ゲドリアン 執着と忠誠

担当俳優渡辺実・声:新井一典出番「仮面ライダーBlackRX」第1話〜第42話
所属組織クライシス帝国主君クライシス皇帝(上司はジャーク将軍)
肩書き牙隊長(兼 怪魔異生獣大隊隊長)改造素材不明(そもそも改造されているかどうかも不明)
武器体術乗り物ストームダガー(ガテゾーンのバイク)後部座席
仮面ライダーBlackRX組織内の敵査察官ダスマダー大佐?
部下キュルキュルテン、アッチペッチー、ドグマトグマ、フラーミグラーミ、ムサラビサラ、バングコング、アントロント、リックパック、マットポット、キメラゴメラ、ムンデガンデ、ガゾラゲゾラ、バルンボルン、ゲドルリドル(全員怪魔異生獣)
死因怪魔異生獣ゲドルリドル戦死によるクライス要塞エンジンエネルギーの逆流遺言「(奇声)ゲドルリドルー!!」
悲惨さ利用され振り
死の悲惨度
同情度



暗く寒い故郷と血統 怪魔異生獣大隊隊長にして牙隊長としてクライシス帝国の地球征服総司令官ジャーク将軍の指揮下に属するゲドリアン
 同じジャーク将軍指揮下の四大隊長の一人とはいえ、純粋なクライシス人である怪魔獣人大隊隊長兼海兵隊長ボスガン・怪魔妖族大隊隊長兼諜報参謀マリバロン(高畑淳子)からは暗に見下され、怪魔ロボット大隊隊長兼機甲隊長ガテゾーンとは比較的仲が良かった。

 ボスガンもマリバロンも口にはしなかったが、ゲドリアンは怪魔界に在っても最も暗く寒いゲドラー域(ゲドリアン談)の出身で、そんな地の出身であるゲドリアンが隊長に任命された事を皇帝や将軍に深く感謝し、その地位に並々ならぬ執着を見せていた事からもゲドリアンの出世は異例且つ同じ地域の出身者には極めて難しいものだったであろう事は想像に難くない。
 つまりゲドリアンは嫌な云い方をすれば成り上がり者で、そう見なされた者は現実社会でも実力者であっても妬まれたり疎んじられたりする事が少なくない。
 一方、正体不明の怪魔ロボットであるガテゾーンは地位や名誉と云ったものには無頓着(作戦遂行や最強ロボット製作の方が余程関心が高かった)で、必然的にゲドリアンはガテゾーンと組む事が多くなった。
 詳しくは後述するのだが、こう云った背景はゲドリアンの活躍と奮闘を産む努力を彼に促す一方で彼自身の悲劇にも繋がっていった。


弱き部下達 クライシス帝国の地球侵略に対し、主人公である仮面ライダーBlackRXが立ち向かい、クライシス帝国側は怪魔獣人・怪魔妖族・怪魔ロボット・怪魔異生獣がかわるがわる襲いかかる(または作戦遂行上衝突する)訳だが、当然の事ながらクライシス側は連戦連敗を喫す。

 そんな中、怪魔ロボットはその頑健さと膂力で、怪魔妖族は想像し難い妖術でRXを比較的苦しめたのに対し、怪魔獣人と怪魔異生獣は一部の例外を除いてRXを差して苦しめる事もなく、散々な情けなさを露呈していた。
 下表はその例示だが、こんな頼りない連中を率いつつもゲドリアンは最期には己の細胞から育てたゲドルリドルに己の身を犠牲にしたエネルギー注入(詳細後述)を行って君命達成に文字通り粉骨砕身したのである。
主な情けない部下
怪魔異生獣使命醜態
キュルキュルテン 増殖後に労働力となる。 三体もいて一方的にRXに敗れ、同士討ちまでしていた。
アッチペッチー 地球人をサボテン化して労働力並びに食料として確保する。 完全に見せ場をマリバロンにパクられる。
ドグマトグマ 南光太郎の身近な人間に化けて光太郎を孤立化させる。 ライダーの能力を凌駕する変身能力を持って佐原茂に化けながら、本人の大嫌いなトマトを丸齧りするという観察力のなさから正体がばれる。
フラーミグラーミ 次元転換装置のエネルギー源を持って逃亡したクライシス人父娘の追跡。 唯一の長所であるテレポート能力をバイクで見破られて敗北。
ムサラビサラ 病原菌をばら撒いた相手に「空を飛べる。」と錯覚させて投身自殺に導く。 光太郎の「お前の菌は俺には空を飛ぶ能力を与えた!」とのハッタリにあっさり引っかかり、最後まで気付かず。
アントロント RXとシャドームーンの抹殺。砂を操る能力も、強化改造手術もRXを少し傷付けただけで終わる。
マットポット 休火山噴火の為の破壊工作。 シャドームーンに一撃食らっただけでゲドリアンを裏切る。懲罰後の平謝りもカッコ悪し。
キメラゴメラ 人を操る蝶を使った社会混乱誘発。 ダスマダー大佐の妨害に手も足も出ず。
バルンボルン 万能のスポーツヒーロー・グレートマスクに化けてヒーローに憧れる子供達を洗脳する。 全力を発揮できる真の姿より、グレートマスクの姿の方が、全身の均整が取れていて、動きも素早かった。


後任の対立者達 前述した様にゲドリアンは彼自身の出自にコンプレックスを、授与された隊長位に対する多大な感謝の念と執着を持っていたわけだが、その念の大きさは尋常じゃなかった。

 当然の事ながらゲドリアンは隊長位や、地球攻略の手柄を後から加わる面子に奪われる事を極端に恐れ、警戒していた。
 勿論ジャーク将軍やクライシス皇帝に対する謝意もあるのだろうけれど、ジャーク将軍がRXに対するライバル意識を利用する為に招聘したシャドームーンの対戦を独断で邪魔して、我が意を解さない事に怒ったジャーク将軍の懲罰を受け、査察官に過ぎないとはいえ皇帝陛下の代理人たるダスマダーにも露骨な敵意を剥き出しにしていたのだから、取って代わられる事に対する冷静さのなさは可愛そうになるほどだ。

 しかもジャーク将軍はシャドームーンを利用する事しか考えていなかったし、ダスマダーはクライシス皇帝その人の変身だからゲドリアンは終始要らざる心配をし、殊にダスマダーの正体については最後まで知ることなく無念を秘めて逝った様には知らぬがゆえの悲劇を感じる事を禁じ得ない。

 厳しい環境とコンプレックスはゲドリアンを強くはしたが、一度「隊長」と云う名の温室に入った事により、そこから出る事に頑なな行動と思考をもたらしたのである。
 既得権益に執着してしがみ付いて理性を失う醜態は現実もフィクションも、地球人も宇宙人も変わらない事が嫌でも思い知らされる。
 前述した様にジャーク将軍にはシャドームーンがどうであろうと、ダスマダーが何を云おうとゲドリアンを降格する意志はなかったのだから、少なくとも最終時計が出てくるまでは……。


最後の勝負と人身御供 仮面ライダーBlackRXとその仲間達の妨害で地球侵略は丸で進まず、遂にクライシス皇帝の怒りは頂点に達し、最終時計がクライス要塞に送られた。

 最終時計の外見は三角錐形の透明な容器に赤い液体を利用した水時計なのだが、一度動き出すとクライシス皇帝以外に止めたり消したりする事は不可能で、目盛りはなく、満杯になった時が全ての終りなのである。
 最終時計が満杯になると時計は爆発し、何処に逃げようとも四大隊長の死は免れぬ、と云うシロモノである。
 当然の如く要塞内の空気は一変した。

 ゲドリアンはジャーク将軍に最後の手段をもっての出撃を申し出、許可を得ると、普段は共闘する事も多かったガテゾーンの助勢さえ断った。
 ゲドリアンは自らの細胞を培養して育て、鍛えた最後の怪魔異生獣・ゲドルリドルを率いて出撃した。
 ゲドルリドルはゲドリアンの最後の切り札だけあって、単に膂力に優れるだけではなく、ありとあらゆるエネルギーを吸収して自らの力に取り入れて襲いかかる恐るべき異生獣で、それはキングストーンさえ例外ではなかった。
 だが、コンビプレイで後RXをグロッキーに追い込んだゲドリアンとゲドルリドルの前に突如ダスマダーが乱入、RXの首を自らの手で取ることにこだわる余り、あろうことかゲドルリドルに斬り付け、ゲドルリドルは縮小体に化した。

 結局、くだらない仲間割れの間隙を縫ってRXに逃げられ、ゲドリアンは口を極めてダスマダーを罵った。しばし項垂れたダスマダーは、しかし、突如逆ギレしてゲドリアン「皇帝陛下の名において査察官ダスマダー、打倒RX失敗の責任者ゲドリアンを処刑する!」と宣して、ゲドリアンに斬りかかった!

 ダスマダーの逆ギレと突如の罪人呼ばわりに愕然としつつも、そこはさすがに四大隊長、徒手空拳でありながらサーベルを振るうダスマダー相手にやや優位に戦いを進めていたが、そこに両者の戦いをモニターしていたジャーク将軍よりボスガンとガテゾーンが派遣された。
 当初より共闘してきた仲間を頼らんとしたゲドリアンにボスガンとガテゾーンは誰かが犠牲にならないと最終時計が止まらないことを冷たく告げ、ゲドリアンに襲いかかった。それはゲドリアンを人身御供=生贄にする宣言でもあった……。
 それまでの仲間意識からは絶対に考えられない選択だった。つまり帝国内はそれほど切羽詰っていたのである。侵略戦争にしても、帰るべき母国が急速に崩壊しようとして、帰り場なきがゆえの悲劇がゲドリアンにも牙を剥いた訳である。

 ゲドリアンは三人を口を極めて罵り、さすがに三人は−特にボスガンとガテゾーンはそれまで共闘してきた仲であった事もあり−バツが悪そうだったが、ダスマダーは弱体化したゲドルリドルを懐中に庇うゲドリアンに対し、三人のチャップにバズーカ砲による砲撃を命じ、爆音と絶叫とともにゲドリアンの姿は消えた。


決死のエネルギー補給と大いなる忠誠 作戦失敗の非をゲドリアン一人に科した姑息を知られてか、知られずか、最終時計は消えなかった。
 ジャーク、ダスマダー、三人の隊長達はRXの首を挙げて赦免を勝ち取らんと血眼になってRXの姿を求めたが、クライス要塞エンジンルームに異変が起きた。

 見張りのチャップを殴り倒してエンジンルームに侵入したゲドリアン (勿論生きていたのだ)が自らの体を媒体に要塞のエネルギーを基地外のゲドルリドルに向けて発信し、ゲドルリドルによってRXを打倒させ、その手柄を元に自らを嵌めたジャーク以下三大隊長とダスマダーの処刑を皇帝に直訴する為の行為だった。
 止めようとするダスマダーに「近付けばエネルギーを基地内に逆流させ、要塞を爆破するぞ!!」と恫喝し、「体がバラバラになるぞ!」と云って諭すガテゾーン(←台詞その物は間違っていない)には「俺の身体がバラバラになるのが早いか、ゲドルリドルがRXを倒すのが早いか、どうせ一度は消された命だ!!」と、叫んで死を覚悟した戦士の気迫を見せつけた。
 元々短躯な上に四つん這いになることも多いゲドリアンは小柄なイメージが強い事もあって、両腕を広げて直立するこの時のゲドリアンは今見ても妙に大きく見えるのはシルバータイタンだけだろうか?

 為す術なく戦況を見守るジャーク以下4人を余所に文字通り身を削りながらゲドルリドルの名を呼び、督戦するゲドリアンだったが、善戦空しくゲドルリドルはRXのリボルケインの前に敗れ、行き場をなくしたエネルギーがゲドリアンの全身を襲い、大絶叫の後、彼の体は一塊の砂塵と化した……。

 RX打倒の宿願を果たせなかったゲドリアンの死だったが、その死は彼の名誉回復の意味においては決して犬死ではなかった。
 しばしゲドリアンの−四大隊長最初の−死に呆然としていたジャーク将軍達は最終時計の事を思い出して司令室に急行した。そして眼前で消滅した最終時計に胸を撫で下ろた一行の耳にクライシス皇帝の声が響いた。
 クライシス皇帝の台詞はゲドリアンの忠誠を称え、その忠節に免じて最終時計を消し、一堂に再度のチャンスを与える事を宣言する物だった。
 直訴はならずともゲドリアンの名誉はその命と引き換えに回復された。

 勿論、このサイトを見るほどの人にはダスマダーの正体がクライシス皇帝その人であることは周知で、この名誉回復宣言も一種の茶番と見る人も多いだろう。
 だが、ダスマダーの正体は最後までジャーク将軍以下四大隊長には秘密だった事を思い出して頂きたい(マリバロンだけ薄々感づきかけていたが)。
 恐らく皇帝は首尾良くゲドルリドルの後を受けてRX抹殺に成功した際にはゲドリアンを功労者とし、RXに逃げられた後もゲドリアンの面罵に逆ギレしていなければ折を見てゲドリアンに非を認めずとも何らかの代償を払ったであろう事は充分に有り得る、とシルバータイタンは考える。
 ゲドリアンの名誉回復は為されるべくして為された。もっともその代償が彼の命である事は余りにも間尺に合わないものがある。


検証報告を受けた道場主より 本来、一年以内の滅びの運命を背負ったクライシス帝国の皇帝並びに臣民達には一切の余裕がなかったわけですが、そんな中でゲドリアンの必死さは際立っています。

 良くも悪くも、ゲドリアンという存在を考察する時、他の三大隊長が自然と比較されます(他の隊長を考察する時も同様ですが)。その時思うのが、他の三大隊長には余り必死さが感じられないということです。
 ボスガンは一時は自分が将軍になる野心を持ったものの、最終的にはジャーク将軍の懐刀に徹し、マリバロンはガロニア姫の一件の時にうろたえた以外はジャーク一筋で、ガテゾーンは端から地位・名誉・権力に無頓着で、それよりは自らが製作する怪魔ロボットの働きに執心していました。
 それだけに、地位・任務・外来者・来るべき帝国の運命に神経を尖らせるゲドリアンの切歯扼腕はただでさえ小柄な彼をより小者に見せます。

しかし、例え成りが上がりだろうと、部下が無能であろうと、周囲や外来者と調和できなかろうと、腕一本でのし上がり、それを認めてくれた恩を忘れず、仇には仇で徹底的にやり返し、その最中にも君命と本来の目的を忘れない一本気さはゲドリアンの魅力であり、それがより一層彼の悲劇を高めている事を、検証報告を受けて改めて痛感せずにはいられません。




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令和三(2021)年五月一九日 最終更新