File4.黒木 詐欺師改めテロリスト
名前 黒木(演:平松慎吾) 登場作品 『仮面ライダー』第55話 改造体 ゴキブリ男 職業 行商人(実態は詐欺師) 前科 詐欺 悪性分 強欲・罪悪感皆無
本人紹介 冒頭の「File」にも掲げている通り、黒木(平松慎吾)は詐欺師である。弟分である井川(高島稔)と組んで、インチキ商品の路上販売で儲けていた。
二人が取り扱っていたインチキ商品は「ゴキコロリ」なる殺虫剤。全く効果の無いこの薬を二人は、平尾台団地の前で、「ゴキブリこそ人類の敵であります!」、「ゴキブリのいない綺麗な団地を作りましょう!」と力説して、団地住民達相手に大量に販売していた。
勿論、インチキ商品なので後々その効果の無さを実感した団地住人の子供で、石倉 五郎の友人でもあった正子(斎藤浩子)に追及される羽目に陥ったのだが、団地住民以外にも意外な相手が黒木達に騙された。
それは何とショッカー。
ショッカーは毒ガスを用いて人類を老化させる作戦を計画中だった。そしてこの毒ガスをばら撒くのにゴキブリを利用しようとしていたショッカーにとって、大量のゴキブリを死滅させかねない(と思われた)黒木達は計画上におけるとんでもない障害と見做された。
それが為に黒木はゴキブリ男に改造され、ショッカーの一員にされてしまったのだった。
組織への勧誘 本作で採り上げている者達の殆どがその質の悪い性格をショッカーに見込まれて、(当の本人における意思の相違はあれど)悪の組織の一員とされたのに対し、黒木と井川は「組織の敵」と見做されて、誘拐された。
つまり、「勧誘」どころから、「邪魔者排除」として捕らえられ、そのまま殺すだけでは飽き足りないと思われたものか、黒木は問答無用でゴキブリ男に改造され、井川は必死の命乞いが功を奏してか、或いは、「こんな奴改造するまでもない。」と思われたものか、なし崩し的にショッカーの人類老化計画に加担させられることとなった。
悪質性 正直、本作で採り上げた悪人の中に在って、黒木と井川ははっきり云って小物である(特に井川は)。二人の目的はあくまで詐欺によるぼろ儲けで、人類滅亡とか、大量殺戮に関心が有った訳じゃなく、また暴利の為に命まで張る度胸も無かった。
ただ、シルバータイタンがそんな小物である黒木を敢えて取り上げたのは個人的に想うところがあってである。まず、引っ掛かったのが、商品のインチキ性を愉快そうに思っていたことである。
現実世界にも詐欺師は膨大に存在するが、そんな詐欺師にも色々な心境で詐欺に従事している者がいると思われる。儲けの為に人の心の痛みを踏み躙っている悪質性は根本的なところで同じだが、巨大な組織の中に存在して、その意向に逆らえない為に罪悪感に苛まされながら詐欺に従事している者もいれば、「騙される奴が馬鹿だ。」と思いつつひたすらに儲かることを喜んでいる奴もいると思われる。
そう思うと、商品がインチキでありながら飛ぶように売れていることを喜んでいるだけならまだしも、商品がインチキであることを愉快に振舞っている様にはかなり眉を顰めた。
少し個人的な経験が入るのであまり詳しく話せないが、シルバータイタンが過去に努めていた企業が取り扱っていた商品・サービスには誇大広告が見受けられた。全く効果がないものを売っていた訳では無いが、宣伝で歌う程の効果が必ず見込めるのかと云われれば、顧客満足には遠いと思わずにはいられなかった。
勿論、世の商品・サービスの殆どは宣伝程の効果はなかなか為せないと思っている。それ故通販のCMは必ずと云って良い程テロップで、「個人の感想です。」とか、「効果を保証するものではありません。」などと流し、100%の効果を謳うものは皆無である。
ただ、商売である以上、リピーターになって欲しいし、企業イメージアップの為にも、商品が買い手の満足いく効果を上げることを心から願っていた。「云う程の効果は無かったぞ!」というクレームに対しては少なからず罪悪感も抱いたし、返金に応じたことで和解したケースもある。
ところが、黒木と井川はまるで商品が効果を挙げないのが当たり前で、そのことが面白いと云わんばかりにほくそ笑んでいたことに納得がいかなかった。そりゃ、詐欺とばれて訴えられても追われないように路上販売をやっていたのだろうから、確信犯的にやっていた訳だから、同じ場所で再度売ることなど眼中になく、ある場所での商売が終われば「次は別の場所に行って売る。」が当初からの確定事項だったであろうことは想像に難くない。
ただ、それでも何がしかの物は渡す訳だから、インチキ商品にしても見た目だけでも殺虫剤の体裁を整えるにはいくらかに費用が掛かっている筈である。普通なら僅かでも殺虫成分ぐらい混ぜておいて、まぐれでも一匹でもゴキブリが死んでくれればそれに越したことないと考えそうだが、そんな考えは全くうかがえなかった。まあ、30分番組でそこまで深い考えを述べる事等予定になく、ただただインチキ野郎であることを強調したかっただけなのは分からないでもないのだが。
加えて分からないのは、この二人がどれほどの暴利を貪れたのか?という事である。
黒木達が売っていたインチキ商品の代金は500円。団地住民達が飛びついたのはその(本当に効果があるのであればだが)激安とも云える単価にあった。だが、単価が500円では、仮にインチキ商品が原価100円だったとしても1個当たりの儲けは400円。団地の全世帯(概算で、5階建てで1棟当たり50部屋が5棟あったとして250世帯)に売れたとしても、一ヶ所における儲けは10万円。それを1ヶ月中20日行えば200万円で、二人で分ければ100万円の月収…………通常の月収と比べれば悪くないかも知れないが、犯罪者として逮捕されるリスクを考えれば詐欺が割に合うとは思えない。
正直、立ち居振る舞いを見ていても、黒木も井川も賢そうに見えなかったが、単価が安いとはいえ、売れ行きから多くの人々の恨みを買い、逮捕のリスクが付きまとい、おまけに誤解とはいえ悪の組織から人体改造を強いられる羽目にあって…………最終的に命を永らえた井川が改心したのも自然の成り行きと云えよう。
現実の詐欺師たちと単純比較は難しいかもしれないが、稼ぎとリスクと社会的に大手を振って生きていけるか、と云った諸条件を鑑みれば、詐欺は全く割に合わない愚考であることを多くの人々に認識して欲しいものであり、そのことを訴えたくて敢えて黒木を採り上げたとことをここに明言しておきたい。
最期 早い話、ショッカー怪人ゴキブリ男と仮面ライダー1号と戦うこととなり、ライダー反転キックの前に戦死した。印象的だったのは、落命寸前に元の黒木の姿に戻り、全身から炎を噴き出して絶命したことだった。
少し話が逸れるが、ゴキブリ男を指揮したショッカー幹部は地獄大使(潮健児)である。この地獄大使が戦死した折、ガラガランダから元の姿に戻り、リベンジと軍団賛美を訴えて爆死したのは有名だが、前任の大幹部であるゾル大佐(宮口二郎)・死神博士が戦死した時は狼男・イカデビルのまま爆死していた。
まあ、イカデビルの戦死はゴキブリ男戦死の13週後なのだが、「改造人間は二度と元の姿に戻れない。」との鉄則があってか、大幹部であっても怪人のまま戦死するのが大半だった(ピラザウルスの様に、初期の怪人でも人間に戻れた例外もあるが)。そんな傾向がまだまだ色濃い中に在って、ゴキブリ男が黒木の姿に戻った上で無残な死に様を見せたのには、「根っからの悪人にはこんな目に遭う」とのメッセージ性でもあったのであろうか?
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令和六(2024)年九月一七日 最終更新