5.ZAT(ウルトラマンタロウ)

5−1.回転ノコギリ(仮称)&エネルギーAB爆弾

登場話
第29話「べムスター復活!タロウ絶体絶命!」、第30話「逆襲!怪獣軍団」

有効性
 ウルトラマンシリーズにおいて、「ウルトラ兄弟の前座役」と呼ばれ、ややもするとその能力が過小評価されがちな正義のチーム。それゆえにシルバータイタンは正義のチームが自力で怪獣・超獣・宇宙人等を倒した話は大好きである。
 勿論、毎回自力で倒してはウルトラ兄弟の出番はないから、要所要所で倒してくれればそれで充分である。
 そしてそのシルバータイタンがもし、「『ウルトラマンタロウ』おけるZATの活躍を挙げるなら?」と問われればいの一番に挙げるのがこの第29話・と第30話である。

 結果論から云えば、第29話では宇宙大怪獣改造べムスターの前に大量の同胞を殺され、新兵器も丸でいい所無しだったZATだったが、第30話では極めて合理的に研究を重ね、ミサイル超獣改造ベロクロンU世と改造べムスターを立て続けに倒したのだが、一連の流れの中で改造べムスターに関しては見事にその生態を利しており、改造ベロクロンU世に関しては一太刀も浴びずに一方的勝利を収めている。『ウルトラマンA』の第1話で、TAC成立前の地球防衛軍がベロクロンの為に僅かな時間で全滅したのことから見ても、防衛組織は、人類は明らかに成長したことを示してくれた回なのである。

 そして、この時改造べムスターを倒したのがエネルギーAB爆弾だったのである。
 第29話冒頭で、改造べムスターにより、ZATの宇宙ステーションが飲み込まれ、数多くの隊員が殉職した。その報復に燃えたZAT荒垣修平副隊長(東野孝彦)指揮の下、初代べムスターを倒した帰ってきたウルトラマンのウルトラブレスレットを研究・解析し、同等の破壊力を持つ回転ノコギリ(仮称)による真っ二つ作戦に出たが、これは改造べムスターに通じず、直後に戦いを挑んだウルトラマンタロウまでが一敗地に塗れた。

 第30話で、改造べムスター打倒に執念を燃やす荒垣副隊長は、改造べムスターを倒そうとした寺子屋講師・海野(大和田漠)がその口腔内にダイナマイトを放り込むも、改造べムスターがそれを吐き出してしまったのを思い出し、改造べムスターの口腔が発声器官ではあっても、摂食器官は腹部であることを確認し、腹部にエネルギーを濃縮させた爆弾を放り込み、それを腹中にて爆破させることで改造べムスターを内側から破砕する作戦が立案され、先に腹中に飛び込むエネルギーA爆弾と、後から腹中に飛び込んで、A爆弾を誘爆する役目のエネルギーB爆弾とがスカイホエールに搭載された。

 改造べムスターの腹中に投げ込まれたエネルギーA爆弾は、腹部への命中と、腹中での動きだけでかなり改造べムスターにダメージを与えたようであり、改造べムスターはこの後、海野青年のナイフによる目潰しにのたうちまわり、ZATにもウルトラマンタロウにも全く攻撃を仕掛けることが出来なかった。つまり、エネルギーAB爆弾のセットは片割れだけでもかなりの力を持っていたことが容易に推測出来る。

 ZATVS改造べムスターの戦いは、改造ヤプール改造べムスターの助太刀にサボテン超獣改造サボテンダー改造ベロクロンU世を投入したことで一時中断したが、改造サボテンダータロウのストリウム光線に倒れ、改造ベロクロンU世もスカイホエールから放たれたレーザー砲の前に落命した。
 この時点で改造べムスターは青息吐息で、しつこく頭部にまとわりつく海野を振りほどきはしたものの、これもタロウに助けられた。

 改造サボテンダーを倒し、海野青年を助けたタロウは空中のスカイホエールを見上げると、改造べムスターを指差し、とどめを促した。
 操縦席にいた荒垣副隊長タロウに敬礼すると隣席の北島隊員(津村鷹志)に改造べムスターへのとどめを下知し、北島が発したエネルギーB爆弾改造べムスターの腹部に飛び込むと、先に飛び込んでいたエネルギーA爆弾を誘爆し、狙い過たず、改造べムスターを内部より木っ端微塵に粉砕した!

 ZAT宇宙ステーションを呑み込み、帰ってきたウルトラマンのウルトラブレスレットと同等の威力を持つ回転ノコギリをものともせず、ウルトラマンタロウをも一度は一敗地に塗れさせた改造べムスターだったが、最終決戦では地球人の前に手も足も出なかった。
 また、改造べムスターを倒す為に最初に「真っ二つ作戦」にて用いられ、文字通り全く歯(刃)が立たなかったた回転ノコギリはその形態と不成果が特撮マニアの間で笑いの種にされているものの、誤爆の際に鉄筋コンクリートのビルをあっさり切り裂く威力を見せていたし、改造べムスターZATの体たらくを笑い物にしていたが、それは回転ノコギリの威力を笑ったものではなく、過去のべムスターを倒す力で現在の改造べムスターを倒せる、と踏んだZATの見識を笑っていたと云える。つまり、回転ノコギリ帰ってきたウルトラマンのウルトラブレスレットに匹敵する破壊力を持っていたことは否定されていないのである(成果も挙げていないが…)。

 となると、帰ってきたウルトラマンの必殺武器と同じ戦闘力を持つ回転ノコギリと、それをあっさり破った改造べムスターを終始圧倒したエネルギーAB爆弾は更に多くの怪獣・宇宙人を倒す兵器として多用されてもおかしくなかったのではなかろうか?
 少なくとも帰ってきたウルトラマンの必殺技と同じ威力のZATの武器は怪獣達に対する相当な脅威となり得た筈なのだが…。
 現に、ZATは第52話にて帰ってきたウルトラマンを散々苦しめた泥棒怪獣ドロボン(←そのまんまやんけ)を倒していることを付け加えたい。


何故再利用されなかったか?
 再利用されなかった原因として、回転ノコギリについては、以下の3点が考えられる。
 一つは、材質が高価であったこと、
 一つは、建築物に被害を与えながら肝心の改造べムスターを倒せなかったこと、
 一つは、次なる武器であるエネルギーAB爆弾が改造べムスターを倒したこと、
である。

 そしてエネルギーAB爆弾が再利用されなかったことにも以下の3点が考えられる。  一つは、取り扱いに相当の注意を要するエネルギー源であったこと、
 一つは、改造べムスターのようにエネルギー摂取口が大きい相手に限定されたのではないか?ということ、
 一つは、誤射時の惨害が回転ノコギリの比ではないこと、
である。

 このサイトを見てくれるぐらいの熱心な特撮マニアの方々には上記についてわざわざ解説する必要もないと思うが、簡単に補足すると、『ウルトラマンタロウ』に登場した怪獣達は、「怪獣より強い超獣」よりも更に強い「怪獣」という設定で、当然、ZATとしては従来を上回る新兵器の開発は日常の任務となりうるが、強力な兵器は一歩間違えば自らの安全を脅かす凶器となるのは歴史が証明している。
 現実の世界でも、核兵器はその保持と安全管理に莫大な経費と人手を要する(ロケットが液体燃料をかなりの時間かけて注入し、長期間打ち上げない際には燃料を抜いている例を見れば分かりやすいと思う)。それゆえに隣国の駄々っ子みたいな意地張りと同レベルになって「日本も核武装するべきだ!」とほざいているライトウィング(日本のイメージを貶めんとする似非ウヨ・ネットウヨを含む)はアホである、と云いたい(もし彼等がシルバータイタンよりも同世代か、少し上の世代なら『ウルトラセブン』第26話「超兵器R1号」を観直して、核開発競争なるものが前時代から見ても救いようのない愚行であることを悟って欲しいものである)。

 上記の使われなかった理由で一点だけ解説を付け加えるなら、エネルギーAB爆弾改造べムスターに使い易かったのには、改造べムスターが体に比して巨大な栄養摂取口を腹部に持っていることが挙げられる。
 勿論あれだけ的が大きければ2発の爆弾を同一口に撃ち込むことも容易で、回転ノコギリの時のように的を外すことで周囲に被害が出る可能性も極少で済む、という訳である。火山怪鳥バードンのように、食欲旺盛でも嘴形の口腔を持つ相手や、極悪宇宙人テンペラ―星人のように吸引型の口吻を持つ相手にエネルギーA爆弾と、エネルギーB爆弾を立て続けに口腔内に撃ち込むのは相当な危険が伴っただろうし、知恵の高い相手にはエネルギーB爆弾を撃ち込む前にエネルギーA爆弾を吐き出されることもあり得る。
 そうなると、荒垣副隊長北島隊員がこの作戦を考えた着眼点は見事であると同時に、タイプの異なる怪獣に対してアレンジ戦法を考えてくれていればもっとこの作戦とZATの存在感が増したであろうことが悔やまれる。


ZATへの雑感
 良くも悪くもZATは作戦の宝庫である。
 Wikipediaを参考にしただけでも、電気ショック作戦(第1話)、放電作戦、高圧パイプ作戦、胡椒作戦、パンチ弾作戦(第2話&第3話)、バスケット作戦(第5話)、中和作戦(第6話)、蟻殲滅作戦(第9話)、ミラー作戦(第10話)、虫歯治療作戦(第13話)、地雷作戦(第14話)、スプレー作戦(第15話)、手錠作戦(第16話)、トリモチ作戦(第17話)、ひっぺ返し作戦・ネット作戦(第21話)、ZATハリネズミ作戦・王水作戦(第23話)、AZ1974作戦(第25話)、首吊り作戦(第26話)、アミアミ作戦(第27話)、薬品作戦(第31話)、ベル作戦(第35話)、白酒作戦(第48話)、と中にはお笑いに走ったとしか思えないものや、単純極まりない発想故に着想を疑いたくなるものもあるが(笑)、じっさいにTACMATMACよりも怪獣退治に成果を挙げている。

 それなりに個性的な隊員達を揃えながら、科特隊ウルトラ警備隊程の存在感を隊員視点では築けていないにしても、一組織としてのZATの存在感を確かなものにしているのはこの作戦の多さにあるのは間違いあるまい。

 そして作戦や兵器に限らず、『ウルトラマンタロウ』がそれまでのシリーズに裏打ちされた雑多性の溢れる番組であることを触れておきたい。ウルトラ兄弟・2世怪獣(月光怪獣エレキング、悪質宇宙人メイフィラス星人二代目等)・白鳥ファミリーとの東光太郎(篠田三郎)の日常もそうだし、隊員構成や副隊長や白鳥さおり役(初代・あさかまゆみ、二代目・小野恵子)さえ一定していない。
 第二期ウルトラシリーズとしても3作目となり、先代シリーズとの比較も多い中で様々な試みが急務であったことは想像に難くないが、今少しの一貫性と、各作戦にこだわりがあればZATは歴代正義のチームの中でも突出した存在になっていたであろうことが惜しまれる思いである。



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令和三(2021)年六月一一日 最終更新