File6.園崎琉兵衛……家族・狂気・恐怖
Farthers Profiel
登場作品 『仮面ライダーW』 名前 園崎琉兵衛 子 園崎冴子、園崎若菜、園崎来人(フィリップ) 演 寺田農 登場 第1話、第2話、第4話、第5話、第7話、第8話、第9話、第10〜13話、第17〜19話、第23話、第27〜第30話、第32話、第35〜40話、第42〜46話、第48話、第49話 父親としての影響度 ★★★☆☆☆☆☆☆☆
概略 自らを「地球に選ばれた家族」と称する、風都への多大な影響力を持つ富豪一家の家長で、秘密結社・ミュージアムの創設者にして総帥。
一家の裏の顔を知る極一部の人間を除き、側に仕える専属のメイド達でさえ仕事以外では関わってはならないとされ、警察すら彼等のことを詮索出来ない。
一方で、風都博物館館長という表の顔を持つ。ケーキなどの甘味に目がなく、有能なパティシエの作った菓子を楽しむことを日課とする。また、自身も料理の腕前は高いらしく、園咲家の最後の晩餐では手料理を振舞っている。
元々は考古学者として妻・文音(声・幸田直子)との間に長女・冴子(生井亜美)、次女・若菜(飛鳥凛)、長男・来人(菅田将暉)を儲け、幸せな日々を送っていたが、ある日、星降谷の異物を発掘していた際に来人がガイアゲートに転落して死亡するという悲劇に見舞われてから歯車が狂い出した。
データの塊として復活した息子が「地球(ほし)の記憶」と繋がる能力を得たことを知ったことで地球のすべてを知ることで園崎家が「地球に選ばれた家族」であると自認する様になり、神の領域に登り詰める為にガイアメモリを扱う組織−ミュージアムを組織した。
その目的は「理想の社会の構築」で、それを成し遂げる為に風都とその住民そのものを「地球の記憶」の巨大な実験場にしている。
一見温厚で笑顔を絶やさず、積極的に人を歓待する人当たりの良い初老の男性で、それはそれで間違いなく彼の性格の一端なのだが、上述の体験を経てミュージアムを統べるようになると目的の為に手段を選ばず、その過程で風都住民達の犠牲も意に介さず、自分に刃向かうものは一切容赦しない冷酷漢となったが、それは家族に対しても変わらなかった。
来人の家族に対する記憶を消した上、制御プログラムとして利用し、ミュージアム傘下のIT企業ディガル・コーポレーションの社長とするべく冴子にスパルタ教育(体罰も辞さなかった)を施す一方で、内心では若菜を真の後継者(女王)としてガイアインパクトで「神の皇子」へ昇格させようとするなど、家族すら非情に利用し、用済みとなれば命を奪うことも辞さないやり方から、文音には逃げられ、彼女が私立探偵鳴海宗吉(吉川晃司)に来人救出を依頼したことが、来人がフィリップ−仮面ライダーWの一翼となることとなった。
『仮面ライダーW』は架空都市・風都を舞台に、その街に人間に驚異的な能力を与える一方でその能力に溺れた被験者を悪事に走らせる危険アイテム・ガイアメモリを密かに流通させる組織及び、ガイアメモリの為に暴走した者=ドーパントを対峙すべく鳴海探偵事務所の私立探偵・左翔太郎(桐山漣)とその仲間及び風都警察超常現象課の面々が戦う物語である。
仮面ライダーW達にとっては、ガイアメモリとガイアメモリを密売する悪の組織が敵となる為、『仮面ライダーW』終了後も劇場版や派生作品である『風都探偵』でも翔太郎とフィリップの戦いは続いていたが、本編ではミュージアムの滅亡と、それに伴って再度命を落とした筈のフィリップが復活したことで完結しているので、ミュージアムの首領である園崎琉兵衛=テラー・ドーパントが事実上のラスボスだった。
存在感 嫌でも巨大な存在感がある。何せ、事実上のラスボスなのである。
ストーリーを通じて園崎琉兵衛は余り前線に出ず、冴子がタブー・ドーパント、若菜がクレイドール・ドーパントに変身して度々左翔太郎と干戈を交えていたのに対し、琉兵衛がテラー・ドーパントとして登場したのは数える程しかなかった。
つまり、風都を舞台に見てみると琉兵衛はラスボスらしく世間に(様々な意味で真の)姿を見せず、翔太郎達がその存在を(ミュージアム関係者として)知ったのも終盤で、主人公サイドから見ればその存在は色濃くなかった。
しかしミュージアム内部では琉兵衛が絶対で、姉妹でありながら互いを憎み合っていた冴子と若菜も琉兵衛が一声制止すると取っ組み合いを辞めざるを得なかった。二人の娘以外にも、冴子の夫にして園崎家の養子となった園崎霧彦(君沢ユウキ)も、霧彦=ナスカ・ドーパント戦死後に冴子の新しい婿候補となった井坂深紅郎(檀臣幸)も、最終的には琉兵衛に反旗を翻したが、表立っては逆らえない様子だった。
また、愛猫ミック=スミロドーン・ドーパントは、琉兵衛の命を受けるや冴子暗殺に躊躇うことなく取り掛かり、特定のフォークの振り方をしたとたんに動きを止めていたから、かなり躾が徹底されていた様である(フィリップが過去の記憶に基づいてロッドを振っただけでスミロドーン・ドーパントが動きを止めた程だった)。
そんな琉兵衛の首領として多くの人々を我が野望に従事させる基となっていたのは、テラー・ドーパントの名が示す通り、「恐怖」で、上級ドーパントとしての能力もあって、その恐怖心を植え付ける力はまともに相対した翔太郎が一時ひたすら怯え、普段何かと翔太郎を敵視し、からかいまくっている真倉刑事(中川真吾)が本気で心配する程だった。
だが、それは彼にとって非常に皮肉な話だった。
現実の歴史が証明している様に、所謂、恐怖支配は人間を心から服従させることは出来ない園崎琉兵衛も例外ではなく、恐怖で人を従え、忠誠を強いられた人々の悲痛や意志を一顧だにしない姿勢の為にまずは妻・文音がシュラウドとなって離反し、長女の冴子も、その前夫・霧彦も、新夫候補・井坂も彼から離反し、最後まで従っていたのは彼が最も期待していた若菜だけだった(その若菜も一時は独自の生き方を優先してフィリップとの駆け落ちを考えたことがあった)。
何より、彼が武器とした「恐怖」とは、彼自身が抱いていた「家族を失うという恐怖」から生まれたもので、イーヴィルテール=直訳すれば悪魔の尻尾だが、家族五人の名を記した刷毛を突き付けられただけでそれまでの冷静振りが嘘のように周章狼狽した。
その様子から、翔太郎からは、「アンタは道を誤り家族を犠牲にしてきた…だがそうなっていく自分が恐ろしかった!だから幸せだった頃の象徴であるこの刷毛を家族とすり替え、自分の気持ちを誤魔化してきた。違うか?」と指摘され、鳴海亜樹子(山本ひかる)には、「あなたにも怖いものがあったのね。」と看破された。
言葉では二人の指摘を否定した琉兵衛だったが、狼狽振りは明らかで、加えてフィリップの「僕は消えない!」の言葉を柱に正気を取り戻した翔太郎がメモリに意識を移していたフィリップと共に仮面ライダーWに変身するのに成功し、そこに照井竜(木ノ本嶺浩)=仮面ライダーアクセルも加勢し、最終決戦となったが、武器である筈の恐怖が自身に向けられたテラー・ドーパントに勝ち目はなく、ジョーカーエクダブルストリームを食らって敗れた。
直後、アクセルに倒されたテラー・ドラゴンが園崎邸に墜落して大爆発したショックでガイアメモリが体外に排出され、園崎琉兵衛はドーパントとしての力も失われた。満身創痍の琉兵衛は燃え盛る屋敷の中に突入。「せっかく悪魔のメモリから家族を引き離せたのに…!」と悔やみ切れないフィリップとは真逆に悔いることなく、半幽体のような姿になった若菜を一瞬垣間見、娘が今こそ女王として地球の未来を託されたと確信するとその場にいない文音に「さあ踊ろう母さん!あの頃のように!」と呼び掛け、1人ダンスで心は12年前の家族の思い出のシーンに戻し、邸宅とともに燃え尽きてその人生を終えたのだった。
琉兵衛が戦死した第46話は最終回ではなく、話はあと2話続き、死後の琉兵衛にも出番はあったが、仮面ライダー歴代作品にあって、絶大な権力とカリスマ(地域及び家内社内限定だが)と財力を持ち、圧倒的恐怖で周囲を悩ませ、それでも最期の最後に人間性を取り戻すという展開を辿ったラスボスは「ヒーローの父」を抜きにしても稀有な存在で、これを往年の盟友・寺田農氏が好演したのだから、もしこれで園崎琉兵衛の存在感が小さいとしたら、それは視聴者の方が真面目に見ていないと断ずるべきだろう。
息子・番組への影響 もはや上述部分だけで、「云うに及ばず」かも知れない(笑)。
園崎琉兵衛は歪んだ理想と家族を失う恐怖との併存に良識を失い、左翔太郎が云うところの、「街を泣かし続けて来た諸悪の根源」となってしまった訳だが、様々な顔を持ちつつ、彼は一貫して「父親」であり続けた(但し、息子の前でその一面を見せた時間は長くない)。
自分達一家が地球に選ばれた一族であると思い込み、その理想を追う為には長女を次女への火付け役に貶め、次女を巫女に祭り上げ、長男をデータの塊として生贄に捧げることを決意したのだから、琉兵衛は父親以前に、人としての良識を失っていたと云わざるを得ない。
だが、それでも彼から人間臭さや、父親らしさは完全には失われなかった。冴子との結婚及び園崎家への婿養子入りを直前に控えた霧彦に対し、「一発殴らせてくれんかね?」と冗談めかして云っていたのは正しく、「新婦の父親」だった。
その霧彦が園崎家への反旗を翻したことで命を落とし(その際に「家族を失う」ことへの残念そうな表情を浮かべていた)、冴子は夫よりも実家を選んだが、冴子が井坂深紅郎と急接近した際には、「新しい恋」に臨む長女に複雑な想いを見せていた。
勿論、12年前の事故で命を落とした息子・来人を死人とはいえ「データの塊」としか見ず、生贄のように若菜に捧げて、若菜が「神の巫女」となる為に消滅させようとしていた様は「悪魔の所業」と云わざるを得ない。
だが、生贄にされる直前のフィリップの叫びに明らかに躊躇いを見せ、それを振り切るように、「二度目のサヨナラだ、来人!」と告げていたことからも、彼を息子として遇してきた日々が完全に消え失せていた訳ではなかったのだろう。
作中、当初のフィリップは翔太郎の師匠・鳴海壮吉がその身を犠牲にして救い出した記憶喪失の不思議少年だった。それが、ストーリーが進む内に、風都にガイアメモリを蔓延させているミュージアムの総帥の息子であることが明かされたのだから、良くも悪くも園崎琉兵衛はフィリップにも番組のストーリー展開にも深くかかわり続けた。と云うか、切っても切れんと云えただろう。
そして上述した様に、琉兵衛はその最期の最後に家族を失う恐怖に支配されていた人間であることが発覚し、そこを突かれるようにして敗れたことで皮肉にも父としての心、人としての心を取り戻した。
最終回にて、若菜の肉体を与えられることで蘇生を果たした経緯をフィリップが語るシーンにて、フィリップはデータの海にて以前の穏やかな息子想いの父親に戻った琉兵衛と再会していた。
最後の最後に家族の和解が成り、五人が心通わせ、笑顔で接していた時が一時甦った訳だが、歩み寄るフィリップに琉兵衛は、自分達のいる場所が生者の来るところではないと告げるかのように左手を差し出してフィリップを押し止めると、「この星の中からお前を見守っている」と言い残して家族と共に消えたのだった。
悪の組織の首領にして、歪み狂った理想主義者にして、恐怖に支配されつつ恐怖を武器としたモンスターにして、多趣味で多くの人々歓待する大企業の会長にして、主人公の優しい父……………これほどまでに様々な役割を担うヒーローの父親は今後出て来ないのではあるまいか?と云うか、簡単に出て来られて堪るかという気すらする(苦笑)。
真、園崎琉兵衛とは稀有な存在で、稀有な父親と云えよう。
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令和五(2023)年九月二八日 最終更新