第9頁 照井竜………一度は復讐に捉われたからこそ

Revenger 9
名前照井竜
変身するヒーロー仮面ライダーアクセル
復讐取組期間『仮面ライダーW』
復讐対象井坂深九郎(ウェザー・ドーパント)及びガイアメモリ販売者
復讐達成狭義には有り
復讐除去要因怨敵討滅及び園崎文音への理解・同情


愛する者の死 照井竜(木ノ本嶺浩)は、例えて云うなら「平成版風見志郎」である。犠牲となったのが両親であることに、「よ、よ、よ」の歌詞が脳裏を過ったライダーマニアも多かったことと思う。
 『仮面ライダーW』に関しては既に「特撮房前話解説の間」「仮面ライダーW全話解説」をアップ済みなので、同作の詳細はこちらを参照して頂けると有難い(笑)。

 ともあれ、照井一家の悲劇は放映の一年前に起きたもので、照井で、警察官だった雄治(矢嶋俊作)、真由美(藤井佳代子)、春子(笠原美香)が「 Wのドーパント」に惨殺された。その日帰宅した照井が見たのは氷漬けにされた両親で、春子は既に息がなく、辛うじて息の有ったから「W」と表記されたメモリを持つ怪人が犯人であることを知ったが、それ以外に手掛かりは無かった。


復讐戦  「悪魔と相乗りする勇気があるか?」とは、師匠・鳴海壮吉(吉川晃司)を殺された直後の悲しみに暮れる左翔太郎(桐山漣)にフィリップ(菅田将暉)が掛けた台詞だが、復讐の為に「相乗り」ではなく、「取引」をしたのが照井竜だった。

 翔太郎・フィリップという二人で一人の仮面ライダーは悪の組織と戦う為にメモリとメモリドライバーを半ばミュージアムから強奪して仮面ライダーWとなったが、照井は復讐の為に力を求め、仮面ライダーアクセルになるべく取引した。
 もっとも、照井が取引したのは悪の組織であるミュージアムではなく、そこを脱した、ミュージアム総帥・園崎琉兵衛(寺田農)の元妻で、フィリップ(本名・園崎来人)の母・シュラウドこと園崎文音(幸田直子)だった。

 そして第23話の終盤、ようやく照井の家族の仇である「Wのメモリ」を持つ人物・井坂深紅郎(檀臣幸)がその姿を見せた。第27話で初めて照井と顔を合わせた井坂照井に対して、「そうか、照井雄治の息子ですね君は。」と云い放ち、何故知っているのかを問う照井に、「去年の8月に会った」と返したため、遂に照井は仇が誰であるのかを知った。

只でさえ、家族の仇を眼前にして冷静でいられるものではない。しかも、井坂は家族の殺害を「実験」の述べ、「誰でも良かった。」とした。この台詞に怒り心頭となった照井が、「貴様…今まで何人をそのメモリで殺してきたんだ!」と問えば、「お前は今まで実験で死んだモルモットの数を覚えているのか?」と返す始末。これを受けて、「覚悟しろ井坂……俺はもう自分を抑えられん!」と告げ、照井は怨闘に身を投じた。逆説的に見方だが、真の仇が確定したことでこの後の照井井坂以外の者には比較的冷静に接する様になった。


潜む醜さ 当初、照井竜が復讐に表情を歪めていた様は見てられないぐらい酷いものがあった。勿論これは木ノ本嶺浩氏の容姿を貶しているのではなく、それ程復讐心が凄まじいことを木ノ本氏が見事に演じていることに言及した者なので、木ノ本氏のファンの方々は抗議メールなどを送られないようにお願いしたい(苦笑)。

 第21話では復讐の為にドーパントになった(と思われていた)元刑事を全くの正論で「最低な刑事」とした真倉俊刑事(中川真吾)に、照井は「お前に何が分かる!」という台詞の元に裏拳を顔面に食らわせた。
 この時の照井は、汚職の濡れ衣を着せられたその刑事の無念を晴らしたがる後輩刑事・九条綾(木下あゆ美)に同情しており、気持ちは分かるのだが、法規と職務に照らして、照井が真倉を殴った行為は、完全に私情に目を眩ませた不法行為且つパワハラだった。

 続く第22話では、携帯に掛かってきた家族の仇を名乗る人物によって工事現場に呼び出され、鉄骨の下敷きにするというべたな罠にあっさり引っ掛かったのだから、復讐心が彼の有能さを如何に鈍らせているかが分かる。

 そして第27話で真の仇を特定した際に、その存在と敵の在り様(罪悪感の無さ)に怒り心頭となった際、その話でガイアメモリの悪影響を自ら望んで井坂深紅郎についていったリリィ白銀(長澤奈央)を「助けなければ。」とした翔太郎達に、「自分から悪党について行った女」と見做し、彼女の救助も拒み、「奴(井坂)は強いから共闘しないと勝てない。」と云われれば、仇討ちの為に自らの死も顧みないと吼え、翔太郎から「死んでも構わないだと?お前こそふざけるなよ照井。 周りを見てみろ……お前を心配してる奴等がこんなにいるじゃねーか!」と激昂され、まともな会話が成り立たなかった。
 そして歴然とした力量差(すべての攻撃が通じず、パンチ一発で変身解除に追いやられた)の前に手も足も出なかった。

 続く第28話冒頭で翔太郎が捨て身の介入を敢行し、井坂が琉兵衛に誘われたことで一命を取り留めたが、その翔太郎に感謝する風もなく、リリィを助けようともしない頑迷振りに普段温厚なフィリップが切れた程だった。
 何せ、リリィを助ける為の方法を検索したフィリップが、「アクセルの協力が不可欠」としたが照井はそれを黙殺するかのように、「井坂の居場所を検索しろ。」と要求したのだから。もっとも、照井の改心、と云うか、冷静さの取り戻し、何より彼が警察官や仮面ライダーとしての本文を失っていなかったのはこの第28話から徐々に現れ出したのではあったのだが(詳細後述)。


復讐の終わり 復讐心に感情を暴走させる照井竜に救いがあるとすれば、それは彼が警察官であることを忘れず、元々は冷静な性格で、時に葛藤を見せていたことだった。

 第20話では当初家族の仇と認識していたアイスエイジ・ドーパントに対して殺意満々だったが、家族の仇では無いと知ると、ドーパントとなった息子の身を案じる母親の心を察して、決め台詞である「絶望がお前のゴール」を、「刑務所」がゴールであると云い直した。
 また第22話では復讐心をガイアメモリに増幅されたことで完全に暴走した九条綾に嵌められて重傷を負いながらも、復讐に眼が眩んだ彼女に対して「復讐に因われた哀れな女」と評し、「俺が救ってやる。」としていた。
 意地悪な見方をすれば、「自分自身、復讐に冷静さを欠いておいて、どの口が云ってんだ?」とのツッコミも可能だが、ここは照井が復讐に目を眩ませていた自分自身への戒めを始めていた故の台詞と見たいところである。

 そして上述した様に第27話で真の仇を認識したのをきっかけに徐々に本来の冷静さを取り戻し、第28話終盤では怨敵・井坂深紅郎を眼前にしながら、「お前などに構っている暇はない。俺はリリィを助けに行く。彼女はマジシャンの端くれ…そして俺も仮面ライダーの端くれだからな。」と告げ、ガイアメモリの悪影響を受けたリリィ白銀を助ける方を優先した。まずは復讐よりも大切なものがあることを、人として警察官として仮面ライダーとして照井は取り戻し始めていた。
 事前には、ガイアメモリの力を頼る余り、自分の命を顧みなかったリリィに、「そう思ってるのはお前だけだ!少しは周りを見ろ!心配している家族がいるだろう!」と、自分が翔太郎に云われたのと同じ台詞を発し、直後に、「フッ…俺が左と同じ言葉を云うとはな…。」と言葉こそ自嘲気味だったが、翔太郎の気持ちを理解し、自身を反省し、リリィに、「ワンステージだけだぞ。それが終わったら俺の処置を受けるんだ。俺の仲間達が見つけた、君を助ける為の処置をな。」と云っていた。

 そして第35話で、照井は近所の小学生達から「鳥のお姉さん」と慕われていた風都野鳥園の職員・島本凪(和川美憂)に遭遇した。島本は照井同様に父親をウェザー・ドーパント井坂に殺され、自らも生体コネクタを埋め込まれていた。しかも、井坂は生体コネクタの影響を見る為に何度も彼女の元を訪れると宣言しており、彼女は周囲の人々を巻き込まない為に身を隠していた。
 そんな凪に照井は強く同情し、自分が春子から昇進祝いに貰ったペンダントをお守りとして渡し、「せめてこの子だけは絶対に守ってみせる」と心に誓って、やって来た井坂と、復讐ではなく、人を守る為に戦った。
 だが、照井はこの戦いで井坂に惨敗し、守ろうとした凪からも罵声を浴びせられた。更なる強さを求めてシュラウドを訪ねた照井だったが、シュラウドは助力を拒否した。と云うのも、彼が既に復讐目的に暴れる者でなくなっていたことに見切りをつけてのことだった。ある意味、照井竜の復讐戦は決着を待たずして終わっていたと云える

 それでも力を求める照井にシュラウドはバイクによる特訓を課し、コースを10秒以内で周回するよう命じ、12〜13秒かかる照井に、「憎しみが足りない。」とした。程なく、シュラウドは照井に復讐ではなく島本を守る為に頑張っているのかを問い、照井が肯定すると次のタイムで10秒を割ったので合格としたが、実際には10秒を割っていなかった。
 それを知り、激しく詰る鳴海亜樹子(山本ひかる)に、シュラウドは「彼は憎しみを忘れた。もう興味はない。」としていた。

 つまり照井を見限った訳だが、復讐を捨て、弱き者を守る為に立った仮面ライダーアクセルは本番で実力以上の力を発揮し、特訓で割れなかった10秒の壁を9.8秒で破り、トライアル・マキシムドライブを発動し、音速を超えるキックの連打でウェザー・ドーパント井坂深紅郎を仕留め、本懐を遂げたのだった。

 家族の仇を討つ意味でも復讐を遂げ、復讐の為に戦うことを完全に捨て去った照井は、そこまで彼を強くした自分への憎しみに驚愕する井坂に、「俺を強くしたのは憎しみなんかじゃない。」と云いながら、縛られていた凪を救い出すと安堵の表情を見せ、「キミを守れてよかった。」と云いながら、初期の彼にはあり得ない笑顔を見せ、本当の意味で、人々を守る仮面ライダーとなったのだった。


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令和七(2025)年二月二〇日 最終更新