第6頁 明日香健二………最後の一人だけ止められてもねぇ?
Revenger 6
名前 明日香健二 変身するヒーロー ミドレンジャー 復讐取組期間 『秘密戦隊ゴレンジャー』第1話「真っ赤な太陽 無敵ゴレンジャー」〜第5話「みどり色の怒り 不死身ガス人間」 復讐対象 毒ガス仮面及び黒十字軍 復讐達成 狭義には有り 復讐除去要因 怨敵討滅及び周囲の窘め
愛する者の死 話は『秘密戦隊ゴレンジャー』第1話冒頭で、国連が人類を守るために設立した国際秘密防衛機構イーグルの日本ブロックにおける各部署が、黒十字軍から同時多発的に襲撃されたことに始まる。
各支部は情けないほどあっさり壊滅させられ、関東・東北・九州・北海道・関西の各支部にて所属隊員一名を除いて全員が殺された。そして各支部で生き残った者達五名が江戸川権八総司令(高原駿雄)の元に召集され、その指揮下でレンジャー訓練を受け、地球の平和を守る為に黒十字軍と戦う秘密戦隊ゴレンジャーとなった。
かくして同作品並びに50年近い歴史を持つスーパー戦隊シリーズの幕が切って落とされた訳だが、関東支部で生き残った海城剛(誠直也)はアカレンジャー、東北支部で生き残った新命明(宮内洋)はアオレンジャー、九州支部で生き残った大岩大太(畠山麦)はキレンジャー、北海道支部で生き残ったペギー松山(小牧りさ)はモモレンジャーとなった。
そして、関西支部では毒ガス仮面率いる黒十字軍の毒ガス攻撃で関西支部の仲間が皆殺しにされる中、明日香健二(伊藤幸雄)は支部施設の屋上にある鳩小屋で鳩の世話をしていたため毒ガス攻撃を免れ、他の四人が多かれ少なかれ負傷する中、彼だけは無傷で生き残り、ミドレンジャーとなったのだった。
復讐戦 そもそもストーリーは初っ端からイーグルと黒十字軍との闘争だった。第1話に限らず、両軍の抗争が前話を通じて続き、双方に多数の死者が出た。そして上述した様に、ゴレンジャーとなった五人は所属支部の仲間を皆殺しにされ、第1話から第5話に掛けて各支部を襲撃した仮面怪人と戦ったので、作品序盤は正に復讐戦だった。
第1話では関東支部を襲った黄金仮面、第2話では東北支部を襲った武者仮面、第3話では九州支部を襲った青銅仮面、第4話では北海道支部を襲ったヒスイ仮面と戦い、これらを討ち果たした。ゴレンジャーのナンバー順に海城剛、新命明、大岩大太、ペギー松山は仲間を滅ぼした張本人を倒し、仇を討った。
初期の仇で残ったのは、毒ガス仮面のみだが、第5話冒頭で毒ガス工場を建設する資材を獲得する為にイーグル隊員を殺害して強奪したので、海城と共に遭遇した5号ミドレンジャー・明日香健二の怒りはより一層ヒートアップし、逃げられた後に本部に引き揚げた際に明日香は自分の手で毒ガス仮面を倒す意を露わにしたのだった。
第5話のサブタイトル、「みどり色の怒り 不死身ガス人間」の字面だけを見ると、「どんな「怒り」なんだ?」というツッコミを入れたくなるが、ミドレンジャーと毒ガス仮面の因果関係を知って入れば、「成程」と思わされる。
ともあれ、襲撃直後、これを目撃した海城と明日香は資材奪還に動いた。思うに、5人中2人しかいなかった訳だから、毒ガス仮面打倒よりは資材奪還に比重が置かれていたと思われる。
だが、この緒戦、アカレンジャーとミドレンジャーは不死身回路を装備した毒ガス仮面に有効打を与えることが出来ず、ミドレンジャーは頭部に手痛い打撃を食らい、文字通り煙に巻かれ、資材も奪われた。
この不死身回路、登場時は不完全な物で、アカレンジャーのレッドビュートにはダメージを受け、定期的に交換も必要なものだったが、ミドレンジャーのミドメランは全く通じず、改良が進めばあらゆる攻撃を毒ガス化した体で無効化させ、交換もやがては不要となる代物だった。
その為、ゴレンジャーも下手に戦いを仕掛けられず、イーグルとしては毒ガス工場の在り処を務めることを優先する中、明日香は仲間を殺された怒りから幾度も独断専行に走って、毒ガス仮面を自らの手で倒そうとし続けたのだった。
潜む醜さ 復讐の念に捉われたのは明日香健二一人では無かった。くどいが、何せゴレンジャーとなった5人全員が黒十字軍の襲撃を受けて、その支部にいた仲間を皆殺しにされ、自分一人が生き残ったと云う苦汁を舐めている。海城剛に至っては実兄を、ペギー松山は上官でもあった彼氏を殺されているのである。つまり本来なら5人が5人ともリベンジャーで、黒十字軍に対する恨みは明日香のそれに勝るとも劣らないものがったのは想像に難くない。
そんな中、毒ガス仮面を「僕の手」で討ち果たさんとの意を露わにする明日香が本作で採り上げられているのも、五人の中でただ一人、復讐心を露わにしていたからである。
つまり、他の四人も内心で復讐心を滾らしていたとしてもおかしくなかったし、黄金仮面達を倒すに際しても、技に復讐の念を込めていたことも充分考えられる。
ただ、四人は明日香程にはその想いを露わにしなかった。
何せ、組織で動いている以上、優先すべき任務という物がある。黒十字軍を倒すことも大切だが、そのテロ行為を防ぐことはもっと大切で、しかも毒ガス仮面の武器が名前の通り毒ガスとあっては、その製造元である工場を潰す、建造させないことが何より大切だった。
現実の世界でも平成時代に地下鉄サリン事件がもたらした衝撃を思い返せば、毒ガスの脅威は語る間でもないだろう。イーグルでもまずは毒ガス工場の場所を特定することが大切とされたが、自分がやると申し出た明日香を即座に新命明が「無理はしないことだな。」と云って、止めた。
勿論明日香は食い下がり、「毒ガス仮面を倒したいんだ!」と復讐心を露わにした。つまり本音が出た訳で、これに対して江戸川総司令は即座に「ゴレンジャーの任務は、復讐を果たすことが目的ではない。」と戒め、明日香の戦意は「無駄な戦いは避けろ!」として一蹴された。
その後、明日香は無断で出動しようとしたが、このときも江戸川総司令に止められた。腕を掴んで止められたのを振りほどいて出ようとし(振り解けなかったが)、毒ガス仮面の目的がゴレンジャーに有り、「戦うなと云うのですか?」と食い下がったが、総司令は「陽動作戦に掛かってはいかん。」とし、既に連絡員008の林友子(白川恵美)と連絡員009の中村春子(本田みき)に毒ガス仮面を尾行させていた。
要するに冷静さを欠いた明日香は、この時点では暗に任務から外されていたと云える。
そして話の前半、ゴレンジャーが戦いを避け、諜報作戦に集中したため、毒ガス仮面の方がゴレンジャーの姿を求めてスナックゴンにまで現れ、上手く誤魔化されて店を出たところで明日香は独断専行で単身これを追い、不死身回路の前にミドメラン攻撃も通じずに囚われの身となった。
ただ、通電による拷問に耐えている間に毒ガス仮面と科学者陣の会話から不死身回路の存在を知り、それが勝利につながったのだから、独断専行が全くの無駄ではなかったが、文字通り怪我の功名で、やはり戦略的には褒められたものではなかった…………というか、ミドレンジャーのすぐ傍で重要物の名前を出し、交換手術をしていた黒十字軍の迂闊さの方が間抜けだったな(笑)。
結局、敵の機密を知り、勝機を見出したミドレンジャーは、拷問に屈した振りをして、毒ガス仮面に「(要求通り)仲間を呼ぶ。」とし、呼び出しの場所だけを云えと命じられたのを無視して、毒ガス工場の在り処がイーグルに伝えられたのだった。
ちなみに明日香健二役の伊藤幸雄氏は放映開始当初19歳で、他のレギュラー諸氏が24〜31歳だったのに比して明らかに若く、新命は彼を「坊や」と呼ぶことがあり、戦隊物は「熱血漢=赤、ニヒル=青、でぶ=黄、女=ピンク、ガキ=緑」とのイメージを抱いている人も少なくない(勿論各作品で大小の差異はあり、単純な分類が出来る訳では無いが)。ともあれ、作品の設定年齢でも17歳だった明日香は少年らしく感情を露わにすることが少なくなった。
人間は十人十色で、主要メンバーが少なくても3人、場合によっては10人近くいる戦隊シリーズは個性を色濃く描き分けられる傾向にある。一方で存在感の大小にも個人差が出る。そんな中、若く、普段影の薄い傾向にあるミドレンジャー・明日香健二は「感情的になり易い。」と云う面で損な役回りを振られたと云えるのかも知れない。
復讐の終わり 上述した様に、独断専行で毒ガス仮面に単身挑み、囚われの身となったミドレンジャーだったが、逆に相手の機密と毒ガス工場の所在を知り、それを仲間に報せることに成功した。
勿論復讐心が消えた訳では無いが、ゴレンジャーの一員として、黒十字軍の毒ガス製造を阻止する任務を忘れていなかったとも云えるし、最悪自分が殺されても仲間の手で毒ガス仮面を討ち果たさんとしたとも取れる。
ともあれ、バリブルーンで残りのヨンレンジャーが駆け付けた訳だが、明日香健二を坊や呼ばわりして止めていた新命明が真っ先に飛び出したのが印象的だった。
そして心臓停止状態で十字架に掛けられていたミドレンジャーをゴレンジャーチャージで蘇生させ、ミドレンジャーは仲間との合流を果たし、共に最終決戦に挑んだ訳だが、ここまで来ると個人的な復讐カラーはかなり薄れていた(5人の前に毒ガス仮面が現れた直後は色めき立っていたが)。
勝負は不死身回路の能力でゴレンジャー個々の攻撃を躱すのを、回路の存在を知るミドレンジャーが巧みに毒ガス仮面の隙を付いて兜にあるそれを破壊したことでそれを無効化させた後にゴレンジャーストームを決めて決着した。
戦い終えた後、イーグル基地にて明日香は、彼の活躍があって毒ガス仮面が倒せたことを認められつつも、ペギー松山からは「調子に乗るんじゃないの。」と云われ、新命からは「よくやった」と云われつつも、相変わらずの坊や扱いだった。
だが、そこに復讐を果たしたことへの言及はなく、ゴレンジャーにとって一番大切なのは5人揃ってのチームワークであることを江戸川総司令の口から述べられ、締め括られた。
かくしてミドレンジャー及びゴレンジャー全員が自然消滅的に仲間の復讐を果たした訳だが、スーパー戦隊にとってより大切なものがあることを強調された陰でのひっそりした終わり方だった。
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令和七(2025)年一月四日 最終更新