8.井上警備員VSサイダンプ……命に代えてもダムを守らん
番組名 『仮面ライダー(スカイライダー)』第21話「ストロンガー登場 2人ライダー対強敵2怪人」 放映年月日 1980年2月22日 勝利者 金山警備員 勝利手段 強情なまでの使命感 勝利形態 破壊工作阻止
ストーリー概略 この第21話は前話である第20話の続きとなっている。第20話にてネオショッカーの魔神提督 (中康助)は数々の破壊作戦をスカイライダーに妨害されていた経験から二面作戦を考案した。要するに二つの作戦を同時進行で行えば、スカイライダーの体は一つなので悪くてもどちらかが成功する、と云う単純だが効果的な発想である。
その二作戦の為に召喚されたクラゲロン・サイダンプはスカイライダーの必殺技・スカイキックに耐えられる身体能力を持ち、単体でもかなりの強敵だった。第20話終盤でその両名に取り押さえられたスカイライダーは万事休すの状態に陥ったが、そこに仮面ライダーストロンガーが登場し、1対2のハンディキャップマッチは2対2の様相を呈し出した。
続く第21話で、ストロンガーの妨害を受けた2怪人は尚もWライダーに襲いかかろうとしたが、魔神提督は作戦遂行を優先させるように命じた為、両名は撤収した。
ストロンガーはスカイライダーに彼の日本での活躍を知っていたことや、クラゲロンのテロ集団(水源地に毒子クラゲを撒くもの)・能力、サイダンプのテロ履歴(インドで次々とダムを破壊し何百万人もの人間を溺死させたというもの)を告げ、二人して大山ダムに向かうも、サイダンプの姿は捉えられなかった。
Wライダーは毒子クラゲの繁殖所要日数からテロは三日後に行われる、と見て、クラゲロンはストロンガーが、サイダンプはスカイライダーがそれぞれ引き受ける事を確認し、一先ず別れた。
直後、喫茶ブランカに戻った筑波洋 (村上弘明)は仲間との会話の中でそのままではサイダンプに勝てない、と考え、特訓を決意。トレーニング場と見定めた山中に着くとすぐにストロンガーも合流し、スカイキックの強化=大回転スカイキックの開発に入り、ストロンガーの体を張った助力もあってこれを完成させた。
一方で、魔神提督は、ストロンガーがクラゲロンの能力を知り抜いていることを考慮し、繁殖量が不十分なのを承知な上で、ストロンガーの読みより一日早く作戦を開始することを命じた。
それに合わせてサイダンプもまた深夜の大山ダムに潜入し、アリコマンド達に指定したダムの3ケ所にダイナマイトをセットさせんとした。ダイナマイトでダムの中央にひびを入れ、その破損個所にサイダンプが自慢怪力で大破させ、下流に大洪水を起こす作戦なのだ(←道場主「その前にサイダンプ自身が鉄砲水に殺られないか?」)。
だが、潜入する際の僅かな気配を察知した老練の警備員がいたことが、この第21話に単純戦闘とは異なる側面を与えたのだった。
勝利 老練警備員の名は金山 (相馬剛三)。彼はダムが持つ重要性とそれを遵守することにこの上ない誇りを持つ、職務熱心な好々爺だった。
サイダンプ達が施設内に潜入した際には、不審を感じながらもその存在を察知し得なかった。僅かな不審も気に掛ける金山を同僚(←年齢的にも後輩と思われる)の井本(鎌田功)は心配し過ぎ、と軽く笑った。金山はそれに気を悪くせず、しかし職務の重要性から決して気を抜いてはいけないことを告げるのだった。
だが金山の悪しき予感は的中。金山帰宅後、夜警に務めていた井本はダイナマイトをセットするアリコマンド達を目撃。驚いて逃走に掛った井本だったが、サイダンプの一撃を受けて昏倒したのだった。
翌朝、ダム見学を望む自分の子供達に誇らしげにダムを案内していた金山だったが、彼の子・清(杉本司)が瀕死の金山を発見。驚いた駆け寄った金山は息も絶え絶えに必死にダイナマイトの存在を伝える井本の言を受け、清達に避難を命じるとタイマー音を頼りにダイナマイトを見つけてこれらをすべて解除した。
その頃、ネオショッカーは両作戦を開始。毒子クラゲの存在を察知した洋と仮面ライダーストロンガーは各々の標的を迎撃せんとして、洋はダムに向かった。
その頃、大山ダムではセット時刻になっても爆発が起きないことを訝しがったサイダンプがダイナマイト確認の為に再潜入した所で井本を(恐らくは医務室か病院へ)連れて行こうとしていた金山と遭遇。彼がダイナマイトを解除したことを悟ったサイダンプは金山を脅迫してダイナマイトの在り処を吐かせようとしたが、ダム破壊による惨禍は自分一人の命どころではない、と確信する金山は断固としてこれを拒否。
金山が、自身への脅迫には屈しないと見たサイダンプはアリコマンド達が捉えた清達の姿を見せて再度の脅迫を行った。
息子達を助けたい気持ちと、ダム破壊による惨禍を我が身に替えても防がんとする使命感の狭間で悶絶する金山だったが、一連の破壊阻止と静かな抵抗が充分な時間稼ぎとなった。
つまり、この間にスカイライダーが到着し、子供達を捕えていたアリコマンドが一掃され、金山父子と子供達はその危機を脱したのだった。
スカイライダーとサイダンプの一騎打ちが始まり、そこに毒子クラゲ作戦を阻止されたクラゲロンとストロンガーも合流した。
幾ばくかの苦戦は有ったが、スカイライダーは特訓によって身に付けた大回転スカイキックでサイダンプを撃破。直後、ストロンガーもチャージアップせずに超電子ドリルキックを放ってクラゲロンを倒し、魔神提督立案の二面作戦は完全に瓦解したのだった。
二人のライダーが作戦の阻止を確認し合う中、スカイライダーに救われた清が駆け寄った。スカイライダーは清に「君のお父さんは命をかけてダムを守った立派な人だ。」と誉め称え、それを聞いたストロンガーもその様な人物がいたことに感動を覚えるのだった。
勝利の肝 戦闘的勝利だけを見るなら、スカイライダー&仮面ライダーストロンガーの勝利である。サイダンプとクラゲロンはネオショッカー怪人の中では強い方に入り、とても生身の人間が丸腰で抗し得る存在ではなかった(前者はダンプカーで弾き殺そうとしたのを押し返してもいる)。
だが、「破壊作戦阻止」との観点に立てば、金山と井本の貢献は極めて大きい。
ライダー達に身も蓋もない言い方をすれば、二人だけの力では二面テロの完全阻止は叶わなかった、と言える。
魔神提督がストロンガーの動きを読んでいたこともあって、毒子クラゲ作戦は犠牲者を(最低でも2名)出してもいるし、ダム破壊の方も、金山と井本の尽力・抵抗が無ければ最初にセットされた時間でダイナマイトによる分の破壊は充分に為されていたことになる(時系列的に、その後に予定されていたサイダンプによる大破妨害は間に合ったかも知れないが)。
この「破壊作戦阻止」という偉大な「人間の勝利」において、まず注目したいのは、「井本の生命力」である。
ダイナマイト設置の現場に遭遇し、サイダンプに襲撃された井本がその時点で、或いは翌朝の金山父子の見学までに絶命していれば、ダイナマイトは予定通りに炸裂していた可能性が高い。井本が瀕死の重傷を負いながらも、絶命せずに息絶え絶え状態でもダイナマイトの存在を金山に伝えることで、ネオショッカーの当初の予定が狂わされたことは、それによって救われた多くの命への推測と合わせて多いに称賛される所である。
次に注目したいのは「金山の誇り」である。
彼の職務に対する誇りと姿勢は今更言を待たない所で、解除・隠匿したダイナマイトの在り処を白状するよう、サイダンプに迫られても決して口を割らなかった。
もし殺されていたとしても金山が白状しなかったことは容易に推測出来ることたが、勿論サイダンプとてその時点で殺す気はなかっただろう。目的は隠されたダイナマイトを見つけることなのだから。だからサイダンプは金山が白状しないと見ると、次は清達の命をたてにした。
掘り下げて考察すると、この時金山は様々な命の危機に直面していたのである。それは「1.自分の命」、「2.瀕死の重傷を負い、すぐに治療を施したい井本の命」、「3.愛息・清とその友達の命」、「4.ダムが破壊されることで溺死するであろう何純万何百万人もの命」がカウントされる。とんでもない重圧に襲われていたことであろう。
ただでさえダムが破壊されれば大勢の命が犠牲になることは子供でも分かる。だが実際にこれだけの脅迫に遭ったとき、人はどんな判断が下せるだろうか?
単純に命惜しさに走ったとしても完全な非難は出来ない。ましてどんな選択をしても犠牲者が出ることは免れないし、たとえ命惜しさにダイナマイトの場所を白状したとしてもサイダンプが自分や井本や清達を助ける保証はないのである。実際金山はかなり悶絶していた。
結果論として、金山と井本の尽力並びに不服従の抵抗が当初の爆破予定を阻止し、スカイライダーが駆け付けるまでの時間稼ぎとなり、誰一人犠牲を出すことなくサイダンプの破壊作戦は完全阻止された。だが、一連の流れにおける金山達の行動が少し遅れるだけでどれほどの犠牲が出ていたか計り知れなかったことを考えると、追認と云う形ながら、スカイライダーとストロンガーの称賛はもっと大きなものであっても良かったのではないか?と考えるのはシルバータイタンだけではあるまい。
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平成二七(2015)年五月一日 最終更新