8.秋月信彦………翻弄された運命の中の友情とライバル意識
キャラクター名 秋月信彦 演者 堀内孝人 登場 『仮面ライダーBLACK』 再会時の立場 ゴルゴム次期創世王候補シャドームーン 再会時の主人公への想い ライバル意識? 友情残留度 2 最期 仮面ライダーBLACKRXとの戦いにおける戦傷死
人物 主人公・南光太郎(倉田てつを)の父・南教授(土師孝也)の親友・秋月総一郎(菅貫太郎)の長男で、同じ年の同じ日食の日に生まれた秋月信彦(堀内孝人)と光太郎とは兄弟同然に育った。
というのも、優秀な大学教授であった南と総一郎は、秘密結社ゴルゴムに目を付けられ、研究への資金協力を見返りにゴルゴムのメンバーとなることを求められた。資金協力に見せられ、それ以上にゴルゴムに逆らうことで命に危険が及ぶことを恐れた総一郎はゴルゴムメンバーとなったが、南教授は断固としてこれを拒み、それが為に妻の友子(遠藤英恵)ともども事故に見せかけて殺害された。
親友南夫妻への想い(恐らくは見殺しにしてしまった罪悪感)から総一郎は光太郎を引き取り、信彦、そして後に生まれた長女・杏子(井上明美)ともども我が子同然に育てた。
だが、ゴルゴムが目を付けていたのは総一郎だけではなく、光太郎と信彦もその対象だった。というのも、ゴルゴムの首領である創世王(声:渡部猛)は五万年で寿命を迎え、日食の日に生まれた者を後継者として創世王の証・キングストーンを与えて、世代交代を繰り返していた。
当代の創世王にも寿命は迫りつつあり、そのためにゴルゴムは三万年前の日食に生まれた剣聖ビルゲニア(吉田淳)を無視して(苦笑)、光太郎と信彦を次期創世王候補―世紀王と(勿論一方的に)見做していた。
二人が次期創世王候補であることは本人達には伏せられ、二人は南夫妻の死の詳細も、総一郎の抱える暗部も知らず、兄弟にして、親友にして、好敵手として成長を遂げ、やがて二人は19歳の誕生日を迎えた。
だが、これは自分達の知らないところで背負わされていた悪しき宿命だった。
二人を迎えた船内パーティーでは、東都大学教授・黒松秀臣(黒部進)、代議士・坂田龍三郎(久富惟晴)、大宮コンツェルン会長・大宮幸一(北見治一)、女優・月影ゆかり(泉じゅん)と云った世の有名人が二人を迎えた。
名士の面々は二人を幼少の頃から知っていると述べ、月影は二人を「選ばれし栄光の若者」としていたから、恐らく彼等は光太郎と信彦が次期創世王候補であることを知っていたのだろう。
ただ、それに対して総一郎は、「息子達をからかわないで。」と横槍を入れ、黒松達もただならぬ視線を送り、それに月影が狼狽えて酔った振りをして誤魔化していたことからも、後継者問題は最重要機密だったのだろう。
結局、二人は何も知らないままゴルゴムの三神官に拉致され、改造手術を受けさせられた。
ただ、イレギュラーだったのは、二人の記憶を巡る対処だった。総一郎は二人の息子をゴルゴムに差し出すことをやむを得ないと見ていたが、二人の記憶を消されるのは想定外だった。
それに対して改造手術を執刀していた大神官ダロム(声:飯塚昭三)は、もう二人は総一郎の息子ではない、として手術を続行せんとしたが、息子達が完全に元の姿を亡くすことを憂えた総一郎によって改造手術は妨害され、それが切っ掛けでゴルゴム基地を逃れた光太郎はゴルゴム世紀王ブラックサンから、仮面ライダーBLACKとなる道を辿ったのだが、それは更なる悲劇の始まりに過ぎなかった。
自分はバトルホッパーを駆ってゴルゴムから逃れたものの、信彦はゴルゴム基地に残され、改造途中の中途半端状態から永い眠りに就かされ、ゴルゴムは彼を連れ戻してブラックサンに再改造せんとして襲撃を繰り返した。
その過程でようやくにして再会した総一郎から事の真相を知ったものの、総一郎は二人を追ってきたクモ怪人の手に掛かって、鉄塔から突き落とされるという残酷な手段で殺され、総一郎は信彦と杏子の行く末を託して息を引き取った。
ゴルゴムメンバーの一人で、真相を知ると思われた月影ゆかりも口封じに殺され、結局信彦が意識を取り戻したのは第35話で、それまでの間、ゴルゴムアジトの場所を知らない光太郎は、ゴルゴム怪人との対戦や、黒松や大宮との暗躍からゴルゴムへの糸口を掴まんとするも、アジト発見には及ばず、再会は第35話の終盤となった。
だが、そのときの秋月信彦は世紀王シャドームーンとして覚醒した後で、過去の記憶を失った訳ではなかったが、後に光太郎が行った表現を借りると、「心まで改造された」という状態だった。
再会 改造手術の中断から永い眠りに就いていたシャドームーン=秋月信彦だったが、第34話にて創世王が三神官に天・海・地の石を差し出すことで、そのエネルギーを得て甦った。
甦ったシャドームーンは即座に剣聖ビルゲニアから創世王専用武器・サタンサーベルを奪還し、それを奪い返さんとしてやって来たビルゲニアを返り討ちとし、世紀王としてゴルゴムに君臨。大怪人に生まれ変わったダロム・バラオム(高橋利道)、ビシュム(好井ひとみ)を率いての日本攻略を布告すべく南光太郎の前にその姿を現した。
姿は変わっても、事の経緯からシャドームーンが兄弟同然の旧友・秋月信彦に違いないことを察知した光太郎は信彦に戻ることを求めたが、シャドームーンはそれをガン無視して、自らを「シャドームーン」、光太郎を「ブラックサン」と呼び続けた。
これまでも仮面ライダーが悪の組織の一員となった旧友と再会し、心ならずも干戈を交えた例はあったが、この信彦と光太郎のケースは、スケールも悲惨さも一話限りだったそれまでの例とは段違いだった。
二人は文字通りに生まれた時から兄弟として育っており(光太郎は総一郎を「父さん」と呼んでいた)、生き別れ状態から何ヶ月も掛けてようやく再会したと思ったら、相手は敵の首領で、端から自分の名前を口にしないほど友情が捨てられていた。
最初の再会は宣戦布告の顔見世的なもので、その後シャドームーンは若干の軌道修正はあったものの、特異な能力を持つ人間を操って日本社会をゴルゴムの掌中に収める作戦を展開しつつ、それを迎撃に来たBLACKを倒してキングストーンを奪わんとのパターンが踏襲された。
この間、光太郎はシャドームーンと顔を合わせる度に信彦の名を叫んで自分達の元に帰るよう訴えたが、シャドームーンは一顧だにしなかった(妹・杏子と恋人・紀田克美(田口あゆみ)には自分の元に来るよう説いていたが)。
そんな二人が素顔の対面(厳密には若干のずれがあるのだが)を果たしたのは第47話だったが、それは数々の友情を滲ませつつ、陰惨な結果を招いた。
大怪人ビシュム・バラオムを失ったシャドームーンは業を煮やして自ら出撃して仮面ライダーとの戦いに及んだ。勿論、BLACKは戦意が上がらない状態にあったが、そんな状態にあっても戦いの場数を踏んでいた分、BLACKの方がやや優勢だった。
だが、ここに創世王の横槍が入った。BLACKが攻撃を仕掛けんとしたシャドームーンに緑色の雷光の様な光線が降り注いだかと思うと、その姿は秋月信彦のそれになっていた。
約八ヶ月ぶりに見た旧友の元の姿に、驚きながら「戻ったのか?」と駆け寄ったライダーだったが、次の瞬間その姿はシャドームーンに戻り、隙を突かれたライダーは胸を切り裂かれ、それが元となったかは不明だが、パンチとキックの打ち合いに敗れて、地面に倒れ伏したところにサタンサーベルの刺突を受けて致命傷を負った。
戦いに勝利したシャドームーンは創世王の命じるまま、ライダーの腹を掻っ捌いてキングストーンを取り出さんとしたが、次の瞬間、ライダーの姿が南光太郎のそれに変わった。
ここで初めてシャドームーンは「光太郎!!………。」とその名を呟き、「ブラックサンのキングストーンなど無くても立派に次期創世王になって見せる!」と嘯いて止めを刺さなかった。
友情と悲劇 途中で改造手術を妨害された南光太郎とは異なり、秋月信彦に対する改造手術は最後まで行われた。
昭和の世において、改造手術を受けた者が脳改造を逃れることで悪の組織を脱し、正義の使者・仮面ライダーとなるのはある種のお約束だったのだが、シャドームーンはその例に漏れて生まれた「最初の悪のライダー」と目されている(厳密にはショッカーライダーの方が先であるが)。
だが、「心まで改造された」とされる秋月信彦がどこまで自我を失っていたかは一概には云えない。逆を云えば、その中途半端に残された過去が悲劇に拍車を掛けている。
まず、信彦には間違いなく過去の記憶が残されていた。紀田克美と秋月杏子を自分の元に来るよう求めたのはその最たるものだし、光太郎に対して頑ななまでにその名を口にしなかったのも、過去を振り切らんとしていた姿勢と云えなくもない。
同時に情も若干ではあるが残っていた。
剣聖ビルゲニアを斬り殺したり、復活したライダーを恐れてゴルゴムから脱走せんとした怪人をトゲウオ怪人に処刑させたりした折には小馬鹿にした態度を取っていたが、自分に忠誠を誓っていたダロムの死には驚きの感情を見せていた。
また第45話では杏子がライダーを庇って割って入ったことで、ビシュムとライダーを貫いていた自分の光線が杏子を殺しかねないことを躊躇ってビーム照射を止めてしまった。結果、ビームはビシュムだけを死に至らしめるという最悪の結果に終わった(さすがにこれには創世王も腹を立ててシャドームーンを折檻した)。
加えて第47話で倒れた光太郎に止めをさせなかったのは上述した通りである。そして後番組である『仮面ライダーBLAK RX』では最期の最期に人の心を取り戻し、クライシス帝国の悪行内容をRXに告げ、その阻止を要請すると、囮にされて危機に瀕した幼い兄妹を助けたところで力尽きた。
ここからは推測だが、秋月信彦は、生まれた時から共に育った南光太郎との間に確かな友情を持ちつつも、彼を人生最大のライバルと目していたのではなかろうか?
『仮面ライダー』に登場した早瀬五郎ほどではないにせよ、光太郎を「最も負けたくない相手」と見定め、望まずして得た改造の人間になって尚、同様に改造人間にされた光太郎に「負けたくない。」として、執拗に督戦し、仮面ライダーBLACK=ブラックサンより優れた存在であることを誇示せんとし過ぎて、光太郎の帰還要請に耳を貸さなかったのでは?との推測である。
シャドームーンとなって後の言動にも、(ゴルゴムとの戦いが影響しているにせよ)杏子の実兄で、克美の彼氏である自分以上に二人の心を惹きつけている光太郎への負けん気が僅かに見え隠れしていた。
そしてゴルゴム大神殿での戦いで力尽き、油断を突いたBLACKの咽喉を突き刺す力も残っていないことを悟った際にBLACKに投げ掛けた言葉は、「勝ったと思うな。」だった。結果的に親友を手にかけることとなった事実をもってBLACKは勝負には勝っても、信彦を取り戻すことに敗れたと云いたかったのだろう。
直後に、「俺こそ次期創世王だ!」と叫んだ彼は、全宇宙を統べる存在である創世王となることで最大のライバル・南光太郎に勝った存在としたかったのだろう。その証拠になるかどうかは分からないが、対戦後、すべての元凶となった創世王を討つ為にBLACKが武器としたのは、次期創世王のための武器・サタンサーベルで、その呼び掛けに応じたサタンサーベルが自分の手から離れた際に、初めてシャドームーンは「ブラックサン」を「仮面ライダーBLACK、南光太郎」の名で呟いた。
後番組の『仮面ライダーBLAK RX』にて何の脈絡もなく突如蘇ったシャドームーンだったが、彼はすべての記憶を失っていた。地位も部下も組織もない薄汚れた放浪者となった彼の総ての原動力は南光太郎を倒さんとの一念だった。
それゆえ、僅か二度の出番で彼は、良く云えば無駄な殺しをしなかった。話の途中で妨害者となったゲドリアンや霞のジョー(小山力也)を叩きのめしたが、殺しはせず、幼い兄妹を人質にしたのもあくまで作戦上のことだった。悪く云えば、「仮面ライダーBLACK RX・南光太郎以外の命」に興味がなかった。
上述した様に、最期の最期に光太郎が「信彦」としていた心を取り戻したように、シャドームーンは勝負よりも幼い兄妹の救出を優先した。だが、それを見て、「信彦」と声を掛けたRXに対して彼は自分がシャドームーンであると力説し、いつか必ずRXの首を取ると宣し、言葉の上では最期の最期まで秋月信彦であることを否定した。
すべてはライバル意識にあったかもしれないが、もしそうなら余りに悲し過ぎるライバル意識としか云い様がない。
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特撮房へ戻る令和四(2022)年五月三〇日 最終更新