2.十悪の主・十面鬼
十面鬼ゴルゴスはゲドンの首領である。つまり組織としてのゲドンの行動指針は彼の独断で決まり、彼の意志が絶対である。
つまり企業で云えばワンマン経営である。勿論歴代悪の組織も首領を頂点としたヒエラルキー体制下にあっては、首領の意志が組織の意志だった訳だが、「仮面ライダーアマゾンを殺してギギの腕輪を奪う」を組織の第一目標としたゲドンの行動範囲は狭く、組織も発展途上にあったと思われる(第12話でアマゾンにアジトに乗り込まれた際の「獣人はまだまだいる!アジトは沢山ある!」という十面鬼の台詞は明らかにハッタリ)ので、幹部すら存在しないし、立場のある獣人という者も存在しない。
一応、赤ジューシャが歴代組織にしては珍しく、改造人間である獣人達の上に立ってはいるが、クロネコ獣人やトゲアリ獣人との関係を見るとこれも一定していないように思われる(恐らくは任務によるのだろう)。
ともあれ、ゲドンという組織の大部分を為す、首領としての十面鬼という者をこの頁では考察したい。
十面の正体
名前の通り、10の面を持つ十面鬼ゴルゴスの個々の顔については前頁にある表で触れた。
ただ、ゴルゴスが利用(悪用)せんとした残り9つの面は、第2話にてゴルゴスのすぐ下にある面(中村文弥)が、獣人吸血コウモリを、その他の面の一部がワニ獣人を庇った以外は殆どゴルゴスの台詞を追従するだけの出番でしかなかった。
それでも個々に意思・感情があり、ゴルゴスにとっても大切な存在であることは分析できる。9つの面は最初肌色だったが、後に吸血することで赤くなることが判明し、その味についても述べていたし、第1話では喫煙(←贅沢にも葉巻を)している奴もいた。
そして第13話で、最終決戦に先駆けて顔の1つが大切断で殺された(殺された顔は石化した)際にはうろたえ、大慌てで撤収したから、やはり彼の身体を形成する重要なファクターなのだろう。
最終決戦においても、十面鬼は8つの顔を次々と斬殺された時点でほぼ戦闘能力を失っていた。もし第1の面であるゴルゴスの首が真っ先に刎ねられていたら残り9つの面はどうしていたか興味深いが、はっきり云えることは、ゴルゴスの脳が「主」で、残る9つの脳は「従」であると云うことである。
ここから類推するに、同じ頭脳の働きでも、「智力」に関することはゴルゴスが、「智識」に関することは9つの面がメインになっていたのではない方と思われる。
前述した様に、9つの面がゴルゴスに意見したのはたったの2回で、それ以外の言葉にお追従や唱和するしか役割が見られなかった以上、9つの脳が機能するとすれば、グローバルな出身や経歴が持つ知識量と、埋め込まれた巨岩を動かす運動を司った以外には考えられない。
10の面が個々に役割があったとしても、出番が14話では出しようがなかったか(苦笑)。
首領としての人望と戦闘能力
まず十面鬼の人望に関してははっきり云って笑ってしまう程無い(笑)。歴代悪の組織にも離反者や裏切者は度々見られたが、僅か14週に2人(←モグラ獣人と獣人ヘビトンボのことね)も裏切り、しかも1人は正面切って反逆したのだから恐れ入る。しかも十面鬼はれっきとした首領なのである。大幹部ならともかく首領が一改造人間に攻撃されたのだから話にならない。
勿論他の獣人達は裏切っていないから、裏切った例だけで人望を判断するのは早計というものだろう。では裏切者達は何故に裏切ったのか?裏切らなかった者達は十面鬼のどういった所に追随したのか?
それはゲドンの獣人改造工程と獣人ヘビトンボの言動を見ていると良く分かる。
ゲドンの獣人は、カマキリ獣人の様にゴルゴスが騎乗する巨岩の口腔から生まれた者もいれば、トゲアリ獣人の様に凶悪犯罪者を素体に従来の悪の組織同様の改造を施した者もいるが、基本は等身大にした動植物に人間の頭脳を埋め込んだものである。
これは推測だが、トゲアリ獣人の例を見てもゴルゴスは自身の9つの面も含めて、悪辣振りを見込んだ者を利用する傾向が見られるように思う。そこからゲドンの獣人達は(例外はあると思うが)脳改造による洗脳を施されていないのではないだろうか?
それゆえか、獣人ヘビトンボは様々な「迷い」というものを見せていた。何らかの洗脳が施された者には見られない言動である。
第13話で幼虫体でのアマゾンライダーとの戦闘に敗れた獣人ヘビトンボは毒を発する繭に籠ってアマゾンライダーの追撃をかわしたが、そのままガランダー帝国の黒ジューシャ達の手でゼロ大帝(中田博久)の元へ運ばれた。
そこで羽化した獣人ヘビトンボはゼロ大帝から「十面鬼を倒し、ガガの腕輪を持ってくればガランダー帝国の指揮官に任命する。」と持ち掛けられた。
初めは難色を示した獣人ヘビトンボだが、その理由が「とても出来ない!」だから笑える。つまり無理でなければ即決で承知していた訳で(笑)、結局は打算が勝ったのだから十面鬼に人望は欠片もない(笑)。
組織を裏切った後に帰参を迷ったモグラ獣人の台詞からも、十面鬼が部下を組織に縛りつけていた主因は首領として部下に恐れられていた恐怖心によるものと思われる。
興味深いのは、十面鬼に反旗を翻す意を鮮明にした際の獣人ヘビトンボの台詞である。「アマゾンライダーを捕えた。」と偽って岬に誘き出された十面鬼は謀られたことを悟り、「裏切ったな?!」と罵られた獣人ヘビトンボはアマゾンライダーの横に立って、「既にゲドンの指揮権はお前には無い!」と云い放った。
このシーンの少し前に、十面鬼は(それ以前に自分の手で部下の獣人を殺しておきながら)「ゲドンの獣人で頼りになるのはお前だけになってしまった……。」(←阿呆である)とこぼしていたことからも、この時点で既に人員的に組織としての態を為していなかったと思われる。
それでも十面鬼はアマゾンライダーさえ倒せば何とかなると思っていのか、単純に自分を裏切った獣人ヘビトンボが許せなかったのか、騎乗する巨岩によるボディプレス、「ブラック・オン・ゴールド!」と叫ぶことによる周辺空間の暗闇化、巨岩口腔よりの機銃掃射(←巨岩口腔は火炎や赤い溶解液も吐けたが、最終決戦では使用せず)等を駆使して奮戦した。
だが、巨岩上に乗られるとアマゾンライダー&獣人ヘビトンボからの打擲にはやられっ放しで、両者のいずれにも大した打撃を与えられることはなかった。
戦いの途中で獣人ヘビトンボは突如、同盟を(無断で)解消し、アマゾンライダーに矛先を転じた。普通に考えるならこの行為は獣人ヘビトンボにとって、アマゾンライダーと十面鬼を敵に回すことになる。それでもアマゾンライダーに矛先を転じたと云うことは、この時点で(部下の9面をすべて失っていた)ゴルゴスは殆ど戦闘能力を失っていたのだろう。
実際、大切断で獣人ヘビトンボを倒したアマゾンライダーは即座に返す刀で十面鬼の右腕を大切断で斬り落とし、これを討ち取った。こうしてみると、十面鬼ゴルゴスの戦闘能力自体は大したことないな、うん。
アマゾンライダーがギギの腕輪を失うと命を失う様に、ガガの腕輪を持つ右腕を斬り落とされたことは十面鬼ゴルゴスにとって致命傷となった。全身から煙を発し、「アマゾンライダー…これが俺の最期だ…。」と云い放った十面鬼ゴルゴスは上空に上昇すると大爆発して絶命した。
その爆発は巨大なキノコ雲を伴うもので、そうなるとその爆発力は核爆発に匹敵することが推測される。となると上空になど上がらず、至近距離で爆死した方がアマゾンライダーを道連れにできたのではないか?と思われる。
歴代悪の組織の首領は、概してその本体が持つ戦闘能力は大したこと無かったのだが、十面鬼も確かに格闘能力自体は高いとは思えない。一応ゴルゴスは巨岩から出ることのできる設定だったのだが、作中では一度も出なかったことから、戦闘能力自体は巨岩によるところが大きいと思われる。
ただ、核爆発に匹敵する爆発力を秘めていたことや、能力の発揮が見られなかったとはいえ、ガガの腕輪を移植していたことを思えば、潜在的破壊力は大きかったのではないかと思われる。
結論、やはりこいつが弱いのオツムだった(笑)。
活かし切れなかった悪才と十の頭脳
ここまでの考察でほぼ論述しているが、十面鬼ゴルゴスというゲドンの首領は、「ガガの腕輪」・「秘術師としてマスターした古代インカの超科学力」・「10個の悪の頭脳が持つ知識量」・「巨大人面岩の持つ装備」・「幅広い悪人を集めた求心力」等を考えれば、潜在能力的にはかなりの者を持っていたのではないかと思われる。
しかしながら、「元々小規模組織なのに結束がお粗末」・「怖がられてはいたが尊敬されてはいなかった」・「阿呆である」といった要因がこれらの長所を上まってしまったことがアマゾンライダーというたった一人のターゲットも消し得ず、組織の規模や行動範囲を矮小化せしめ、歴代組織に比しても(首領の外観以外は)インパクトの弱い組織で終わってしまったように思われる。
他の悪の組織の首領は部下に恐れられると同時に、それなりに尊敬されても致し、「武」以上に「智」を重んじていた。そこを行くと部下に尊敬されず、「悪知恵」はあっても、「智力」を感じさせない十面鬼ゴルゴスは根本の所で首領失格だったと云える。
ある意味、彼を裏で糸引いていたガランダー帝国の全能の支配者の完全な傀儡と化していた方が世に与えた恐怖は大きかったかも知れない。
というのも、この様な人望と知能において欠陥だらけの組織でありながら、ゲドンは結構ひどい惨禍を世にもたらしているからである。次頁ではそれを見ていきたい。
次頁へ
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る
令和三(2021)年六月一〇日 最終更新