File5.死刑囚 逆怨みの塊
名前 死刑囚(演:飛世賛治) 登場作品 『仮面ライダー』第83話 改造体 イノカブトン 職業 無し 前科 殺人(推定) 悪性分 強い逆怨み傾向
本人紹介 本名不明。京葉刑務所に収監されていた死刑囚(注:実際に死刑囚が収監されるのは拘置所です)で、一貫して「死刑囚」とだけ呼ばれていた(以下、一般名詞の「死刑囚」と区別する為、便宜上「死刑囚(第83話)」と表記)。
何をやって捕まり、どれほどの罪状を持って死刑判決が下され、確定したのかは一切不明。
組織への勧誘 死刑囚(第83話)に関してはっきりしたことが云えるのは一つ。それはこいつが人間そのものを酷く憎んでいたことである。ゲルショッカーはここに目を付けた。
昭和中期と令和の世を単純比較出来ないが、世論8割が死刑制度を支持している世の中に在っても戦後間も無い時期から死刑を廃止しようとの意見はあり、死刑廃止法案も二度審議された(勿論廃案となったが)。その影響もあってか、殺人による被害者が一人の場合、死刑判決が下されることは滅多になく、逆に三人以上殺めればかなりの確率で死刑判決が下された(昨今では被害者が一人でも裁判員裁判では死刑判決が下るも控訴審でひっくり返されたり、5人以上殺めても精神を病んでいることを理由に無期懲役に減刑されたりすることが多いが)。
勿論、不幸な生い立ち、被害者に対する強烈な怨恨、黒幕的な第三者による教唆・強要がある場合は情状酌量の対象とされ、これが認められれば死刑を免れる率は高まる。逆を云えば死刑囚となること自体、情状酌量の余地がないか、情状酌量をもってしても死刑から減刑し得ない程罪状が悪質か、である。
この死刑囚(第83話)の場合、人間そのものを怨んでいることから幸せな前半生を送ってきたとは考え難い。同時に、自分がしでかした殺人に対する罪悪感を持っているとも思えない。勿論、犠牲者に対する哀悼も皆無だろう。
恐らくは自らの不遇を周囲の人間のせいにしてやりたいままにやった結果、人を(それも複数人)殺め、裁きを受けた結果死刑囚(第83話)となったのだろう。
現実の世界においても死刑囚は千差万別である。
死刑囚となったことで初めて自分がとんでもないことをしでかしたことを自覚し、反省・悔悛を深める者もいれば、全く変わらない者もいる。後は死を待つだけの身に絶望・恐怖して廃人同然になる者もいれば、一切の反省もなくただただすべてを呪い続ける者もいる。
死刑囚(第83話)は正にこの典型で、「恨みの一念」とも云える行動理念がゲルショッカー、ブラック将軍(丹羽又三郎)の求めるところと合致したのだろう。能力よりも人格が重んじられた点ではFile2の無期懲役囚13号。File3の加納修に近いだろう。
かくして死刑囚(第38話)はゲルショッカー怪人イノカブトンに改造された訳だが、そんなイノカブトンをブラック将軍は「仮面ライダーの強力なライバル怪人」と位置付けた。
悪質性 上述した様に、死刑囚(第83話)がゲルショッカーに見込まれたのは人類すべてを憎悪しているかのような怨みの一念に在った訳だが、シルバータイタンは、素体となった彼の性格が、イノカブトンが従事した「猛毒ガス東京壊滅作戦」に使用された発狂ガスの性能を大きく左右するからではないかと思われる。
仮面ライダーと正面から戦い、確実な勝利を得る為には素体となる人間の身体能力・格闘能力が従事しされるが、ただ毒ガスを撒くだけなら取り敢えずは組織に忠実であればいい。だが、イノカブトンが発した発狂ガスはかなり精度・効能に何があったと云わざるを得ない。
というのも、先に答えを書くと発狂ガスがすんでのところで立花藤兵衛に効かなかったからである。
発狂ガスを吸った人間は周囲の人間がすべて敵に見えて、暴れ回った挙句に絶命するという恐ろしい効能を持つとともに、発狂した人間がガスを吐くことを可能にするという効果も持ち、作戦が成功すればネズミ算式に発狂した人間が増え、東京は都民が暴れ、殺し合った末に全滅するという末路を辿っていた。
そんな発狂ガスを吸ってしまった犠牲者の在り様は正に死刑囚(第83話)そのものだったと云え、こうなると発狂ガスは、「精神破壊薬」と云うよりは、「人格複写薬」に見えてしまうし、同時に死刑囚(第83話)がゲルショッカーに見込まれたのも大いに納得がいくのである。変な話、聖人君子の見本のような人物の性格が転写されれば、この世は極楽浄土となるだろう(笑)。
つまり、発狂ガス自体、放出源となる者の人格を反映する以上、イノカブトンの素体には極悪非道且つ攻撃的な人物が求められる訳で、それに白羽の矢が立つほど死刑囚(第83話)の性格は極悪過ぎたのだろう。それゆえ、シルバータイタンは本作にこの死刑囚(第83話)をエントリーした。
最期 推論の続きだが、 発狂ガスの実態がそれを発する改造人間の性格を反映・転写するものだとするなら、つまり、死刑囚(第83話)の精神が大きく影響する以上、理屈上、それを凌ぐ精神力をもってすれば発狂ガスの影響を免れ得ることを意味する。
作中、藤兵衛は特に解毒薬を受けた訳でもないのに自力で正気を取り戻し、一瞬の隙を付いてチェーンソーでもってイノカブトンの角を切り落とし、ライダー1号の勝利に大きく貢献した。
マスカーワールドをそれなりに親しんできた方々にとって、立花藤兵衛の精神力の強さは「云うに及ばず」であろう。実際、催眠術でも、マインド・コントロールをもたらす薬でも、その人間が心の底から「嫌だ!」と思っていることを行わせることは出来ないらしい。
一例を挙げると、催眠術の名手が女性に催眠術を掛け、公衆の面前にて「服を脱げ!」と命じても被験者がそれに従うことは無いらしい。それを元に推測すると、発狂ガスの効能は、死刑囚(第83話)の性格と同時に精神力―ここで云えば怨みの強さが大きく影響するのだろう。
藤兵衛自身、ガスの影響を全く受けなかった訳では無い。ガスを吸わされた藤兵衛はイノカブトンにとって格好の人質兼助手にされていたが、何せ立花藤兵衛は自身が人質にされることでライダーの戦意が萎えるぐらいなら自ら命を絶たんとする人物なのである(まあ、人質を失くしたら困る悪の側で止めしまう訳だが(苦笑))。
ガスの影響が皆無ならとっくにイノカブトンの隙を見て逃げ、本郷猛に善後策を取る様告げに戻ることだろう。最後の最後で正気を取り戻したのも、心ならずも悪の組織の作戦に従事することに心のどこかで抵抗を続け、愛弟子・本郷猛の危機を回避したいとの想いが、死刑囚(第83話)が持っていた人類全体への憎悪を上回り、間一髪で正気を取り戻し、ライダー勝利に貢献することに繋がったのだろう(その証拠に、正気を取り戻しつつも、藤兵衛はしばし意識朦朧に等しい状態だった)。
ともあれ、角を失って大幅に弱体化したイノカブトンはサイクロンアタックの前に戦死した。イノカブトンとなった死刑囚(第83話)が持っていた憎悪の念は重篤なテロを為しかねないほど大きなものだったのだろう。だが、それとて藤兵衛の持つ正義の念と教え子への愛には及ばなかったのだろう。
「怨み」は大きなエネルギー源ではあるが、正義と愛はそれに屈しないことをこの第83話は教えてくれているのである。
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令和六(2024)年一〇月三日 最終更新