークに本部を持つ軍需産業複合体で、全世界の政治・経済・科学・文化等をすべて統一し、自分達の影響下に置くことを基本方針とする独善的な組織である。
 確かにそれが為されれば世界には恒久平和が訪れるかも知れないが、そこに至る過程で数多くの犠牲が為されるのは火を見るより明らかで、数々の犠牲を一顧だにしない姿勢は完全に悪の組織である。ISSはそんな財団傘下の生化学研究所であるとともに日本における出先機関でもあった。

 そんな邪悪な目的を抱えるISSゆえ、大門は利用されていた訳で、「研究の責任者」という地位にありながらも、ISSの助手で、研究における立場では大門の下に合った筈の鬼塚義一(片岡弘貴)も肝心なところで大門に従わず、誰もが財団の遺志に逆らえないと仄めかす始末だった。

 当然大門がISSの在り様に疑問を抱くのに時間は掛からなかった。
 大門は鬼塚に自分に従わなければ研究から外すとし、表面上ISSはそれに応じた。だが、所長の氷室は行方を絶った鬼塚に関して「辞めさせた。」と云うだけで、研究の続行を大門に命じた。
 しかし、大門は研究者と被験者の間に信頼関係が欠かせないことを理由にそれ以上の研究を拒否。それは被験者のみならず、組織に属する者同士の信頼関係に関しても同様に捉えていた訳だが、氷室は自分の一存で大門を研究から外すことも出来ないし、大門が研究から離れるには「手遅れ」とした。
 早い話、組織に関わり、その機密を知った者の足抜けを許さないという現実・フィクションを問わず、悪の組織によくあるケースがここでも見られた訳である。この作品を綴っている令和5(2023)年7月現在、未成年が高額報酬に目を眩ませて関わってしまった振り込め詐欺グループを初めとする反射組織から脅迫的に抜けることを許されず、悪事に加担し続けることを強いられる事件が社会問題と化しているが、古今東西悪の組織に関わることで抜けられなくなる取り返しのつかなさはもっともっと重視されて欲しいものである
 ともあれ、そんな財団及びISSの目的と真実を知ったことで大門は監禁された。

 監禁中に大門は氷室から財団の狙いを聞かされ、協力を強要され、そこにの恋人・明日香愛(野村裕美)も連行され、共に閉じ込められた。
 そもそも愛はの主治医を装って彼を監視することを命じられた財団の手先だったが、と接している間にを愛する様になり、同時に目的と手段をはき違えてすっかり狂った組織になった財団・ISSに疑問を抱き、を元の体に戻すべく直談判に臨んだところでISSに捕らえられ、同時にの子供を身籠っていることが判明し、「貴重な実験サンプル」として大門と共に監禁されたのである。

 程なく、愛の胎内に居たと愛の子が胎児ながら母の危機を察知して父親であるにテレパシーを送ったことでが駆け付けることとなった。
 その間、苦しむ愛の姿から氷室が監禁所のドアを開けたところ、胎児(設定ではミュータントベビーと呼ばれている)がエネルギー波を発し、氷室達をぶっ飛ばしたことで大門は身重の愛と共に脱走した。
 当然、追手が掛けられ、研究所からもう少しで脱出出来そうなところで警備兵達に拘束されかけたが、そこにがシャッターを破って乱入し、二人を助けた。

 だが、財団の追跡は執拗で、氷室自らマシンガンを持って追って来た。更にはの抹殺指令を受けたセーラ・深町(塚田きよみ)率いるCIAのコマンドチームも襲ってきた(深町自身は自分がに助けられて経緯からも、「捕獲」を進言したが、CIA本部は聞く耳持たず、命じたのは「抹殺」の一点張りだった)。
 そして計画が完全に瓦解したことで自らを待ち受ける処分に面した氷室が抱いていたのは、大門・愛に対する「道連れにしてやる。」と云う殺意だけだった。
 その氷室の銃撃から大門を庇って愛が致命傷を負い、愛が胎児を託して息を引き取ると怒り心頭となったは仮面ライダーシンに変身して氷室を惨殺。直後、氷室の腹心でISS警備班のリーダーにして、改造兵士レベル2でもあった豪島(安藤麗二)が乱入してきた。

 壮絶な戦いの末、シンが勝利するのだが、この間、大門は愛の遺体の側に佇んでいただけだった(まあ他に行動のしようもなかったとは思うが)。だが、安心する間もなく財団壊滅を目論む深町達が襲撃してきた。命令上、「抹殺」しか頭にない深町達は一般ピープルに過ぎないと思われるISSの警備兵を問答無用で射殺し、その牙を風祭親子にも向けて来たから性質が悪かった(深町には多少の罪悪感はあったようだったが)。
 追い詰められた風祭親子だったが、そこに今度は財団側がヘリコプターからの銃撃・砲撃で乱入してきた。

 上空からの攻撃でCIAチームを蹴散らした財団ヘリは網で大門とシンを捕らえ、父子はそのまま連れ去られようとした。しかし重傷を負っていた深町が立ち上がってロケットランチャーにてヘリを砲撃。砲撃は命中し、ヘリは燃えながらISS本部にてそれを道連れに大破・炎上した(←金のかかっている作品だ)。
 そのままストーリーは終わり、は愛の遺体を抱きかかえたまま何処ともなく歩いていき、母体が死して尚生存している模様の我が子と意思を通わせていた。大門の生死がはっきり描かれた訳ではないが、生身の人間が掛かる状況で生き残れるとは思えずWikipediaなどでも死亡したとされている。



存在感 『真・仮面ライダー序章』はビデオ作品で、謂わば、話は1話しかない。それゆえ、それなりの役どころが与えられれば存在感は充分である。一方で、作品がヒットしないとシリーズとしての存在感が出演者全員低下する(苦笑)。そして視聴率がはっきり現れないビデオ作品の当たり外れを断じるのは容易ではない。

 ただ、それまでのTVシリーズと比較すると、この作品は重い。正直、様々な意味で子供には見せたくない。ラブ・シーン手前のシャワーを浴びるシーンでは一瞬だが明日香愛の乳首が見えており(嬉々)、惨殺され人間は(頸動脈を完全に掻き切られた描写で)凄まじい勢いで大出血し、何より仮面ライダーシンの異形はグロテスクで、殊に変身過程の姿及び苦悶振りは子供なら泣き出すのではないかと思われる程である。
 誤解無いように断っておくが、あくまで「子供に見せ難い」と云うだけで、作品の存在意義を否定したり、貶めたりする気は毛頭なく、ライダーの原点を重視した意味では忠実に出来たいい作品だと思っている。
 ともあれ、そんな作品の重さを為す要因の一つとして、「実の父による改造」と云うものがある。実父による改造と云う意味では仮面ライダーX・神敬介と云う前例があるが、Xライダーの場合はある意味緊急避難措置であり、敬介の死を避ける為の止むを得ない措置だった。しかしこの大門の場合、親を想うが故の了承があるとはいえ、「父が子に人体実験を施している。」のである。人によっては大門「とんでもない親父」と見る者も少なくないと思われるし、大門を批判的に見ない人物でも、息子を人体実験に供したことに重いものを感じずにはいられないだろう。
 となると1時間半の時間の中でそれなりに登場するシーンも多く、設定・動向・禁忌との関係から風祭大門の同作品における存在感は小さいものになり様がなく、ライダーの父親達が雁首を並べたとすると、その中における存在感は否が応でも大きくなると思われる。まあ、雁首並べる程、ライダーの父親は数多く登場しないが(苦笑)。

 また大門は終盤の殆どを風祭真及び仮面ライダーシンと行動を共にしているから、最後まで目の離せない存在でもあった。



息子・番組への影響 風祭大門は一面被害者であり、一面加害者でもある(←些か冷酷な云い方だが)。
 勿論「被害者」と云うのは財団に騙される様に利用され、息子・風祭真とその嫁(と書くには語弊があるが、「孫の母」に変わりはない)もそれに巻き込まれて悲惨な目に遭ったことを指す。最終的には自らも命を落とした。

 そんな大門が善人か悪人かは単純には語れない。
 明日香愛への労りや、ISSの研究強要を断れない状態に陥った際に真っ先にを対象から外すことを懇願していた点を見れば、父親として、人としての愛情は充分に持っていたのが垣間見える。
 一方で、ストーリー開始以前に人体実験に携わり、被験者を複数死亡させた過去を持っていたことを鑑みれば、かなり問題のある人物でもある。

 ここで少し「人体実験」について。

 この単語のイメージは頗る悪い。何せ尊い人間の体をどうなるか分からない実験に供するのは完全に問題のある行為で、未知のリスクに曝すことに両親の一欠片でもあれば強い抵抗を感じることだろう。

 一方で、人体実験を経ないと完全な成果が得られないことが多いのも、悲しくも厳しい現実である。
 医学に関しては全くの素人だが、何度動物実験を行っても、人体にどう影響するかは実際に人間に用いないと完全な判断は下せないらしい。
 現実の歴史において、エドワード・ジェンナーの種痘も、ルイ・パスツールの狂犬病ワクチンも、被験者が命を落とすかも知れない恐怖と、それを覚悟の上で受け入れた被験者がいて初めてその効能が世に示された。
 新型コロナワクチンの接種に強い抵抗を示し、断固拒否する人も決して少なくないのは記憶に新しいところである。

 また悪名高いナチスの731部隊の人体実験が戦後の医学を大きく発展させたのは良く囁かれることで、その点を指してナチスや731部隊に妙な擁護を行うふざけた輩もいる。
 確かに人体実験が医学研究において有効な手段であり、その成果が医学の発展に寄与している事実までは否定しないし、既に得られたデータは大切にすれば良い。しかしながら、だからと云って捕虜を相手にその意思を無視して行われた非人道性を無視して良いことにならないし、ナチスや731部隊の人体実験を「是」とする連中は自分やその家族が被験者となってその研究過程で無残な死を迎えていても一切文句が無いなら好きなだけ擁護をすればいいと思う。

 語弊有る云い方になるが、すべての医薬品は実地の使用と云う、ある意味における「人体実験」を経て、世に出て、広く一般に流通する。それゆえ、厳重な動物実験を繰り返した果てに、最終的に被験者の完全な同意を得た上で人による効能の確認は何処かで必要になるだろうし、今後も必要とされるだろう。

 それゆえ、「人体実験」を一刀両断的に「悪」とはしないが、リスクの大きさ了承、被験者の同意、事前の可能な限りの検証を経ずしてのそれは極悪行為に他ならず、結果的にその後の医学発展に貢献したとしても、現実の歴史で捕虜を相手に行ったものや、フィクション上でも悪の組織が被験者の遺志を無視して行ったものに対しては極限の批難を持つべきであるとシルバータイタンは考える。

 いずれにせよ、は完全に自らを父の為に実験材料として供することに合意していた。恐らくは過去の失敗から臨床工学の権威であった父の立ち直りを期してのことだろう。だからと云って実際に息子に実権を施した大門の行為には首を傾げたくなる面もあるが、大門が過去の被験者死亡による責任を強く感じていたことや、生物兵器にされんとしていた息子の変貌に強い憤りを抱いていたことからも、恐らくは大門の中に「失敗によるリスク」と「成功した暁に得られる成果の大きさ」が天秤に掛けられていたことだろう。

 悲しむべきことにそんな風祭父子の想いはISS、引いては財団に良い様に利用されていた訳で、そこに「仮面ライダーVS悪の組織」という図式が成り立ち、『真・仮面ライダー序章』という作品の根幹を成していたのだから、物語の始まりとして風祭大門の存在は欠かせず、皮肉にもその死と同時に話は終わった。
 この作品は原作者の故・石ノ森章太郎氏も登場し、御子息で脚本を務めた小野寺丈氏もチョイ役ながら登場し、石ノ森先生が仮面ライダーBLACKと並んで「仮面ライダー0号」としたこだわりの作品でもあり、人体を改造することの非人道性と、作られた異形の存在が持つ悲しさも盛り込まれている。
 それゆえ、利用された形とは云え、改造人間生みの親となった大門の存在はストーリーの根幹を為していると云える訳だが、同時にマスカーワールドが持つ重みもまたその双肩に背負っていたと云えよう。


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令和五(2023)年七月二五日 最終更新