10.ジンドグマ(仮面ライダースーパー1)

10−1.ロボットスーパー1
登場話
第37話「巨腕コマ怪人!灯台の死闘!!」


有効性
 比較対照として、第21話に登場したドグマ怪人バチンガルを挙げたい。いわば、バチンガルは、―少なくとも改造人間としてのスペックに関しては―ファイブ・ハンド無き仮面ライダースーパー1だった。
 だが、ジンドグマが開発したこのロボットスーパー1はファイブ・ハンドをも備えた完全な仮面ライダースーパー1のコピーライダーだった。
後述するように、あくまで実験用に造られた存在だったが、偽ライダーの中でも変身能力を持つ改造人間がただ化けただけのデストロンライダーマン(化けたのはシーラカンスキッド)、偽Xライダー(化けたのはカメレオンファントマ)、偽アマゾンライダー(化けたのはサンショウウオ獣人)、偽スカイライダー(化けたのはドロリンゴ)のような明らかにオリジナルに劣る存在ではなく、ショッカーライダーロボットA のようにオリジナルと同じ能力を持つ優れた存在だった。

 この第37話の作戦立案者は鬼火指令(河原崎洋夫)なのだが、鬼火指令は東京湾を望む灯台を占拠し、そこを拠点に東京湾に入る石油タンカーを次々と爆破して火の海にしてしまう、東京湾火の海作戦を遂行する為にコマ怪人コマサンダーを起用し、そのコマサンダーの戦闘能力を測る為のスパーリングパートナーとなったのがロボットスーパー1である。

 ロボットスーパー1は、偽ライダーのお約束で、マフラーの色が本物と違って黄色になっていたのだが(笑)、偽ライダーが本来命じられる本物の評判を落とすためでも、本物と同等の戦闘能力で本物を苦戦させるためでもなく、純粋にコマサンダーの戦闘能力テストに使用された。
 別の見方をすれば、鬼火指令が他の三幹部に己の配下の実力を見せ付ける為に行ったと云えようか?

 ともあれ、コマサンダーロボットスーパー1の攻撃をものともせず、右腕の大槌を振るってその肉体を破壊し、実際のスーパー1との緒戦でも同様の展開を辿り、パンチ、キック、ことごとく受け流し、ハンマーを駆使してスーパー1をかなり一方的に蹴散らし、海へ放り込んだ(勿論死んでいない)。
 2度目の戦いでは何故か普通のパンチやキックがもろに効いていたが、それでも冷熱ハンドの攻撃にはちゃんと耐えていた。
 まあ、勝敗に関しては触れるまでも無いが、このことからジンドグマ仮面ライダースーパー1の容姿だけではなく、スペックまでも同じ偽者を作ることが出来、その攻撃に耐え得る改造人間を生み出す科学力を有していたのが読み取れるのは興味深い。

 しかしながら何故それは後々に活かされなかったのだろうか?後続の改造人間達は幹部達が化けたジンドグマ超A級怪人達であってもファイブ・ハンドの攻撃にモロにダメージを受けていたし、第一、これほど戦闘能力のあるロボットスーパー1を戦力としても作戦手段としても利用せず、ただの実験スパーリングパートナーで終わらせたことには疑問が残るのだが………。


何故再利用されなかったか?
 コスト面の問題と考えるのが一番考え易いように思う。仮面ライダースーパー1の解析が終わっていた段階で、ドグマの科学チームはファイブ・ハンドの製造に一ヶ月かかる、と云っていた。一度製造できていることや、科学力の差を考えてもジンドグマが再びファイブ・ハンドを含むロボットスーパー1を製造するには半月の時間と、それに伴う経費が必要なのではあるまいか?まあ、人件費はただだろうけれど、その間従事する面々の食費ぐらいは必要だろう。

 別の理由として四幹部の仲の悪さがあげられる。
 ブラックサタン百目タイタンジェネラル・シャドゥほどではないが、ジンドグマの四人もまた各々の仲は良くない(むちゃくちゃ悪くも無いが)。殊にこの第37話でコマサンダーを率いていた鬼火指令は直情的な正確で、作戦も過激なものが多く、比較的穏健で、心理的な作戦を目ざる幽霊博士(鈴木和夫)・妖怪王女(吉沢由紀)とは反りが合わない。
 当然のことながら互いに相手が有能さを見せ、悪魔元帥(加地健太郎)に褒められると渋面を作り、作戦に失敗したりして悪魔元帥に怒られれば嘲笑う。
 となると、もしロボットスーパー1鬼火指令の専売特許なら、当然鬼火指令はその機密を他の三幹部にもたらさないだろうし、必要以上に使用して嗅ぎ付けられるのは避けるだろう。
 この第37話のラストでは、コマサンダーが敗れたのを悔しがる鬼火指令にわざわざ嫌味を云うかのように他の三幹部が出てきて嘲笑していた。児童かお前等は!(苦笑)

 だが、まあこの自説は少し弱いと思っている。宿敵・仮面ライダースーパー1の全能力を解析し、再現する技術を鬼火指令一人が独占出来るのはおかしいだろうし、よしんば独占出来たとしても悪魔元帥がその技術とデータの供出を命じれば出さない訳にはいかない筈である。

 考えれば考えるほど謎は深まるが、単純にスーパー1に破れたコマサンダーが負け犬の烙印を押され、そのコマサンダーに破れたロボットスーパー1は尚更見向きもされなくなったと云うことだろうか?


10−2.洗脳光線
登場話
第44話「ニョキニョキのびるハシゴ怪人の魔手」


有効性
 単純に見るなら、仮面ライダースーパー1沖一也の弟分であるチョロこと小塚雅昭(佐藤輝昭)を洗脳し、爆発物を盗み出す手先にすることに成功したことであろう。
 単純に対象者を意のままに動かす洗脳手段=催眠術・薬物・簡易脳手術等は幾らでも出て来たが、この第44話では洗脳したチョロに彼の特技を損なわせず、1/1000mgで戦車をも吹っ飛ばし、小瓶一杯程度の量でも床に落としただけで東京中が吹っ飛ぶという爆発力を持つロケット燃料Xβを日本宇宙開発研究所から盗み出すことに成功させている点に注目したい。

 ロケット燃料Xβを盗み出し、ジンドグマの新たな破壊手段する為、作戦指揮の任を受けた妖怪王女ハシゴーンに狭いところでも通り抜け、基地内に忍び込める人材を拉致するよう命じ、ハシゴーンは何故かプール帰りのチョロとジュニア・ライダー隊の少年達を攫って来た。
 体の小さな少年をそれなりの人数攫えば何とかなると考えたハシゴーンの考えは分からないでもないが、沖一也の仲間を攫った考えの無さは理解不能だ。まあ、子供達が誰一人狭い所を通り抜けられず、ハシゴーンは業を煮やして「役立たずは全員処刑だ!」と激昂しかけるが、ここでチョロは自分がやる、と申し出た。
 当の本人曰く、チョロは「元日本一の大泥棒」とのことで、狭い場所でも頭が通る隙間があれば肩の間接を外して通り抜けられる、とのことで言葉通りに実行して見せた(ちなみにチョロは第4話でギロチン台に拘束された際にも関節を外して逃れようと試みている。この時は失敗したが)。

 拍手する子供達に、「さっきまで殺されかけていたのが分かっているのか?」と突っ込みたくなる能天気ぶりだったが、結果、子供達は解放され、チョロだけがアジトに攫われ、妙なヘッドギア付きの椅子に座らされ、洗脳光線を浴びせられた。

 作戦を見るなら、洗脳光線自体はさして重要ではない。人材探索の方が遥かに重要で、ハシゴーンもそのことは心得ていたようで、チョロに爆発物を抱えた状態でも同じことが出来るかを問うた。それに対するチョロの応えは「金庫破りに爆発は付き物!」という真理かどうかは疑問が残るものの、ジンドグマの要望には充分沿うものだった。
 それゆえ人材確保はこれで問題なかったのだが、洗脳とは簡単なものではない。

 というのも、悪の組織が用いる数多くの洗脳手段は単純労働に従事させるのなら長期的なものも多いが、ライダー達を罠に嵌める等の複雑な動きや騙しを伴うものは一時的なものが多い。誤解を恐れず述べれば、数々の洗脳手段は人間をゾンビ化するものが多く、複雑な作業は不可能となることも多い。 GOD キャッティウスが増産しようとした化け猫ビールスに至っては、「(化け猫ビールスによって)猫人間になれば頭の中身も猫並になって駄目です。」という粗悪品だった(笑)

 だが、この洗脳光線はチョロの身体能力を損なわせず(悪魔元帥もチョロの能力は認めていた)、チョロはガス弾(麻酔)を放って、研究所所員を眠らせるという動作も可能としていた。
 当初、チョロを人選した理由を知る由もない三幹部達はチョロに洗脳光線を使うことを「エネルギーの無駄。」と云っていた(幽霊博士に至っては、「妖怪王女の男の趣味も変わったもんだ。」と揶揄していた)が、結局、チョロをして、その特技を活かし、Xβを盗ましめたのは紛れもない事実で、ハシゴーン妖怪王女の人選及び、洗脳光線の効果が間違いないものであったのは疑いの無いところである。

 作戦そのものはスーパー1の妨害でハシゴーンが倒され、Xβを取り返されたことで失敗に終わったが、対象者を単なる盲従人間や単調作業ロボットに留めず、持てる力を最大限に残したまま洗脳出来る洗脳光線は極めて効果的な道具で、独裁者や、ワンマン社長や、新興宗教の教祖などは咽喉から手が出るほど欲しがるだろう。
 実際、優秀な人間の拉致を繰り返す悪の組織において、これほど有効な道具がその後使われなかった理由はどこにあるのだろうか?


何故再利用されなかったか?
 ヒントは2つある。
 1つは、前述したジンドグマ幹部達が洗脳光線使用中に発した、「エネルギーの無駄」と云う台詞である。そんな長時間の光線照射には見えなかったが、それでも無駄使いが気にされるとは、洗脳光線のエネルギー源はコストのかかるものなのかもしれない。

 もう1つは、チョロから盗み出してきたXβ爆弾を受け取るや、ハシゴーンが「もう用は無い!」と云って蹴りを入れ、その後は一顧だにしなかったことである。
 用済みになった者を消すのは悪の組織の言動として珍しいことではないが、その後気絶から目を醒ましたチョロから洗脳が解けており、洗脳中の記憶が無かったことからも、洗脳光線による洗脳は長時間持たないものだったのかもしれない(チョロが気絶から醒めた時、既にハシゴーンは戦死していたが、チョロの洗脳手段そのものにはハシゴーンは全く関わっていない)。
 まあ洗脳中の記憶が無いために敢えてチョロは殺されることもなかったとも取れるが。

 以上のことから、コスト・時間の関係から完全な洗脳とは簡単なものとはなり得なさそうである。もっとも、昭和ライダー時代の改造人間の悲劇を知り、現実世界の独裁政治家や邪宗による洗脳の恐ろしさを見れば、洗脳とは簡単であって欲しくは無いのだが。
 たとえそれがフィクションの世界のものであっても。



ジンドグマへの雑感
 道場主がリアルタイムで最初に見た仮面ライダー放映は『仮面ライダー(スカイライダー)』で、当然それに続く『仮面ライダースーパー1』もまたリアルタイムで見ていて、殊にドグマ編の展開はレンタルビデオで借りて見た際に何度も、「確かにこれは観た覚えがある!」と思うシーンがあったが、ジンドグマ編は記憶に無い。
 というのも、観ていないからだ。理由は放送時間が変わって習い事とかち合ったことと、年齢的に両親から「そんな幼稚なものをいつまでも観ているんじゃない!」と云われ出されたことにある。

 また、ネット上の風評を見ていても、ジンドグマ編はドグマ編に人気面で劣っている。これはドグマ編の重厚感とジンドグマ編の軽快さにギャップがあり過ぎたことと、斬新な試みが結果として裏目に出たことにあると見ている。
 その相違を念頭に置いた上でジンドグマ編を見ると初の女性幹部、初の同時複数幹部、日用品が襲撃してくる恐怖、初めての視聴者募集による怪人の登場、通信役から一歩前に進んで可能な範囲で戦うジュニア少年ライダー隊、等々、ジンドグマ編で始めて為されたことは多い。
 実際、『仮面ライダースーパー1』ドグマ編に続編としてではなく、別番組にて試みられておればそれなりに着目してもらえたのではなかろうか?
 逆に試行錯誤に制作陣が振り回された感も否めない。
 上記にて、四幹部は仲が良くない、と記述したが、単に路線の違いとも取れ、作戦に移る前は結構和気藹々としているし、過激派の鬼火指令と穏健派の妖怪王女は仲が悪いように見えて、最後の最後には共闘しているし、その二人が戦死した時に、最も悲しみを露にしていたのは散々ぱら数字に対する細かさを見せた直後に嘲笑されていた筈の幽霊博士だった。
 更には行動を供にすることは少なかったが、妖怪王女魔女参謀(藤堂陽子)は同じ女性の立場から他の2幹部に反論したこともある。

 つまりはこの徹底の無さがジンドグマ編のいいところも悪いところも目立たなくし、様々な試みから生まれた雑多性に埋もれ、視聴者にドグマ編の重厚感を懐かしがらしめたのではないだろうか?

 何か一本筋の通ったものを造り、それを基準とした新兵器が出されていれば、後々のライダー史に名を刻む兵器を生み、同時にジンドグマの名ももっと武威のあるものになっていたのでは?と惜しむのはシルバータイタンだけだろうか?



次頁へ
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る

令和三(2021)年六月一一日 最終更新