12.クライシス帝国(仮面ライダーBlackRX)

12−1.怪魔界送り(仮称)
登場話
第3話「RX対風の騎士」


有効性
 早い話、対象者をクライシス帝国が本来存在する怪魔界へ送る術である。そして怪魔界での戦いを強いられることは、仮面ライダーBlackRXにとって、苦戦を強いられることと同義語である。

 ここで番組的な背景を見ておきたいのだが、仮面ライダーBlackRXクライシス帝国によって大気圏外に放擲された南光太郎が命の石・キングストーンが陽光を浴びたことで仮面ライダーBlackから生まれ変わった存在で、仮面ライダーBlackRXは「俺は太陽の子!」と自称するように、太陽エネルギーを活動源としていた。
 一方で、クライシス帝国が存在する怪魔界は地球の双子とも云える星で、地球の環境破壊のあおりを食って一年後に滅びる運命にあり、1年間に1ヶ月しか太陽光の射さない、草木の枯れ果てた荒涼とした砂漠となっていた(暗闇なのではなく、厚い雲に覆われている。恐らくは亜硫酸ガスの雲と思われる)。

 ただでさえスポーツの世界でもホームかアウェーかで有利不利は大きく左右される。まして空気環境や自然環境が異なり、そこで生まれ育った住民がガスマスクを使い、その世界からやってきた人間が地球では拒絶反応を起こして死んでしまうような世界ではかなり不利な戦いを強いられるのは自明である。
 そんな世界に仮面ライダーBlackRX南光太郎は図らずも二度も訪れ、戦わざるを得ない状態に置かれた。

 そんな怪魔界にて光太郎 RXに変身し、クライシス帝国に抗し得たのも、1回目は「風の騎士」を自称する怪魔獣人・ガイナギスカンの正々堂々たる勝負への誇りの為、光太郎は太陽の光が射すまでの時間が与えられた(その返礼として、 RXガイナギスカンが苦手とするオルゴールが鳴り響いた時に音楽が停止するまで攻撃しなかった)。
 2回目は偶然光太郎がやってきた時期が太陽の射す時期だった為に変身に支障をきたさなかった。
 だが、双方いずれの場合も光太郎は怪魔界の環境に苦しんだ。しかも、比較的都合のいい時期でさえそうだったのである。
 では何故にクライシス帝国はその後いくらでも存在したであろう太陽の光の射さない時期の怪魔界に南光太郎を放り込まなかったのであろうか?


何故再利用されなかったか?
 理由は2つ考えられる。
 1つは、仮面ライダーBlackRX所有のアクロバッターと、ライドロンの存在である。RX愛用の二大マシンは怪魔界との出入りも自由で、RXがその気なら簡単に脱出できる。
 謎の消失を遂げたガロニア姫(井村翔子)の替え玉に佐原ひとみ(井村翔子)が誘拐された時は、ひとみちゃん奪還の目的上、光太郎は約一カ月怪魔界に留まり続けたが、勿論、奪還後は即行で怪魔界を脱出している。
 簡単に逃げられるようでは本拠地に敵を招き入れる行為は積極的に行われないのも当然だろう。

 もう1つは不平分子との接触が考えられる。
 1回目の怪魔界行きでは、光太郎クライシス皇帝の圧政に反対して隠遁生活を送っていたワールド博士に接触し、光の車・ライドロンの設計図を託され、ライドロンはRXの機動力としてクライシス帝国を苦しめた。
 また、霞のジョー(小山力也)との邂逅や、反皇帝派のクライシス人がRXに協力してきた流れを見ると、光太郎に怪魔界の秘密を握られない為にも、敢えて怪魔界流しにする理由は後々程消失していたのかも知れない。


12−2.怪魔稲妻剣
登場話
第26話「ボスガンの反撃」


有効性
 頑丈さに定評のあるロボライダーのボディーさえ切り裂くことを可能とする鋭利さを持っているのが怪魔獣人大隊隊長にして、海兵隊長であるボスガン(藤木義勝)特注の、この怪魔稲妻剣である。

 第25話にてボスガンは、クライシス皇帝から地球攻略兵団・最高司令官ジャーク将軍(高橋利道)への怪魔通信を傍受し、地球攻略の遅滞振りを怒り、クライシス皇帝ジャーク将軍の処刑を考慮に入れていることを知る。
 直後にボスガンは抜け駆けで仮面ライダーBlackRXの首を取ることを企み、ジャーク将軍が命じた5人の蠍座の花嫁の拉致(目的はクライシス皇帝に献上する生贄)に従事する一方で、RX打倒も果たす、という二兎を追わんとした。

 姦計を尽くし、5人の花嫁を揃えた海岸沿いの断崖上でついにボスガンRXとの一騎打ちに持ち込むことに成功したが、自慢の長剣はロボライダーに変じたRXのメタルボディの前に折れ、ボスガンは撤収。これを助けんとした怪魔獣人ガイナカマキルもリボルケインの前に倒れた。
 だが、行き当たりばったりなのか、用意周到なのかよく分からないボスガンは既に二の矢として怪魔獣人ガイナギンガムによる謀計を発しつつ、ロボライダーのボディをも切り裂く怪魔稲妻剣を第26話冒頭にて準備し、試験用に作らせたと思われる、本物と同じ固さを持つダミーのロボライダーを切り裂き、少なくとも切れ味については全く問題がないことが事前に確認された。

 実際、怪魔稲妻剣は実践でもその威力を発揮した。勿論RXを斬り殺すには至らなかったが、かすり傷とはいえ本物のロボライダーのボディにも一撃を与えることに成功し、実戦でも怪魔稲妻剣の斬撃が有効であることを証明されたし、RXを庇ってボスガンに立ち向かってドテッ腹に斬撃を食らった霞のジョーは、一命こそ取り留めたものの、三ヶ月間の入院を余儀なくされた。

 抜群の切れ味を誇った怪魔稲妻剣だったが、結局はロボライダーが物理攻撃無効のバイオライダーに変じる威力を発揮できず、バイオブレードによって利き腕を負傷したボスガンは撤収。当然のようにガイナギンガムも倒された。
 クライス要塞に帰還したボスガンは敗戦報告を行った折にジャーク将軍怪魔稲妻剣を見せるよう要求される。云われるままに剣を抜いて見せたボスガンだったが、次の瞬間、気合いと共に突き出された錫杖から迸った光線によって怪魔稲妻剣は折取られ、高笑いと主に去るジャーク将軍にを目を合わせられないままに己の野望が潰えたことをボスガンは悟らざるを得なかった。

 だが、野望が潰えたことと、効力ある剣が用いられない事とは直接の関係はない。何故にボスガンは新たな剣を用いなかったのだろうか?否、実際にはこの後もボスガンは帯剣を続行し、RXとの最後の一騎打ちでも電磁波剣なる剣を用いていたが、怪魔稲妻剣に代わる代物には見えなかった。そこにどんな謎があるのだろうか?


何故再利用されなかったか?
 物理的な要因を挙げる、実物が破壊されたことと、ゲル状に変化したバイオライダーの前に無力だったから、の2点が挙げられる。
 怪魔稲妻剣鋳造にかかる労力は不明だが、一度鋳造出来たものなら再度鋳造出来る可能性は皆無ではない筈だが、ボスガンがそれをした気配はない。となると、二点の要因のうち、後者を持って、プライドが服を着て歩いているような男・ボスガンが再鋳造をしなかった可能性が高い。

 だが、ここは別の要因を挙げたい。
 それはクライシス帝国貴族であり、地球攻略兵団四大隊長の一人でもあるボスガンの在り様である。ボスガンにとってプライドは大切だが、もっと大切なのは自らが率いる怪魔獣人大隊と、一族が住まうクライシス帝国である。
 実際、部下の死に心に痛みを見せることの少なかったボスガンだったが、配下のガイナジャグラムが査察官ダスマダー(松井哲也)の陰謀の犠牲になった時は激し怒りを見せていた。
 つまり、自らが将軍になる野望の潰えたボスガンは貴族・戦士としての生き様と本来の勅命である地球攻略の為にジャーク将軍の懐刀に徹したということである。
 好例としてダスマダーRX打倒計画の独断専行にかこつけて地球攻略兵団重鎮達を無きものにすることを企むようなら自らの手で粛清することをジャーク将軍 (偽物だったが)に誓っていたのが挙げられる。

 懐刀としての徹底振りには、不殺の恩義も挙げられなくはない。
 自らに取って代わって将軍になろうとしたボスガンの抜け駆けは、通常軍隊においては処刑ものである。しかしながらジャーク将軍怪魔稲妻剣を砕いただけで、ボスガンを罰しはしなかった。だが、忘れた訳ではなく、翌々週には抜け駆け企みの事実を忘れていない、と明言してボスガンの高慢を叱りつけてもいた。
 こうなると、良くも悪くもプライドの高い男である海兵隊長ボスガンとしては恩義を返さない訳にはいかないだろう。加えて、野望を持ちつつも、それが潰えたことを悟ると共に本来の任務に戻ったことをプライド高いボスガンなりの潔さ、と見るのは些か褒め過ぎだろうか?



クライシス帝国の雑感
 一口に悪の組織と云っても千差万別である。ゲドンのような個人の野望としか思えない殺人集団もあれば、ガランダー帝国のように太古の王朝復活を目指すものもあり、デルザー軍団の様な人類の住まう世界とは異なる世界からの襲来者もあり、ネオショッカードグマ王国ジンドグマのように地球外生命体もある。
 そして大同小異を持ちつつ、ショッカーを始め、多くの組織は既存の世界では自分達は悪とされることを自覚しつつも、世界征服達成の暁には自らの理想とする世界―弱肉強食と紙一重ながらも、厳格な秩序によって統制されたもの―を目指していた。

 だが、クライシス帝国の場合、クライシス帝国なりの理想がないとは云わないが、まず、第一に『延命』という何をおいても第一に取り組まねばならない命題があった。一年後に滅びの運命を控え、その前に地球に移住しなければならないという、他の組織に例を見ない切羽詰った事情を持つクライシス帝国は、地球人を屈服させた後に移住することを基本目標としつつも、ある時は怪魔界と似た環境を整えた地下都市を構築し、一時避難だけでも達成させようとしたこともあった(その直前にやってきた移民団500名は地球環境に拒絶反応を起こし、全員が苦しみもだえた後に息絶える、という悲劇が起きていた。フィクションとはいえ、悲惨な一コマだった)。

 となると、組織でも、個人でも、国家でもここまで切羽詰るとなりふり構っていられたなくなり、当面の状況打開のために手段は選んでいられないだろう。つまりは他の組織以上に失敗した作戦や欠点を持つ手段にこだわっていられなくなるだろう。
 それ故に締め括りにクライシス帝国が持ち続けたものを2点ほど挙げておきたい。

 1点は強化細胞である。
 前述したように、地球に怪魔界と同じ環境を整えられていない状態でやってきた移民団第一陣500名は地球環境への拒絶反応のために全員が死に絶えた。そんな地球環境で地球攻略兵団が恙無い生活を送っているのは強化細胞を移植されているためである(実際、大気中に亜硫酸ガスがまかれた時、ガテゾーンは実に気持ちよさそうにしていた)。
 それ故に強化細胞の存在は機密中の機密で、ついうっかりこれを漏らした諜報参謀マリバロン(高畑淳子)はダスマダーに死刑を宣告された折に、抵抗の体勢は見せたが、言葉では全く反論できなかった。そしてそのマリバロンも強化細胞を移民団全員に移植できる程確保できていなかったことを悔やんでいたし、ダスマダーも秘かに強化細胞増殖に努めてもいた。

 もう1点は環境確保で、ある時は一村を占領して大気中に亜硫酸ガスをまき、ある時は地下都市建設に勤しみ、ある時は四国一島に占領政策を集中させ、ある時はマンモス団地をユーレイ団地にして避難所としたりするように、例え限定的でも自らが生き残れる環境を確保することに粉骨砕身していたクライシス帝国には同情もするし、組織のアイデンティティとしても興味深い。
 再利用されなかったものと、再利用され続けた者にどんなこだわりの差があったかを鑑みると、クライシス帝国ウォッチングは現実の切羽詰った組織・企業・国家を見ることと共通するものも見えてくるだろう。



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令和三(2021)年六月一一日 最終更新