4 シャドームーン………土壇場での躊躇いと意味深な呼称

名前シャドームーン
肩書ゴルゴム世紀王
登場作品 『仮面ライダーBLACK』第話〜最終話、『仮面ライダーBLACK RX』第21話、第22話、第27話
出身日本
悪辣度★★★★★★★★☆☆
最期キングストーンにリボルケインを受けたことによる戦傷死
概要 暗黒結社ゴルゴムの創世王(声・渡部猛)が5万年の寿命を迎えるに際し、その後継者として(一方的に)指名された青年秋月信彦(堀内孝人)が改造されたゴルゴムの世紀王である。
 創世王は自分の寿命尽きる頃に合わせ、事前に日食の日に生まれた者を後継者に定め、創世王の証であるキングストーンを与える。ただ、その人選はかなりいい加減で、3万年早く生まれた剣聖ビルゲニア(吉田淳)を一応の後継者候補したかと思えば、意に添わぬと見て棺に閉じ込め、利用するだけ利用していた。
 本命としては、信彦を影の月=シャドームーンとして、信彦と同じ日に生まれ、彼と兄弟同然に育った親友・南光太郎(倉田てつを)を黒き太陽=ブラックサンとして改造し、両者を争わせて勝った方を次期創世王にすると目していた。

 だが、信彦の実父で、光太郎の育ての父で、ゴルゴムメンバーの一員でもあった秋月総一郎(菅貫太郎)は二人が脳改造によって記憶を失ってしまうのを知ったことで最終改造を妨害した。それがために光太郎はゴルゴムアジトを脱出し、仮面ライダーBLACKとしてゴルゴムと戦うことになり、アジトに残された信彦は長き眠りに就かされた。
 作品終盤、寿命を悟った創世王はビルゲニアに創世王の専用武器であるサタンサーベルを与える一方で、大神官ダロム(声・飯塚昭三)、大神官バラオム(高橋利道)、大神官ビシュム(好井ひとみ)に彼等の命の源である天・海・地の石をシャドームーン復活の為に差し出させ、信彦はシャドームーンとして甦った。

 覚醒したシャドームーンは即座にビルゲニアからサタンサーベルを奪い、取り返しに来た彼の斬撃を簡単に弾き返すや、(文字通り)返す刀でビルゲニアを盾諸共一刀両断にした。
 次期創世王たることを宣したシャドームーンは命の源を失って大怪人となったダロム・バラオム・ビシュムを従え、大怪人達を街中で暴れさせて日本占領に出ることを宣言した。その後、数々の作戦を仮面ライダーBLACKに打ち破られ、大怪人ビシュム・大怪人バラオムを失うと創世王の督戦を受けて自ら出陣してBLACKと対峙した。
 能力的には互角か、連戦を経て来たBLACKにやや分がありそうだったが、BLACKは兄弟同然に育ってきた親友と戦う事への躊躇いを捨て切れず、創世王の悪辣な助力もあってシャドームーンは一騎打ちに勝利し、仮面ライダーBLACKに致命傷を与えたが、そのキングストーンは奪わなかった(この辺りの詳細は後述)。

 だが、創世王は改めてブラックサンのキングストーンを奪取することを厳命し、シャドームーンは海に流されたBLACKの遺体捜索を命じるも、BLACKは以前助けたクジラ怪人の尽力で蘇生しており、これを追った最後の大怪人ダロムも返り討ちに遭った。
 事ここに至って、南光太郎も親友と云えども信彦を倒さない訳にはいかないとの決意を固め、クジラ怪人の案内を受けてゴルゴムアジトを目指し、シャドームーンもまたトゲウオ怪人にクジラ怪人の抹殺を命じ、自らは甦ったBLACKの迎撃に出た。

 シャドームーンは光太郎の最後の呼び掛けにも答えず、次期創世王としての能力でBLACKからバトルホッパーを奪ってBLACKに攻撃を仕掛けて翻弄したが、僅かに残っていた自我で洗脳を振り切ったバトルホッパーの特攻を食らい、重傷を負い、サタンサーベルを残して侍女怪人達に抱えられて戦場離脱した。
 だが、BLACKに「その体でシャドーキックを放つのは無理だ。」と云われる程に体は傷ついており、負けを認め、地獄への道連れにサタンサーベルを所持したいと願った。そして渡されたサタンサーベルをBLACKの喉元に突き付けると云う姑息な行動に出たが、もう力はなく、BLACKに親友を手に掛けた罪悪感に苦しめとの呪詛を残し、自分こそが次期創世王だと告げて力尽きた。

 ただ、この時点では意識をまだあり、首尾よく創世王を倒したBLACKによってロードセクターに載せられて崩壊するゴルゴムアジトから連れ出されたが、その後は不詳である。
 その直後を含む南光太郎の寂寥感から、シャドームーンは息を引き取ったと思われたが、後番組である『仮面ライダーBLACKRX』にて突如復活した。
 復活したとはいえ、シャドームーンはそれまでの過去の記憶を一切失っており(マリバロン(高畑淳子)談)、打倒仮面ライダーBLACKRXへの一念だけで甦ったらしく、新武器シャドーセイバーを手にするも、その姿は所々薄汚れていた。

 クライシス帝国地球攻略兵団の最高責任者ジャーク将軍(高橋利道、声・加藤精三)はシャドームーンをクライシス帝国の大幹部にするとして共闘を申し出、他の四大隊長達を慌てさせた。
 ただ、これはシャドームーンの仮面ライダーBLACKRX打倒の一念を利用して、RXを倒すのを狙いとした二枚舌で、ジャーク将軍にそんな気はなかったが、隊長の座を奪われかねないと危惧した四大隊長達の余計な横槍の為、シャドームーンとRXの一騎打ちは水入りとなり、RXを倒せないばかりか、シャドームーンも完全に敵に回してしまった(直後、ジャーク将軍は四大隊長全員に懲罰を与えた)。

 しばし間を置き、その間に傷を癒したシャドームーンは、第27話にて自分を嵌めたクライシス帝国への報復として怪魔異生獣マッドボットを叩きのめして、脅してこれを服従させ、クライシスの作戦を無茶苦茶にした。
 結果、群発地震が起き、これを訝しんでやって来た四大隊長の面子を潰し、彼等を追ってきた仮面ライダーBLACKRXを襲撃するシャドームーンだったが、ジャーク将軍は仕返しの仕返しのような形でRXとシャドームーンの両者を一気に葬り去る作戦にでた。

 牙隊長ゲドリアン(渡辺実)の制裁を受けて、再度クライシス帝国に復したマッドボットに牧場の幼い兄妹を拉致させ、これを助けんとして追ってきたRX、そしてその罠を知りつつRXの首を誰にも渡さんとして追ったシャドームーンの二人を爆発する火山弾が降り注ぐ窪地に追い込んだ。
 当然RXは勝負よりも兄妹の救出を優先せんとした。だが、シャドームーンはそんなことお構いなしとばかりに勝負を仕掛け、怒り心頭のRXは死闘の果てにシャドームーンのキングストーンにリボルケインの刺突を撃ち、勝負を決めた。

 敗北を悟ったシャドームーンはRXにクライシス帝国の作戦を伝え、子供達は自分が助けるからとして、RXにマッドボットを倒すよう促した。その台詞にRXは信彦の影を見たが、シャドームーンはあくまで自分をシャドームーンとし、いつの日か必ず甦って今度こそRXを倒すと告げて子供達の元に向かった。

 戦い終え、牧場に戻ってきた南光太郎は息絶えたシャドームーンを「眠っているだけ。」と偽って彼を案じる兄妹を帰らせ、その遺体を抱き上げるとその体はいつしか秋月信彦のものとなっていた…………。

 尚、『仮面ライダーBLACKRX』放映から約20年の時を経て、シャドームーンは劇場版のライダー作品に頻繁に客演するようになったが、歴代悪の組織の構成員は各作品のパラレルワールド的存在とされているため、シャドームーンが過去と同じ存在であるかは定かではない。



悪辣振り 南光太郎が脳改造前にゴルゴムから脱したのに対し、秋月信彦は脱出し得ず、その体はゴルゴムアジトに留め置かれ、時間は掛かったものの天・海・地の石を得てシャドームーンとして覚醒した。明確な記述はないが、この間に脳改造は行われていたものと思われる。
 当時の児童書にはシャドームーン=秋月信彦を紹介する文章に「人間の心を失っている。」と記されていて、光太郎も作中で一人の少年に信彦の事を「心まで改造された。」と語っていた。

 ただ、ここで私見を挟むが、シルバータイタンはシャドームーンがダロムの改造によってゴルゴム的な悪の心を植え付けられたのは間違いないにしても、過去の記憶や心を完全に抹消されたとするのには懐疑的である。

 光太郎はシャドームーンとして覚醒したことで、「頭が良い」、「僕達を驚かせるようなことをした」としていた信彦率いるゴルゴムが強敵となることを懸念していたが、これはシャドームーンが信彦としての思考を保持していることを確信した台詞である。
 実際、カノジョである紀田克美(田口あゆみ)、実妹である秋月杏子(井上明美)を自分の元に来るように誘っていたし、BLACKを討ち取る絶好の機会に杏子の身を案じて攻撃を止めたこともあった(詳細後述)。
 それゆえに光太郎の呼び掛けに全く耳を貸さなかったことに悪辣さを、自分に関係ない者への無慈悲振りを覚えるのである。

 また、大神官達が人間を思い切り見下し、それゆえ人間であるゴルゴムメンバーや、マインドコントロールした人間同士で争わせて自滅させれば良いといった感じで作戦展開を繰り返していたのに対し、ゴルゴムの指揮を執り出したシャドームーンは日本政府に対して宣戦布告し、人間の心に付け込む陰湿な作戦と直接的な破壊や支配をもたらす作戦の両方を併用していた。
 EP党を暗躍させたり、マンションをコロニー化したり、霊能力少年を悪用したり、といった作戦は元人間だけに、端から人間を見下していた大神官達より悪辣に映った。

 同時に、光太郎が最後の最後まで友情から戦意を奮い立たすことに見せた躊躇いにも付け込んだ。勝つ為なら相手の弱みに付け込むことも平気でやってのけていた。
 一応は、もう一人の世紀王であるブラックサン=仮面ライダーBLACKを倒してこその次期創世王、との思いもあってか、信彦に戻ることを訴えるBLACKの声をガン無視して督戦していたが、兄弟同然の親友と干戈を交えることに踏み出せない光太郎を挑発する為に森林に小動物を放って逃げ惑う姿や、自分を助けくれたクジラ怪人がトゲウオ怪人に殺される様を見せつけてその怒りを煽り、怒るBLACKに嘲笑を浴びせ掛けていた様は、シャドームーンが持つカッコよさを帳消しにしかねない程嫌なものがあった。
 そして卑劣さも忘れられない。戦い慣れたBLACK相手に窮地に陥った際に、創世王が一時的に戻した信彦の姿に狼狽したBLACKの隙を突いて勝利するという卑劣な攻撃も仕出かしていた。

 やり方の悪辣さも眉を顰めたくなるものがあったが、傍若無人振りも眉を顰めたくなるものがあった。
 ゴルゴムの世紀王となった事ですべての部下を捨て駒と見ていた節があり、怪人は勿論大怪人の死にも然して悲しむ風を見せず(0ではなかったが)、王位を引き継ぐ相手である、つまりは先代となる創世王に対する対応もタメ口だった(命令には基本的に従っていたが)。
 ビルゲニアを討ち果たした際に彼の事を「所詮はキングストーンを持たぬ者」と称し、かなり見下していた訳だが、「全宇宙をも支配する者」を自認していた創世王を継ぐ者故、万物は自分にひれ伏して当然と思っていたのかも知れない。個人的には創世王の地位や権力を引き継いでも、そんな性格まで引き継いで欲しくなかったものである。



垣間見せた良心 南光太郎曰く、「心まで改造された」と云うシャドームーンが秋月信彦としての記憶と人格をどこまで残していたのかは不詳である。ただ、間違いなく存在はしていた、とシルバータイタンは見ている。
 無慈悲で、尊大なシャドームーンが秋月信彦として残していた「良心」をミクロとマクロの両面から考察したい。

 まず、ミクロ面だが、注目すべきは仮面ライダーBLACKとの初戦で勝利を収めた直後の事である。前述した様に、本来格闘ではBLACKに劣っていたシャドームーンだったが、創世王が横槍的に彼の姿を信彦のそれに(一時的に)戻したため、BLACKは驚愕と喜びがないまぜとなり、そこに隙が生じた。
 信彦の姿はすぐにシャドームーンのそれに戻り、不意を打たれたBLACKは大ダメージを追い、倒れ伏した体をサタンサーベルが貫いた。後はその体からキングストーンを抉り取るだけだったのだが、次の瞬間、BLACKの体は南光太郎のそれに戻った。
 これを見たシャドームーンは、「光太郎……!!」と、シャドームーンとしては初めてその名を口にし(それまでは一貫して、「ブラックサン」と呼び掛けていた)、それ以上傷付けることを躊躇った。
 そして空を見上げると、創世王に向かって、「私はブラックサンのキングストーンなど無くても、立派に次期創世王になって見せる!」と宣言し、創世王の難詰も無視して引き上げた(これが幸いしてBLACKは2週間後に甦る)。
 単純に考えるなら、勝負が決した以上、兄弟同然に育った親友の体を捌くまでしたくない、との良心が僅かに残っていたのだろう。
 翌週には誕生日にゴルゴムに拉致され、ダロムの改造手術を受けるシーンを初め、シャドームーンとして甦り、日本占領に尽力する日々を思い出していたから、改造前の記憶があったのは明らかである。

 ミクロ面をもう一つ見るなら、大怪人ビシュム戦死時の躊躇いが挙げられる。
 創世王並みに性格の拗けていたダロムは、ビシュムがシャドームーンに媚び、創世王の妃の座を狙っていると勘繰っていたが、実のところビシュムはゴルゴムとシャドームーンの為に自らの犠牲も厭わない心根でいた。
 ビシュムはBLACKの体にしがみ付き、自分諸共BLACKを倒すようシャドームーン達に呼び掛けた。シャドームーンは呼び掛けに答え、ハンドビームを放ち、光線はビシュムの体を貫いてBLACKの体に突き刺さった。
 だがそこへシャドームーン=信彦の妹である杏子がBLACKを助けんとして抱き着いた。そのままハンドビームを照射し続ければBLACKの体を貫通した光線が杏子をも撃つであろうことは明白で、シャドームーンはハンドビームの照射を止め、結果、ハンドビームは最初にその体を貫いたビシュムの命だけを奪ってしまった。
 慈悲の欠片もなく、部下の質問や呼び掛けをガン無視する創世王がこの時ばかりはシャドームーンを折檻したのだから、彼はシャドームーンが杏子を傷付けることを恐れて攻撃を辞めたことが相当頭に来たのだろう。
 同時にこのことは光太郎に一縷の望みを残した。光太郎はシャドームーン=信彦が妹を犠牲に出来なかったことに「まだ希望はある。」と捉えた。
 つまりは、シャドームーンが愛情を捨て切れていなかった、と。

 最後にマクロ面で考察、というか推察するが、恐らくシャドームーンにとって、仮面ライダー=南光太郎との好敵手関係がすべてだったのではなかろうか?
 ゴルゴムに拉致され、改造手術を施されて生き別れになるまで、南光太郎と秋月信彦は同じ年同じ日に生まれ、幼くして実の両親をゴルゴムに殺された光太郎と、その光太郎を引き取った秋月総一郎の実の息子である信彦は、兄弟同然に、常に一緒に育ったのは何度も書いた通りである。
 二人は無二の親友であると同時に、すべてのことをいの一番に争った好敵手でもあった。

 信彦にとっても、光太郎にとっても、相手は一番に「負けたくない相手」だったのであろう。
 シャドームーンが何度もブラックサン=仮面ライダーBLACKに自分と戦うよう促したのは、勿論次期創世王の座を得るという野心の為なのが第一だった訳だが、その内面には信彦として自分がすべてにおいて光太郎に勝る存在であることを示したい、との思いがあったのではあるまいか?
 それ故、自分が行方を断っている間に、自分の恋人である紀田克美、実妹である秋月杏子とより親密になった光太郎への嫉妬もあって、克美と杏子には自分の元に来るよう呼び掛けつつも、光太郎とは一切の交渉を持たなかったのではなかろうか?

 それゆえ、ブラックサンとの勝負さえつけば、光太郎と争うことを良しとしなかったのだろう。
 前述した様に、創世王の横槍もあって最初の一騎打ちに勝利した際は光太郎の姿に躊躇いを見せ、その体からキングストーンを抉り出すことをしなかった。
 そして、ゴルゴム滅亡後、過去の地位も栄光も記憶もすべて擲って蘇生に至らしめたのはブラックサン改め仮面ライダーBLACKRXを倒さんとの一念だった。それ故、一時的にはクライシス帝国とも手を結んだが、互いに相手を利用するだけのものだったのは端から明白で、負けを認めた後はRXにクライシス帝国の狙いを告げ、その作戦阻止を促し、自らは炎の海に泣き叫ぶ幼い兄妹を助けるのに向かった。
 それは戦い前に、「己の野望の為には泣き叫ぶ幼い兄妹も見殺しにするのか?そこまで堕ちたのか、シャドームーン!!」との難詰に答え直したかのようだった。

 そんなシャドームーンの変貌にRXは信彦の名を呟くも、シャドームーンはそれを否定したが、兄妹を助けに向かう姿は、例え形はシャドームーンでも、RXにとっては間違いなく秋月信彦だったのだろう。
 そして兄妹の無事を見届けた光太郎は、シャドームーンの遺体を前に兄妹が心配するのを払拭する様に「眠っているだけ。」と偽った。その後光太郎はしばしシャドームーンが信彦に戻ったのかどうかを自問自答し、最後の最後にシャドームーンは信彦に戻ったと確信したのに呼応するかのように、その姿は秋月信彦のそれに戻っていた。
 実態の詳細に対しては何とも断言し難いが、如何なる改造手術も体や脳は改造出来ても、心は改造出来ない、と信じたいゆえ、シルバータイタンも光太郎の子の最後の想いを支持したいし、シャドームーン=秋月信彦は自己と良心を完全には失っていなかったと考える次第である。


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令和四(2022)年四月一日 最終更新