7.小針正………本当にノーブル賞候補?

キャラクター名小針正
演者宮川不二夫
登場『仮面ライダースーパー1』第15話「天才怪人とライダーの知恵比べ」
再会時の立場科学者
再会時の主人公への想い学生時代からの嫉妬が昂じた憎悪
友情残留度0
最期仮面ライダースーパー1と戦って戦死



人物 小針正(宮川不二夫)は、例えて云うなら『仮面ライダー』の早瀬五郎で、その負の部分が極端にクローズアップされた哀れな人物だった。
 沖一也とは大学時代の親友関係にあり、早瀬同様一也のライバルでもあった。好敵手関係にあった対象は拳法と研究だったのだが、小針は双方において一也に遅れを取り、嫉妬に取り付かれていた。

 それでも科学者としての道に邁進し、ノーブル賞受賞候補者となり(←一応云っておくが、「ノーブル」は誤植ではない(苦笑))、受賞することで一也に勝てるとの希望を抱いていた。だが、ノーブル賞はコットン博士なる人物が受賞し、小針は失意のどん底に陥った。

 一也は終始小針を親友と思っていて、彼がノーブル賞受賞候補者になった際も我がことのように喜んでいたが、敗北を重ねる小針の方では次第に一也を憎悪するようになっていた。そしてその憎悪にドグマのメガール将軍が目を付け、迷いは見せたもののドグマ怪人ライオンサンダーへの改造を受け入れ、一也とコットン博士を復讐対象とした。

 ただ、この男、様々な意味で「小さい人物」と云わざるを得なかった。
 負けず嫌いという性格は、自己を高める原動力とする分には大いに結構だが、それが昂じて敗北時に相手に悪しき感情を抱いたり、敗北を認めたくない余り卑怯な手段に走ったり、と云った手合いは現実の世にも存在し、その様な愚かしい姿には眉を顰めざるを得ない。
 皆が皆そうとは云わないが、「負けず嫌い」が強い人間には勝ち負けにこだわるあまり勝てば相手を見下し、負ければその原因を(自分に因るものと認めたくないから)周囲に求めて往生際悪く振舞ったり、不貞腐れたり人間が決して少なくない。小針は正しくそんな人物だった。
 そもそも敗北する度に悪感情に囚われていたら、幼少時よりスポーツ・武道・喧嘩・試験・生業で負けまくってきた道場主などどんなクレイジー野郎になりかねないやら………ぐえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………(←道場主のアラーニャ・クラッチを食らっている)。

 いててててて……話を小針に戻すが、とかく小針は感情が強い。
 長きに渡って敗北感を重ねてきた一也のみならず、自分に勝ってノーブル賞を受賞したコットン博士にまで殺意を抱いたのだから、負の感情の強さは認めざるを得ない。
 かように「勝りたい!」との感情が強いから、ライオンサンダーとして仮面ライダースーパー1との緒戦に勝利して尚、頭脳でも勝たなければ芯に一也に勝ったことにはならない、として止めを刺さず、唯一の勝機を棒に振ってしまった。
 そしてそんな凝り固まった負けず嫌いな心と感情とで暴走した人間的な器の小ささは彼の経歴・性格・末路のすべてに暗い影を落としたのだった。



再会 沖一也小針正の高名振りを知ったのは新聞報道だった。
 稽古着で早朝トレーニングのランニング中に他人様の家に投函された新聞を勝手に読んで彼がノーブル賞候補となったことを飛び跳ねるほど喜んでいた。

 だが、受賞を逃し、打ちひしがれた心と元来の嫉妬心をドグマに付け込まれた小針ライオンサンダーに改造されたことで一也を倒すべき対象として戦いを挑むという最悪の再会を果たしたのだった………。



友情と悲劇 前頁の弁慶も沖一也にとって大切な親友だった訳だが、夢に向かってひた走りに進んでいた一也は、実は結構友情に恵まれている。

 第1話で、二度と元の肉体に戻れない惑星開発用改造人間手術に臨まんとする一也に対してヘンリー博士は「恩義の為に自分を犠牲にしようとしていないか?」と問いかけた。一也はそれを否定したが、ヘンリー博士がそう考えたのも、一也が宇宙開発研究所の前に捨てられていた捨て子だったことに端を発していた。
 一也の幼少時からスーパー1への改造手術を受けるまでの前半生は本編の会話・関連書籍・漫画『新仮面ライダーSPIRITS』から想像するしかないのだが、研究所に拾われた一也は文武両道に励む生活と育った環境への夢から日米を往復する生活を送ったと思われる。
 日本では谷源次郎や玄海老師と知遇を得、アメリカではヘンリー博士に指示して宇宙への夢を膨らませたのだろう。大学時代にはアブダラ王国からアメリカに留学していた王子・イスマイル(石田信之)とも友情を育んでいた。

 第1話の終盤で、ヘンリー博士と谷が国際電話で話をしており、両者が旧知であったことも伺え、そこからも一也が家族には恵まれずとも、師や友には恵まれていたことが伺える。
 ただ、そういう見方で語ると、小針の歪んだ性格をそれと知らず友情を育んだのはある種の悲劇だった。

 何せ上述した様に、能力は優秀でも小針は器の小さな男だった。
 ライオンサンダーとして前哨戦に挑んだ際には元々は拳法の腕でも一也に好敵手と認められる腕があった故か、これに勝利したものの、力では勝っても、頭脳で勝たなければ真に一也に勝ったことにはならないとしてとどめを刺さず、改めて一也に、コットン博士殺害をちらつかせ、知恵比べを挑むことを宣して退却した。
 だが、この知恵比べ、催眠光線で操った数名の一般人に、ビルの周囲に幾つかの鏡を配置させ、殺人光線を別ビル屋上から照射して反射でコットン博士を狙うというちゃちいものだった。
 こいつ、本当にノーブル賞の受賞候補者に選ばれた程の科学者なのだろうか?(ちなみに『空想科学読本』で読んだが、鏡をいくらピカピカに磨き上げても光線を反射させることは不可能である(苦笑))

 しかも、その知恵比べは、一也が用意した人形をそれと気付かず打ち抜いて失敗するという情けないものだった。
 結局、電磁剣と殺人光線を振るって戦うも、レーダーハンドのロケット砲で光線を発射する目を潰され、冷熱ハンドの超高温火炎に動きを封じられたところにスーパーライダー閃光キックを食らってライオンサンダーは絶命したのだった。

 ラストシーンにて、一也小針と一緒に移っていた写真を破って川に捨てていた。
 その真意は不詳だが、『仮面ライダーV3』でV3が高木裕介の遺体を悲しそうに抱き上げていたのに比べると、小針一也に完全に見損なわれていたり、友情を破棄されていたりしたとしてもおかしくないシーンだった。

 恐らく一也もここまで小針が歪んだ感情で自分を憎んでいたことに微塵も気づいていなかったのだろう。
 悲しいシーンだが、ヒーローといえども信じていた友情に裏切られ、それ以上にその人格を侮蔑せざるを得ない人物に相手が成り下がっていたことには失望の念を禁じえなかったのではあるまいか?


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令和四(2022)年五月三〇日 最終更新