File8.飛電其雄……傀儡・創造・崩壊

Farthers Profiel
登場作品『仮面ライダーゼロワン』
名前飛電其雄
飛電或人
山本耕史
登場第1話、第2話、第44話、第45話
父親としての影響度★★★★★★★★☆☆
概略 『仮面ライダーゼロワン』の主人公・飛電或人(高橋文哉)の父親だが、作中に登場するのは厳密には似て非なる存在である。
 というのも、或人の父・飛電其雄(山本耕史)は或人が生まれて僅か三ヶ月の2007年12月12日にデイブレイク(ヒューマギア工場における爆発事故)から或人を庇って妻(つまり或人の母)共々死亡した。
 そして作中に登場する其雄とは、両親を亡くした或人の為に、彼の祖父(つまり其雄の父)・飛電是之助(西岡徳馬)が父親代わりとしてその姿を似せて作ったヒューマギアであった。

 ヒューマギアとは、是之助が創立した株式会社飛電インテリジェンスにて開発された、人間代わって様々な仕事に従事するアンドロイドで、この『仮面ライダーゼロワン』は悪意ある存在に操られて暴走するヒューマギアとの戦いという形でストーリーが進み、その為に様々な業務に従事するヒューマギアが登場するのだが、是之助は12年前の段階で既に「父親代わり」を務めることの出来るヒューマギアを開発していた。

 身も蓋もない云い方をすれば、作中或人の眼前に姿を見せていたのは、「実父とは似て非なる存在」である。ただ、完全否定しようとは思わない。同作においてヒューマギアは人間でなくても人格を持つ存在として良くも悪くも真剣に人類は向かい合っていた。
 そもそも息子の笑顔、ヒューマギアと人間を守る目的で其雄が設計したのが仮面ライダーシステムである。当然そこには其雄の人格が踏襲されており、昭和作品で云えば仮面ライダーX・神敬介の父・神啓太郎の全知識・全人格がインプットされた神ステーションに近い。
 当然、或人を教導する父親としての役割に従事し、代替的存在から発せられたものとはいえ、「心の強さこそが真の強さだ」「夢を忘れずに戦え。戦わなければ、人類は滅亡する」「成長したな。或人。」「だが忘れるな。本当の強さは力が強いことじゃない。心が強いことだ。今のお前ならもうその意味が分かるはずだ」といった言葉を或人に伝えていた。

 嫌な云い方をすれば、これらの台詞は真の意味で飛電其雄が発したものでは無い。だが、其雄を基として作られたヒューマギアは最終的に、打ち上げ前の衛星アークが「人間の悪意」をラーニングさせられ、自律的な反乱を企てるという事態が発生した際に、衛星の打ち上げ阻止後の大爆発(デイブレイク)の爆発余波から幼い或人を庇って大破し、機能を停止してしまったのだった。



存在感 いくら似せた存在が登場するとはいえ、やはりそこは本当の父親にはなり得なかった。過去の回想に登場するとはいえ、その時点での飛電或人は幼く、それ故に飛電其雄の存在感は決して大きくはない(然程小さくもないが)。

 ただ、一個人としてクローズアップしてみれば、作中におけるヒューマギアの存在意義や、人間との接し方を考察するには貴重な材料である。何せ、多くのヒューマギアが「人間の代わりに労働を行う」と云う存在であるのに対し、其雄のヒューマギアは「父親そのものであること」を担わされたのだから。
 現実の政界にも部分部分で人間に代わって労働するロボットは何十年も前から存在している。決まった作業をこなすだけで良いのなら何もヒューマノイド的な身体形状を有する必要はなく、完全な形で人間の代わりを担うまでの存在になるにはまだまだ時間がかかると思われる。だが、何時かは目指される姿でもある。

 幾度か触れた様に、作中に出て来る其雄の姿をしたヒューマギアは其雄本人ではないため、どこまで其雄として語って良いかは難しい。だが、作中でもどこまで自分達と同じ人間として接するかを考察する上でも特殊な役割をヒューマギアに担わす元となり、その心根を与えた飛電其雄の存在は独特なものが有ると云えよう。



息子・番組への影響 本人の存在感は小さくとも、本人の残した影響は極めて大きい。
 当の本人とは異なる存在であっても、その精神がしっかり受け継がれ、内裏とはいえ、親として養育し、それが息子の成長に寄与したのだから、飛電其雄飛電或人及び『仮面ライダーゼロワン』と云う作品にもたらした影響が小さい筈が無かった。

 作中、或人は祖父・是之助の遺言によって飛電インテリジェンスの代表取締役とならざるを得なかったが、本人が成りたいのはお笑い芸人だった(恐ろしく面白くなかったが(苦笑))。
 それというのも、其雄の姿をして、其雄の代わりを務めたヒューマギアは、自分を笑わせようとする或人を「面白いな。」と笑って褒める優しい「父親」ではあったが、AIゆえに心から笑うことが出来なかった。それを受け入れられなかった或人は、「この父をいつか絶対笑わせる。」という誓いを立てていたからだった。

 人の親となったことのない身で養育を語るのはおこがましい気もするが、自分が親に育てられた日々のことや、親となって子供を育てた友人・知人・身内の例を振り返れば、子供は決して親の想う通りには育たない(少なくとも100%には)。が、一方で親の影響を全く受けないこともあり得ない(例え親への反発から真逆の生き方をしたとしても)。
 その点、其雄の心は代替であるヒューマギアを通じてではあるが、間違いなく或人の成長と人格形成と夢に大きな影響を与え、そのことが或人が、「ヒューマギアは人類の夢であり、大切な家族」と考え、秘書型AIアシスタントであるイズ(鶴嶋乃愛)達にも分け隔てなく接する人間になり、その想いを胸に仮面ライダーゼロワンとして、真に人間に危害を加えるヒューマギアと戦い、時にヒューマギアを守る戦士となった。

 現実世界には人型のロボット=アンドロイドはまだまだ「人」として接するレベルには達していないし、達したとしても絶対に認めない者も少なくないだろう(同じ人間であっても人種や国籍が異なれば自分達と同一視しない者が存在するほどなのだから)。
 そして個人的には例え外部からの信号伝達によるものであれ、暴走することで人間に危害を加える存在ならそのロボット・アンドロイド・ヒューマギアは破壊されてしかるべきと考えている(同じ人間だってとんでもない凶悪犯罪をしでかし、罪のない人を虐殺したようなものは処刑されるべきと思っているのでね)。
 このようなことに頭を悩ますのはまだまだ遠い未来かも知れない。だが、何時かやって来る未来だとも思うし、逆説的な考え方だが、人間と人間的存在である創造物との交流が真剣に考えられ、互いが互いを尊重出来る未来には人種差別もLGBTを巡る差別も解消されていることだろう。
 そういう意味では、飛電其雄という存在が提起した問題と、それに取り組み事の重大性は、或人にも、番組にも、現実世界の未来にも大きなものが在ると断じられる次第である。


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令和五(2023)年一〇月二〇日 最終更新