第10頁 美剣サキ………自らに重ねた兄弟愛
Revenger 11
名前 美剣サキ 変身するヒーロー グリージョ 復讐取組期間 『ウルトラマンR/B』 復讐対象 コスモイーター・ルーゴサイト 復讐達成 自力では未達 復讐除去要因 湊アサヒからの説得
愛する者の死 第1頁から第9頁まで、「復讐の念」を抱いて来た者として取り上げて来た者は、正義の側に立つ者達だった。最後の最後にヒーローと敵対した者を持ってきたが、これも「復讐を捨てた」ことに注目すればこそである。また彼女がその出自及び改心を経てウルトラマンと浅からぬ因縁が持っていたことも大きい。
そのラストリベンジャー・美剣サキ(木下彩音)だが、『ウルトラマンR/B』の第11話からオーブジャイロ(ウルトラマンロッソとウルトラマンブルが駆使する変身アイテム)に酷似した謎のアイテムを引っ提げ、様々なエレメントを宿した怪獣クリスタルを使って怪獣を召喚する謎の人物として登場した。
その正体は約1300年前に地球を守ろうとした先代ロッソと先代ブルの妹で、「美剣サキ」の名は主人公兄弟・湊カツミ(平田優也)と湊イサミ(小池亮介)の妹・湊アサヒ(其原有沙)から付けられたもので、アサヒからは「ツルちゃん」と呼ばれていた。
その1300年前の戦いで、サキは先代ロッソ・先代ブルと共に地球を食らおうとしたコスモイーター・ルーゴサイトと戦うも敗れ、二人の兄を失い、復讐の為に長い長い時間を一人で生き続けた。
本名はグリージョと云い、正確にはその正体は不明である。
復讐戦 ルーゴサイトは「コスモイーター(小宇宙を食らう者)」という二つ名が示す様に、とんでもない存在で、これに匹敵する者と云えば、『帰ってきたウルトラマン』に登場した暗黒怪獣バキューモンぐらいである。
無限大の体格を持つバキューモンに比べれば然程スケールは大きくないかも知れないが、1話でウルトラマンジャックに敗れたバキューモンに比べ、ルーゴサイトは1300年前から暗躍しており、先代とは云えウルトラ一族を死に至らしめ、時代的なタイミングがあったとはいえ、平成ウルトラシリーズ最後のラスボスを担い、実体化前を含めると最終回三部作において威を唱えた存在だった。
当然、サキにとっても、ウルトラマンルーブにとっても、一筋縄でいく相手ではなかった。
潜む醜さ 何せ目の前で二人の兄を殺され、その怨みを1300年間も抱いて来たのだから、正気でいられる方がどうかしている。当然、美剣サキが抱いていたのは「兄達の仇であるルーゴサイトを殺す。」の一念で、湊兄弟も、作品を通じての黒幕的存在・愛染マコト(深水元基)ことチェレーザも、どーで良い存在で、見た目こそ湊アサヒと同年代だったことで次第にアサヒに感化されていったが、当初は孤高で、最低でも1300年以上生きて様々な地球人を見て来たことから、100年も生きていないであろう地球人を見下していた(と云うか、相手にしていなかった)。
いくら美少女然としていても、憎悪と睥睨に凝り固まっていては醜く見えるのは必然だった。サキを演じた木下彩音さんは後年『仮面ライダーガッチャード』で準レギュラーとして客演したが、余りの雰囲気の違いにそれがサキを演じた人物であることにシルバータイタンは長く気付かなかった(恥)。まあそれだけ木下さんの演技力が優れているとも云える訳だが。
話の展開からなし崩し的に湊兄妹に(結果的に)協力することもあったが、当代のロッソとブルを偽物と見做し、彼等がウルトラマンとベリアルの怪獣クリスタルを使いこなせるかを見極める為にチェレーザを当て馬にしたこともあり、配下となる怪獣が暴走することを気にも掛けず、目的の為に愛染の会社・愛染テックを乗っ取って、新社長になるなんてこともした。
どうも長く地球に住む内に様々な人々と交流を持ち、そこから学ぶこともあったようだったが、学んだことが多過ぎたためか、誤認識も多く、冷淡な風に見えて礼儀を尽くそうする面もあった。何せ、湊兄弟に「死んでくれ。」と云う頼みごとをする為に、饅頭を持参したこともあった。どうも頼み事をする礼儀として菓子折りが重要と認識していたようで、それで命を落とすと云う頼みごとが通じると思っていたのだから畏れ入る。ついでを云えば、菓子折りはお詫びの時に持っていくものなのだが(苦笑)。
ただ、一歩間違えれば天然ボケとも取れる彼女なりの筋の通さんとする姿勢が徐々に復讐心を氷解させ、憎悪への凝り固まりが見せる醜さも軽減させていったとも云える。
復讐の終わり 酷い云い方をすれば、ルーゴサイトに敗れ、落命したことで美剣サキの復讐人生は幕を下ろした。だが、本懐を遂げていようといまいと孤独と憎悪に凝り固まったサキの復讐心は当初より徐々に氷解を見せており、いずれは復讐を捨てていたとシルバータイタンは見ている。
まず、サキは決して悪女ではない。それどころか兄達と共に地球を守ろうとして体を張った地球の恩人ですらある。実年齢を本人も覚えていない程長い人生を過ごす中では友とした地球人もいて、口癖のように「古き友は云っていた。」との切り出し、偉人の言を述べていた。
同時に、自分の偽物を前にして、「私の目はそんなに吊り上がっていない!」と激昂していたことから、憎悪で表情が歪むことを暇しく思う一面もあったのだろう。
男勝りな口調で、自分より遥かに短い時間しか生きていない現代地球人を何処か見下していた感はあったが、多くの文化に触れた弊害的な誤解が多かったとはいえ、自分なりの礼儀や筋を通そうとしていたことは度々あり、何より湊アサヒに感化されたことや、過去の偉人の言葉を引用していたこと自体、他者から何かを学ぼう、吸収しようと云う謙虚な姿勢が有ってのことである。
そしてそのことも含め、何より友として接したのが底抜けに明るく、フレンドリーなアサヒだったことが大きかった。「ハッピー!」を口癖に、すべての人々が幸福であることを心底望み、おおよそ憎悪と云う感情が欠片も見られないアサヒに対して、肌の合わない人間もいるかも知れないが、負の感情を抱く者は皆無だろう(←嫉妬や自己愛から逆怨みを抱く人間のことまでは知ったことではありません)。
「美剣サキ」の名を贈られた際も、当初は「考えておく。」と答えるだけで戸惑い気味だったが、いつしか「ツルちゃん」という通称共々自然に受け入れており、現代のロッソとブルの妹であるアサヒを自分と同じ「ウルトラマンの妹」として共感する様になり、彼女がキングジョーの体内に閉じ込められた時はカツミ・イサミと共に体を張って救出に尽力した。
端的に云って彼女のことを好きになっていたのだろう。次第にギャル言葉まで真似るようになり、配下にしたアイゼンテックの秘書AI ・ダーリンがドン引きする程だった(笑)。
そして第23話でアサヒに別れを告げる後に涙を流し、復讐心を捨てずとも、当初持っていた頑なな心は完全に氷解していた。結局武運尽きて第24話にてルーゴサイトの攻撃で致命傷を負い、アサヒの腕の中で自分のジャイロを託して心の底からの笑顔を浮かべながら兄達同様星屑となって昇天した。
ルーゴサイトは翌週の最終話でウルトラマンルーブによって倒され、1300年に渡る因縁に終止符が打たれた。サキ自身はそれを見届けることが出来なかったが、後年アサヒがウルトラウーマングリージョとなったことで、復讐を捨てて得た友情が生き続けていると思いたいところである。
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令和七(2025)年三月五日 最終更新