3 メガール将軍………ロケットに秘めた忘れ得ぬ想い
名前 メガール将軍 肩書 闇の王国ドグマの将軍 登場作品 『仮面ライダースーパー1』第1話〜第22話 出身 日本 悪辣度 ★★★★★☆☆☆☆☆ 最期 スーパーライダー閃光キックを受けての戦死
概要 闇の王国ドグマの日本侵攻における総指揮官。ドグマの掟に忠実に従って怪人達を率い、数々の計画を立案し、その実践に従事していたが、当然の事ながらそれらはことごとく仮面ライダースーパー1に阻止された。
一応は軍の長官としての立場にあったが、組織の長である帝王テラーマクロ(汐路章)は歴代悪の組織の中でも群を抜いて王権が強く、それに近侍する親衛隊の立場も強いため、彼等と犬猿の仲であるメガール将軍(三木敏彦)の威厳は若干弱目だった。
ドグマはB26暗黒星雲出身者の組織だが、メガール将軍は、元はれっきとした地球人だった(その出自から、親衛隊と犬猿だったと思われる)。
本名は奥沢真人と云う宇宙開発を志す青年科学者で、本来なら沖一也(高杉俊价)に先駆けて惑星開発改造人間として活躍する筈だったが、技術の未熟により改造手術は失敗し、あろうことか国際宇宙開発研究所はその事実を隠蔽した。
絶望した奥沢は研究所を出奔し、一時は自殺も考えたところをテラーマクロに拾われ、新たな理想と生き甲斐を得たことで彼の為なら死をも厭わない忠誠心を抱くに至った。一方で、改造手術失敗とその隠蔽に対する人間不信は人間憎悪にまで悪化させていた。
とは云え、優秀な人間は生かして組織の一員とし、理想の世界を築くと云うドグマの方針に従い、迎え入れたい人材には礼を尽くす一方で、何人もの影武者を従えて暗殺を躱すという用心深さも持ち合わせ、自分を見下す親衛隊に対しては不快の念を隠さなかった。
かくして組織と帝王への忠誠と、それ以外への不信の狭間で悪の組織の大幹部として数々の作戦を展開するも、マッドサイエンティストに唆されて組織を裏切ったムカデリヤ、阿呆過ぎて独断専行に走ったロンリーウルフ、「ファイブ・ハンドのすべてを奪え。」との指示を完遂せず油断からレーダーハンドに敗れたバチンガル、と部下や仲間には恵まれず(苦笑)、最後は「余の為に死ねるか?」と問うテラーマクロの意に応えて自ら死神バッファローとして出陣した。
その頃、谷オートモーターショップには奥沢真人であった頃の許婚・池上妙子(松岡ふたみ)が訪ねてきており、仮面ライダースーパー1と対峙した折には、妙子との再会や、改造手術の進化により自分の体は治せるからやり直すべき、と説くスーパー1、谷源次郎(塚本信夫)、草波ハルミ(田中由美子)の説得に人間の心を取り戻しかけたが、メガール将軍の脳には他のドグマ怪人同様に服従カプセルが埋め込まれており、その発動で狂わされたメガール将軍は死神バッファローに変身してスーパー1に襲い掛かり、これを制止せんとした妙子をハリケーンミキサーで殺害してしまった。
かくしてメガール将軍が人間に戻る道は様々な意味で断たれ、自身はスーパー1のスーパーライダー閃光キックの前に敗れ、「ドグマよ!永遠なれ!」の叫びを挙げて奥沢真人の姿をだぶらせつつ戦死した。
悪辣振り メガール将軍に関しては、過去作『徹底検証 どっちが悲惨?』で採り上げている様に、ドグマ加入前も、加入後も、その人生にはかなり同情しているので、悪辣さは余り感じていない。
改造手術の失敗は不可抗力にしても、それを隠蔽するのに走った国際宇宙開発研究所には、ジャミラを見捨てた某国関係者と同様の憤りを感じ、奥沢真人が(例え悪に属するものでも)新たな生き甲斐と理想を与えてくれたテラーマクロに忠誠を誓った気持ちは全く理解できないものでは無い。
それどころか、現実の世界において、学生として何一つ挫折を知らなかったエリートがバブル崩壊後の世の在り様に失望し、理想を与えてくれた教祖に忠誠を誓って数々の事件を起こしたオウム事件があったことを想えば、奥沢真人=メガール将軍の悲劇はフィクションとして笑い飛ばし良い物とは思えない。
また、そんな第二の人生にあっても、「虎の威を借る狐」たる親衛隊のいちゃもんや横槍に悩まされ、部下の中には無能や不忠で足を引っ張る者もいたのだから、悪人ながらその労苦には同情しないでもない。
ただ、同情は同情でしかなく、悪事が許される訳ではない。
オウム事件の秀才幹部達だって、麻原彰晃のマインド・コントール下に置かれ、生真面目過ぎた性格と若き日の絶望を上手く付け込まれ、操られた挙句に犯罪に手を染めさせられた経緯に同情は出来ても、彼等が犯した事件に対して厳罰を与えなくていいとはならなかった様に、メガール将軍がドグマの理想に従うのは勝手でも、ドグマが為した破壊・殺人・強奪が許されはしない。
メガール将軍が国際宇宙開発研究所の責任者に報復する分には多少は情状酌量の余地も考慮出来るかも知れないが、その後の人類全般対する憎悪は逆恨みでしかない。ドグマの基準にそぐわない地球人を皆殺しにせんとする姿勢は善良な一般市民にとって無差別テロリストと何ら変わることはないのである。
最後の最後に、スーパー1達の呼び掛けを(服従カプセルによる妨害があったとは云え)拒み、結果として彼をひたむきに愛し続けてくれた池上妙子をもその手に掛けたのは不可抗力面も否めないとは云え、やはり罪の方が大きいと断じざるを得ない。
仮にスーパー1達の呼び掛けに応じてドグマを脱し、奥沢真人に戻ったとしても、メガール将軍としてヘンリー博士(大月ウルフ)を初め、多くの人々を殺害した罪は消しようも無かっただろう故に。
一個人、奥沢真人相手にはかなり酷なことを云っているのは分かるのだが。
垣間見せた良心 「良心」と云うよりは「妙子への想い」は間違いなく持っていたであろうことは第22話の随所に窺える。
ある意味奥沢真人=メガール将軍は「純粋過ぎた」とも云える人物である。そしてそういう人物程道を踏み外した時の反動が怖い。
前述したように奥沢は惑星開発用改造人間への改造を志願し、その手術に失敗した。第1話でヘンリー博士が沖一也に改造手術を受けることに後悔しないか?と念を押していたことを考えると、奥沢もまた相当な覚悟を持って手術に臨んだ筈である(←例え成功しても、元の体には戻れないのである)。
そんな覚悟を持って挑んだ手術の失敗もさることながら、それを隠蔽するという国際宇宙開発研究所の背信に奥沢がどれ程絶望したかは想像を絶する。恐らくは妙子の事も諦め、すべてを失ったとの想いから自殺まで考えたのだろう。
だが、一也がメガール将軍死後に述懐していたように、ドグマに身を投じた後も奥沢は「心の底で妙子さんを愛していた」のだろう。奥沢はメガール将軍となっても妙子の写真を入れたオルゴール付きロケットを持ち続け、そこにはドグマのアジトを示す地図が入っており、一也はそこに奥沢が正義の心を失っていなかったことを見出していた。
妙子と再会する直前には、仮面ライダースーパー1をして、「何故そこまで人間を憎む?」と云わしめる程憎悪の塊だったメガール将軍だったが、妙子と再会するや明らかに表情を一変させ、自らが奥沢真人であることをあっさり肯定した。
ここはシルバータイタンの想像だが、メガール将軍は世間から抹殺され、理由も告げずに行方を絶った自分を妙子が思い続けてくれているとは思っていなかったのだろう。勿論再会にも期待していなかったことと思われる。
その妙子が眼前に現れ、同行した谷源次郎や草波ハルミが妙子の自分への愛情を証言し、加えてスーパー1も自らの体を例として改造手術の進歩によりメガール将軍が奥沢真人に戻れることを示唆した。彼が「悪の組織の大幹部・メガール将軍」から「青年科学者・奥沢真人」に戻り得る可能性は充分に窺えた。
このメガール将軍の変化(の可能性)はドグマ首脳部でも察知されていた。
テラーマクロは「メガールには、人間心が少しは残っていたか………。」とこぼし、もともと仲の悪かった親衛隊はメガール将軍がスーパー1達の呼び掛けに答えない内に「裏切った。」と決め付けて彼の追討をテラーマクロに進言した。
結局、メガール将軍の奥沢真人への復帰は、テラーマクロが口にした様に服従カプセルに阻まれてしまったが、このやりとりの見方を変えると、テラーマクロや親衛隊の面々は奥沢真人が人の心を取り戻す可能性を過小評価していなかったことが窺える。
結局テラーマクロは服従カプセルをメガール将軍の脳に埋め込むことでと彼の忠誠を確信していた訳だから、心の問題では彼が正義に復帰することを疑っていた訳で、親衛隊が常日頃から何かとメガール将軍を揶揄していたのも、いつか彼がドグマから去ることを予測していたからだという事が前述のシーンからは窺えるのである。
何より、メガール将軍は想い出のロケットは手放していなかった。徹頭徹尾心の底から過去を断ち切るのだったら、ロケットなどいの一番に捨てていた筈である。それを手放さず、所持していたことをテラーマクロや親衛隊に伏せていたのは火を見るより明らかである。
これまたシルバータイタンの推測に過ぎないが、奥沢真人はメガール将軍となって尚、心の片隅で妙子を想い、いつかは妙子を初めとする見捨てた筈の人類が自分とドグマの野望を止めることを願っていたからこそロケットの中にアジトを示す地図と云う最高機密を忍ばせていたのではなかろうか?
世の中には様々な価値観があり、人間自体完璧にはなり得ない故に「正義」が声高に叫び辛い時代になっている。「勝てば官軍」、「勝てば正義」と本気で信じ、自らの悪辣さや暴虐を丸で顧みず、力でやりたい放題する輩も少なくない。
それゆえ石川五右衛門の辞世の句からも「世に悪の種は尽きまじ」との諦観に囚われている人の方が大半だろう。確かに世の中から悪は消せないだろう。だが断言する。
「正義を消すのは、もっと不可能だ!」
と。メガール将軍の最期がそれを教えてくれていると云うのは過言だろうか?
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令和四(2022)年一月三日 最終更新